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第6章 魁けでの戦い

78: 吶喊

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「おどろいたな、船外でお出迎えかよ。」
 巨大な針葉樹の幹に身を隠しながら、ゲナダは押し出すように言った。
「しかもあの真ん中にいるのは、混沌王よ。あの機動スーツに見覚えがあるわ。混沌王が葛星と決闘した時に着てたやつだわ。」
 レイチェルが言った通り、混沌王は白を基調にした東洋風の鎧を装着していた。

「周りにいるのはマシンマンだろうな、、動きで判る。」
 同じマシンマン同士としてシャマランにはそういった事が一目で判るのだろう。
「7対7か、数えたようにピッタリだな。舞台は整ったって感じだ。」
「さあそろそろゲナダ。サインの在りかを教えてもらおうか?」
 シャマランは林の向こうにいる混沌王達から目を離さずにいった。

「ああ良いとも、俺の左目だ。」
「カーリ、何を言ってるの?」
 レイチェルは思わず自分の横にいるゲナダの顔を見た。

「昔、仲間に裏切られた時に俺は左目を失った。バイオアップで再生が出来たが、俺は裏切りを忘れないために、機械入りの義眼にしたんだ。」
 ゲナダは二人に答えたようだ。
 シャマランがもぞりと身動きした。

「おっと、今此処で俺を殺して義眼を持ってトンズラなんて考えても無駄だぜ。義眼の中のチップに俺がサインしなくちゃな、いくら義眼だけ持って行っても、お前さん達の権利は発生しない仕組みになってるんだ。」
「、、判った。最後まで付き合ってやるよ。だが忘れるな。契約は、俺達がお前達を混沌王の目の前へ、戦える状態にして押し出てやる、、そこまでだって事をな。俺達は混沌王には直接手出しはしないぜ。」

「判ってるさ。悪党のお前達が混沌王をやっても、世直しにはなんねぇ。俺達がやるから意味があるんだ。、、革命のイロハだよ。なっ、レイチェル。」
「・・・あなたに革命の言葉は似合わないわ。」
 レイチェルは、思わぬゲナダの本心に出逢って、声が詰まって、それ以上何も言えなかった。

 同時に彼女が大好きだった大昔の革命家が、自分の娘に最後に送ったという手紙の内容を思い出した。
「娘よ。世界のどこかで誰かが被っている不正を心の底から悲しむことのできる人間になりなさい。それこそが革命家としての一番美しい資質なのだから。」
 カーリ・ゲナダ程の男が、覚悟を決める状況なのだ、自分の人生はもう終わりだろう。
 だが少なくとも自分は、その革命家の娘には少しは近づけただろうと思う。
 そう考えると、悔いはなかった。


 アクアリウムを外界の驚異から守って来たバリアシステムは、手を加えられサイズダウンされて兵器化された。
 それが人間たちの戦いの様子を一変させていた。
 余程の威力がないかぎり、ライフルやミサイルなどの飛び道具の利点が生かせないのだ。
 使用する兵器は近代兵器なのに、その戦い振りは結局、便利過ぎるバリア兵器の為に、古代のそれに逆戻りしている。
 それがあるから、混沌王の用いる肉弾戦に近い戦術が、常に他を圧倒していたとも言えた。
 そして今、ゲナダらと混沌王の戦いは、それに則っていた。
 数十メートルの距離をとって向かい合う両者の間には、遮るものは何もなかった。

「名乗りを上げずに死んでいくつもりか?それとも己の骸を調べられて、敵に己の名誉を委ねたいのか?」
 混沌王が声を上げた。
 その声は混沌王の着装する機動スーツのヘルメットによって拡声され、ゲナダ達まで届いた。

「どこまでも時代がかった野郎だな。けどその言い草、嫌いじゃないぜ。俺達は、曙の荊冠だ。新しい世界を作る為に、お前の首を貰いに来た!」
 ゲナダも混沌王に負けずに声を拡声してそれに応えた。
 ゲナダのそう言う度胸は一級品だった。
 その間、シャマランが左右にいるマシンマンと強度の高い短距離交信を使って、これから起こる戦闘の打ち合わせをしていた。

 そんな状況の中、「邪魔くさいわね」と内心で呟いてレイチェルは、肩に担いでいた短剣付きのアサルトライフルを前に構えて、突然前に走り出した。
 ・・・自分には犬死の覚悟が出来ている。
 ・・・理想を目指す革命は夢かもしれないが、革命の火はけして絶えることはない。
 ・・・それでいい。
 自分は、これまでだと自然に思えた。


