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第6章 魁けでの戦い
81: 双竜の間で
しおりを挟む二人の戦いがママス&パパスマウンテンでの決闘と大きく違ったのは、葛星弾駆の体力だった。
あの時、葛星弾駆は瀕死の状態から、ようよう回復しかけていた状態だったのだ。
今は違う。
鎧は腹部の損傷と右腕部分の断裂というダメージを、残った部分で水増ししながら補修したものだからその性能は低下していた。
しかし着装者である葛星の回復はその低下分を補い上回っていた。
袋世界でのジャラールッディーンとオゴデイの力関係は、オゴデイ軍の優勢からみられるように、個人的な戦闘力でもオゴデイが上なのだろう。
しかし混沌王は、自分の部下を下がらせた時点で、剣以外の武器を、ここでは使うつもりがないようだった。
ママス&パパス・マウンテンでは、葛星の大蜘蛛に対して、戦闘用ドローンを使ったが、それはドローンで「対一」と見なしたからだ。
決闘となれば、対等でやる、つまりそれがジャラールッディーンの誇りだった。
このままでは、混沌王が危ないと、間近で彼らの戦いを見ていたアレンは思った。
前の決闘とは、まったく逆の形になっている。
決闘しに来た訳ではないと、葛星は言ったが、葛星も手を抜いて混沌王と闘っているのではないのだ。
葛星も、相手を殺すつもりでなければ、自分がやられるというレベルにいた。
混沌王が押された。
微妙な間合いだった。
葛星が、そのまま押し切ってしまわなければ、今度は葛星が危なかった。
だから葛星は嫌でも混沌王の命を断つところまで行く。
その時、アレンの身体が理屈なしで反射的に動いた。
アレンが自分の身体を挺して、二人の接近した間合いに割り込んだのだ。
葛星の振り下ろした剣の前に、アレンがいた。
葛星は寸前の所で、アレンを断ち割る剣を止め後ろに飛びすさった。
「アレン、お前?!」
葛星は悲痛な声を上げた。
「すまない、ダンク!」
混沌王はアレンの背後で、もう態勢を立て直している。
葛星から戦意が一気に抜けた。
葛星は背を向けた。
ゲナダ達の待つ場所に戻ろうとする葛星を追おうとした混沌王を遮ったのは、アレンだった。
「今日は、これまでだ!ジャラールッディーン!伝える事は、伝えたぞ!」
混沌王はその声を聞き、アレンの肩に手を置いてそれ以上動くのを止めた。
「アレン!お前は、いつでも俺の友だ!俺の元に帰って来ても来なくてもな。それだけは憶えておいてくれ。」
葛星はそう言い残すと、ゲナダ達を両脇に抱えて、曙号が着陸した方向に飛び立ってしまった。
「追いますか!?」
マシンマンの一人が混沌王に言った。
「、、いやいい。もう戦いは終わりだ、今日の所はな。我々も戻ろう。」
「レイニィ卿は、どうする?」
混沌王の声色は、いつもの冷静なものに戻っていた。
「もちろん戻りますよ。私は混沌王の語り部ですから。、、ああそれと、私は今日、一つ判った事があります。」
「なんだね、それは?」
混沌王はいつもの混沌王だった。
「あの時、別府イルマが、何故、俺を助けてくれたかって事です。」
混沌王はその顔に、不思議な表情を浮かべた。
混沌王は、昔、自らがネロ・サンダースに語ったという、少女に殺された将軍の逸話を思い出したのかも知れない。
「、、、そうか。、、それは私もいずれこの身を持って学ばねばならぬ事ではあろうな。しかし今はまだよい。」
「ええ、私もそう思います。」
アレンは、自分の心の中に出来た葛星への裏切りの痛みを噛み締めながら、そう答えた。
全ての答えは、もう少し、後に出るだろうと、、。
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