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第6章 グリーバンス進化形 理性を奪う病
59: フレズベルク、初めての任務
しおりを挟む新しい精霊と組んで、漆黒が最初に取り組むことになった事案は、少年強盗団の摘発だった。
彼らは自分たちの事を「闇の船」と名乗っていた。
少年と言っても、現行法規では「20歳に満たない者」であって、18歳や19歳などのワルになると、そこらの大人よりも遙かに質が悪かった。
おまけに彼らに憧れる馬鹿な少年や少女達が大勢いて、そんな子どもたちが、「闇の船」の手足となる場合があったから、尚更手に負えない。
だが「闇の船」を摘発するための証拠固めは既に終わっており、というよりも、そのようなものが必要ないほど彼らの犯罪行為は明け透けなものだった。
要はこの厄介者達に誰が鈴を付けるかという事だったのだ。
民間警察は有能だったが、金にならない仕事はしないし、警察は訴えがなければ動かないのだ。
そんな情況の中、「闇の船」は弱い者に傍若無人の振る舞いで物を奪い、力のある者に対してはその弱みを握って我慢ん出来る程度の物を奪う。
それでも我慢しきれなくて訴えれば、お礼参りがある、そんな悪循環だったのだが、漆黒が乗り出したという事は、こんな世界でも泣き寝入りを拒む人間が多少は残っているという事だった。
訴えを受け取らざるを得ない警察の人間は露骨に嫌な顔をするが、泣き寝入りをしない人間には、そういう人間なりの誇りがあって、又、それに応えるのが警察だろうと、漆黒は思っている。
そして漆黒は、こういう仕事が好きだった。
・・・一応、逮捕状は取れている、刑の執行まで見通した完璧なものではない、一応だ。
だから逮捕した翌日に、彼らが開放されるケースはままある。
だが警察には、たいしたコネもないコイツラにはそれで充分だった。
何も考えずに相手をぶった叩いて、しょっ引けばいい、、細かなことは後付けでなんとでもなる、どうせ相手は悪党だ、と今までの漆黒ならそう考えていた。
だが前の精霊が迎えた死の事を思うと、今度も同じ調子で、事を進めるワケにはいかなかった。
「チームのリーダーだけを、ひとまず押さえるつもりなんですね?」
鷲男は今回の事案を予め頭の中に入れているようで、その上更に、漆黒がどう動くかまでを予測しているようだった。
前の鷲男とは大きな違いがあった。
刑事家業の基本的な事柄は、既にインストール済で、赤ちゃんから育てなければならないという事ではないらしい。
漆黒には、そんな知識や意識を、どうやって精霊に詰め込むのか想像もつかなかったが、考えてみれば、彼も少年としてウエストアンダーワールドに産み落とされた時点で、ある程度は既に「出来上がって」いたのだ。
そしてこの技術を完成させたのが、漆黒の原体である漆黒賢治だった。
俗に言う「ソウルプリンター」と「ソウルインク」を使うのだ。
奇妙な因果だと漆黒は思った。
「奴らは、大人のそれみたいな組織だったものじゃないからな。頭を潰せば半身不随になる。次にサブリーダーをしょっぴいて、それから後、一人・二人をひっぱりゃ、もう充分だろ。それで潰れる。この潰しがギャング同士の諍いで起こる事なら最後まで血を見て、話は又違って来るが、一応、こっちは警察だからな。派手にやっても、堅気さん達には迷惑はかからんだろ。」
「なる程、で確保の為の具体的なプランは?そろそろ教えて貰えますか、先輩。」
これが前の鷲男が言ったなら、慇懃無礼に聞こえるが、この新人の鷲男が口に、いや嘴にするとそう聞こえない。
声質はまったく同じなのに不思議な事だった。
「その前に一つ。お前、俺に対する先輩という言い方をそろそろ止めろ。、、かと言って、漆黒さんとかはムズムズするしな、、、でも一応、俺はお前の指導教官だ。今の所は・・・猟児さん、くらいで良いだろう。で俺は、お前の事を今からフレズベルクと呼ぶことにする。」
