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第3章 光の壁
41: 葛星の失踪
しおりを挟む「・・・さあ、今度は君たちの番だ。葛星の事を話してくれ。これは私の直感だが、彼は混沌王と深い関係があるはずだ。葛星の視点からも、混沌王の姿を読み解く必要がある。そうしなければ、混沌王の秘密はかえって深くなるだけだ。」
「そこだよ。そこなんだ!話してもいいが、あんたらは混沌王を知るために、なぜ葛星に拘るんだ?それを先に教えてくれ!」
それがアレンの一番の疑問だった。
「特に、あなたよ。革命のゴロツキさん。あなた、あの時、葛星の事をゲヘナから逃げ出したサルベージ品って言ったわよね。それって、どういう意味?」
シャーロットが物凄い目で、カーリを睨み付けながら言った。
「それは、私から答えよう。私もその話をカーリ君から聞いて、今回のこの会合を持とうと決心したんだよ。それにこれは彼が答えるより、私が答えた方が少しは信じてもらえそうだからね。」
クン・バイヤーが再び口を開いた。
「ちっ!偉そうに、、。」
カーリが舌打ちをする。
「カーリ君、君の調査能力には感心しているよ。君が得たその情報は、ゲヘナではトップシークレットだ。だが、その情報の真偽を判定できる力は、君にはないだろう?私は立場上、この話の真偽を判定できる場所にいた。実際には書面上だが、私もこの件に関わっていたからね。ただ君からその話を聞くまでは、その事と葛星君とは繋がらなかっただけだ。」
クン・バイヤーは何処までも紳士的な男だったようだ。
こんな場面でもカーリの立場を気遣っている。
「、、、どういう事なんだ?葛星は俺との付き合いの中で、自分がゲヘナにいたことがあるなんて、一言も言ってないぜ。それどころか、俺と一緒にゲヘナに行った時には、ゲヘナの光景に目を丸くしてた。」
「、、記憶喪失という事だろうね。彼が葛星という男として誕生したのは、君と出会ってからで、それまでの記憶は失われている。彼は一番最初、そう、時期としては混沌王が回収された頃だが、アクアリュウムのサルベージマンに、光の壁近くで倒れていたのを引き上げられているんだ。アクアリウムのサルベージマンは、こうした物件を、ゲヘナに持ち込む事があるんだよ。物によっては、ゲヘナの方がアクアリュウムよりもサルベージ品を高く買うからね。」
アレンはこの言葉にショックを受けた。
回収品はゲヘナでも買い取られる、それはプロのサルベージマンなら知っていたかもしれない裏事情だったが、アマチュアレベルのアレンはそうではなかった。
葛星は、アレンにサルベージされる前に、一度、記憶喪失の状態でゲヘナに回収されている。
そして葛星がどういう経過を辿って再び外界に戻ったかは判らないが、その後でアレンが葛星を発見したのだ。
「私が知っている範囲では、どうやらあのバトルスーツも、外界でアクアリュウムのサルベージマンが引き上げたものを、何処かのインチキ宗教団体に高く売りつけたものらしいね。」
シャーロットが『あなたの話とは、随分ちがうわよね。』と、アレンの顔を睨み付けてきた。
アレンも、自分の知っている情報より、もしかしたらゲヘナの最高指導者になっていたかも知れないこの男の言葉を信用するつもりになっていた。
確かに、鎧にはウルフグァン・ギース博士が関わっていたかも知れないが、鎧は彼が造ったものではなく、その関与率は極めて低いのだろう。
それならば、あの鎧の得体の知れなさの説明は付く。
「そんな経緯で、葛星君はゲヘナの中央研究所に移された。中央研究所では、そういう検体には刺青で検体番号を入れる習わしがある。葛星君にも、そういうものがあるのではないかね?」
アレンは葛星の右脇腹にある入れ墨の事を思い出した。
それをずっとアレンは、あのインチキ宗教団体とウルフグァン・ギース博士に関連づけて考えていたのだ。
「だが葛星君は、すぐにゲヘナから記憶喪失のまま逃亡した。その逃亡先が、アレン君、君が葛星君を見つけた場所だったんだよ。、、無意識に戻ろうとしたんだろうな。そしてそこでついに力尽きた。」
「あの鎧は、ウルフグァン・ギース博士が作ったものじゃなかったわけね、、、それと、葛星と混沌王が同じ世界から来た可能性があるって事?二人とも、前世紀人みたいなものなの?」
シャーロットが自分の推理を述べた。
「前世紀人みたいなモノかどうか、同じ世界から来たかどうかは、判らないが、この状況で、この二人に接点がないと考えない方がおかしいんじゃないのかね?それに現に、あの時、葛星君は『思い出した』と言っただろう?」
クン・バイヤーの話を聞き終えたアレンは、長い沈黙を保ったあとでこういった。
「こっちは、ダンクについての詳しい話をする約束だったな、、。俺は、誰よりも奴の事を判っていたつもりだが、今ので完全に自信がなくなった。だから、ご要望には添えないと思うがな、、。俺自身が混乱している。今から話すことの大部分は、俺の推理だ。従って、事実じゃないのかも知れない。それでもいいか?」
レイチェルとクン・バイヤーは頷いた。
カリニテとシャーロットは無表情のままだ。
カーリは、歪んだ笑いをその顔にへばりつけた。
「俺達があの地下道に入った頃から、ダンクはおかしくなっていた。いや、おかしくなるのは今回が初めてじゃない。問題なのは、その深ささ。まるで自分が誰かが判っていないようだった。それは奴が患った記憶喪失のようなものじゃない。葛星でありながら、葛星の事を別の人間のように思う、まっさらの人格が生まれた感じだ。そう、俺は、かなり前から、あの鎧についてある仮説を立てていた。あの鎧はバトルスーツという側面以外に、その中にいるものの変態を促す様な機能があるんじゃないかとね。それに、俺は鎧を作ったのがウルフグァン・ギースだと思ってたしな。彼の研究テーマや、こだわりから考えても、その機能は妥当なはずだ。、、それが違ってた。でも、この仮設自体は放棄しない。兎に角、鎧の中で作られるのは、、新しくて、、人間以外の、、いいにくいが、神のようなものだ。」
アレンは、ぎごちなく言った。
神という単語のせいだった。
だがアレンは、もう一つの可能性、、つまり鎧ではなく大蜘蛛の事は隠していた。
ここで隠す意味があるのか、どうか判らなかたが、口に出して言うべきでない内容だという事は判っていた。
「シャーロット、俺のいう事が判るか?葛星弾駆は、記憶喪失で俺の前に現れた。俺とダンクは暫く、彼の記憶探しに夢中だった。その為に、外界やゲヘナにまでいったんだ。しかし、彼のルーツは何処にも見つけられなかた。手元に残った事実は、彼が途方もない種々雑多な知識と、記憶を断片的に残しているという事が一つ。そして外界のインチキ神殿に売り飛ばされていたあの鎧が、自ら葛星を選んだという事実だ。しかもその鎧の作り手は、今では良く分からなくなった。ウルフグァン・ギースの線が切れたから、ロストワールドの遺品である可能性も薄くなった。でも、あの鎧は、葛星弾駆だけに、その繭を開いたんだ。」
シャーロットが息を飲んだ。
ここにいる五人の中でシャーロットだけがその意味を理解した。
葛星は過去に置いてシャーロットの目の前で、驚異的な肉体の回復力を見せつけたことがある。
シャーロットはその疑問を心の片隅に押し込んできた。
なぜならば、そこから割り出される結論は、その当時の彼女にとって、葛星弾駆が人間の形をしたビニィであるとしか結論づけられなかった為だ。
そんな事は、人間では起こりえない。
しかし葛星は、どう見てもビニィのようなものではなかった。
そしてこの認識は、より深く葛星を知るアレンにとって、信じがたくはあるが、それでも、それしか残らないという結論を導き始めていたのだ。
