混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

文字の大きさ
上 下
17 / 82
第2章 追跡

17: サルベージされた男

しおりを挟む

 外界からサルベージしてきたがらくたが部屋中に所狭しと飾られていた。
 そのがらくたに囲まれながら、キャプテンKことキープ老人が葛星に向かって言った。

「ネロ・サンダースにチャリオットか?懐かしいな。奴らはゲヘナ野郎にしては、なかなか素晴らしいチームだった。もっとも、このキャプテンKにはかなわないがな。」
 サルベージにあたっては、ネロ・サンダースがリーダーだったようだ。
 チャリオットと共に写った写真でもそうだったが、コープレィ社副社長として検索されるネロ・サンダースの写真からも彼の体格がずば抜けて大きいのが判っていて、彼はいかにも百戦錬磨のサルベージマンのように見えた。
 同じように、恐らく若い頃には、キープの骨太で大柄のがっしりした体格にも太い筋肉の束が巻き付いていたのだろうが、今は見る影もない。

 葛星は、この老人が苦手だった。
 キープは、サルベージマンとしてのアレンと葛星を比較して、アレンの方を認める唯一の人物でもあった。
 それだけでもこの老人の偏屈ぶりが判るが、更に、葛星はキープの自慢話が一度口火を切ると、延々と続くことにも慣れなかった。
 現に葛星がキープの所に訪れ、話が核心に進まないまま、もう既に3時間もの時間が経過していた。

「なあキャプテン。俺はネロ達について聞いているんだ。あんたの事じゃない。」
 ついに我慢が出来なくなった葛星は、耳の遠くなりかけたキープに向かって、一つ一つ区切るように言った。

「世間じゃ、お前と、アレンと比較してあれこれいっとるそうだが、世間の目は節穴だ。少なくともサルベージマンとしては、アレンはお前なんぞより数段格上じゃぞ。」
 葛星は、自分たちが置かれている状況を、この老人にかいつまんで説明しようかと一瞬躊躇った。
 しかしそれは、結果的に、この老人を抜き差しならぬ状況へ追い込むことになる。

「頼むよ、キープ爺さん。今聞いている事は、アレンと俺に直接関係がある事なんだ。旨く行かなければ、二人ともピンチに追い込まれる。詳しいことを話せないのは残念だが、それを言えばあんたもやばくなるんだ。だから意地悪をしないでネロ達の事を教えてほしいんだ。」
「アレンは何故、ここに来ない?」
 老人は、初めて葛星の言葉に対して考え込むように言った。

「奴は、今、ある女の事で頭が一杯なんだ。だから俺が代わりに来た。」
「ほう?アレンに女ができたのか?どうせ又、お前が自分の飽きた女をアレンに押しつけたんだろう。」
「キャプテン!あんたランドクルーザーをアレンに売りつけただろう!あれの金の半分は俺のだぜ。なんなら、その半額を今直ぐ返して貰おうか。」
 葛星は、とうとう老人を睨み付けて言った。
 ランドクルーザーの支払いには葛星の金に手をつけていない、というアレンの言いぐさが本当なら、葛星に金を返せという権利は無かったが、そんな筈はない。
 そして老後の安定した生活を望む、この老人には、この脅しが有効な筈だった。
 全てがアレンの支払いでも、口裏なら後で何とでも合わせられる。

「ランドクルーザーな、、、。あんなものはたいして重要なものではない。サルベージマンに取って本当に重要なのは(地図)だけだ。サルベージマンのランクを決めるのはある意味で、その者が持っている(地図)の善し悪しだとも言えるな。特にネロの場合は、、。」
 そこまで話題を逸らかせながらキープ老人は、横目でちらりと葛星の表情を見た。
 葛星の表情は憤慨したままだ。

「、、ネロの場合は、たぶん、漁っていたのは恐らくバイオ系だと思う。お前がさっきから喚いておるような、レコードやテープの類ではない。今は知らんが、昔、そんなものを外界で漁っていたら、それこそみんなの笑い者になるのが落ちだ。」
 地図とは具体的なものを指すわけではない。
 それはサルベージマンによって、書物の形態をしていたり、データベースなどの電子データであったりする。
 最近はビーグル等で、外界への進出が多いから電子地図が多い。
 ナビゲーションとして使用するのだ。
 外界の中でも比較的汚染が少ない場所では、多少の危険を冒せば旧世界の様々な文明を掘り出すことが可能だが、葛星らの住む世界で本当に必要なものは、そんなお手軽な場所では探し当てる事はできない。

 サルベージマン達には車の残骸が必要ではなく、設計図が必要なのだ。
 そしてその設計図は多くの場合、旧世界の未発見の場所において厳重に保管されている。
 それらは平均的な旧居住地ではなく、都心から離れた軍事基地や様々な研究所にあるのだ。
 だがそこに辿り着くには様々な危険、特に(地雷)と呼ばれる超自然現象を回避しながら進む必要があった。
 その場所への道しるべを彼らは地図と呼んでいた。

「あんたはロストワールドの軍関係の地図を持っていた。それも兵器に関するそうとう詳しい地図だ。あんな長距離を移動して、しかも密集する地雷を見事に回避してる。、、俺達みたいなサルベージの新参者でも、あんたがどんな地図を持っているかを知っているんだぜ。、、つまりだ。古株のあんたが、ネロの地図の有り様を推理して、それがバイオ系とだけしか判らないはずがないだろうって事だ。ほんとはもっと詳しく知ってるんだろ?」
 キープの白くなった眉が片方だけつり上がった。

「いいか、若造。よく聞くんだ。この世の中では、知らないほうが幸せな事がよくある。お前ら二人は、アレを見つけてから、ろくな事がないだろうが。それと同じよ。」
「アレとは、俺達が使っているバトルスーツと蜘蛛の事を言っているのか?あれは正確には外界で引き上げたんじゃない。、、だがあんたは、ネロもあんなものを引き上げたと言うのか?」
「なんとも言えんな。」
 キープの顔色が曇った。
 言い渋っているのは、葛星への当てつけでも、キープ自身の性格でもないようである。
 何かもっと別の原因があるのだ。

「なぁ。キャプテン。さっき言っただろう。俺達は今、すごくやばいんだ。あんたからそれを聞いたら、俺達は先々不幸になるのかもしれんが、今、知らなければ、今直ぐにでも俺達は殺されかねないんだ。」
 葛星の顔に真摯な表情が浮かんだ。

「混沌王だ。」
 老人は、思い切ったように短い言葉を吐き出した。
「何?なんて言ったんだ?」
 混沌王とは、最近、ゲヘナ世界の中で急激にその名前が囁かれ出した人間の渾名だ。
 アクアリュウムの地上にいてさえ、その噂話は時折聞こえてくる。
 混沌の世界を統治する王、、あるいはリーダー、あるいは混沌をもたらす者。
 一説によれば、本人自らがこの名前を名乗ったと言う。
 この老人は、その人物を指す意味で、コ・ン・ト・ン・オ・ウという言葉を使ったのか?

「ネロ達は、ゲヘナの4代目の指導者候補である混沌王を外界で引き上げた。それから暫くして奴らはこの業界から引退した。」
「外界で引き上げた?言っている意味がわからない。」
「わからんでもいい。儂はこれ以上の事は、口が裂けてもいわん。これがあの車を買ってくれたアレンに対する礼だ。それから、これからは二人とも金輪際儂の所には来るな。」
 そうやって老サルベージマンと葛星の会見は唐突に終了した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...