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第4章 異世界で相まみえる二人の王子
45: 宇宙人の仕事依頼
しおりを挟むアレン、葛星、二人揃っての久しぶりのケーブだった。
「帰って来てくれたのか?」
アレンはぐずぐずと泣いていた。
「泣くな。俺はお前が思ってるようなセンチメンタルな理由で、ここに返って来たわけじゃない。」
「でも、俺を助けてくれたじゃないか?」
そんなアレンの問いかけに、葛星はどう答えようかと迷ったようだ。
アレンを切り捨てるような言い方はしたくない、、つまりそれは葛星の性格が以前のものに戻って来つつある現れでもあった。
「俺は、あの時、光の壁の向こうに行こうとしたんだ。今なら通れる、そんな気がしていたんだ。呼ばれた、だから行った、そんな感じだった。」
・・ダンクは、呼ばれて行ったと言った。あの時、ダンクは鎧の中で、又、何かに生まれ変わって、そしてその生まれたままの姿で光の壁に行ったのだ。
アレンはそういう場面を想像した。
だがアレンはその感想を口にしなかった。
「、、あの時、光の壁が膨れたからな。ゲヘナの連中は、どうにかあの壁に干渉する方法を見つけ出していたんだ。」
「だが結局、俺は弾き返された。ひょっとして、向こうに行くには、まだ鎧や蜘蛛が必要なのかと思ったんだ。だからクルーザーに引き返した。」
「でもそこには、もう俺達はいなかった。」
「、、、、そうだ。だから俺は鎧を取り戻そうと、このアクアリュウムに戻ろうとしたんだ。」
「あそこから、裸で何もナシで歩いてか!?」
「そうだ。で途中で見つけたのは、戦場の跡と壊れた俺達の車だけだった。だがなんとかシャーロットは見つけ出した。」
「そうかシャーロットは無事だったんだな!?じゃ、カリニテの爺は?」
「奴は行方不明のままだ。だがアクアリウムに帰って来て、キングの所から鎧を奪還するために色々と嗅ぎ回ってみたが、奴がキングの手に落ちたって話はないし、どうやらお前の様子ではゲヘナに囚われてるって感じもなさそうだな。」
「あのじいさんタフだからな、、、で、ダンク、キングの所から一人であの鎧を取り返したのか?」
やはりあの戦車軍同士の戦闘の後、アクアリュウム軍はアレン達のクルーザーから、どうにか鎧を回収していたのだ。
「ああ、昔のママス&パパスじゃ無理だったろうがな、今は勝ち目のない戦争でガタガタだ。それにシャーロットの手引きもあったしな。それが大きかった。」
「あの裏切り女、又、キングを裏切ったのか、、。」
「その裏切りのお陰で、お前は助かったんだぞ。彼女が、お前がゲヘナに囚われていることを教えてくれた。俺がお前を助けたのは、彼女に頼まれたからだ。」
それは嘘だ、とアレンは思った。
弾駆が照れ隠しでそういっているだけだと。
第一、シャーロットが弾駆を危険な場所に行かせる訳がない。
それにしても弾駆が昔の弾駆に戻っているのが不思議だった。
よく見ると、その表情さえ、アレンと弾駆が昔、臨月ストリートで一緒に無茶をしていた頃のものに近い。
あの鎧の中で行われる回復・蘇生は、一直線に、弾駆が記憶を失う前の昔、あるいは全く別の者にするものではないのだと思った。
だから弾駆が、混沌王と出会った時も、あの程度の反応で終わったのだろう。
そしてアレンは、『ひょっとして』と思って、弾駆に聞いた。
「あの蜘蛛はどうした?」
「キングの所では見つけられなかった。なに、アイツは猫みたいなもんだからな、移り気なんだよ。それにあいつもカリニテと同じで、そう簡単にやれれるとは思えない。その内、ひょっこり姿を見せるんじゃないか?」
鎧じゃなくて、蜘蛛だ。
弾駆の記憶回復の鍵になっているのは、あの大蜘蛛なんだとアレンは気付いた。
大蜘蛛の本来の機能は何なのか判らないが、あれが活動的に動いていない時、あるいは葛星から遠く離れている時には、葛星は安定している。
いや、安定と言うより、アレンが安心してつきあえる人格の葛星である事が多いのだ。
・・・・・・・・・
「おいおい、良く喰うな、、前はガキが喰うようなスナックと炭酸飲料で充分だった筈だよな。監禁中に何かされたか?」
弾駆は、夕食に冷凍した人造肉を3人前ほど解凍調理したものを平らげているアレンを見ていった。
「腹が減ってるんだよ。好みが変わったんだ。さすがに閉じこめられていた時には、スナックは出てこなかったし、、リクエストはしたんだけどな、、。」
もちろんアレンには、その理由は判っていた。
混沌王は本当にアレンをデイウォーカーに変えていたのだ。
自分でも沢山肉を食わないと身体が持たないのが判るのだ。
「でもダンク、なんでお前は、普通の食事量でそれだけの身体能力を維持できるんだろうな?」
「普通に考えて、俺の身体の秘密は俺の過去にある、、って事だろうが、今はそんなに焦っちゃいないよ。」
「なんだかダンクは、又、変わってきたな。」
「勘違いするなよ。自分探しを諦めた訳じゃない。ただ、最近、何をしても結局俺は俺なんだって思えるようになっただけさ。、、、ん?なんでも屋の方の着信音だぜ。」
