混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第6章 魁けでの戦い

75: 艦を出る

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「敵ながら見事だったな。」
 一応は上からの攻撃を退けた形になった混沌王が、敵機の動きを評価した。

「瞬時に後部のホバーエンジンを切って、前部のエンジンを最大出力で動かしたんでしょうな。バネで弾かれたように機首を上げ、それから一回転。そしてその後、直ぐに制御を戻した。こちらのミサイルは、それで相手を一瞬補足できなくなってしまった。なにしろこちらは、極至近距離で発射しましたからな、あれはショットガンのような使い方だった。」
「私の戦術が不服か?ネロ?」
 混沌王が楽しそうに言う。
 アレンは、混沌王がミサイルを、敵機を殴る棍棒代わりに使ったのだと思った。

「いえいえ、堪能させてもらいましたよ、それに我が方は、一発のミサイルが不発ながらも敵機の右舷を破壊した。向こうも動けない、、しかしそれにしても、凄い操縦士がいたものだ。勝機の可能性を上げるためにギリギリまで回避を引っ張った。胆力と能力の裏付けが必要だ。なんとなく混沌王、あなたのやり方に似ていますな。」
「ああ、そんな人間が、あの空母の中にいるのなら、これからの白兵戦が楽しみだ。カハナモク、頼むぞ!早速、兵を送れ。」

「ハッ」
 カハナモクはいよいよ自分の出番とばかりに声を張った。
「しかしマシンマン5名は王の元に残します。その代わり、外に出す兵の指揮は私がとります。」
 カハナモクは兵士の内のマシンマン五名を混沌王の護衛の為に残し、自分自身と残る十名、つまり戦闘用のバイオロイドとバイオアップ処置者で、この任務を遂行しようと言うのだ。
 この様子を見ていたアレンは、『戦闘能力のずば抜けて高い混沌王に、5名ものマシンマンを護衛に付ける意味はあるのか?』と密かに疑問を抱いた。

「君が直接か?」
 混沌王の目が少し曇った。
「ええ、我らが王は常にそうされているのではありませんか?」
「、、そうか、そうだったな。存分にやってくれ。」
 カハナモクは短く敬礼をしてその場を去った。

「彼をあのまま行かせて良いのですか、混沌王?」
 混沌王をよく知るネロ・サンダースが聞いた。
「しかたあるまい。私とて、常に戦果だけを追う采配は出来ないのだ。人は気持ちで動くのだからな。」


    ・・・・・・・・・

「俺達が帰って来るまで待っててくれ。いつ帰ると期限は切れないが、そう時間はかからないだろう。帰ってきたら、応急処置かなんかで、曙が少しでも動かせるようになってたら有り難いがな。、、、、もし帰って来なかったら、曙は持ち逃げしていいぜ。俺はあんたとの約束が果たせないだろうからな。」
 曙号のあらゆる制御を、艦長席から操縦席に回し終えたゲナダがそう言った。
 マテウスと瑠偉の顔は、艦長席のゲナダを見ているが無言のままだ。

「行きましょう。格好付けてる暇はないわ。」
 レイェチェルが言った。
 ゲナダは肩をすくめてみせて、もう一度マテウスの目をみつめ、最後に瑠偉の顔を確認するように見た。


 ゲナダとレイェチェルは強襲待機室で機動アーマーを装着し終えると、彼らが雇ったマシンマン達5人と向かい合った。
 彼らの背後にある壁は既に開かれていて、そこから、少し向こうにある森林の青みがかった濃い緑が見えた。
 彼らがやろうとしていたのは、これから試合に望むスポーツチームが円陣を組んで良くやる短い儀式の様だが、もちろんその中身はまったく違う。

「全員の識別信号と連絡用チャンネルを同期させる。」
 マシンマンリーダーのシャマランが言った。
 ゲナダとレイェチェルも自然にその指示に従っている。

「後ろの後部非常口から森林の中に入る。そのまま進んで混沌王機に一番近い地点の林の中から出て、アタックをかける。遠回りになるが、平地を進んで狙い撃ちされるよりずっとマシだ。後の手はずは今まで通り、、、いいよな、ゲナダ?」
 普段はレイェチェルの態度に直ぐに感情的になるシャマランだが、今はそんな様子が微塵もない。

「もちろん。」
 ゲナダは短く答えた。
 シャマランは仲間に向き直ると右手を軽く肩まで挙げて手首を回した。
 4人のマシンマンの姿が見えなくなった。

「あなたは、行かないの?」
 レイェチェルが訝しげに聞く。
「俺は、お前達の護衛だ。」
「馬鹿にしないで。」
 レイェチェルは吐き捨てるように言った。
 自分の覚悟を嗤われたように思えたのだ。

「馬鹿にしている訳ではない。後金はゲナダがサインしなきゃ手に入らない。ただ働きはゴメンだからな、途中で死んでもらっちゃ困るんだ。」
「サイン?」

「どうでもいいだろ、そんな事!行くぜ、レイェチェル!」
 ゲナダがヘルメットのバイザーを下ろして外に向かって走り出した。
 レイチェルは少しシャマランの顔を睨んだが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、バイザーを下ろしてゲナダの後を追い始めた。


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