29 / 89
第2章 スラップスティックな上昇と墜落
28: 送り先の番号
しおりを挟む「ヒューバートの立場が、王家の立場があやういのは知ってる。だからこそヒューバートががんばらなきゃいけないのも知ってる。僕もお母さんもお姉ちゃんも王家の味方。お妃様には“きんせんてき”に“しえん”していただいてる、恩がある。ぼくはヒューバートのきょうだいみたいなものだし」
「ジェラルド……」
「ぼくにはぼくにしかできないことがあると思う。ヒューバートは、ぼくよりできることが多いけど、まだ味方が少ない。でもだいじょうぶ。ぼくはヒューバートを信じてる」
顔を少し上げて、ジェラルドを見上げた。
くそ、いいヤツ。
無条件で味方してくれる、俺の“きょうだい”。
ヤバい、泣きそう。
「がんばって」
「うん、わかった」
……漫画のヒューバートは、どうして道を誤ってしまったのだろう。
こんなに優しい“きょうだい”がいたのに。
やっぱり側近がランディだったからなのかな。
それでも、ジェラルドがいたら道を踏み外すことなんてなかったんじゃないかな、って思うんだが。
「ジェラルド」
「うん」
「おれ、王家の立場を立て直したい」
それが無理なら潔く、俺が『最後の王』となって国を穏やかに終わらせたいと思う——は、言わないけど。
王家の立場を立て直し、レナと婚約破棄せず結婚して国を守れたら最高。
それが理想だ。
でも正直、どうすれば王家の立場を立て直せるのかよくわからない。
「味方を増やさなければ、というのはわかるんだけど……他になにしたらいいと思う?」
「うーん、味方を増やすのは“ひっす”」
必須か。
だよな。
「ヒューバートが言ってた『聖女の“ふたん”を減らせる魔法』は、王家の立場を立て直すのに、十分可能性がある」
「!」
「だから“やくわりぶんたん”。ね?」
「……う、うん! そっか、わかった!」
「うん。ヒューバートも、夢を教えてくれてありがとう。ぼくも手伝うね」
「うん、ジェラルド、ありがとう」
話をまとめてから剣の素振り練習を一時間。
魔法の練習を二時間やって解散した。
味方がいるって素晴らしい。
俺、前世は一人っ子だったから“きょうだい”がいるのもなんかこう、ウフフってなる。
まあ、マジで血の繋がった兄弟——レオナルドとは、ほとんど会えないんだけど……。
「無理やり会いに行ってみるか?」
聖殿の力が強くなっているんだし、いくらレオナルドの母親が聖殿派とはいえ破滅が待ち構えているのは同じだしな。
陽も傾いてきたし、今日はやめておこうか。
いや、思い立ったが吉日だ!
後宮西側に赴き、レオナルドの様子だけでも見てこよう。
明日の件の稽古に誘うのもいいな。
「!」
後宮は男禁制。
女の声がして、思わず柱に隠れた。
なぜならその女の声は側室のメリリア妃。
俺にとっては継母であり、聖殿派。
誰と話してるんだろう、と柱の影からこっそり覗き込むと……ラ、ランディ~!?
レオナルドを側室のメリリア妃が手放さないので、十歳未満の子どもはお目溢しされているから、いるのはギリギリセーフだが……。
「なにをやっているの! 本当に無能ね! どうしてお前しかいないのかしら。義兄さんの息子は優秀な者が多いのに……ああ、よりによって一番味噌っかすなアンタがヒューバートに一番歳が近いなんて!」
「……も、申し訳ありません、叔母上……」
え!
ランディとメリリア妃って親戚だったの!?
おば、ってことは宰相とメリリア妃は兄妹!?
し、知らなかった!
貴族の相関図とかまだ習ってないけど、こりゃ急ぎ目で教わった方がいいかも!
それにしてもなんか険悪というか……メリリア妃がランディを叱りつけてる?
「いいこと、お前みたいになんの才能にも恵まれなかった塵にも、義兄さんは役目を与えてくれたのよ! ありがたく思ってヒューバートを懐柔なさい! レオナルドが王太子になるのが理想だけれど、お前がヒューバートを操れればアレを引き摺り下ろすこともできるもの」
は……?
「だいたい、なんで伯爵家のヒュリーが正妃で侯爵家のわたくしが側室なのよ。その時点で間違ってる! あんたもそう思うでしょ!」
「は、はい、叔母上!」
「そうよ! 間違いは正さなきゃいけないわ! レオナルドが次期国王になるのが正しいの! だってレオナルドは由緒正しいアダムス侯爵家の血を引いてるんだから! 我が家から王を出すのは、悲願なのよ!あと一歩、あと一歩なの! いい! 失敗は許されないわ! これ以上無能を晒すのなら、義兄さんに頼んで折檻してもらうんだからね! わかった!?」
「は、はい! わかりました! 二度と失敗しません! だ、だから鞭は……鞭はお許しを……!」
「気安く触るな!」
ベシッと音を立てて、ランディがメリリア妃に叩かれて倒れる。
震えが止まらない。
メリリア妃、片手の数しか面識がない、俺の継母。
聖殿派だとは、知ってたけど……なんという性悪女!
ランディはまだ9歳だぞ!?
子どもを殴るなんて!
しかもあんなに罵って、無能? 味噌っかす?
できなければ折檻? 暴力を振るうのか!?
子どもに!?
……信じられない……なんてヤツだ。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
天泣 ~花のように~
月夜野 すみれ
ミステリー
都内で闇サイトによる事件が多発。
主人公桜井紘彬警部補の従弟・藤崎紘一やその幼なじみも闇サイト絡みと思われる事件に巻き込まれる。
一方、紘彬は祖父から聞いた話から曾祖父の死因に不審な点があったことに気付いた。
「花のように」の続編ですが、主な登場人物と舞台設定が共通しているだけで独立した別の話です。
気に入っていただけましたら「花のように」「Christmas Eve」もよろしくお願いします。
カクヨムと小説家になろう、noteにも同じ物を投稿しています。
こことなろうは細切れ版、カクヨム、noteは一章で1話、全十章です。
あなたのファンになりたくて
こうりこ
ミステリー
八年前、人気漫画家が自宅で何者かに殺された。
正面からと、後ろから、鋭利なもので刺されて殺された。警察は窃盗目的の空き巣犯による犯行と断定した。
殺された漫画家の息子、馨(かおる)は、真犯人を突き止めるためにS N Sに漫画を投稿する。
かつて母と共に漫画を描いていたアシスタント3名と編集者を集め、馨は犯人探しの漫画連載を開始する。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。
かれん
青木ぬかり
ミステリー
「これ……いったい何が目的なの?」
18歳の女の子が大学の危機に立ち向かう物語です。
※とても長いため、本編とは別に前半のあらすじ「忙しい人のためのかれん」を公開してますので、ぜひ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる