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第5章 混沌王の創世
51: 別れと始まり
しおりを挟む混沌王は、暫くの間、剣を片手にぶら下げたまま、己の胸の中の何かを確かめるように屋上に佇んでいたが、やがて屋内への出入り口に向かって歩き始めた。
アレンはその姿を見送ると、急いでレイチェルとシャーロットをクレーンから屋上に下ろした。
アレンが彼女たちの戒めを解いた瞬間、レイチェルはアレンにしがみつき、シャーロットは葛星が落とされた付近に向かって走り出した。
震えるレイチェルの身体を胸に抱きながら、アレンはシャーロットの後ろ姿を見ているしかなかった。
シャーロットは地上に突き落とされた葛星の安否を確かめようと屋上の縁に向かったのだろうが、ビッグマウンテンのこの高さから地上に墜ちた人体が見える筈がなかったし、その生死を確認する意味もない筈だった。
さすがの鎧の蘇生機能も今度ばかりはその機能が及ばないだろうし、第一、鎧は既に大きく損傷している。
アレンの胸に、友を失ったという喪失感がじわじわと忍び寄って来た。
「、、シャーロットと一緒に囚われていて判ったの。私、勘違いしてた。彼女は本気で葛星を愛していたわ。」
「、、ああ、葛星もな、、奴は女性の愛し方を知らなかったが、その愛に応える事は知っていた。充分すぎるくらいに。だからここに迷わず来たんだ。」
そのシャーロットは、屋上の縁からフラフラと立ち上がると、今度は葛星の切り落とされた腕が転がっている方に歩き出した。
「シャーロット!!その腕に触るんじゃない!!鎧の刃が立っている!切れるぞ!」
葛星の鎧は、ありとあらゆるものを切断する。
人間の皮膚など触るだけでひとたまりもない。
だがシャーロットは葛星の腕が転がっている屋上の地面に屈み込んだ。
アレンは急いでシャーロットに走り寄る。
レイチェルがその後を追う。
アレンとレイチェルがシャーロットの側まで行った時、シャーロットは既にその胸に葛星の腕を抱えていた。
「、、大丈夫。刃は立っていなかったし、、それにこの切断面を見て、、。」
レイチェルはそう言って、アレン達の方に葛星の腕の切断面を見せた。
そこはゼリー状の半透明な物質で覆われいた。
「、、こんなになっても、まだ鎧の機能が生きてるのか?」
アレンは驚き、葛星生存の可能性を一瞬考えたが、腕部分は切り落とされ、この地面に転がっただけだが、本体は背中に大穴を開けられ、地上にたたき落とされている。
今までの葛星の再生は、鎧が行った。
だが今度は、その鎧自体が大きく損なわれている。
三人は暫くの間、何かを確認しようとお互いの顔を見つめ合っていた。
「俺はこれから混沌王の元にいく。別に仇をとろうなんて考えてない。さっきのは見事な果たし合いだったからね。、、、俺は、この世界の行く末を見てみたいんだ。君たちは、どうする?どうやら混沌王は、君たちには興味がないようだ。つまり安全だって事だ。」
「、、、私は葛星を探しにいくわ。」
シャーロットは鎧の表面を撫でながらいった。
「、、そうか。でも地上は暫くの間、物騒だぞ、気を付ける事だ。」
「あなた、私をバカにしてるの?暫く見ない間に、ちょっとはたくましくなったみたいだけど、まだまだね。」
相変わらずきつい言葉だっが、シャーロットは口調に反して優しく微笑みながらそう言った。
「私は残った仲間達と合流する。やる事があるの。」
レイチェルはアレンの手を軽く握ってそういった。
アレンは、レイチェルの口から『あなたに付いていく』という言葉が出ることを少しは期待していたが、反面、彼女がそんな女性ではないこともよく理解していた。
「ああ判った。じゃみんな、又、どこかで会おう。元気でな。」
シャーロットが左腕で葛星の腕を抱き、残った腕の拳を握りしめて、二人の前につきだした。
アレンとレイチェルはその拳に、自分たちの拳をつき合わせた。
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