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第2章 追跡
17: サルベージされた男
しおりを挟む外界からサルベージしてきたがらくたが部屋中に所狭しと飾られていた。
そのがらくたに囲まれながら、キャプテンKことキープ老人が葛星に向かって言った。
「ネロ・サンダースにチャリオットか?懐かしいな。奴らはゲヘナ野郎にしては、なかなか素晴らしいチームだった。もっとも、このキャプテンKにはかなわないがな。」
サルベージにあたっては、ネロ・サンダースがリーダーだったようだ。
チャリオットと共に写った写真でもそうだったが、コープレィ社副社長として検索されるネロ・サンダースの写真からも彼の体格がずば抜けて大きいのが判っていて、彼はいかにも百戦錬磨のサルベージマンのように見えた。
同じように、恐らく若い頃には、キープの骨太で大柄のがっしりした体格にも太い筋肉の束が巻き付いていたのだろうが、今は見る影もない。
葛星は、この老人が苦手だった。
キープは、サルベージマンとしてのアレンと葛星を比較して、アレンの方を認める唯一の人物でもあった。
それだけでもこの老人の偏屈ぶりが判るが、更に、葛星はキープの自慢話が一度口火を切ると、延々と続くことにも慣れなかった。
現に葛星がキープの所に訪れ、話が核心に進まないまま、もう既に3時間もの時間が経過していた。
「なあキャプテン。俺はネロ達について聞いているんだ。あんたの事じゃない。」
ついに我慢が出来なくなった葛星は、耳の遠くなりかけたキープに向かって、一つ一つ区切るように言った。
「世間じゃ、お前と、アレンと比較してあれこれいっとるそうだが、世間の目は節穴だ。少なくともサルベージマンとしては、アレンはお前なんぞより数段格上じゃぞ。」
葛星は、自分たちが置かれている状況を、この老人にかいつまんで説明しようかと一瞬躊躇った。
しかしそれは、結果的に、この老人を抜き差しならぬ状況へ追い込むことになる。
「頼むよ、キープ爺さん。今聞いている事は、アレンと俺に直接関係がある事なんだ。旨く行かなければ、二人ともピンチに追い込まれる。詳しいことを話せないのは残念だが、それを言えばあんたもやばくなるんだ。だから意地悪をしないでネロ達の事を教えてほしいんだ。」
「アレンは何故、ここに来ない?」
老人は、初めて葛星の言葉に対して考え込むように言った。
「奴は、今、ある女の事で頭が一杯なんだ。だから俺が代わりに来た。」
「ほう?アレンに女ができたのか?どうせ又、お前が自分の飽きた女をアレンに押しつけたんだろう。」
「キャプテン!あんたランドクルーザーをアレンに売りつけただろう!あれの金の半分は俺のだぜ。なんなら、その半額を今直ぐ返して貰おうか。」
葛星は、とうとう老人を睨み付けて言った。
ランドクルーザーの支払いには葛星の金に手をつけていない、というアレンの言いぐさが本当なら、葛星に金を返せという権利は無かったが、そんな筈はない。
そして老後の安定した生活を望む、この老人には、この脅しが有効な筈だった。
全てがアレンの支払いでも、口裏なら後で何とでも合わせられる。
「ランドクルーザーな、、、。あんなものはたいして重要なものではない。サルベージマンに取って本当に重要なのは(地図)だけだ。サルベージマンのランクを決めるのはある意味で、その者が持っている(地図)の善し悪しだとも言えるな。特にネロの場合は、、。」
そこまで話題を逸らかせながらキープ老人は、横目でちらりと葛星の表情を見た。
葛星の表情は憤慨したままだ。
「、、ネロの場合は、たぶん、漁っていたのは恐らくバイオ系だと思う。お前がさっきから喚いておるような、レコードやテープの類ではない。今は知らんが、昔、そんなものを外界で漁っていたら、それこそみんなの笑い者になるのが落ちだ。」
地図とは具体的なものを指すわけではない。
それはサルベージマンによって、書物の形態をしていたり、データベースなどの電子データであったりする。
最近はビーグル等で、外界への進出が多いから電子地図が多い。
ナビゲーションとして使用するのだ。
外界の中でも比較的汚染が少ない場所では、多少の危険を冒せば旧世界の様々な文明を掘り出すことが可能だが、葛星らの住む世界で本当に必要なものは、そんなお手軽な場所では探し当てる事はできない。
サルベージマン達には車の残骸が必要ではなく、設計図が必要なのだ。
そしてその設計図は多くの場合、旧世界の未発見の場所において厳重に保管されている。
それらは平均的な旧居住地ではなく、都心から離れた軍事基地や様々な研究所にあるのだ。
だがそこに辿り着くには様々な危険、特に(地雷)と呼ばれる超自然現象を回避しながら進む必要があった。
その場所への道しるべを彼らは地図と呼んでいた。
「あんたはロストワールドの軍関係の地図を持っていた。それも兵器に関するそうとう詳しい地図だ。あんな長距離を移動して、しかも密集する地雷を見事に回避してる。、、俺達みたいなサルベージの新参者でも、あんたがどんな地図を持っているかを知っているんだぜ。、、つまりだ。古株のあんたが、ネロの地図の有り様を推理して、それがバイオ系とだけしか判らないはずがないだろうって事だ。ほんとはもっと詳しく知ってるんだろ?」
キープの白くなった眉が片方だけつり上がった。
「いいか、若造。よく聞くんだ。この世の中では、知らないほうが幸せな事がよくある。お前ら二人は、アレを見つけてから、ろくな事がないだろうが。それと同じよ。」
「アレとは、俺達が使っているバトルスーツと蜘蛛の事を言っているのか?あれは正確には外界で引き上げたんじゃない。、、だがあんたは、ネロもあんなものを引き上げたと言うのか?」
「なんとも言えんな。」
キープの顔色が曇った。
言い渋っているのは、葛星への当てつけでも、キープ自身の性格でもないようである。
何かもっと別の原因があるのだ。
「なぁ。キャプテン。さっき言っただろう。俺達は今、すごくやばいんだ。あんたからそれを聞いたら、俺達は先々不幸になるのかもしれんが、今、知らなければ、今直ぐにでも俺達は殺されかねないんだ。」
葛星の顔に真摯な表情が浮かんだ。
「混沌王だ。」
老人は、思い切ったように短い言葉を吐き出した。
「何?なんて言ったんだ?」
混沌王とは、最近、ゲヘナ世界の中で急激にその名前が囁かれ出した人間の渾名だ。
アクアリュウムの地上にいてさえ、その噂話は時折聞こえてくる。
混沌の世界を統治する王、、あるいはリーダー、あるいは混沌をもたらす者。
一説によれば、本人自らがこの名前を名乗ったと言う。
この老人は、その人物を指す意味で、コ・ン・ト・ン・オ・ウという言葉を使ったのか?
「ネロ達は、ゲヘナの4代目の指導者候補である混沌王を外界で引き上げた。それから暫くして奴らはこの業界から引退した。」
「外界で引き上げた?言っている意味がわからない。」
「わからんでもいい。儂はこれ以上の事は、口が裂けてもいわん。これがあの車を買ってくれたアレンに対する礼だ。それから、これからは二人とも金輪際儂の所には来るな。」
そうやって老サルベージマンと葛星の会見は唐突に終了した。
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