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第6章 魁けでの戦い
74: 迎撃
しおりを挟む「大丈夫か?レイニィ卿」
目の前にサンダースがいた。
サンダースは座席の側の床にヘタリ込んでいるアレンに腰を屈めて話し掛けている。
『夏燕 櫂が自爆した?』と思った時から、それ程たっていないのだろう。
アレンは一瞬気を失っていたのだ。
「私の銃を返してくれるか。」
「、、ああ。」
アレンは自分がサンダースの軍用拳銃を握りしめたままなのを思い出して、それを返そうとしたが拳銃はなかなか手から離れなかった。
拳銃を返した後も空になった手が震えていた。
「礼を言うぞ、レイニィ卿。君は皆の命を救ったんだ。」
混沌王の声が上から降ってきた。
「夏燕 櫂は、どうなった?」
アレンはネロの肩を借りて立ち上がりながら彼にそう訪ねた。
「生体爆弾だな、、爆発はしなかったが、その直前まで行ったんだろう。起爆薬が発火した感じか、、、。君はまともに、その爆風と閃光を浴びた。それで意識が暫くとんでいたんだよ。」
夏燕 櫂がいた方向を見ると、彼の周辺が焼け焦げているのが分かった。
この様子では夏燕 櫂の側にいたあの観測員はひとたまりもなかっただろう。
身体に又、震えが走った。
アレンは自分が意識を失ったのは、単に爆風や閃光を浴びたからではないと思った。
自分の身体は強化されている。
それに自分以外の他の人間はちゃんとしている。
自分が倒れたのは、初めて意識的に拳銃を使って人を撃ち殺した事や、自爆というもの凄さを目の前で見せつけられた強すぎるストレスのせいだろうと思った。
特に自爆する直前の夏燕 櫂の顔の表情は、今でも強くアレンに焼き付けられている。
「しっかりしろ。レイニィ卿。戦いはこれからだ。」
アレンの弱さを知っている混沌王が声をかけてくる。
それでも混沌王は、アレンの事を「レイニィ卿」と呼んでいた。
「このまま着陸するぞ!全員安全確保!着陸が上手く行ったら直ぐに反転攻勢する。そして喜べ!着陸次第、我が混沌王が直接我々の戦いの指揮をとって下さる。」
サンダースの声が司令室に響いた。
改めて伝えるような内容ではなかったが「混沌王」の名前は、この場面でなにより効果があった。
アレンは司令室にいる全員の士気が見る間に上がって行くのを感じた。
着地した。
巨大樹の森林の間際に広がる荒れた平地だった。
着陸は、誰もが予想した衝撃よりそれは小さかった。
だが混沌王の大窓に大量の土埃が舞い上がっている。
「全ての状況を中央モニターに集約。私がミサイルの発射合図を送る。私を信じろ!」
混沌王が良く通る声を出した。
「敵機、急接近!」
上方カメラが混沌王機に敵機が覆い被さるように接近してくる姿を映し出した。
いずれ、こちらのバリアが効かなくなる距離を突破する筈だ。
敵機の下腹の一部が開き始めていた。
同一、機種である。
それが何を意味するかは、混沌王機の搭乗員全員が知っていた。
「バリア解除!」
真空の数秒、脈動する数秒、
「全ミサイル発射!」
その発令のタイミングの秘密は、混沌王以外には誰にも判らない。
全ての状況を読み込んだ安全マージンゼロの発令だった。
・・・騎馬に乗り疾走し、剣を交えて敵と馳せ違う。
この機体の諸元は、装備の兵器類まで含めて、全て頭の中に入っている。
今までの稼働データも、全て観察しきっていた。
愛馬の全てを知るのと同じ事だ。
対一の激突を、何度やった事か、失敗すれば己の首がとぶ!
しかしこの瞬間に、己の肝を心底冷えさせたのは、オゴデイ王子ただ一人だった。
他の人間は混沌王を信頼しきっていた。
・・・・・・・・・
「行け行け!タッチアンドゴーだ!爆弾をばらまいたら、爆発に巻き込まれないように逃げろよ!混沌王号を中身諸共、ボロボロにしちまえ!王の首を取るのはそのあとでいい!」
曙号は地上に着陸したばかりの混沌王機を目がけて急降下をした。
この距離ならバリア毎、混沌王機を破壊できる、爆発による巻き込まれからも待避できる、と感じた瞬間、マテウス・シャビエルは爆弾投下のボタンに指をかけようとした。
その時だった。
混沌王機の上部中央の表面が開いたのは。
やられた!と思った瞬間には、ミサイルの弾頭がせり上がってくるのが見えた。
もう逃げられない!
次に大きな衝撃がマテウス・シャビエルの身体を直撃した。
機体が一回転したのかも知れない。
警報が鳴り響いている。
ミサイルを受けたのだと思ったが、身体はまだ大丈夫のようだと思い、マテウスは固く瞑った目を開けた。
周りを見たが、司令室はまだあった。
隣にいる甥は目を開けて、今も操縦桿を握っている。
今度は機体の状況を示すパネルを見た。
右舷端の部分が真っ赤だった。確かに損傷は受けているのだ。
だがあれだけのミサイルの直撃を受けて、この程度で済んでいるのか?とシャビエルは不思議に思った。
「シャビエル。よくやったな、俺は諦めたんだぜ。」
後ろからゲナダの声が聞こえた。
『、、違う、やったのは俺じゃない。隣にいる、こいつだ。』
シャビエルの身体に、言いようのない震えが来た。
「二人とも寝ぼけたこと言ってないで!早く着陸するのよ!右のホバーエンジンが死にそうだわ。」
そう言われてシャビエルは機体状況表示パネルのモードを切り替えた。
レイチェルが言ったとおり、右舷のホバーエンジンエンジンから火の手が上がっている。
「頼む瑠偉!今すぐ着陸させてくれ。俺には出来ん!」
シャビエルはそう、「見知らぬ甥」に嘆願した。
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