78 / 82
第6章 魁けでの戦い
78: 吶喊
しおりを挟む「おどろいたな、船外でお出迎えかよ。」
巨大な針葉樹の幹に身を隠しながら、ゲナダは押し出すように言った。
「しかもあの真ん中にいるのは、混沌王よ。あの機動スーツに見覚えがあるわ。混沌王が葛星と決闘した時に着てたやつだわ。」
レイチェルが言った通り、混沌王は白を基調にした東洋風の鎧を装着していた。
「周りにいるのはマシンマンだろうな、、動きで判る。」
同じマシンマン同士としてシャマランにはそういった事が一目で判るのだろう。
「7対7か、数えたようにピッタリだな。舞台は整ったって感じだ。」
「さあそろそろゲナダ。サインの在りかを教えてもらおうか?」
シャマランは林の向こうにいる混沌王達から目を離さずにいった。
「ああ良いとも、俺の左目だ。」
「カーリ、何を言ってるの?」
レイチェルは思わず自分の横にいるゲナダの顔を見た。
「昔、仲間に裏切られた時に俺は左目を失った。バイオアップで再生が出来たが、俺は裏切りを忘れないために、機械入りの義眼にしたんだ。」
ゲナダは二人に答えたようだ。
シャマランがもぞりと身動きした。
「おっと、今此処で俺を殺して義眼を持ってトンズラなんて考えても無駄だぜ。義眼の中のチップに俺がサインしなくちゃな、いくら義眼だけ持って行っても、お前さん達の権利は発生しない仕組みになってるんだ。」
「、、判った。最後まで付き合ってやるよ。だが忘れるな。契約は、俺達がお前達を混沌王の目の前へ、戦える状態にして押し出てやる、、そこまでだって事をな。俺達は混沌王には直接手出しはしないぜ。」
「判ってるさ。悪党のお前達が混沌王をやっても、世直しにはなんねぇ。俺達がやるから意味があるんだ。、、革命のイロハだよ。なっ、レイチェル。」
「・・・あなたに革命の言葉は似合わないわ。」
レイチェルは、思わぬゲナダの本心に出逢って、声が詰まって、それ以上何も言えなかった。
同時に彼女が大好きだった大昔の革命家が、自分の娘に最後に送ったという手紙の内容を思い出した。
「娘よ。世界のどこかで誰かが被っている不正を心の底から悲しむことのできる人間になりなさい。それこそが革命家としての一番美しい資質なのだから。」
カーリ・ゲナダ程の男が、覚悟を決める状況なのだ、自分の人生はもう終わりだろう。
だが少なくとも自分は、その革命家の娘には少しは近づけただろうと思う。
そう考えると、悔いはなかった。
アクアリウムを外界の驚異から守って来たバリアシステムは、手を加えられサイズダウンされて兵器化された。
それが人間たちの戦いの様子を一変させていた。
余程の威力がないかぎり、ライフルやミサイルなどの飛び道具の利点が生かせないのだ。
使用する兵器は近代兵器なのに、その戦い振りは結局、便利過ぎるバリア兵器の為に、古代のそれに逆戻りしている。
それがあるから、混沌王の用いる肉弾戦に近い戦術が、常に他を圧倒していたとも言えた。
そして今、ゲナダらと混沌王の戦いは、それに則っていた。
数十メートルの距離をとって向かい合う両者の間には、遮るものは何もなかった。
「名乗りを上げずに死んでいくつもりか?それとも己の骸を調べられて、敵に己の名誉を委ねたいのか?」
混沌王が声を上げた。
その声は混沌王の着装する機動スーツのヘルメットによって拡声され、ゲナダ達まで届いた。
「どこまでも時代がかった野郎だな。けどその言い草、嫌いじゃないぜ。俺達は、曙の荊冠だ。新しい世界を作る為に、お前の首を貰いに来た!」
ゲナダも混沌王に負けずに声を拡声してそれに応えた。
ゲナダのそう言う度胸は一級品だった。
その間、シャマランが左右にいるマシンマンと強度の高い短距離交信を使って、これから起こる戦闘の打ち合わせをしていた。
そんな状況の中、「邪魔くさいわね」と内心で呟いてレイチェルは、肩に担いでいた短剣付きのアサルトライフルを前に構えて、突然前に走り出した。
・・・自分には犬死の覚悟が出来ている。
・・・理想を目指す革命は夢かもしれないが、革命の火はけして絶えることはない。
・・・それでいい。
自分は、これまでだと自然に思えた。
対面する敵陣から上がった声に、アレンは聞き覚えがあった。
あのカーリ・ゲナダだ!
