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第4章 精霊達

45: 侵入経路の発見

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「使いたくはなかったが、、。張果が秘密に使ってるマザーの産業エリアへのアクセスコードだ。何かの時は、鷲男に見せてやれと、爺さんに言われている。」
 滅多に驚きの感情を表さない鷲男が、そのページを見て、喉元を少しばかり上下させながらクゥと鳴いた。
 マザーは国家の基幹システムの別名だ。
 そのアクセスコードを部外者が所持している事自体が犯罪であるが、それを刑事である漆黒が張果から手渡され、尚かつ、精霊プロジェクトの鷲男に見せている。
 明らかに彼らの行為は逸脱していた。

「大したものだ。これが使えるなら、ビッグマザーが持っている産業部門情報の最深部まで潜れる。で、そのコードを使って、何を調べるんですか?」
 鷲男は漆黒のやる事を肯定し、自然に受け止めていた。
 手帳には、漆黒が書き留めるのに数秒かかった多大な数の数字と記号の羅列があった筈だが、鷲男は一瞬にしてそれを読みとったようだ。

「俺が調べられたのは、過去の病院経営者陣の大幅な入れ替えに伴って、大規模改修があったという事だけだなんだが、、、この時期が、ちょうどロアが急速に勢力を伸ばし始めた頃に重なっているんだ。それに歴史的な古い建物を改装したり、記念館として転用する場合は、建築工事の際のチェックが甘くなるんだよ。設計図などをチックする行政の所轄が変わるんだ。サリンジャーさんのいう事を信じるなら、彼女が連れて行かれた場所は、改修の際に旧館から転用された隠し棟である可能性が高い。そのあたりの裏図面を引っぱり出せれば、何とかなるんじゃないか?」

「わかりました。やってみましょう。しかし今度のバーチャルは不鮮明かもしれませんよ。隠匿された建築物から正確なサンプリングは出来ませんからね。一応、記念館のマテリアルを流用はしますが。」
「ああ、やってくれ。それもこれも俺の推理が正しく、爺さんの侵入コードが役立つという前提の上だがな。」
 漆黒は最後の台詞をサリンジャーに言って聞かすように言った。

「ここよ!間違いないわ。」
「プレイを続けて!カミソリ男がいた所まで、歩いて行ってくれないか?」
 漆黒は自分用のディスプレィをスライドさせ、隣でサリンジャーがプレィしているバーチャルの表示モードを変えた。
 いわば設計図モードだ。
 サリンジャーが仮想的に移動しているのが、光点となって現れる。
 俯瞰で見ると、その光点は異常なほど直線の重なった部分を移動している。
 試しに水平方向からの視点に切り替えてみる。
 横から見ると、直線が重なって見える原因が分かった。
 今まで見つめていた愛染総合病院の地下棟の更に下に、L字型に重なるような地下棟が出現していたのだ。
 サリンジャーの光点は、その新しい方の地下棟を移動している。

「なるほど、旨くやったもんだ。それに記念館と、この隠し棟の間は1メートルに満たない。、、一発でぶち抜ける。」
 漆黒の顔が緩んだ。
 一度は捨てかけた真田逮捕のチャンスが、再び復活した。

「賞賛に値するのは張果氏です。今、お二人が見ている愛染病院の旧館地下棟の設計図はシステム上から一旦隠匿されていて表面上は存在しない事になっているものです。警察の上層部のアクセス権でも、これは探せなかったでしょう。それに現在の愛染病院の経営陣に、ロア教団がトンネル会社などを使いながら巧みに食い込んでいる事まで判りました。これらの情報が、どんな仕組みで、マザーのデータベースから抽出出来るか、想像がつきますか?」
 鷲男の白目のない瞳が輝く。
 『この情報ハックオタクが、以前のクールで寡黙な鷲男が懐かしいぜ。』と、漆黒は嬉しいような残念なような不思議な感覚に陥った。

「考えたくもないね。この件が終わったら、爺の甥として嫌というほどつき合わされる世界だ。それよりフレース、お前の獲物はなんだ?人を殺めるわけには、いかんのだろう?」
 漆黒は既に臨戦モードに入っている。
 脇の下に吊したニードルガンを抜き出してみて、安全装置がかかっているのを確認する。
 もし暴発したら、自分と自分の側にいる人間は即死だ。
 ふと官給品の豆鉄砲が懐かしくなる。
 一方、このピリピリする瞬間こそが自分自身が求めていたものなのだとも気付いていたが。

「マッコイから、催眠薬とその射出器を貸与されました。警察に配備されたスピリットの中で、初めてのケースだそうです。名誉に感じています。」
 思わず漆黒は胸を詰まらせた。
 何もしゃべれなかった木偶のスピリットが、いつの間にか、いっぱしの警官になっていた。
 まだまだ青いが、、。
 だがこんな清廉な警官こそ、今の時代には、必要な筈だった。
 しかし俺なら、精霊には催眠弾拳銃など渡さずに、マシンガンでもバズーカでも渡してやるが、と漆黒は思った。

「行ける。行けると思うわ。私、案内出来る。」
 サリンジャーがようやくディスプレィから視線を剥がして、二人の刑事達を交互に眺めた。
「ようし、出発だ。お嬢さんは俺の側にいてくれ、道案内だからな。」
 サリンジャーは漆黒の命令の反応として、漆黒ではなく、後ろにいる鷲男へ軽く頷いて見せた。
 それはまるで『ここからしばらく貴男と離れるけど、それでいい?』と言っているようだった。

「フレースヴェルグは俺達の後方支援だ。五分だ。五分で記念館からのまともな進入経路を見つけられない時は、ニードルガンで穴を開けて強行突破する。もし記念館に他の客がいたら、フレースヴェルグ、お前が待避させろ。きっとお前の声掛けは、抜群の効き目があるぜ。」
 鷲男は、漆黒の顔を見つめてから、少しだけサリンジャーの顔を見た。



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