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第2章 スラップスティックな上昇と墜落
16: 鷲の目を持つ人(ビスタ・デ・アギラ)
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パーマー捜査官が言った「ペネロペ・アルマンサにマインドコントロールをかけたの誰か?そしてその場所、背景は?」という地道な捜査こそ、本来漆黒が担うべき事案だったが、今回はその役所を変え、それをレオン達に任せていた。
漆黒達は、既に的をブードゥー教団ロアに絞り込んでいたから、外堀を埋める為の捜査、しかも結果をジッパーに浚われるのが目に見えている事案に時間を割くつもりはなかったのである。
漆黒の狙いは、ブードゥー教団ロアそのもの、そして直撃だった。
レオンは、これまでの捜査で、教団に面が割れすぎていたし、彼の動きは完全にジッパーの監視下にある。
しかしその情況は逆に、ジッパーの主な狙い目であるレオン・シュミットが、ペネロペ・アルマンサの周辺を嗅ぎ回る事で、漆黒らの動きの目眩ましとして有効になる筈だった。
つまり今、ジッパーを出し抜けるのは、漆黒しかいなかったというわけだ。
そして教団ロアは、ノーマークである漆黒の動きに対する警戒も準備もしていない筈だった。
漆黒が、直ぐに動けば、教団ロアに揺さぶりをかけられる余地は十分にある。
そんな経緯で、漆黒と鷲男の二人は、ブードゥー教団ロアの本部へ一直線に急行していた。
他人の運転で、長時間にわたり車に乗り続ける行為は、一種の拷問だ。
精神的にも、肉体的にも。
そこで漆黒は、この時間的な問題を「極めて無口な運転手」に喋りかけるという行為で解消しようとしていた。
つまり漆黒は、捜査途中でリタイアする事となった鷲男の空白期間を、彼自身の説明で埋めてやるという、ちょっと前の漆黒なら考えられない努力をしていたのだ。
鷲男には特に、今回の捜査において政府の調査機関が自分たちに関わりだしたくだりを細かく説明してやっていた。
スピリットという生き物が、今後、成長する中で、どんな価値観を持ち、己の行動基準とするのか?
ドク・マッコイに言わせれば、基本は出来ているよと言う、問題は現状への応用だった。
それらへの効果的な関わりは予想しがたい事ではあったが、漆黒にすれば彼らスピリットは「現場の警察官」として、自己を確立してほしかった。
おそらくリハビリから帰ってきたピギィに対して、レオンも同じ事をしたに違いない。
このレクチャーの中で、特に漆黒が気をつけたのは、パーマー捜査官の人物評価だった。
彼女は、漆黒達にとっては、皮肉な権力のメッセンジャーの役回りだったが、人物自体は非常に優秀であると漆黒には思えた。
どんな人間を、どんな風に評価するか。
あるいは、出来るか。
それが鷲男の成長にとって、重要な事の様に漆黒は考えていた。
相変わらず無言のまま車を運転する鷲男だったが、漆黒には、このスピリットが自分が話しかけている内容を、以前とは違って全て理解できているという確信があった。
「ブードゥー?」
話が一段落したところで、鷲男がオウムがそうする様に、くぐもった声で一言の単語を発した。
彼らが、これから向かうのは、娼館ライジングサンに顔を出したという世話人が潜んでいる筈の『ブードゥー教会本部』だった。
漆黒は、今までの話から、鷲男は今、ブードゥーに関する基礎知識を聞きたがっているのだろうと判断した。
ブードゥー教団ロアについて、漆黒は既にレオンから、かなりの情報を得ていた。
過去、ブードゥーの呪い師はゾンビの儀式に、フグの猛毒テトロドトキシンをもちい、それをごく微量使うことで人間を仮死状態にし、再び蘇生させることで、俗に言うゾンビ現象を発現させて来たらしい。
もちろんその際にマインドコントロール技術が関与したのだろうが、当時はその領域に、宗教あるいは地域文化が、そのマインドコントロールの代用品として、被術者達に強力に作用していたに違いない。
神秘的なように見えるが、ブードゥーの基本フレームは、それだけで十分なのだ。
