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第6章 魁けでの戦い

71: 瑠偉とマテウス

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「俺達は未知の外界を、このスピードで移動してるんだぞ。すげえのはこいつさ。」
 シャビエルはそう言って、自慢げに自分の隣で操縦桿を握っている甥の瑠偉を見た。
 だが当の瑠偉は、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべている。
 そんな瑠偉の様子を見ながら、ゲナダは少し前にシャビエルと交わした会話を思い出した。

「甥の瑠偉はな、外界とかバイオロイドとかが嫌いなんだよ。瑠偉の目には、そういうモノが汚染された異物に見えるらしい。ガチガチのヒューマンロード主義者なんだよ。あの声だってバイオアップで治せたんだ、それさえ拒んでる。ところが俺はなんでもありなサルベージマンだろ。」
 半分は自嘲気味に、しかしそれが良いんだという口調でシャビエルは言った。

「、、、瑠偉の母親は、奴のそういう極端な所が気にかかるらしくて、俺に何回か相談を持ちかけてたんだ。で俺は何回か無理矢理、瑠偉を外界に引っ張り出してやった。ビーグルも騙して、運転させてやったんだ。外界で俺が病気になった事にして、とにかく瑠偉が自分で運転せざるを得ないように仕組んでな。まあ荒療治だな。で、結果は吃驚したよ。瑠偉は地雷は勿論、外界の様々な危険を見事に回避してアクアリュウムに戻りやがった。隠れた才能というより、ああいう自分が怖くて嫌いなモノの存在を、本能的にビンビン感じるんだろうな。」

「その話からすると、あんた、又、甥っ子を騙してここに連れて来たんだろう?」
 ゲナダは楽しそうに言った。
 ゲナダが瑠偉のような人間の立場に共感を示すような事は金輪際無い。

「そうさ、瑠偉に、俺は抜き差しならない状況に追い込まれて、今度の仕事をお前と一緒に受けおわなきゃ殺されるんだって言ってやった。でも奴は平気な顔をしてやがった。だから、こう言ってやったのさ。俺が死んだら、お前は平気でも、お前の母親は悲しむだろうなって。」
「酷い野郎だな。」

 ゲナダはシャビエルが上手い手を使ったと思った。
 普段の瑠偉の様子を見ていても、母親に対する愛情は深そうな人間だなと思わせる面が多々あった、ようはマザコンだ。
 マザコンとヒューマンロード主義者とは心理学的な関係がありそうな気もしていたが、ゲナダはそれ以上考えなかった。

「俺が酷いだと?おいおい、そのお陰で、あんたらは助かったんだろうが。」
 ジャビエルが笑いながら言った。
「・・しかしあんた、この仕事よく引き受けたもんだな。確かに、こちらも金は弾んだが、生きてていくらだろうが、俺があんたみたいな男だったら、端からこんな仕事は引き受けねぇ。」
「、、この船だよ。こいつはサルベージマンにとっては、革命的な代物だ。コイツを動かすハウトゥーは俺と瑠偉で戴く。構造の勘所も瑠偉には頭に入れろって言ってある。瑠偉にはそれだけの頭があるからな。」
 この男は、この仕事で生きて帰れると判断しているのだと思った。

「そんな事なら、この計画が成功したら、アンタにこの機体が手にはいるように、上とかけやってやるよ。」
 曙号のリストアデータは、既にこの男に手渡してあるが、空中空母を個人の力でリストアはするのは相当難しい。
 やれたとしても数年かかる。
 第一、その前に、元になる機体を外界から引き上げねばならない。

「ホントか?」
「ああ、計画が終われば俺達には必要のない機体だからな、いずれ処理することになる。それにコイツの関係で、俺達に又、何かがあれば、アンタを頼ればいい。」
「そいつは良い。願ったり叶ったりだ。」
「だから必ず、俺達を混沌王の所まで連れて行ってくれ。」
「判った、まかしておけ。」

 レイチェルは、自分がこういう駆け引きをする部分を嫌っているのを知っていたが、ゲナダにしてみれば逆の思いもあった。
 自分は相手の欲望につけ込んで相手を取り込んでいくが、レイチェル達はそれを欲望ではなく「思想」に置き換えているだけなのだと。
 思想と欲望、人間にとって、どちらが果たして上なんだ?とゲナダは考えていた。


 
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