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第5章 混沌王の創世
62: 疑似親子
しおりを挟む「なるほど、さっきの混沌王はまるで子どものような表情を浮かべていましたね。」
「だろ、、。私にすれば、混沌王は自分の子どものようなものだ。王を見つけたとき、彼は混乱していた。最初は記憶喪失気味だったかな。異世界にたった一人で放り出されたのだ当たり前だろう。我々はそんな王を面倒見ることにした。特別な意味はない。ただそうすべきだと思ったからだ。その辺りの事情は、あんたと同じだろう、レイニィアレン。」
「ダンクの事ですか、、よく知っていますね。」
「、、当然だろう。あんたを王にあてたのは私だからな。あんた達の事は詳しく調べたよ、それにチャリオットからも良く話を聞いていた。いや、どちらかというとチャリオットの話が一番大きかったかも知れないな。」
「語り部を望んだのは、混沌王ではなかったと?」
「そうじゃない。望んだのは王だ。ただ私はその要望を受けたとき、それにはどんな人間が良いのか、考えたんだ。であんたを選び、推挙した。王も今までのあんたの経緯を知って、それを深く納得したようだった。」
自分が混沌王の語り部となった経緯には、そんな事があったのだと、アレンは少し驚いていた。
「だから私は君に、多少の負い目を感じ続けて来た。まあ普通なら、こんな風に喋るほどの負い目ではないがね。人によればあんたの境遇を羨ましく思う者もいるだろう。ただ、あんたが最近酷い目にあったのを聞いた、、事情を少し調べさせて貰ったが,、、あんた、別府イルマの死が堪えただろう?」
「、、その事は、思い出したくない。」
「そういう訳には、いかないんだよ。あんた自身の事も心配だが、そんなあんたが王の側にいるという事も心配だからな。」
「意味が判りませんね。」
「だろうな、、だが聞いてくれ。私は以前、王からこんな話を聞いたことがある。前の世界での出来事らしいが、勇猛・残虐でならした将軍の話だ。殺し尽くすその戦術に誰もが恐れをなしたそうだが、この将軍がある日、征服した都市の中を、モノケロース、一角獣に乗って移動していた時、道で苦しんでいる少女に出会ったそうだ。で、どうしたのだ?とその将軍が、少女に近づいて声を掛けた。その瞬間に、少女は隠し持っていた短剣を将軍の鎧帷子の隙間に突き入れた。短剣には猛毒が塗ってあって将軍は絶命したそうだ。」
「、、、。」
「私は話をきかされた時、片時も油断するなという教訓の意味で、王がその話を持ち出したのだと思ったのだが、そうじゃなっかたようだ。」
ネロは少し遠い目をした。
「将軍は戦に出れば、幾らでも人を殺す。だだ将軍は殺人を楽しむ殺人鬼ではない。戦がなければ道で苦しんでいる者、ましてや年端もいかぬ少女なら、声をかけるのは当たり前の事だ。混沌王はその差自体に、酷く拘っていたようだ。一人の人間には様々な顔があるという事だな。結果、その将軍は命を落としている。私はこの話の結末を愚かと考えている訳ではない、と混沌王は言った。その時、私は、この男の何かに触れたような気がしたよ。」
「それと私の件が何か関係すると?」
「あんたを救った女性の行為は、その将軍の行為と同じような気もする。どこかでな。それとバイオロイドの本当の気持ちだ。私はあんたが知ってるように、長いあいだ、アクアリュウムに工作員としてかかわり続けていた。だから二つの視点で、人間のバイオロイドに対する価値観がどんなものかを知っている。単純に、ゲヘナが正しくて、アクアリュウムが間違っているという話ではないんだ。私とおなじような仕事をしていたイルマも充分それを知っていた筈だ。」
アレンは、別府が一度、バイオロイドとは湖の上に浮かぶ小舟のようなものだと言っていたのを思い出した。
ゲヘナのバイオロイドに対する意識は水のようで、バイオロイドはそこに浮かんでいられる。
アクアリュウムの湖は、熱さで水が干からびていて、船は湖底に埋もれている。
だが湖が凍れば、バイオロイドは船を捨てて、陸続きになった地面に歩き出せるのだと。
そして「水」は、様々に変化するのだと言った。
「彼女の事を知ってるのですか!?」
考えてみればネロが別府イルマのことを知らないはずはなかった。
