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第4章 異世界で相まみえる二人の王子
42: 追っ手
しおりを挟む「アレン!大変だ!」
アレン達と同じように、クルーザーの窓から外界の景観を見つめて感傷に浸っていたように見えたカリニテが突然怒鳴った。
「何だ、びっくり、、、」
「あれは、アクアリュウムの地上軍だろ!戦車が五台、、まさかあんたらを追いかけて来たのか!」
アレンの肉眼には、コックピットの右隅に、小さな黒い点が砂煙を上げながらこちらに進んで来るのが、五つ見えた。
「シャーロット、まさか君が呼んだのか?!」
「冗談は止してよ!」
シャーロットの顔が引きつっている。
アレン達がパニックを起こしかけたタイミングで、クルーザー近くの地面に、戦車の主砲から発射された第一の砲弾が地響きを起こしながら着弾した。
「外れたのかしら?わざと外したのかしら?」
シャーロットは操縦席の背もたれに、しがみつきながら言った。
「嬢ちゃん。良いね。肝が据わってる、良い根性をしてるぜ。」
カリニテがニカッと笑った途端に、二発目が来た。
今度はコックピットの前方に着弾し、フロントガラスに弾頭が巻き上げた土や小石がバラバラと降り落ちて来た。
「これで決まりだな。奴らは狙いを外してるんだ。儂はバイヤーの様子を見てくる。」
「ちょっと待ってくれ!あんた葛星から俺達を守れって命令されてるんじゃないのか!?」
アレンの声はまだ震えている。
「その葛星はもういない。それに儂が、葛星の制御下に置かれていたのは最初だけだ。あとは、、、儂のサービスだよ。」
「だったら、俺達も連れて行ってくれ!」
「いくら儂でもこの砲撃下で、あんたらを無事に運ぶのは無理だ。それにあんたらは、ここにいる方が安全かも知れないぞ」
「ば、馬鹿なこと言うな!」
「いちいち五月蝿いわねアレン!こうなったら覚悟を決めて!」
第三弾が来た。
今度はクルーザー全体が地面から浮いた。
その揺れが収まった時、シャーロットが操縦席に滑り込みクルーザーを始動させた。
カリニテの姿も消えていた。
「あの野郎、本当に行っちまいやがった。」
「彼氏が心配だったのよ!私だってそうするわ!アレン、横に座って!私、上手く操縦席出来ないかもよ!」
「馬鹿。今、動いたら直撃を喰らうぞ」
「馬鹿はあんたよ。3発とも当たらなかったでしょ。奴らに当てるつもりがないからよ!」
シャーロットは、アレンが副操縦席に付いたのを確認するとアクセルを踏み抜くように開けた。
クルーザーは前輪を浮かせて発進した。
数秒遅れてクルーザーの右側面の装甲当たりから、ガンガンという物凄い音がした。
「こっちが動き出したから、大砲では精密な砲撃が無理と見て機関砲に変えたのよ!」
「なんでそうだと、言い切れるんだ!?」
「わかってるでしょ。奴ら鎧を欲しがってるの!こっちのクルーザーが大破するような事はしないわ!」
「俺達の命は?君がいるだろう?」
「あんたって、本当のバカね!」
「なら、反撃する!」
アレンが引きつった声で言った。
「反撃?このクルーザーにそんなのあった?」
「見てろ!いや、こっち見ないで、真っ直ぐ車を走らせてろ!」
アレンはコンソールを素早く操作した。
シャーロットが疑問に感じたように、キープの残したクルーザーには、重火器類は搭載されていなかった。
基本的に外界に進出した人間同士には、細かなトラブルはあっても、それが大規模な戦闘行為レベルに発展する事はなかったからだ。
あるとすれば、アレン達が最初に遭遇した外界の生き物たちの攻撃だが、それに対する対処方法の基本は、「逃げる・避ける」だ。
ただ、キープは様々な想定をしていた。
クルーザーの天蓋の一部分が開いた。
そこから数十個の球形が、アクアリュウム軍戦車が展開している地点に向かって打ち上げれれた。
戦車の方は、いち早くそれを感知して、上空に向けて機関砲を掃射したようだが、クルーザーから打ち出されたモノは彼らが予想したどんなモノでもなかった。