「驚いたな、世間がこんな時に俺達に仕事かよ。」
昔のアレンは聴力においてもまったく弾駆に敵わなかったが、今は隣の部屋にあるコミューターの着信音が聞こえている。
アレンは、不承不承という感じで、ナイフとフォークを皿の上に置いた。
交渉は昔からアレンの担当だ。
「、、、判ってるよな、、アレン。それに俺は何時までも、此処にはいないぜ。」
弾駆が立ち上がりかけたアレンに念を押した。
厄介な仕事は受けるなという事だった。
「判ってるさ。俺だってバカじゃない。」
アクアリュウムの世界はまだ平静を保っているように装っていたが、それは表面の話だ。
人々は、いつ地下世界の人間達が地上を侵略する為に這い上がってくるのかと恐れおののいていた。
もちろん実体はそんなものではないが、ママス&パパスの情報操作の結果はそうなっていた。
ゲヘナを悪役にすることには成功しても、アクアリウムのゲヘナ侵攻が上手く行っていないことは隠し切れていなかったのだ。
それに宣戦布告当時には、何度もメディアに登場したキングの姿が今は殆ど見受ける事が出来ない。
鎧を手に入れた弾駆が、光の壁行きを直ぐに再開しないのは、この世界の成り行きを見届けたいという思いもあったようだ。
「どうだった?」
「面白い依頼だった。」
「面白い依頼?お前、まさか又、性懲りもなく仕事を引き受けたんじゃないだろうな!?」
弾駆は目眩がすると言った表情で、アレンに聞いた。
だがやっている事は昔と同じでも、そこにいる今のアレンは、只の偽バンパイアではない。
弾駆の手前、度数のない伊達眼鏡をかけているが、その奥にある目は、以前のような気弱さがない。
「だって依頼者は、宇宙で遭難して地球に不時着した異星人なんだぜ。受けるしかないだろ。」
アレンは余裕の表情で応えた。
「正気か、お前、、。」
弾駆はぽかんとした表情を浮かべてアレンの顔を見つめた。
「こっちで宇宙船の修理をやったそうなんだが、どうしてもあるパーツが手に入らないらしい。ロストワールドのサルベージ品にも当たってみたが無理だったそうだ。で散々、調べ上げて、最後に行き着いたのが、光の壁みたいなんだな。そんなこんなで、俺達にガイド役を頼んできた。」
光の壁へのガイド役、これが一昔前なら話にもならないハイリスクの依頼だったろう。
だが戦時下の今だと状況は逆になっている。
外界自体の持つ危険性を割り引けば、むしろ外界の方が安全と言えた。
それにこの依頼は、再び鎧を手に入れた葛星にすれば、アレンとの諍いもなく、もう一度光の壁に近づく事の出来る絶好のチャンスとも言えた。
もしかすると、アレンはそこまで考えて、自分が犯してきた過去の愚をもう一繰り返すつもりになっていたのかも知れない。
「・・・確かに俺達が絡んでた光の壁近くのドンパチは、アクアリュウムでも話題になってたからな。そんな用件なら、俺達に話が回ってきてもおかしくはないだろう、、だが宇宙人なんて、気は確か?」
「どうしてそんなに疑うんだ、ダンク?考えてもみろよ。この世界には、人造人間のビニィがうじゃうじゃいて、俺達は、そのビニィハンターなんだぞ。それに自分が宇宙人だと思いこんでる人間が依頼者だったら駄目って事はないだろう。狂った奴なら、それこそうじゃうじゃいるじゃないか。ガイド料は前金で半分払うって言ってるんだぞ。」
「又、半金かよ。それで宇宙人が金を払うってか?何故、地球の金を持ってる?偽金か?それとも強盗でもしかか?」
「話だと、トルクワン通りで、カナップ料理の店を開いて資金を稼いだらしいぜ。」
「トルクワン通りは知ってるが、カナップ料理なんて初めて聞いたぞ、、。」
「俺もだよ、、でもあそこじゃ、見たことも聞いたこともない外国料理レストランが山ほどあるじゃないか。」
「宇宙人が地球に紛れ込んでレストラン開いてんのか、、?」
「そうだよ。そう言ってた。」
「、、ガイドって、どうやるんだ?もう車はなくなっちまったんだぞ?歩いて行って良いのか?それともそいつらの移動手段が、ビーグルだったら、俺達がそのビーグルに同乗するのか?」
「彼らは自前のビーグルで行くそうだ。でも同乗は嫌がってる。俺達には、別の車で先導して欲しいそうだ。光の壁まで行ったら別行動になる、、私達を待ってくれるなら別だが、それが何時になるかは判らないとも言ってた。帰りは同じ道を通るから自分達だけでも大丈夫だと言ってたな。こっちは、高望みをしなけりゃ、前金でそこそこのビーグルは調達できるし、それでも少しは余る。後金は全部儲けだよ。」
「ふん、随分、恥ずかしがり屋で、人間的な知恵の回る宇宙人だな。そして、どこかの人の良いおっさんみたいでもある。それでもそいつらは、宇宙人なのか?えっアレン?」
「だって同じ受けるなら、依頼人が宇宙人の方が面白いだろ?」
「お前って、、奴は、、」
最初は小声で、最後は大声で、二人はお互いがつられるように笑いあっていた。
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