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第5章 暗黒を狩る黒い真珠

51: 蠅は糞に集る

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「ケイジャンガー?ああSCキットを密売しておった奴だな、、。」
 漆黒は「捜査のついでだった」と言って、張果の事務所に立ち寄っていた。
 もちろん、張果からケイジャンガーの情報を得るためだ。
 自分で調べる時間はないし、調べたところで、この世界に詳しい張果の裏情報より内容があるとは思えなかったからだ。

 これが現在捜査中の人物の事であるなら、張果にも迷惑がかかる可能性もあったが、ケイジャンガーは既に終わった事件の、しかも死んでしまった人間だった。
 それに本当のところ漆黒はただ単に、何故か自分を可愛がってくれる馬面の長寿族の顔を久しぶりに見たかっただけかも知れない。

「しかしジェットよ、、お前は本当に不思議なほどに鴻巣徹宗と縁があるな。」
「鴻巣徹宗って、あの鴻巣神父のことか、、。」
 思わぬ所で飛び出た名前に、漆黒はショックを受けた。
 それは鴻巣が、遁走したラバードール事件の黒幕の一人という以上に、彼が漆黒の夢の中に頻繁に登場する人物の名前でもあったからだ。

「SCキットを作ったのは鴻巣だ。鴻巣の能力なら遊び半分って所だろう。というか小遣い稼ぎのつもりで、あれを作ってケイジャンガーらに売らせたのさ。その結果はジェット、お前さんがよく知っているだろう。ライジングサンでも、その被害者を一人世話してやったが、長くは続かんかった。可愛そうじゃが、ボロボロになりすぎていた。儂から言わせるとSCキットは欠陥品だよ。人を痛めつける以外に使い道がない。」

「それが元で、鴻巣は学会を追放されたのか?」
「いや時期的には、鴻巣がSCキットを作ったのは、追放された後だと思うがな。表沙汰にはなっておらんが、鴻巣は追放される直前、そうとう異常な事を、自分と同じような人間達を集めては次から次へとやらかしていたようだ。話では、反政府活動のような事もしておったらしい。SCキットは、ロアに拾われる前の空白期間にヤツが手慰みのつもりで作ったんじゃないか。、、そうそう、ロアと言えば、例の精霊計画の方はどうなっておる?」

「、、ある日、突然、この計画は一時中止すると上からのお達しがあって、それっきりだ。同じように精霊とペアを組んでた俺の知り合いの刑事はもう精神的に死んでるよ。奴は精霊依存症だったからな、、。それに精霊計画推進をテコにして、ヘブンに昇りかけていたお偉方まで、姿を消したままだ。」
 ドク・マッコイの名前は、あえて口にしなかった。
 こちらの方も、張果の情報網なら何かを調べだしてくれるだろうが、漆黒はそこまで張果に甘えるつもりはなかった。

 現在の所、張果と漆黒の関係は、ギブアンドテイクさえ成立しておらず、ただ漆黒は張果の甥であるという義理の関係を認めた代わりに、IDへ偽のバックグラウンド情報を追加してもらうという極めてアンバランスな関係があるだけだった。
 刑事の仕事はそのまま続けている。
 張果の家業はまだ継いではいなかった。
 張果に言わせると、『儂が死んだ後の跡継ぎには、ジェット、お前こそがピッタリだから、こうやって面倒を見ている』と言うのだが、その真意は未だにわからなかった。

 長寿族である張果に、跡継ぎが欲しいなどという俗世的な執念があるとは思えなかったからだ。
 それに張果は、生きている事に、そろそろ飽き始めている筈だった。
 そんな人間が、自分の家業を人に譲ろうとする執念などは生まれないだろう。

「ふむ、精霊か。ジェット、お前が気に入るような亜人類なら、一度間近で見てみたかったな。いや、いずれその顔を拝めるかも知れないがな、、。」
 張果は最後に、含みのある言葉で、この話題を締めくくった。

    ・・・・・・・・・

 僕の身体はどうなってしまったんだろう。
 胸が出っ張り始め、最近は乳首がシャツに擦れただけで、おちんちんが勃起する事がある。
 でもあまり早く、白いドロドロを自分で出すのは良くないんだ。
 僕は何回も、それが出来るけれど、それだって限度がある。
 お姉さんは、僕のドロドロを自分の顔にかけられるのが大好きなんだから。
 お姉さんは、僕のドロドロを、とっても綺麗な自分の顔全体に引き延ばしては、白目を剥いて何度も失神する。

 お姉さんが何度もそれを求めるから、僕は僕のが品切れにならないようにしなくちゃいけない。
 だから僕は、お姉さんのお尻の穴に僕のを突っ込む時は、三回の内、二回は偽物の吃驚するような大きな偽のおちんちんを腰に付けて使う。
 そうするとお姉さんは、最初の内、シーツに顔を擦り付ける様にして泣いているけど、最後にはまるで映画に出てくる狼見たいな遠吠えをする。
 、、それで僕は、お姉さんがとっても怖くなるんだ。

    ・・・・・・・・・

 天気が良ければ、何処からでも「天国へのエレベーター・シャフト」が見える。
 遠くの地域からだと、夜の方がエレベーターに電飾がある分、その姿が見つけやすいかも知れない。
 漆黒は、衆寒極市の安宿の窓から見える、天から垂れたルビー色の糸を暫く眺めてから、壁際に備え付けてある小さなディスクセットの椅子に座った。
 ディスクの上に、数枚の写真と”愚者の未来”の本とストリングを置く。
 写真は街で、ゼペットからせしめたデータからプリントアウトしてきたものだ。

 ”愚者の未来”は少し前に、チエコ・サリンジャーが、漆黒に送りつけて来たものだった。
 実は鷲男とチエコ・サリンジャーは漆黒の知らないところで何回か会っていたらしい。
 もちろん恋愛に不慣れな鷲男が彼女を誘ったわけではあるまい。
 漆黒が何気なく鷲男に命じた「俺の留守中はサリンジャーとの接触を保て」の言葉を、彼は忠実に実行しようし、そしてサリンジャーの誘いを、これ幸いに受け入れたのだろう。
 とにかく、この二人の間で、大きな話題として盛り上がったのが”愚者の未来”で、鷲男が『これは是非、漆黒刑事に読ませてあげたい』と言ったそうだ。
 つまりチエコ・サリンジャーは、それを憶えていて、自分の愛した精霊の遺言を実行に移したという訳だった。

 その日から漆黒は少しずつこの本を読んでいる。
 一気には読めない。
 読めば、直ぐに鷲男の事を思い出すから、それは苦しい心のリハビリのようなものだった。
 今日は鬼子檸檬が、第三統合署のマッホローベブロックで行ったコンサートの後で、インタビューに答える形で語った文明批判の語録を読んだ。

 『文明の進化?まさか人間文明の進化が、永遠に続くなんて思ってないだろうな。恐竜だって絶滅しただろう、あれと同じさ。物事には必ず終わりがあるんだ。今の時代をみろよ、空に向けて投げた科学文明という石が落ちつつあるんだよ。今が、空に投げ上げた人間文明が描く放物線の頂点ってわけさ。だけどそれを畏れる事はない。自分達が永遠のものであるという傲慢さより、自分の有限さをかみしめて、生きる事の輝きを信じる事さ。俺はいつもそれを思って唱っている。」

 禁書に指定される程の事が、書かれているわけではなかった。
 鬼子檸檬語録が禁書になったのは、この本の内容を何度もテロ・アジテーションの為に引用した人間達のせいだった。
 そして人々が本当に、己が空に投げつけた石が落ちてきた事に気づいたのは、あのきれいな爆弾が爆発した日だった。
 『石が最も空に近づいたのは、俺の原体である漆黒賢治が活躍した頃だろうな。』と漆黒は思った。
 そしてそれは、あの鴻巣徹宗が、まだ新進気鋭の科学者として光り輝いていた時代でもある。

 漆黒は、自分の視線をディスクの上の”愚者の未来”から、数枚の写真にうつした。
 ゼペットが「こいつらは本気でやっている」と指したのは、SCキット購入者達の内、五人だった。
 数枚の写真には、その五人も混じっている。
 後は漆黒が独自に調べ上げた重要参考人の写真だ。

 ゼペットのいう「本気」の言葉の意味が気になった。
 五人なら容疑者に、「直」に当たってもこなせる人数だが、初動捜査による刺激で、犯人に逆上され被害者に累が及んでは、最悪の事態になる。
 被害者を一刻も早く救い出してやりたかったが、ここは我慢して、容疑者を周囲から確実に絞っていく事が重要だと漆黒は考えていた。
 他の二人の担当捜査刑事に協力をと、一時は考えたが、彼らは色々な意味でまったく宛に出来なかった。
 漆黒が「直」に当たるその時には、捜査ではなくて、自分が被害者を救出するつもりでやるつもりだった。

 ゼペットから聞き出した容疑者の中には、厄介な相手が二人混じっていた。
 一人は車のディーラーで若手の代議士の秘書の知人、もう一人は大手企業の顧問格の引退老人だ。
 この二人が、直接、SCキットに手を出しているのならそう問題はないが、、、。
 たぶん本星は彼らではなく、もう一人や二人、違う人間を間に挟んで、本当のSCキット使用者に行き当たる筈だ。
 そいつが本星。
 しかし彼らの親玉を探し出す事自体は、全然、複雑な事ではない。

 蠅は、糞に集るのだ。
 空気中に漂っている糞の臭気を辿れば、糞が落ちている場所は直ぐに判る。
 そして鼻を摘んで、糞の始末をする。
 ・・・まあ後は「上」のやる事だ。
 「上」にいる人間達が、その糞の正体にビビらず、警察の権威回復を取るか、それともいつものごとく保身に走りるのか、それは漆黒の知った事ではない。

 漆黒は何気なく、重要参考人や容疑者候補達の顔写真をトランプカードのように手の中で組み替えて、一番上に来た写真を見た。
 それは、車のディーラーに繋がっていく男だった。
 今の時点ではまだ重要参考人程度だ。
 いかにもやり手といった眼光を放つ、甘さの中に苦みを感じさせる美貌の青年代議士の写真を、人差し指でパチンと弾いてから、漆黒はすっかり冷めてしまった何杯目かのコーヒーを飲み干して、上着を肩にかけた。


    ・・・・・・・・・

 今日は、お姉さんは、僕を可愛がってくれるのだろうか、それとも虐めるのだろうか。
 いや、違った。
 今日は、お兄さんが、久しぶりに僕の相談にのってくれる日だ。
 今日は勇気を出して聴いて見るんだ。
 本当に「世界」が、僕たちのシェルター以外は全滅してしまったのか?
 いつも僕の面倒を見てくれるアイアンズさんは、時々、僕たちの住んでいるシェルターと違う匂いをさせる時がある。
 僕は身体が弱いから、同じシェルターの中でもこの部屋から出れない。
 その事は、アイアンズさん達と僕との違いだし、それに僕は沢山、眠らないといけないから、何時も頭がボーッとしてるけど、、。
 それでも僕には、本当は外の世界がどうなっているかくらい知る権利はあるはずだと思った。



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