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第6章 魁けでの戦い
77: メイドインゲヘナの威力
しおりを挟む「、、、凄い。」
自分の数十メートル先の林の中で展開した光景に、レイチェルは思わず脚を止めた。
レイチェルにはそれ程、戦闘の目撃経験はない。
だから彼女自身、自分が何に驚いているのかさえも本当はよく分かっていなかった。
森林の中を移動中のゲナダらを発見した混沌王軍が攻撃を仕掛けようとしていたのを、散開していたマシンマンメンバーの一人が捕捉、それを殲滅した。
その様子が、あまりに鮮やかすぎたのだ。
人が人を殺しているのだが、鮮やか過ぎて、現実感がなかった。
そして、その驚きの下地には、もう混沌王軍が動いているという思いもあった。
今の状況は、戦闘集団であるマシンマンからの視点で言えば、ゲナダとレイチェルは囮だったのかも知れない。
あるいは、単にお互いが潜行進軍していると思い込んでいる二つの部隊が、鉢合わせしたと言う事かも知れない。
それにしても、ゲナダが雇ったマシンマン達の戦闘能力は高かった。
レイチェルは少し前に、マシンマンチームのリーダーであるシャマランが、「自分はカリニテの事を知っている」といったのを聞いて驚いたのを思い出した。
ゲヘナにも、そういう傭兵まがいのマシンマンが多く潜んでいたのだ。
「止まるな!レイチェル!」
流石にゲナダは慣れている。
「奴らには、それだけの金を払ってる。こっちは素人だ。俺達は、ただ走るしかない。」
意味が良く分からなかったが、説得力はあると思った。
レイチェルは再び林の中を駆け出した。
巨大樹の幹は鉄のように硬い。
だから敵が銃で狙撃してきても巨大樹が盾代わりになって、自分が高速で移動を続ける限り、被弾しない確率は高い。
しかも身に纏っているアーマーなら、同じ箇所を二三度続けて撃たれない限り、弾が貫通する事はない。
これなら最後の決戦の為に用意した、個人用バリアも使わなくて済みそうだ。
それに自分達には、シャマランがピタリとカバーに入っているし、他のマシンマン達はどうやら、自分たちを円の中心にするように、戦線を膨らませたり縮めたりしながら混沌王機に向かっているようだった。
これなら混沌王機までは、無事に辿り着けるかも知れないとレイチェルは思った。
覚悟はしていたのだ。
ただしそれは、人には決して言えない覚悟だった。
掲げた理想の為に、犬死しても良いといういう倒錯した覚悟。
理想は理想でしかないという諦観を、自分の犬死という形で突き返してやる覚悟。
その覚悟が、「もしかしたら、なんとかなるかも知れない」という言葉に置き換えられそうになった時、レイチェルは自分の前を走るゲナダの背中越しに混沌王機の巨体をとうとう見つけた。
・・・・・・・・・
「、、、、全滅したのか?」
ネロ・サンダースが絶句した。
混沌王正規軍の精鋭がカハナモクを含めて15名、巨大樹の森の中で消えた。
「カハナモクが交戦した相手はマシンマンだろう。我々が管理しきれていない世界の中にまだ、それ程のものが残っていたとはな、前の戦いで徹底的に排除しておくべきだった。」
混沌王が呟いた。
「完全な排除は無理ですよ、混沌王。たぶん奴らは戦士じゃない、悪党だ。力のある悪党。どんな社会になっても、影の中に生まれ生き残る。」
アレンは周騎冥の顔を思い出しながら言った。
「、、そうだったな、レイニィ卿。 、、、ネロ。私はこれからカハナモクが残してくれた兵を連れて外に出る。君は残って、技官達を船外に待避させた後、そのままここにいてくれ。」
「王が自ら出向く意味があるのですか?」
サンダースは不服のようだった。
「あるさ。前に言ったろう。奴らの狙いは、私の首だ。私の首が直ぐに落ちたら、残った者の命は全員助かる。それにだ、この船に残って闘う有利さがあるとは思えない。船内に入り込まれたら、狭い空間の中での肉弾戦になるのだぞ。」
「混沌王機に残った武器を、ここから使えばどうなのです。」
アレンがサンダースの意を汲んで、そう提案した。
「敵は、あの巨大樹の森の中に潜んでいる。巨大樹が敵の盾になる。当然、個人用バリアも装備として持っているだろう。それにいつでも散開出来る、つまりゲリラ戦だな。そういう相手にここから一斉掃射をするのか?つまりアレン、君の言ってくれた攻撃方法は攻撃のように見えて、実は追い詰められた者がやる防御にすぎないのだよ。それは私の戦闘方法ではないのだ。」
混沌王は玉座から立ち上がった。
「ネロ。君にはもう一つやってもらう事がある。本機を包むバリアの操作だ。バリアは、防御層を最小に狭めると、その起ち上がりが早くなるのを知っているな。」
「ええ、もちろん。」
「私が外で闘うときに、それを操作して、私の盾代わりにしてくれ。敵は個人用バリアは想定していても、そこまでは考えない筈だ。この船のバリアの挙動や作動範囲は私の頭の中に全て入っている。私が押し出す時には解除を、引いたときには起動を、それには二人の阿吽の呼吸が必要だ。私の言う事が、判るな?」
「船のバリアを、ご自分用に使うのですか、さすがですな。単なる悲劇のヒーローではない、小狡い。」
ネロが楽しそうに笑った。
「レイニィ卿。君は、私について来い。君は私の語り部だ。」
「喜んでおともします、混沌王。」
アレンの脳裏に少しだけレイチェルの顔が浮かんだが、それは長くは続かなかった。
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