「何、不思議なのはブードゥーじゃない、人の心の方さ。」
レオンは、にやりと笑って付け加えた。
「例えば俺達警官が、動物の頭を乗っけた精霊と一緒に道を歩いていても、殆どの人間が驚きはするが、そこに合理的な解釈をしようとするだろ。なぜかって、それは俺達が警官だからだ。だがブードゥーの場合は逆だ。合理的な解釈が出来る筈なのに、人々は逆にそれを敢えてしないようにする傾向がある。ブードゥーという宗教だからだよ。ロアには、灰と死の鬼神と呼ばれるロア神の守護者が本当に存在していて、教えに背くと酷い目にあうとかなんとか、まことしやかに語られてるそうだ。あとレオンはこんな事も言ってたな。」
漆黒もこのレオンの分析に、同意していた。
大昔も、この基本フレームを駆使するだけでブードゥー教は、それ以上の神秘的な出来事・あるいは宗教的体験を作り出せていたに違いない。
人工生命や知性を作り出せる現代でも、いやだからこそ、ブードゥー教は当時以上の神秘的な現象を、脆弱になった人の心に起こし得るはずだった。
『この教団の基本教義は昔からのブードゥーのものなんだが、実際にはいろんな宗教のいいとこ取りになってる。もっとも基になるブードゥー自体が、キリスト教と土着宗教の複合体だがな。、、ああ、それから現代風のアレンジとしては、ピュア主義の味付けをしてある。そのスタンスがピュア主義の立場に近くなるってのは、ブードゥーに限らず、古くから伝わっている宗教は、皆そういう傾向があるがな。しかし、俺達が追いかけているブードゥー教団の場合は、ピュア主義への傾倒はかなり強烈だ。その行動の過激さで考えると、ピュア過激派と肩を並べるかも知れんな。だから生粋のピュア主義者の俺としちゃ、余計にロアを潰したくなるんだよ。』
・・・漆黒がそんなレオンの講釈を、自分なりに咀嚼しながら鷲男に伝えている間に、鷲男の運転する車は、既に第二統括ブロックの外れに達している。
「お話の途中ですが、統括ブロックの違いは大丈夫なのですか?」
鷲男が突如、そう聞いて来たので、漆黒は驚いた。
何も考えていないように見えていた鷲男が、統括ブロックを超えた捜査活動が越権行為になることを懸念し、その事を漆黒に注意喚起を促したのだ。
「ああ、昔の警察機構なら完全にアウトだろうな、だが今は違う。こっちの警察がブードゥー教団に関心をもっていない限り、なんの問題も起こらないだろう。どこの統合署でも同じさ。熱心でやり手の刑事ほど、金にならない事案には無関心だ。注意すべきは、ブードゥー教団が契約を結んでいるかも知れない警備会社だけだよ。」
鷲男は前方を見つめたまま車の運転を続けている。
こんな場面で人間なら、、嘴の根本が吊り上がったりするのだろうか?
猛禽類の鳥は、鳩などと違って目が正面に付いているから、顔の構造が人間に近い。
「鷲鼻」という言葉は正にそれだ。
鷲男の横顔を見ていると、男の漆黒から見ていても惚れ惚れする事がある。
こんな時には『精霊の相棒がハシビロコウみたいのでなくて良かった』と漆黒は思ったりする。
「だが、お前も判っているだろうが、俺達は公安課じゃない。ここでは刑事面は出来ても、それだけだ。実際には俺達に捜査権限はない。」
「、、、。」
漆黒の言った付け加えの言葉の意味をどう理解したのか、やはり鷲男は返事をしなかった。
鷲男は、漆黒の統括ブロックからは主要高速を第一レンジの誘導モードで五時間、更にその道程の途中では、パイプラインを使用して俗にいう『ワープ』を二時間も連続で運転し続けている。
それで恐ろしいほどの距離を移動したことになる。
特に『ワープ』の2時間連続は、並の人間が出来る事ではない。
パイプラインの構造を単純に言えば、多数の長距離高速ベルトコンベヤ自体を高速道路に見立てて、その上を更に車で高速走行するというものだ。
当然ながらパイプラインには入り口と出口の二つだけという事はなく、途中、ジャンクションが幾つもある。
パイプライン内では、それに伴ってのレーン移動が非常に難しく、殆どの車両は『ワープ』中は、パイプラインが提供するビーコンに従って自動運転に身を任せる。