 対面する敵陣から上がった声に、アレンは聞き覚えがあった。
 あのカーリ・ゲナダだ!
 それに機動スーツを着込んんでいる二人の内、一人の体型はどう見ても女性だった。
 レイチェル・奥田の可能性があった。

 混沌王は昔、彼女の身の安全は約束すると言って、つい最近までそれを守ってくれた。
 だが目の前にいる女性がレイチェルならば、その立場はもう昔のレイチェルではない。
 完全な敵なのだ。
 アレンがそんな事に悩んでいる内に、とうのレイチェルらしき女性が突撃銃を構えてこちらに突っ込んできた。


「ちっ!馬鹿女が!」
 シャマランが呻いた。
 突拍子もなくレイチェル・奥田が自陣から飛び出したのだ。
 シャマランの経験則を遙かに超えた行動だった。
 あろうことか、ゲナダまでも彼女を追いかけるようにして走り出していた。 
 シャマランは腹を括った。
 今、ゲナダを失うわけにはいかない。
 仲間も同じ思いだったのか、それぞれに戦闘状態に突入した。

 シャマランは全速を出して、レイチェルの前に出て、彼女の進路を塞いだ。
 予想通り、ゲナダがレイチェルに追いつき彼女の身体を押さえた。
 これで少しの間、ゲナダは最前線から遠ざかる。

 自分は敵陣から放たれて来る「切り込み」を受けて立てばよい。
 その間に、四方に散って闘いだした仲間達が、新たな戦局を造り出してくれるだろう、、そうシャマランは判断した。
 数秒後、シャマランは敵陣の「切り込み」と激突した。

 それは、なんと混沌王自身だった。
 混沌王は剣のようなハンマーのような不思議なものを使ったから、シャマランもそれに合わせて超合金ソードを背中から引き抜き、打ち返した。

 戦いは五分、あるいは、自分が押しているとシャマランには思えた。
 シャマランは自分の身体が、脳髄を残して全てが機械、いやその脳髄さえも半分しか残っていないのだが、その事に感謝した。
 その機械の力のお陰で、なんと自分は、あの今や伝説と化そうとしている混沌王を、しのごうとしているのだ。

 シャマランは、混沌王をこのまま倒せるかも知れないと思った。
 束の間、混沌王を倒して自分が王に成り代わってやろうかとさえ思った。
 だが止めた。それは夢だ。
 このまま押しまくって、混沌王を不随の状態にしてゲナダに差し出す。
 ゲナダが常々言っているように、この戦いは混沌王の首をとった時点で終了だ。
 シャマランの差し出した混沌王の身体から、ゲナダが彼の首を切り話した時点で、自分の任務が終わる。
 それで無駄な仲間の損失も防げる。
 押しに押した。

 混沌王はついに堪えきれずに、後方に大きく跳んだ。
 超人と言われた混沌王がいくら高機能の機動スーツを着用していようが、ほぼ戦闘ロボットに近い自分の運動能力に勝てる訳がない。
 仕留めた!とシャマランは感じ、混沌王を追って大きく跳んだ。

 シャマランが空中で剣を大きく振りかぶろうとした瞬間、背中にとんでもない衝撃が墜ちてきた。
 次にシャマランが、首だけの状態で地面に落ちたときには、混沌王が自分に振り下ろしてくる刃の切っ先だけが見えた。


 混沌王機内でバリアを操作しおわったサンダースの指が震えている。
 まさしく戦いの神が降臨した瞬間だったと思った。
 そして戦いの神は、混沌王を支持したのだ。
 混沌王は、阿吽の呼吸と言ったが、実際はそんなものではなかった。

 サンダースは、混沌王を仕留めにかかろうとするマシンマンから王を守ろうと、バリア防御壁を二人の間に無我夢中で発生させただけなのだ。
 その防御壁が見事に空中で、マシンマンの身体を真っ二つにしたのだ。

 ・・その後も、戦局は入り乱れている。
 だが自分が断ち割ったあのマシンマンが、戦いのリーダーだったのか、こちらが優性になったようだ。
 いつまでも戦場をバリアで二つに割ってはおけない。
 サンダースはバリアを解除した。
 しかし、バリアの使い方の勘所は理解した。
 この方法で、敵を狙い打ちさえ出来るかも知れない。
 次は神に頼らなくても、自軍の為にバリアを使いこなせるだろうと、サンダースは思った。



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