戦車に向かってゆっくり落ちてくる球形の物体に対して、彼らが放った無数の銃弾の幾つかが届き、それを破壊したようだが、それらは爆発もせず、細かな球体に別れた。
しかも今度は落下せず、空中に浮遊している。
被弾しなかった他の砲弾らしき球形も、同じように分裂した。
「あれなに?」
シャーロットはリアビューモニターをちらりと見て言った。
「あれで空雷を地表に誘い込む。ただし無理矢理だから、でかい空雷は無理だ。それでも相当だぜ。」
「、、、期待しないで、待ってるわ。私の見たところ、あの戦車、ロストワールドの最新型に、外界での対応処置をあとから付け加えた車体みたいに見えるけど、。」
「んな事、やってみなくちゃ判らないだろ!てか、これしかない!」
アレンはシャーロットの憎たらしい反応に、腹立ち紛れに誘雷スイッチを押した。
その途端、周囲の空気が帯電した。
バリバリと轟音を立てながら、細長い雨のようにも見える無数の稲妻がアクアリュウムの戦車軍に向かって降り注いだ。
空雷が収まった後、しばしの静寂が訪れた。
停車させたクルーザーの中でアレンとシャーロットはリアビューモニターを食い入るように眺めた。
「、、、やったか、、。動かないみたいだな、、。」
確かに戦車群は停止したままだ。
「、、戦車の中で人間が黒こげになってるのを想像すると、ちょっと後悔するな。」
「黙ってて。」
シャーロットはエンジンの始動スィッチに指をかけ始めている。
「、、やっぱりダメだったみたいね。」
戦車群が突然動き始めたのと、シャーロットがエンジンをかけたのが、ほぼ同時だった。
クルーザーが、狂ったように走り出す。
シャーロットはもう地表の凹凸など迂回する気もないようだ。
飛び跳ねる運転席の中で、アレンがどなった。
「運転を俺に代われ!」
「あんたには、任せられない。私の方がましよ。あいつら、さっきの攻撃で本気になったみたいよ。それにあれに乗ってるのは、軍に組み込まれた李警備保障の人間じゃないかしら。あいつら、何故か、葛星に凄く執着してたから、もう鎧の事なんて、忘れてるかも!」
シャーロットがそう言った途端に、クルーザーの後部から今までにない強烈な衝撃が伝わって来て、クルーザーが止まった。
被弾したらしい。
相手が本気を出したという事だった。
アレンは、周騎冥の蟹のような顔を思い出した。
もしかしたらシャーロットの推理通り、あいつがいるのかも知れないとアレンは思った。
「、、爺さんのを、壊しちまった。、、、投降しよう。ちくしょう、考えたら、最初からそうしてれば良かったんだ。鎧なんか、どうでもいい。大事なのはダンクだけだったんだ。」
「泣きごと言わないで、攻撃してきたのは向こうよ。こっちは逃げるしかなかったんだから。それにまだチャンスはあるみたいよ。コレ見て。」
シャーロットが、望遠のフロントモニターを指さす。
そこには、砂塵を上げてこちらに向かってくる車群があった。
徐々に大きくなる車の形を見てアレンは、それがどこか最近見たものに似ていると思った。
迫ってくる車群は、大きさがまったく違ったがクン・バイヤーが乗っていたバイクの雰囲気を持っていた。
「、、、挟み撃ちにされたのか?」
「アクアリュウムは私達を追うのに、そこまで兵器を投入したりしないわ。この戦車の投入だって、他の思惑が入ってるのよ。今度来てる新しいのは、きっと他の所属よ。」
「他の所属?やっぱ、ゲヘナか!?」
「多分ね。」
「これからどうする?」
「私は、このまま、この棺桶の中にいるつもりは、ないわ。」
シャーロットは、操縦席から立ち上がった。
「この状況下で徒歩で逃げるのか!?鎧を置いてか?」
「それしか、ないでしょ!」
シャーロットがアレンに怒鳴り返した時、彼らのいるコックピットの上を何かが飛び去っていく轟音が聞こえた。
それはゲヘナ車群から、アクアリュウム戦車群に向けての第一砲撃だった。
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