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第4章 異世界で相まみえる二人の王子
48: 光の壁、突入
しおりを挟む光の壁に突き進んでいくキリンの後ろ姿が小さくなっていく。
「良い奴らだったよな、、子どもの頃は、宇宙人と言えば地球を侵略する奴らばかりだと思ってたけどな、、。」
アレンはしみじみとした口調で言った。
「まだわからんだろ。例えばあの光の壁の向こうに、彼らの求めている何かがあったとして、それを自分の星に帰るためにだけ使うとは限っちゃいない。宇宙戦争ってのもある。それに俺が思ってる一番の可能性は、彼らがやっぱり自分を宇宙人だと思いこんでる逝かれ野郎で、光の壁に激突して、その途端に大爆発って奴だ、、。」
「宇宙人、宇宙人って、、なぁダンク。区別し過ぎじゃないのか?物事ってのは人間の顔がそれぞれ違うように、全て異なってるんじゃないか?違っていて当たり前なんだよ。違いが全てを生み出すんだと思うぜ。もちろん、いい事ばかりじゃなく、憎しみとか戦いとか多くの悲劇もだけどね。お互いが違う事を、上手く受け入れて処理する事が出来れば、世界は今よりもっとマシになるさ。だからさ、違う者同士が、お互いの中に、同じ所を見つけるのが、とても大切で大事な事になってくる。俺は最近そう思えるようになってきた。」
「、、俺は、そんな事を考えられるお前に拾って貰った事を感謝してる。だがヤッパリ、宇宙人は別だ。お前がいうような価値観が共有出来ると信じる根拠がない。」
「それにしちゃ、俺達の車を彼らに近づけすぎじゃないのかい?ただの見送りにしちゃ、この距離、安全マージンがギリギリだぜ。いざという時はダッシュで助けたいんだろ?それとも離れがたいのかい?さすがのダンクもこの4日間で奴らに情が移ったとか?」
笑ってそう言ったアレンだったが、緊張してキリンの行く末を見守っている弾駆の横顔を見て、ふとある事に気付いた。
「、、ひょっとしてお前、彼らが成功しかけたら、一緒についていくつもりじゃないだろうな!?」
「あたりだ。お前だって、最後はこうなる事を最初から考えてたんだろう、、もうそろそろ鎧を着るタイミングだな。アレン、キリンが突入に失敗したら全速で逃げろ。幸い、このビーグルはスポーツ仕様だから、逃げ足だけは速い。言っとく、何が起こっても躊躇うなよ。」
葛星はそう言い残して、助手席に座っているアレンの肩を叩くと、鎧が置いてある後部スペースに移動した。
アレンは言葉を繋げる事が出来なかった。
帰ってきた弾駆と少しでも一緒にいて、少しでも生を楽しもうとした選択の結果がコレだった。
光の壁に、宇宙人との外界冒険、、。
こうなる事は、考えてみれば当たり前の結果だった。
葛星が最後にどういう決断をするかも半分以上判っていた。
けれどアレンは心の何処かで葛星が残ってくれるのではないかと思っていた。
帰ってきた弾駆が、昔の弾駆に戻っていたから、自分との友情に、これからの事をかけてみる気持ちがあったのだ。
駄目だ。自分の気持ちに正直なれ。行かないでくれと、泣いて頼もう。
アレンがそう声をかける為に、後ろを振り返るまで数秒もかからなかった筈だ。
だが遅かった。
その時にはもう、葛星の鎧がキリンの後を追いかけていた。
蝙蝠のような羽を広げながら荒れた地表を、走るように飛ぶように移動する後ろ姿がフロントガラス越しに見えた。
そして鎧がキリンに追いつく前に、斜め前につきだしたキリンの鼻先が光の壁に接触した。
普通なら、この瞬間にエネルギーの大奔流が起こり、尋常でない大爆発を起こす筈だった。
だがキリンは光の壁に接触した途端、その機体の周囲に紫色の光を発生させながら、スルリと壁を通過しはじめたのだ。
キリンの身体が前半分、光の壁に消えたとき、弾駆の鎧がキリンの尻尾から数メートルの位置まで迫っていた。
「いけ!ダンク!もうすぐだ!」
だが必死のアレンの叫びもむなしく、すっぽりと光の壁を突き抜けたキリンに対して、弾駆はその身体を弾き飛ばされてしまっていた。
せめてもの幸いと言えたのは、光の壁は弾駆との接触に対して反応を起こさなかったという事だった。
それが鎧を着た弾駆だったからなのか。それとも弾駆がキリンを迎え入れた光の壁に突入したからからなのは判らなかったが、とにかく弾駆は「弾き飛ばされる」だけですんだのだ。
勿論、遠目にはそうだが、当の弾駆には大ダメージの筈だった。
アレンは操縦系統を助手席に切り替えると、アクセルを床を踏み抜くばかりに踏み込んだ。
「待ってろ、ダンク、死ぬなよ。今、俺が助けてやる、!」
・・あの時と同じ衝撃が来た。
馬のようなものに乗っていたような気がする。
身体が空中をクルクルと回転しながら飛んでいた。
馬も同じように大地に弾き飛ばされたのだろう。
通常の地震ではない。
星全体が身震いしたような、強すぎる地震だった。
それが感じられなくなったとき、葛星は、全ての記憶を失って、光の壁の側で倒れていたのだ。
自分と同じように、あの地震を受け止めた人間がもう一人。
そうだ、そいつが自分の直ぐ側にいたような気がする。
それが自分にとってとても重要な事のような気もしたが、葛星はそれ以上、思考を続ける事は出来なかった。
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