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第6章 魁けでの戦い
67: 時代の風
しおりを挟むタイソウは、旧ゲヘナのゲイ・タウンだ。
ゲヘナには、ゲイスポットとして有名なブライトンがあるが、ブライトンがゲイにとっての繁華街であるならば、タイソウはゲイにとってのベッドタウンと言えた。
今、シャーロットとカリニテは、タイソウの中にあって隠れ家的なバーで飲んでいた。
二人の再会は、シャーロットが葛星の捜索範囲をゲヘナにまで広げた時点で、偶然になされていた。
「ブライトンってなんとなく、きな臭くなってない?色々聞き回ってたら、昔はこんなんじゃなかったって人が多いわ。」
「そうだな。クン・バイヤーもなんとなく、その辺りは予見してたようだ。儂らのような人間への風当たりは、その時々の政治リーダーの方向性によって、随分変わるものなんだ。あ、いや別に、混沌王が差別主義者ってわけじゃない。それについていく、大衆が造り出すムードというかな、そんなものだ。」
「よく判らないな。私の目からは、悔しいけど、混沌王の方がキングなんかよりずっとましな政治をしてると思うんだけど。」
「儂はメイドインゲヘナのマシンマンだから、アクアリュウムの内情はよく知らない。」
マシンマンの性能は、アクアリュウムで調整された者と、ゲヘナで調整された者では、圧倒的に後者の方が高いと言われている。
周騎冥は、アクアリュウムで調整されたマシンマンだが、彼の高性能は李警備保障のバックアップがあったからと言えた。
「だからゲヘナに限って言うんだが、何となく、儂らへの風当たりが代わり始めたのは、外界への開拓方針が具体的なものになった頃からだと思う 。みんなはそれで活気づいている。視線が外向きになっているんだ、過剰なくらいにな。それで今まで内へ向けられていた、細やかな視線の価値が薄れてきてる。何々の目的達成の為には、多少の犠牲はやむを得ないというような考え方が幅を利かすようになって来てるのさ。儂らの世界は、そういうモノとはあまり相性が良くないんだよ。」
「ふーん、、、ゲヘナでも、そうなんだ。でもなんで、そんな事を気にするかな?ジュニアもそうだったけど、そんなの全然、取るに足りない事だと思うけど。」
「それは、あんたが気持ちの良い女だからだよ。世の中の大抵の人間はそうじゃない。」
カリニテは目の前のグラスからウィスキーを少しだけ口に流し込んで間をとってから、話を続けた。
「葛星に似た男を見たという話は、チラホラと聞く。その内の幾つかは、この儂が直接確かめてみたが、全部空振りだった。」
「私が、そっちを確かめてみようかしら、、。」
「止めておくんだな。あんたが今やってる事の方が、葛星を見つける確率がはるかに高い。それに儂には、今あんたがやってる事の代わりは出来ない。儂はあんた程、色っぽくないからな。」
「、、ありがとう、カリニテ。」
シャーロットが、カウンターの上に置かれたカリニテの丸太のような腕をやさしく撫でた。
「でもどうして、私に付き合ってくれるの?」
「葛星に、お前達を守れと言われて、儂には出来なかった、、それの負い目かな。」
「でもあれは、葛星の電子的な介入操作だったんでしょう?人間としてのあなたが、その命令を受けたわけじゃない。それにそれを命令した葛星自体が、行方不明だわ。」
「、、、一概には、そうとは言い切れないな。ちょうどあの時は、クンとの関係が色々な意味で一杯一杯だった。その時、葛星の命令が来た。機械の方の儂は、いとも簡単に、それに従ったが、人間の儂はそれを防ぐことも出来たんだよ。が、なんというのだろう、、儂はその時、これは、クンとは距離を置いて今までの流れを変えて見る良いチャンスではないかと一瞬、思ったのさ。そうしたら、あっという間に機械の心に飲み込まれた。この心変わりの様は、マシンマンでなければ判らないだろうな。」
「私はマシンマンじゃないから、その辺りのシステム上の事は判らないけど、女として、あなたがクンに抱いていた気持ちは判るわ。好いた相手でも、そういう時期ってあるし。、、、でも私の場合、葛星とは、始まってもいないの。」
「わかるよ。それもあって、手伝っている。それに葛星は悪い男ではなかった。あの命令は必ずしも一方向的なものではないんだよ。あの時のああいうやり方だと、こちらからも、相手が見えるんだ。葛星本人は判っていなかったようだが、命令を送ってくる側の心の姿が丸見えになるんだよ。あの時、葛星には二つの心があった。一つは後から作られたもののようだ。好ましいものではなかったが、もう一つの方の心の美しさが、際だっていた。」
「、、、、、。もし、葛星が再生を果たしているのなら、どっちの心になっているのかしら?」
「その答えには、ならないが、こんな事は考えられんか?葛星が完全に儂らの前から姿を消したのは、儂らに迷惑をかけん為だとな。葛星は、混沌王と浅からぬ因縁があって、その混沌王は、今やアクアゲヘナの王なのだ。葛星が姿を消した理由は、それだろう。」
「考えられなくはないわね。彼はずっと昔から、そうだったし。」
シャーロットの表情が一瞬、清々しくなった。
しかし彼女の部屋には未だに、鎧に覆われた葛星の片腕がある。
そしてその片腕は、どう見ても生きているのである。
シャーロットは、その腕がある限り、自分は一生、葛星の事を探し続けるだろうと思っていた。
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