そんなアレンの代わりに、シャーロットはクン・バイヤー達に、鎧に入った葛星の蘇生の様子を掻い摘んで説明してやった。
「すると君達は何かね。葛星君は、超越者のようなものになろうとしている、人間以外のなにか、しかもそれは前世紀人でも、バイオロイドでもない存在だと思っているわけか。」
シャーロットの話を聞き終えた、クン・バイヤーが、興味深げに今までの話の内容を確認した。
葛星とのつき合いの少ない彼らに取って見れば、アレンの話は、やはり突拍子もないものに思えたに違いない。
「そうすれば、俺が抱いていた葛星に対する沢山の疑問の辻褄があう。ダンクは作りかけの神・ないしは悪魔なのかも知れない。混沌王の事は俺はしらん、でも、葛星は導かれるべくして今日のあの場面にであったんだ。、、、あんたも、薄々気がついているんだろう?俺も、そう思ってる。混沌王、葛星とも、その正体の鍵は、あの光の壁の向こう側にあるのさ。」
レイチェル、カーリ、クン・バイヤーの三人が同時にお互いの思いを探るように顔を見合わせた。
「・・・どう考えようが、あんたらのかってだがね。俺は混沌王も葛星も、あの光の壁の向こうからやって来た人間以外の何かだと思ってる。」
その時、目を瞑ったままのカリニテの瞼がかっと見開かれた。
「クルーザーの中で、何かが動いた!戻るぞ!」
カリニテはアレンとシャーロットを両脇に抱えてクルーザーに向かって疾走した。
カリニテ内部の人口脳は、その移動スピードを上げる為に、カリニテの単独行動を激しく要求していたが、カリニテの情感が、それを上回っていた。
彼らは、一番に葛星の身の上に起こった事を知る権利がある。
地表に降ろされたアレンは狂ったような動作で、クルーザーの後部ハッチを開いた。
兵器庫の床が濡れている以外は、彼らがここを後にした状況となんら変化は無かった。
「これは、どういう事!?」
シャーロットは動いた形跡もない鎧の方を見て、混乱した口振りで言った。
「判らない。でも確かに、ここでエネルギーの移動があった。そいつはもう追跡できない。泡の用に消えちまった。」
カリニテが大きな肩をすくめている間、アレンはおそるおそる鎧を点検し始めた。
「鎧の中が、、空っぽだ。」
アレンは震える声で言った。
シャーロットの美しい眉が歪む。
アレンは、鎧の表面を用心深くノックして見せた。
乾いた音が響いた。
その音は、明らかに内部の空洞を示していた。
「溶けて無くなっちゃったの?」
シャーロットは足下のぬるぬるした液体をみて震えながら言った。
「いいや、これは鎧のインナーの成分に近そうだ。ダンクの身体のじゃないだろう。それに少しだが、鎧の位置が前よりずれている。この鎧は、ダンクの意志でしか開けられない、外からも、内からもだ。」
「どういう事なの?」
「考えられるのは、ただ一つだ。ダンクは鎧から出ていった。いやここから出ていったのは、ダンクですらないのかも知れない。カリニテ。すまんが、蜘蛛がいるかどうか見に行ってくれないか?奴は機関室の暗がりにいるはずだ。」
カリニテが兵器庫を出ていってから、シャーロットの身体は再び震え始めた。
「どうしたらいいのか、判らない、、。」
「俺も同じだ。」
カリニテが帰って来た。
「それらしきものは見あたらない。」
「、、そうだろうな、、、。蜘蛛のやつ、きっとダンクについて行ったんだろう。」
「弾駆はどうするつもりでいるの?」
「さぁ、、、。」
アレンが放心した様に答えた。
彼らの背後で開け放たれたままのハッチから、外界の荒涼とした風景が覗き見えた。
外界では、まるでこれから始まる新しい世紀の創世を祝うかのように、暗雲の垂れ込める遥か向こうの空で、空雷が鳴り響き始めていた。
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