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第6章 魁けでの戦い
80: 覇道
しおりを挟む「ダンク!!お前なのか!生きていたのか!」
ダンクがいる!レイチェルがいる!アレンの鼓動が早まった。
「俺だ。アレンだよ!」
アレンは我を忘れて、彼らの元に駆け出す。
そして自分の顔を見せる為に走りながらヘルメットを脱いた。
その背中に混沌王の声が掛かった。
「レイニィ卿!どこへ行く?」
アレンは二つの陣営の丁度中間地点で、膠着してしまった。
「混沌王よ!俺は戦いに来た訳じゃない。それにこの二人の目論見も、もう潰えた。戦いはもう終わったんだ!」
葛星はそうやって、アレンに助け舟を出そうとしたのだ。
しかし自分の放った言葉が、混沌王のアレンに対する感情に、届くかどうかの自信はないようだった。
葛星は、戦いが終わったこの状況下なら、アレンにもいくばくかの自由があっていいのではないのかと、混沌王に言ってやる事しか、思い浮かばなかったのだ。
「ではなぜ、貴公はこんな場面で、私の前に現れた?いやそれよりも前に、貴公は自分の記憶を取り戻したのか?それを先に言い給え!」
混沌王は何故か、葛星を前にすると普段の冷静さが失われるようだ。
「理由の一つは、アレンがあんたに囚われているなら取り戻そうと思って此処に来た。アレンは俺の仲間だからな。だがどうやら、囚われてる感じではないな。」
アレンは恥ずかしそうに下を見た。
しかしアレンは、自分が何を恥じているかは分からなかった。
ただ恥ずかしかっただけだ。
「ここに来たもう一つの理由は、アンタの最後の問いかけとも、関係してる。前の世界の事は、色々と思い出したよ。アンタにあの屋上で一度殺されて、この鎧で復活した時、俺の記憶にリセットが掛かったようだ。初期化?正に、そんな感じだったな。で、その状態で、色々考えたんだよ。その中には、アンタに関係するのもあった。それを、伝えたかったんだ。」
「つまり今度は、オゴデイ王子として、この私とのケリをもう一度つけに来たという事か?それなら正に、私の望むことろだ!」
「そうじゃない。俺は、ジャラールッディーンに、もうこれ以上この世界での征服戦争をやるなと言いに来たんだよ。この世界に、異界の覇道は必要ない。」
「今何と言った?・・異界の覇道だと!?」
混沌王は心底怒ったようだ。
その感情が、愚かしさを感じさせる程、剥き出しになっている。
「それは違うよ、ダンク!そうだったら俺は混沌王の側にはいない!」
アレンが顔を上げて言った。
「現に見ろよ、ダンク。アクアリュウムは、混沌王のお陰で救われた。今では、旧アクアリュウムの人間もゲヘナの人間も、その殆どが混沌王を支持してる。」
「支持か?この男が、その支持を失わない為に、ずっと甘い顔を人々に向け続けるとでも思っているのか?良く考えろ、アレン。この男は、アクアリュウムとゲヘナの間にあった軋轢の本当の所なんて知っちゃいない。ただそれを上手く利用して来ただけなんだ。例えば、この男の覇道が、他の国に向いた時、そこにも必ずアクアゲヘナのような結果が生まれると言い切れるのか?それにもし、世界には王が必要だというなら、それはその世界が生み出すべきものなんだ。他の世界が、手出しする様な事じゃない。」
葛星の側にいたレイチェルが、驚いたように彼の顔を見上げた。
この人は自分と同じ事を考えている、そうだ、もし世界が王を必要とするなら、それはその世界が自らその王を生み出さなければならないと。
しかしアレンは、『お前には本当の事は判らない』という風に、首を振った。
「判らないのかアレン?俺は、通り一遍の理屈だけでものを言ってるわけじゃないぞ。俺と混沌王がいた袋世界は、この世界に同時に重なった、もう一つの可能性だから言ってるんだ。二つの世界は、全く同じで同時に全く違う、それを隔てているのは、光の壁なんかじぁない。二つの世界が持つ、それぞれの可能性なんだ。その可能性を、片一方が受け入れてどうする?いや押しつけたら、どうなる?」
「オゴデイ王子よ!面白い事を言うな。今、貴公が言った事は、貴公の先祖が持った野望とまったく同じ考え方ではないのか?覇王ザイラン・モ・ンゴルは、現世でない世界にまで、その覇を轟かせ、デミゴッドから神になるのではなかったのか?お前は、その血を継ぐ者だぞ!ザイラン・モ・ンゴルは、我々の敵ではあったが、偉大なる男でもあったのだぞ!」
「そうだ、だから俺はザイラン・モ・ンゴルを受け継ぐべく、心を変えられ、お前の頭に屈辱を彫って、それを笑って見つめる男となった。」
「まさかその事を今、私に詫びるつもりになったのでは、あるまいな!」
混沌王が又、怒りの表情を見せた。
今度の怒りは、彼の中にある複雑な恥辱の感情から生まれたものだ。
「・・気持ちは判るよ、ジャラールッディーン。それに故郷を失った者同士だ。・・・しかし、お前は、自分の世界で成し遂げられなかった事を、この世界でやろうとしているだけだ。そしてこの世界の成果を手に、元の世界に凱旋する事を夢見ている。だがそれは、間違いだ。この世界は彼らのもので、俺達のものじゃない。」
「黙れ!」
混沌王が前に進んだ。
警護態勢にあったマシンマン達も、同時に動きそうになったが、混沌王がそれを手の合図で止めた。
葛星も一歩前に出る。
「俺の意志を伝えに来ただけだが、、言葉だけでは、無理なようだな。」
葛星は腰に巻き付けていたベルトを引き抜き、剣に変えると大きく前に進んだ。
自分の側にいるゲナダやレイチェルを巻き込みたくなかったのだろう。
「オゴディ王子よ。それ程、私のやる事を止めたくば、私を殺すことだな。」
「ジャラールッディーン!俺の事は、もうオゴディと呼ぶな!俺は葛星弾駆として、この世界で生きる決心をした。それが俺とお前の一番大きな違いだよ。」
そして二人は、激突した。
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