それを鷲男は、時間短縮の為に、ずっと手動でやったのだ。
鷲男の動体視力と遠視能力のお陰だった。
『ワープ』の中の『ワープ』、最速だった。
鷲男の運転だからこそ、肌で感じる自然に違和感を感じる程の移動距離を稼げたのだ。
気候、自然、風土の差によって国をわけるなら、第二統括ブロックは既に外国といえた。
更にこの第二統括ブロックを横断して西に進むと「辺境」に行き着き、「辺境」のその向こうは「きれいな爆弾」の被爆地になる。
いや正式には被爆地というより第二次災害地といった方が良い。
きれいな爆弾は睡眠状態になった人間だけを死亡させるから、施設などへの物理的な被害はないとされるが、実際には人間が制御している施設は無人状態になった時点で様々な事故を起こす。
そしてそれらの事故は、火災や爆発等を呼び、都市は少なからずの打撃を受ける。
きれいな爆弾の爆発時に、眠っていなかった人間達は、後に起こるその事故に巻き込まれるか、あるいは沈静化に当たろうとした。
しかしそんな彼らも、又、いずれ眠らなくてはならず、眠れば例外なしに死亡した。
話によればきれいな爆弾の効力は七日続くが、その作用が及ぶ範囲は限定的だという。
ただし人への作用範囲は限定的であっても、火災などの第二次災害は野火のようにその裾野を広げて行った。
人々は、全てを忘れ風化させる為に、被爆地は勿論の事、その裾野を「辺境」の向こう側にあるものとして、物理的にも心理的にも遮断したのだ。
その根底にあるのは、「きれいな爆弾」にまつわる恐怖心だった。
そして漆黒達の目的地は、「辺境」近くにあった。
「少し蒸し暑いな。メガエアーがこれぐらいしか効かないんだから相当なもんだな。それにこの日射し。目がチカチカする。」
漆黒はダッシュボードからサングラスを取り出して耳にかける。
彼らの乗っている車は、警察の公用車だからメガエアーを前提にしており、エアコンはついていない。
万能車といわれている割には、間抜けな部分のある警察車両だった。
「、、えぇっと。お前への講義は何処まで行ってたっけ?半分はレオンの受け売りだから、俺も、まだ話としては上手く整理できていないんだ。説明するにも骨が折れる。」
漆黒は、サングラスを掛けたついでに、長時間座ったおかげで堅くなった身体の位置をシートの中で大きく入れ替えた。
その時、鷲男が呟くように言った。
「残念、ながら、もう講義を聴く、時間、はないようです。目的地、に着きました。次の指示、をお願いします。」
漆黒達は、既に的をブードゥー教団ロアに絞り込んでいたから、外堀を埋める為の捜査、しかも結果をジッパーに浚われるのが目に見えている事案に時間を割くつもりはなかったのである。
漆黒の狙いは、ブードゥー教団ロアそのもの、そして直撃だった。
レオンは、これまでの捜査で、教団に面が割れすぎていたし、彼の動きは完全にジッパーの監視下にある。
しかしその情況は逆に、ジッパーの主な狙い目であるレオン・シュミットが、ペネロペ・アルマンサの周辺を嗅ぎ回る事で、漆黒らの動きの目眩ましとして有効になる筈だった。
つまり今、ジッパーを出し抜けるのは、漆黒しかいなかったというわけだ。
そして教団ロアは、ノーマークである漆黒の動きに対する警戒も準備もしていない筈だった。
漆黒が、直ぐに動けば、教団ロアに揺さぶりをかけられる余地は十分にある。
そんな経緯で、漆黒と鷲男の二人は、ブードゥー教団ロアの本部へ一直線に急行していた。
他人の運転で、長時間にわたり車に乗り続ける行為は、一種の拷問だ。
精神的にも、肉体的にも。
そこで漆黒は、この時間的な問題を「極めて無口な運転手」に喋りかけるという行為で解消しようとしていた。
つまり漆黒は、捜査途中でリタイアする事となった鷲男の空白期間を、彼自身の説明で埋めてやるという、ちょっと前の漆黒なら考えられない努力をしていたのだ。
鷲男には特に、今回の捜査において政府の調査機関が自分たちに関わりだしたくだりを細かく説明してやっていた。
スピリットという生き物が、今後、成長する中で、どんな価値観を持ち、己の行動基準とするのか?
ドク・マッコイに言わせれば、基本は出来ているよと言う、問題は現状への応用だった。
それらへの効果的な関わりは予想しがたい事ではあったが、漆黒にすれば彼らスピリットは「現場の警察官」として、自己を確立してほしかった。
おそらくリハビリから帰ってきたピギィに対して、レオンも同じ事をしたに違いない。
このレクチャーの中で、特に漆黒が気をつけたのは、パーマー捜査官の人物評価だった。
彼女は、漆黒達にとっては、皮肉な権力のメッセンジャーの役回りだったが、人物自体は非常に優秀であると漆黒には思えた。
どんな人間を、どんな風に評価するか。
あるいは、出来るか。
それが鷲男の成長にとって、重要な事の様に漆黒は考えていた。
相変わらず無言のまま車を運転する鷲男だったが、漆黒には、このスピリットが自分が話しかけている内容を、以前とは違って全て理解できているという確信があった。
「ブードゥー?」
話が一段落したところで、鷲男がオウムがそうする様に、くぐもった声で一言の単語を発した。
彼らが、これから向かうのは、娼館ライジングサンに顔を出したという世話人が潜んでいる筈の『ブードゥー教会本部』だった。
漆黒は、今までの話から、鷲男は今、ブードゥーに関する基礎知識を聞きたがっているのだろうと判断した。
ブードゥー教団ロアについて、漆黒は既にレオンから、かなりの情報を得ていた。
過去、ブードゥーの呪い師はゾンビの儀式に、フグの猛毒テトロドトキシンをもちい、それをごく微量使うことで人間を仮死状態にし、再び蘇生させることで、俗に言うゾンビ現象を発現させて来たらしい。
もちろんその際にマインドコントロール技術が関与したのだろうが、当時はその領域に、宗教あるいは地域文化が、そのマインドコントロールの代用品として、被術者達に強力に作用していたに違いない。
神秘的なように見えるが、ブードゥーの基本フレームは、それだけで十分なのだ。
「何、不思議なのはブードゥーじゃない、人の心の方さ。」
レオンは、にやりと笑って付け加えた。
「例えば俺達警官が、動物の頭を乗っけた精霊と一緒に道を歩いていても、殆どの人間が驚きはするが、そこに合理的な解釈をしようとするだろ。なぜかって、それは俺達が警官だからだ。だがブードゥーの場合は逆だ。合理的な解釈が出来る筈なのに、人々は逆にそれを敢えてしないようにする傾向がある。ブードゥーという宗教だからだよ。ロアには、灰と死の鬼神と呼ばれるロア神の守護者が本当に存在していて、教えに背くと酷い目にあうとかなんとか、まことしやかに語られてるそうだ。あとレオンはこんな事も言ってたな。」
漆黒もこのレオンの分析に、同意していた。
大昔も、この基本フレームを駆使するだけでブードゥー教は、それ以上の神秘的な出来事・あるいは宗教的体験を作り出せていたに違いない。
人工生命や知性を作り出せる現代でも、いやだからこそ、ブードゥー教は当時以上の神秘的な現象を、脆弱になった人の心に起こし得るはずだった。
『この教団の基本教義は昔からのブードゥーのものなんだが、実際にはいろんな宗教のいいとこ取りになってる。もっとも基になるブードゥー自体が、キリスト教と土着宗教の複合体だがな。、、ああ、それから現代風のアレンジとしては、ピュア主義の味付けをしてある。そのスタンスがピュア主義の立場に近くなるってのは、ブードゥーに限らず、古くから伝わっている宗教は、皆そういう傾向があるがな。しかし、俺達が追いかけているブードゥー教団の場合は、ピュア主義への傾倒はかなり強烈だ。その行動の過激さで考えると、ピュア過激派と肩を並べるかも知れんな。だから生粋のピュア主義者の俺としちゃ、余計にロアを潰したくなるんだよ。』
・・・漆黒がそんなレオンの講釈を、自分なりに咀嚼しながら鷲男に伝えている間に、鷲男の運転する車は、既に第二統括ブロックの外れに達している。
「お話の途中ですが、統括ブロックの違いは大丈夫なのですか?」
鷲男が突如、そう聞いて来たので、漆黒は驚いた。
何も考えていないように見えていた鷲男が、統括ブロックを超えた捜査活動が越権行為になることを懸念し、その事を漆黒に注意喚起を促したのだ。
「ああ、昔の警察機構なら完全にアウトだろうな、だが今は違う。こっちの警察がブードゥー教団に関心をもっていない限り、なんの問題も起こらないだろう。どこの統合署でも同じさ。熱心でやり手の刑事ほど、金にならない事案には無関心だ。注意すべきは、ブードゥー教団が契約を結んでいるかも知れない警備会社だけだよ。」
鷲男は前方を見つめたまま車の運転を続けている。
こんな場面で人間なら、、嘴の根本が吊り上がったりするのだろうか?
