混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第2章 追跡

25: バッドタイミング

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「これで、俺達地上世界と、ゲヘナの決定的な違いがよく判ったよ。命の見方が違うんだ。彼らは人間とビニィの区別なんて事は大した問題としては捉えていないんだ。生きて活動している事が最優先されるんだ。俺には、その考え方と地上のものと、どちらが優れているかは判らないが、、。だが、少なくともシード患者であるジェミィ・ノースランドの答えは、決まっているだろうな。」
「今度はダンクが、チャリオット達の味方をするのか?そんなに単純じゃないよな?」
 アレンは不安げに聞いた。

「ああ、チャリオット達が、慈悲の心でジェミィをこの役割に仕立て上げたとも思えないしな。ただ奴らは俺に『愛の繭』のからくりと顧客名簿まで見つけられたんだ。今頃は、店じまいを考えているんじゃないか。つまりジェミィ達は、元の腐りかけた肉体に戻らなければならない。この地上世界の価値観では、いやでもそうなるって事だ。それは哀しいことだよな。」
 葛星が呟くように言った。

「、、、良かった。」
「何がだ?」
「今ので、お前が、元のお前に戻り掛けているって判った。」
「ハッ。」
 葛星はアレンを馬鹿にしたように短く笑ってから、しばらくデータベースを無作為に上下にスクロールし続けていた。

「蜘蛛野郎も大変なものを拾ってきたもんだ。アレン、お前、ここに登録されている顧客名簿の意味を考えた事があるか?」
「有名人や権力者ばかりだ。それがどうしたんだよ?こんなもの公表しようにも握りつぶされるのがおちだ。脅しの材料にもならない。かえって知っちまった俺達の方が不運というもんだ。」
「そうじゃなくて、俺はここに登場する権力者達が、全てプラグイン者だって事実を言っているんだよ。」
 葛星は『愛の繭』で、切り刻んだ怪物達の事を思い出しながら言った。
 今は、それらの怪物達の姿にリスト上の権力者達の顔がダブって見える。

「ダンク。お前の言っている意味が、分からないんだが。」
「おいおい、これはお前の得意な推理領域の筈だろうが、、そして、お前の推理は、今のところ大筋を外していないって事だよ。考えて見ろよ。ジュニアは、なぜ唯々諾々と断頭台に自分の首を乗せたか?つまりジュニアは絶対に(逆らえない状況)にあったという事なんだろう?」
「あのプラグを使ったのか、!?。」
「そうさ。プラグを逆に使うんだ。逆にだよ。で、ジュニアにできた事は、他のプラグイン者にも出来るという事さ。だろ?」

 その時、葛星達が見つめているディスプレィが突然揺らいで、ニュースを映し出した。
 葛星が片方の眉をつり上げて、アレンを振り返った。
「今度の事件の関連内容がニュースなんかのメディアに掛かった時に、自動的に引っ張って来る様にセットしておいたんだよ。」
 画面には、ドアーズのレコードショップの玄関に集結した警察の物々しい調査班の姿が映し出されていた。

「とうとう警察が動いたか、、、。もっと、じっくり見たい。映像を居間のテレビに切り替えてくれ。俺はあっちで見る。」
 葛星は顧客名簿を見るのを止め、新しいビールを手に取ると、居間のソファにどっかりと座り込んだ。
 アレンは居間に移動せず、そのままコンピュータのディスプレイにかじり付いている。
 コンピュータの画面の中にも、TVニュース用の小画面が開いているのだ。

 葛星は、地上世界で開局されている十二のチャンネル全てを流してみた。
 時間帯の差はあれ、どの局も全てレコードショップへの警察捜査の場面が大々的に報じられていた。
 捜査の目的は、外界からサルベージされたレコードの検閲もれと、報道されている。
 外界から持ち込まれたものは、レコードに限らず、全て当局による厳密な検査を受けなければならいが、この基準をクリアして、内部へ持ち込みが許可される物品は数少ないと言われている。
 だから実際には、外界の品物は、闇のルートでアクアリュウム世界に流れ込んでいるものがほとんどだ。
 そして全ての人間が、それを公然の秘密として捉えているのが現状のはずだった。
 それをあえて警察当局は、ドアーズのレコードショップに対して(検閲漏れ)の取り締まりをやろうとしているのだ。
 もちろん、それは誰にも判る、「表向きの理由」だが。

「蟹野郎だ!奴がいた!」
 コンピュータの前のアレンが素っ頓狂な声を上げた。
「待ってろ。今そっちに、拡大して送る!」
 葛星の前の家庭用テレビにアレンがニュースから切り取った静止画面が送られてきた。
 流れるニュースではほとんど目立たなかったが、警察の指揮にあたっているらしい指導者集団の中に李警備保障の周 騎冥が写っていた。

「マシンマンは、身体のスペアがあるぶん、俺とは違って、さすがに回復が早いな。」
 葛星は冗談めかした独り言を言った。
「これは駄目だ。早く報告書をキングに送ろう。今、判っている事だけで充分だ。このままだと出し抜かれる。李と警察が手を組んだんじゃ、俺達に金輪際勝ち目はない。蜘蛛が手に入れたデータは、まだ誰も手に入れていない筈だ。今ならキングからOKがでる。お役放免だ。次は何があってもこの件から手を引く。」
 アレンがうわずったように言った。
 既にアレンの指は、報告書をまとめ上げようと、忙しなくコンピュータのキーボードの上を走り回っている。

「止めろ!まだ早い!」
 葛星の厳しい声が飛び、アレンのコンソールの上を走り回る指が、その声に止まった。
「さっきの顧客名簿について考えは、俺達の推論にしか過ぎない。だがその推論が当たっているなら、あれはゲヘナからの地上への完全な侵略行為に該当する。俺達の報告書は、地上世界とゲヘナの全面戦争のきっかけになるかも知れないんだぞ!第一、切り札は、最後の最後まで取っておくものだ。」

「ダンク!なんてこった!今日は厄日だ。」
 アレンがパソコン前から怒鳴り返してくる。
「この馬鹿野郎!まさか、データを送っちまたんじゃないだろうな?!」
 葛星はソファから跳ね起きてアレンの元に駆け寄った。
 アレンは、自分のそばのヴィジホンを指さした。
 そこには東洋系の痩せこけた厳しい表情をした老人が映し出されていた。

「キングの第一執事の楊さんだ。名前は知っているだろう?この事件の直接の依頼者だ。」



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