漆黒は思い切って鷲男にそう告げた。
「フレズベルクですか、古ノルド語ですね。『死体を飲みこむ者』って意味だ。北欧神話に登場する鷲の姿をした巨人。そして私達精霊が接続を許されている情報ネットワークの名がイグドラシル、妙な因縁ですね。」
「そうだな。」
漆黒はフレズベルクの別の読み方であるフレースヴェルグが、前の鷲男に与えた名であることを口にしなかった。
そしてイグドラシル・ネットワークの名が、精霊達の父親であったドク・マッコイの残した言葉の遺産である事も。
「フレースヴェルグ、気に入りましたよ、猟児さん。でも時々は、鷲男で、なんの問題もありませんけれどね。」
「・・・・。そうか。それじゃ、これからの段取りだ。」
猟児は、車が向かう先に意識を集中した。
少しばかり、この鷲男とのやりとりで、自分が感傷的になりすぎたと思ったのだ。
「奴らのアジトについたら、その周りを車で流す。その間に、お前はここらの土地勘と出来ればアジトの構造を掴んで、奴らが裏から逃げ出しそうな逃亡ルートにあたりをつける。イグドラシルも使え。それが終わったら、車を適当な場所に止めろ。後は俺一人で、アジトの正面から正式に踏み込んで、リーダーを引き渡せと奴らに圧力をかける。今回はレコーダーを回す。あれは使いようによっては、色々便利だからな。奴らは俺達のような警察への扱いを心得ていない。最初は、突っぱねて、そうだな、、次に懐柔にくるだろう、、それでも俺が強硬突破をしようとしたら、奴らはリーダーを逃がそうとする。」
事を構えた正式逮捕時には、レコーダーを回すことになっているが、多くの刑事はそれをやりたがらない。
後々、色々な厄介事が起こるからだ。
しかしこのレコーダーも、裏に回れば細工が出来る。
もちろん、それがあとで裏目に出れば、厄介事はダブルで発生するが、上手く切り抜ければ完璧な仕上がりになる。
その事も刑事達は知っているが、それをわざわざやるリスクを冒すほどの重大な事案はないと、刑事達は思っているのだ。
漆黒はあえてそのリスクをとるつもりで居た。
そして用意周到に慎重にやる。
漆黒はフレズベルクに自分のそういう姿を意識的に見せるつもりでいた。
前は、それを意識せずにやって、フレズベルクを死なせる結果になったからだ。
「猟児さんが追い込み、そこから逃げ出してくるリーダーを私が確保するんですね。」
「あるいは、俺が正面からやって捕まえられるかも知れない。まあ普通は、こういうのを大勢でやる。それが俺達二人だけだ、、。裏で、たった一人で待ち伏せしてる方が圧倒的に難しい、、。俺の方は一人でも、只騒ぎ立てりゃ、とりあえずの目標は達成できるんだからな。でも出来るよな?フレズベルク。」
「当然ですね。それでなければ、私が精霊である意味がない。」
元から精霊の記憶巣には、任務遂行用の圧倒的なデータが仕込まれていると言われていたが、前の世代では、それを指導者とのやりとりの中で使いこなしていく仕様になっていた。
検索エンジンが検索ワード入れないと動かないのと同じだ。
だが冷泉によると、フレズベルクの第二世代は、ある程度、精霊自身の自己判断でそれを行うようだ。
しかも記憶巣に蓄えられた情報は、どういう通信方法でやるのか、常にイグドラシルによって更新されているらしい。
おそらくフレズベルクの頭の中には、これから急襲しようとするアジトの間取り図や月々の電力消費、果ては、この住所宛に送られた様々な商品の内容まで総て入っているはずだった。
フレズベルクはそれらのデータを、アジトを周回する中で一つの「プラン」にまとめ上げる事が出来るだろう。
そしてその逮捕プランは、現実として結果を残すのだろう。
それが精霊計画というものだった。
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