だがネロはその問いには反応しなかった。
「そんな彼女が任務で、あんたに出会った。あんた、何か、バイオロイドの事についてイルマに喋らなかったか?、、それは結果から見ると、イルマにとって悪い言いようではなかった筈だ。イルマの心が乱れるとすれば、それだと私は思う、、彼女はさっきの将軍と同じさ。任務となれば人など簡単に殺す。だがそういう所から、外れてしまう瞬間が思いもかけない時にある。そして混沌王は、それを油断などという簡単な言葉では片付けてはいない。それどころか、とても重要な事だと思っているようだ。もちろん、単純にそれが正しくて大切な事だとも思っていないようだがな。」
「、、、なんとなく判るような,,気もします。俺はバイオロイドの事を彼女に喋った事がありますし、常に彼女の事をバイオロイドだと意識してました。でもそれなら逆に、なぜ彼女が俺を助けたのか、理解できません。」
「判らなくて当然だろう?思い上がるな。人の心の奥深くなど他人が判ったなどと考える方が不遜という事だ。だが考え続けるのは大切だぞ、、、少なくともイルマの事は、そうしてやってくれ。イルマは君を助けようとしたんだ。あんたがイルマの事を考え続ける事が、彼女の供養になると私は思っている。」
「、、、、判りました。なんだか今、私はあなたに混沌王並みの魔法にかけられた気がします。この件については、混沌王の魔法ですら効き目はないと思っていましたが、、。」
「魔法か、、好きではない言葉だな。この際だ、あんたに一つ教えておいてやろう。確かに混沌王には魔法と呼んでよいような人の心を操る力がある。だがその魔法にかからない人間もいるんだ。クン・バイヤーの奴がそうだった。実を言うと、この私もそうだ。、、あんたの知っているチャリオットは魔法にかかっていた。その結果、チャリオットはキングの息子を殺害して、アクアリュウムとゲヘナの衝突を、アクアリュウム側から起こさせる案を考え出した。アクアリュウムの戦力をゲヘナ側に引き込む事によって、無駄な地上での戦闘行為を軽減させると共に、アクアリュウム人に生まれるかも知れない『ゲヘナからの一方的な侵略行為』という思いこみを軽減できるいう目論見を含めてな。本人はそれを自分で考えたと思っている、だからこれは娘の復讐ではないと、ゲヘナ・アクアリュウムの為だとね、でも違うんだよ。だがな、誤解のないように補足しておく、チャリオットは、この私と同じで、魔法にかかっていなくても王を支持していた筈だ。」
チャリオットと混沌王の関係は、大体が予想していた通りだった。
アレンがショックを受けたのは、混沌王の魔法にかからない人間の存在だった。
「魔法にかからない人間がいる、、。」
「その理由を考える事だ。そして、その向こうにある、もう一つの答えもな。それが私があんたを、混沌王の側にいる人間として推挙した理由だよ。」
その時、混沌王が彼らの元に返ってきた。
「随分、早かったな。」
「刺激的な話が聞けました。聞いているうちに、新しいアイデアが浮かんできましたよ。で短い時間でこの件を終わらせるのは、とても無理だと判断しました。彼らとはいずれ正式な会合を設けます。」
「それは良いことだ。アストラル・コアの連中も、それを栄誉に思うだろう。」
「では、いずれ。」
混沌王が、そう言って、話を切り上げようとした。
「ああそれと混沌王よ、私はあの話をレイニィ・アレンにしてしまったぞ。」
「あの話とは?」
歩き出そうとした混沌王の脚が止まった。
「レイニィアレンの再生が、彼に仕込んでおいた細胞では追いつかず、死にそうだったのを、王が軍立病院に圧力をかけて、無理矢理、生き返らせた悪行についてだよ。」
アレンは又、衝撃を受けた。
アレンの捨て身の復讐方法では、アレンは本当に死んでいた可能性が大きかったのだ。
そしてそれを、この混沌王が救った。
「そうですか、アレン君には黙っていようと思ったのですがね、只でさえ恨まれていますから。これで又、私の伝記の悪口部分が又、増えそうだ。」
「悪く思うな。私はそういう事を、又やるぞ。」
ネロは楽しげに、背を向けた混沌王へ言葉をかけた。
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