混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第6章 魁けでの戦い

76: 不安

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「ネロ、本機の修理状況は?もう一度、飛べるのか?」
「総力を上げてあたっていますが上手く行って地表を滑走する所まででしょうな。空を飛ぶとなると、その状態へ持って行くまでに徒歩で進軍して王国へたどり着けるでしょう。燃料系や電子系は生きていますが、肝心の駆動エンジンが、半分損傷しているのです。」
 ネロの言葉通り、司令室には必須要員を除いて殆ど人がいない。
 技官たちは、全て破損箇所の修理にでているのだ。

「、、、、そうか、では敵機のパーツをもぎ取ったらどうだ。同一、機種なのだろう?」
「、、そっ、、」
 ネロ・サンダースは奇妙な声を上げて、次に大笑いをした。

「さすがは、我らの混沌王ですな。そんな発想は誰もしない。でもそれなら出来ますよ、おそらく短い時間に修理を終えて、もう一度、飛べる筈だ。しかしまさか混沌王、それでこの遠征を、このまま続けるとは仰らないでしょうな?」
「判らんな。それはこの戦いに勝ってから決める。」

「勝ってから?我々があぶないと?窮鼠猫を噛むですか?私も敵が空中空母を用意した所までは認めますが、相手がこちらと同じ戦力を持っているとは到底考えられないのですが。彼らの正体はきっと、王国に残った反乱分子なのだと思いますよ。」
「正体はおそらくそんな所だろうが、早計な戦力分析はするべきではないよ。油断は出来ない。それに彼らの狙いは、私の首だけだろう。軍同士の戦いではないのだ。」
 そんな二人の会話を聞きながらアレンはある不安に襲われた。
 レイチェル・奥田だ。

 まさかあの敵機の中にレイチェル・奥田がいる?
 国内最大の反乱勢力は『曙の荊冠』で、その中でもレイチェル・奥田は重要人物だ。
 だがあのシャーロット・ホワイトではあるまいし、、、いやレイチェル・奥田も思想がからむと思わぬ行動力を見せる。

「お二人とも、一連の攻撃は反乱分子の仕業だと考えておられるのですか?あの自爆も含めて。」
 アレンは思わず二人の会話に割り込んでいた。

「ここは王国から遮断されているから調査は出来ないが、最近の夏燕 櫂を詳しく調べさせれば、おそらく『曙の荊冠』あたりとの接点が出てくると思うよ。ただ夏燕 櫂の動機は、私怨だろう。あんな、凄まじい死に方はそう簡単にはできん。搭乗員のチェックは、公安局にさせたんだが、やはりフィリポ・ベトサイダあたりが上にいないと駄目だな。もちろん、全ての責任はこの遠征を企画した私にあるんだが。」

 ネロが苦しげに言った。
 ネロにしても夏燕 櫂の自爆は衝撃的だったのだろう。
 アレンはヘブンズゲート事件の事を黙っていた。
 黙っていても、いずれは判る事だが、それをわざわざ自分の口から混沌王に告げる気持ちにはなれなかった。

「私は、今回の戦闘の背後にいるのはクン・バイヤーだと思っている。空中空母を我々に隠れて、一台造り上げ、あまつさえそれに武器を積んで、この外界で追跡してきた。民間には多大な資金が必要なはずだ。今、そんな隠れた資産と、それを使ってもいいという動機を持っているものは彼しかいない。」
 混沌王はそう言った。

「クン・バイヤー。あの時、処断しておくべきでしたな。」
 アレンにはサンダースが言う「あの時」が分からなかったが、どんな状況だったかの想像くらいは付いた。

「いや、私はそうは思っていない。今でもな、、。もし私が倒れたら、クン・バイヤーがあの国を治めるのが妥当だと思っている。私は、この遠征の空白を埋めるために、様々な国策上の仕掛けを作ったが、どれもまともなものではない。所詮、私がいての王国だという事だ。だが、それは国の在り方として間違っている。」

 驚いた事に、二つの全く異なる世界をまたぎ、更に二つの大きな戦いをへて王になったこの男はまだ、世界統治に何かを求め進化しようとしているのだ。
 その言葉にアレンは心底驚いたが、ネロ・サンダースは混沌王がそういう考えをする事を良く理解しているようだった。
 いやそういう男だからこそ、ネロ・サンダースは、異人である混沌王を支援してきたのかも知れない。

「まあ良いではないですか。我々と違って貴方には長い時間と生命力がある。その間に、新しく見えてくるものもきっと在るはずだ。今は兎に角、あなたが我々の王だ。なぁ、レイニィ卿。」
「ええ、そう思っています。混沌王、あなたは間違いなく我々の王だ。」
 アレンが思わずそう相槌を打った時、艦長席のディスプレイに一報が入った。

「おお!カハナモクが交戦状態に入ったようですぞ。こちらで、識別信号の位置情報と一帯のマップを重ねて見ることができます。出しますか?」
「ああ、正面の中央ディスプレイに表示してくれ。他のセクションのディスプレイにもな。この情報は皆が共有すべきだろう。」
 混沌王が厳しい顔で言った。
 混沌王は、必ずしもカハナモクが簡単に勝利を収めるとは思っていないのだろう。

「、、兵力を分散させすぎだな。相手を甘く見ているのか、、。」
 混沌王はディスプレイ上に映し出された森林の上に散らばる光点を見つめながら呟いた。
 だがそんな危惧を伝えてやるにはカハナモクの地位は高すぎた。
 そしてそんな混沌王の予測を裏付けるかのように、中央ディスプレイに映し出された数個の光点の一部がいきなり消えてしまった。




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