猛禽類の鳥は、鳩などと違って目が正面に付いているから、顔の構造が人間に近い。
「鷲鼻」という言葉は正にそれだ。
鷲男の横顔を見ていると、男の漆黒から見ていても惚れ惚れする事がある。
こんな時には『精霊の相棒がハシビロコウみたいのでなくて良かった』と漆黒は思ったりする。
「だが、お前も判っているだろうが、俺達は公安課じゃない。ここでは刑事面は出来ても、それだけだ。実際には俺達に捜査権限はない。」
「、、、。」
漆黒の言った付け加えの言葉の意味をどう理解したのか、やはり鷲男は返事をしなかった。
鷲男は、漆黒の統括ブロックからは主要高速を第一レンジの誘導モードで五時間、更にその道程の途中では、パイプラインを使用して俗にいう『ワープ』を二時間も連続で運転し続けている。
それで恐ろしいほどの距離を移動したことになる。
特に『ワープ』の2時間連続は、並の人間が出来る事ではない。
パイプラインの構造を単純に言えば、多数の長距離高速ベルトコンベヤ自体を高速道路に見立てて、その上を更に車で高速走行するというものだ。
当然ながらパイプラインには入り口と出口の二つだけという事はなく、途中、ジャンクションが幾つもある。
パイプライン内では、それに伴ってのレーン移動が非常に難しく、殆どの車両は『ワープ』中は、パイプラインが提供するビーコンに従って自動運転に身を任せる。
それを鷲男は、時間短縮の為に、ずっと手動でやったのだ。
鷲男の動体視力と遠視能力のお陰だった。
『ワープ』の中の『ワープ』、最速だった。
鷲男の運転だからこそ、肌で感じる自然に違和感を感じる程の移動距離を稼げたのだ。
気候、自然、風土の差によって国をわけるなら、第二統括ブロックは既に外国といえた。
更にこの第二統括ブロックを横断して西に進むと「辺境」に行き着き、「辺境」のその向こうは「きれいな爆弾」の被爆地になる。
いや正式には被爆地というより第二次災害地といった方が良い。
きれいな爆弾は睡眠状態になった人間だけを死亡させるから、施設などへの物理的な被害はないとされるが、実際には人間が制御している施設は無人状態になった時点で様々な事故を起こす。
そしてそれらの事故は、火災や爆発等を呼び、都市は少なからずの打撃を受ける。
きれいな爆弾の爆発時に、眠っていなかった人間達は、後に起こるその事故に巻き込まれるか、あるいは沈静化に当たろうとした。
しかしそんな彼らも、又、いずれ眠らなくてはならず、眠れば例外なしに死亡した。
話によればきれいな爆弾の効力は七日続くが、その作用が及ぶ範囲は限定的だという。
ただし人への作用範囲は限定的であっても、火災などの第二次災害は野火のようにその裾野を広げて行った。
人々は、全てを忘れ風化させる為に、被爆地は勿論の事、その裾野を「辺境」の向こう側にあるものとして、物理的にも心理的にも遮断したのだ。
その根底にあるのは、「きれいな爆弾」にまつわる恐怖心だった。
そして漆黒達の目的地は、「辺境」近くにあった。
「少し蒸し暑いな。メガエアーがこれぐらいしか効かないんだから相当なもんだな。それにこの日射し。目がチカチカする。」
漆黒はダッシュボードからサングラスを取り出して耳にかける。
彼らの乗っている車は、警察の公用車だからメガエアーを前提にしており、エアコンはついていない。
万能車といわれている割には、間抜けな部分のある警察車両だった。
「、、えぇっと。お前への講義は何処まで行ってたっけ?半分はレオンの受け売りだから、俺も、まだ話としては上手く整理できていないんだ。説明するにも骨が折れる。」
漆黒は、サングラスを掛けたついでに、長時間座ったおかげで堅くなった身体の位置をシートの中で大きく入れ替えた。
その時、鷲男が呟くように言った。
「残念、ながら、もう講義を聴く、時間、はないようです。目的地、に着きました。次の指示、をお願いします。」
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