それに機動スーツを着込んんでいる二人の内、一人の体型はどう見ても女性だった。
レイチェル・奥田の可能性があった。
混沌王は昔、彼女の身の安全は約束すると言って、つい最近までそれを守ってくれた。
だが目の前にいる女性がレイチェルならば、その立場はもう昔のレイチェルではない。
完全な敵なのだ。
アレンがそんな事に悩んでいる内に、とうのレイチェルらしき女性が突撃銃を構えてこちらに突っ込んできた。
「ちっ!馬鹿女が!」
シャマランが呻いた。
突拍子もなくレイチェル・奥田が自陣から飛び出したのだ。
シャマランの経験則を遙かに超えた行動だった。
あろうことか、ゲナダまでも彼女を追いかけるようにして走り出していた。
シャマランは腹を括った。
今、ゲナダを失うわけにはいかない。
仲間も同じ思いだったのか、それぞれに戦闘状態に突入した。
シャマランは全速を出して、レイチェルの前に出て、彼女の進路を塞いだ。
予想通り、ゲナダがレイチェルに追いつき彼女の身体を押さえた。
これで少しの間、ゲナダは最前線から遠ざかる。
自分は敵陣から放たれて来る「切り込み」を受けて立てばよい。
その間に、四方に散って闘いだした仲間達が、新たな戦局を造り出してくれるだろう、、そうシャマランは判断した。
数秒後、シャマランは敵陣の「切り込み」と激突した。
それは、なんと混沌王自身だった。
混沌王は剣のようなハンマーのような不思議なものを使ったから、シャマランもそれに合わせて超合金ソードを背中から引き抜き、打ち返した。
戦いは五分、あるいは、自分が押しているとシャマランには思えた。
シャマランは自分の身体が、脳髄を残して全てが機械、いやその脳髄さえも半分しか残っていないのだが、その事に感謝した。
その機械の力のお陰で、なんと自分は、あの今や伝説と化そうとしている混沌王を、しのごうとしているのだ。
シャマランは、混沌王をこのまま倒せるかも知れないと思った。
束の間、混沌王を倒して自分が王に成り代わってやろうかとさえ思った。
だが止めた。それは夢だ。
このまま押しまくって、混沌王を不随の状態にしてゲナダに差し出す。
ゲナダが常々言っているように、この戦いは混沌王の首をとった時点で終了だ。
シャマランの差し出した混沌王の身体から、ゲナダが彼の首を切り話した時点で、自分の任務が終わる。
それで無駄な仲間の損失も防げる。
押しに押した。
混沌王はついに堪えきれずに、後方に大きく跳んだ。
超人と言われた混沌王がいくら高機能の機動スーツを着用していようが、ほぼ戦闘ロボットに近い自分の運動能力に勝てる訳がない。
仕留めた!とシャマランは感じ、混沌王を追って大きく跳んだ。
シャマランが空中で剣を大きく振りかぶろうとした瞬間、背中にとんでもない衝撃が墜ちてきた。
次にシャマランが、首だけの状態で地面に落ちたときには、混沌王が自分に振り下ろしてくる刃の切っ先だけが見えた。
混沌王機内でバリアを操作しおわったサンダースの指が震えている。
まさしく戦いの神が降臨した瞬間だったと思った。
そして戦いの神は、混沌王を支持したのだ。
混沌王は、阿吽の呼吸と言ったが、実際はそんなものではなかった。
サンダースは、混沌王を仕留めにかかろうとするマシンマンから王を守ろうと、バリア防御壁を二人の間に無我夢中で発生させただけなのだ。
その防御壁が見事に空中で、マシンマンの身体を真っ二つにしたのだ。
・・その後も、戦局は入り乱れている。
だが自分が断ち割ったあのマシンマンが、戦いのリーダーだったのか、こちらが優性になったようだ。
いつまでも戦場をバリアで二つに割ってはおけない。
サンダースはバリアを解除した。
しかし、バリアの使い方の勘所は理解した。
この方法で、敵を狙い打ちさえ出来るかも知れない。
次は神に頼らなくても、自軍の為にバリアを使いこなせるだろうと、サンダースは思った。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる