75 / 82
第6章 魁けでの戦い
75: 艦を出る
しおりを挟む「敵ながら見事だったな。」
一応は上からの攻撃を退けた形になった混沌王が、敵機の動きを評価した。
「瞬時に後部のホバーエンジンを切って、前部のエンジンを最大出力で動かしたんでしょうな。バネで弾かれたように機首を上げ、それから一回転。そしてその後、直ぐに制御を戻した。こちらのミサイルは、それで相手を一瞬補足できなくなってしまった。なにしろこちらは、極至近距離で発射しましたからな、あれはショットガンのような使い方だった。」
「私の戦術が不服か?ネロ?」
混沌王が楽しそうに言う。
アレンは、混沌王がミサイルを、敵機を殴る棍棒代わりに使ったのだと思った。
「いえいえ、堪能させてもらいましたよ、それに我が方は、一発のミサイルが不発ながらも敵機の右舷を破壊した。向こうも動けない、、しかしそれにしても、凄い操縦士がいたものだ。勝機の可能性を上げるためにギリギリまで回避を引っ張った。胆力と能力の裏付けが必要だ。なんとなく混沌王、あなたのやり方に似ていますな。」
「ああ、そんな人間が、あの空母の中にいるのなら、これからの白兵戦が楽しみだ。カハナモク、頼むぞ!早速、兵を送れ。」
「ハッ」
カハナモクはいよいよ自分の出番とばかりに声を張った。
「しかしマシンマン5名は王の元に残します。その代わり、外に出す兵の指揮は私がとります。」
カハナモクは兵士の内のマシンマン五名を混沌王の護衛の為に残し、自分自身と残る十名、つまり戦闘用のバイオロイドとバイオアップ処置者で、この任務を遂行しようと言うのだ。
この様子を見ていたアレンは、『戦闘能力のずば抜けて高い混沌王に、5名ものマシンマンを護衛に付ける意味はあるのか?』と密かに疑問を抱いた。
「君が直接か?」
混沌王の目が少し曇った。
「ええ、我らが王は常にそうされているのではありませんか?」
「、、そうか、そうだったな。存分にやってくれ。」
カハナモクは短く敬礼をしてその場を去った。
「彼をあのまま行かせて良いのですか、混沌王?」
混沌王をよく知るネロ・サンダースが聞いた。
「しかたあるまい。私とて、常に戦果だけを追う采配は出来ないのだ。人は気持ちで動くのだからな。」
・・・・・・・・・
「俺達が帰って来るまで待っててくれ。いつ帰ると期限は切れないが、そう時間はかからないだろう。帰ってきたら、応急処置かなんかで、曙が少しでも動かせるようになってたら有り難いがな。、、、、もし帰って来なかったら、曙は持ち逃げしていいぜ。俺はあんたとの約束が果たせないだろうからな。」
曙号のあらゆる制御を、艦長席から操縦席に回し終えたゲナダがそう言った。
マテウスと瑠偉の顔は、艦長席のゲナダを見ているが無言のままだ。
「行きましょう。格好付けてる暇はないわ。」
レイェチェルが言った。
ゲナダは肩をすくめてみせて、もう一度マテウスの目をみつめ、最後に瑠偉の顔を確認するように見た。
ゲナダとレイェチェルは強襲待機室で機動アーマーを装着し終えると、彼らが雇ったマシンマン達5人と向かい合った。
彼らの背後にある壁は既に開かれていて、そこから、少し向こうにある森林の青みがかった濃い緑が見えた。
彼らがやろうとしていたのは、これから試合に望むスポーツチームが円陣を組んで良くやる短い儀式の様だが、もちろんその中身はまったく違う。
「全員の識別信号と連絡用チャンネルを同期させる。」
マシンマンリーダーのシャマランが言った。
ゲナダとレイェチェルも自然にその指示に従っている。
「後ろの後部非常口から森林の中に入る。そのまま進んで混沌王機に一番近い地点の林の中から出て、アタックをかける。遠回りになるが、平地を進んで狙い撃ちされるよりずっとマシだ。後の手はずは今まで通り、、、いいよな、ゲナダ?」
普段はレイェチェルの態度に直ぐに感情的になるシャマランだが、今はそんな様子が微塵もない。
「もちろん。」
ゲナダは短く答えた。
シャマランは仲間に向き直ると右手を軽く肩まで挙げて手首を回した。
4人のマシンマンの姿が見えなくなった。
「あなたは、行かないの?」
レイェチェルが訝しげに聞く。
「俺は、お前達の護衛だ。」
「馬鹿にしないで。」
レイェチェルは吐き捨てるように言った。
自分の覚悟を嗤われたように思えたのだ。
「馬鹿にしている訳ではない。後金はゲナダがサインしなきゃ手に入らない。ただ働きはゴメンだからな、途中で死んでもらっちゃ困るんだ。」
「サイン?」
「どうでもいいだろ、そんな事!行くぜ、レイェチェル!」
ゲナダがヘルメットのバイザーを下ろして外に向かって走り出した。
レイチェルは少しシャマランの顔を睨んだが、直ぐに気持ちを切り替えたのか、バイザーを下ろしてゲナダの後を追い始めた。
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった


うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔拳のデイドリーマー
osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。
主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる