姿食堂始末記 ヤンキー君は隠れ、男の娘は惑う

Ann Noraaile

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第5章 泥流

37: 復讐

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「朝になって、ハオラン叔父貴の家がどれだけ酷い状態になったのかが判ってきた。どうやら奴は、庭にあった木によじ登って、そこからペンキを屋根一面にぶちまけ、そこに鉄アレイとか砲丸投げに使う鉄球を投げつけてたみたいだ。鉄アレイも鉄球も、一個や二個じゃない、あれだけの量をリュックに入れて木をよじ登るなんて考えられないけど、奴はやってのけている。そこだけは凄いと思うよ、、何を思ってのことか、、執念だね。」

 タイランの話を聞いて、神無月は不謹慎にも、喝采に似た感覚で『ガンの奴やりやがったな』と思った。
 キョウからこの追跡劇の目撃談を聞いた数日前、学校で夜中の侵入と盗みがあった事を神無月は思い出したのだ。

 夜間の学校は、警備会社との契約に基づく警備下にあるのだが、荒らされた場所が陸上部の備品倉庫と技能職員室だけで、なくなったものは鉄アレイやペンキやスプレー缶・大型カッターという備品だった。
 金目の物はないので、内部の状況に詳しい者が悪戯目的でやったと考えられていた。
 つまり平に言えば、生徒か卒業生の遊び半分の悪戯という事だ。
 今思えば、実はその犯人が岩田で、この頃から岩田は既にこの襲撃の計画を準備していた事になる。

「後始末が大変だった。大人達が、怪我をした二人の仲間を病院に連れて行った。俺達は残って、真っ先に屋敷の外塀にスプレーで落書きされたのを、ペンキで上から塗りつぶしてた。、、他にも、ボコボコに凹んで、上から赤や黄色のペンキをぶち撒かれた屋根とか壁とかだ、、。みんな酷かったが、俺達は『中国人、国へ帰れ!』の落書きに酷く腹が立った。、、こんな事をやったやつを見つけ出して、償わせるって決めたんだ。」

「君の仲間の目の事なんだが、、、。」

「ズームォは拳法をやっていた。ホントに強いんだ、実践でもね。でもそれが失明の原因だったかも知れないと今は思ってる。相手も喧嘩が滅法強い。両方とも我を忘れる程に、本気になったんじゃないのかな?、、夜だったし。ズームォの目は、奴が横薙ぎに振った木刀の切っ先が潰したんだ。多分、普通の相手だったら、頭に当たってたはずだが、ズームォはそれを咄嗟に頭を後ろに引いて避けたんだ。相手も普通のやつだったら、それで空振りして、その隙にズームォに踏み込まれて倒されていたはずだ。ところが木刀の切っ先は、ズームォの両目を横から潰した。片一方の方は、良くは見えないが失明は免れたよ。、、腕の骨は、折れても治る。だが目は無理だ。俺達は奴を捕まえて片目を潰してやると誓い合った。」

「、、、警察に届け出るという方法もあったろう。」
 神無月は敢えて、そう言ってみた。

「カムイ先生は馬鹿じゃなさそうだから、ワザとそう言ってるんでしょ?俺達の何人かは、身元が表沙汰になると、この国にはいられない、目立つことは避けたい。」

「っやぱりか、、、。でもウチの不良共が言ってたが、それでも君らは街で岩田を捜し続けていたらしいな。」
「王伝竜(ワン ユンノン)、いやワン デンリュウさんからは、動くなという指示がありましたよ、、。」
 思わぬタイミングでタイランの口から王伝竜の名が出た。
 ジンリーがあの時、神無月の前で、この男の名前を口にしているから、その名自体は特に伏せておく必要はないのかも知れなかった。
 まして今の話では、王伝竜はこのトラブルを鎮静化させる側にいる。

「その指示は、目立つような事はするなという意味だと判断して、俺らは俺らの空いた時間で地道に、、刑事みたいに奴の居場所を探したり、嗅ぎまわるという派手なやり方じゃなく、、、そう、日本語でなんといいましたっけ?」
「、、炙り出す?」

「そう、炙り出すタメに、ここら辺一帯を、ただ歩いてまわりました。出会い頭の避けられない喧嘩なら伝竜さんも文句は言えませんからね。でも当然、ヤクザなんかは、避けましたよ。俺達は他でも色々やってますからね。ヤクザと、衝突すると厄介だ。伝竜さんには、迷惑をかけられない。」
「いろんな日本人の不良達と接触しただろ?」

「ええ、でも彼らは全然怖くないですね。俺達のグループに、後で何人かが応援で入ってきて、こっちの人数が増えたのもあるけれど、元から彼らとは性根が違う。俺達は生き延びる為に悪いことをするが、彼らは格好を付けるためだ。最後はその差が出る、でも奴だけは違うみたいだった。」

 だが岩田は、いわゆるハングリー精神を云々する所で生活している訳ではない。
 生活面では、潜伏先で好みのラーメンを探すような余裕があるのだ、それでもタイラン達は、岩田を他の不良とは違うと思っているようだった。

「なあタイラン君、君は、なぜ岩田がハオラン叔父さんの家を襲撃したと思う?」
 ここに来てタイランは黙りこくった。
 そろそろタイランには、姉の恩人の為に喋れる内容の限界が近づいているのだろう。

「ハオラン叔父貴は王伝竜さんの弟です。正式に調べると、あの家の持ち主は、王伝竜さんって事になります。でも実際は、伝竜さんはいつも飛び回っているし、そうでない時はホテルに泊まったりしてる。それかヘンな女の家ですね。つまり叔父貴の家は、伝竜さんがなにか正式に物事を進める際に、名義上必要なものだったって事ですね。」

「それじゃなにか?岩田は王伝竜の家を襲撃してるつもりで、ハオランさんの家を壊したのか、、。でも、そうだとしたら、岩田は何故、王伝竜を目の敵にしてるんだ?」
 ビクトリアの買収がらみだろうとは、思っていた。
 だがそれだけで、そこまでやるものだろうか?
 そしてタイランは、自分のこの問いには答えないだろうと神無月は思ったが、それでも一応は聞いてみた。

「それ以上は言えませんね。最初に言ったでしょう?俺が答えられる範囲の事は答えると」
 やはりタイランは答えなかった。

「判った。ありがとう。最後に一つだけ教えてくれるか?この質問は君の範囲内のことだと思う。」
「なんですか?」

「君たちは、まだ岩田を狙っているのか?」
「当たり前ですよ。これは忠告ですが、カムイ先生。あなた、岩田を庇い立てして、俺達の前に立つような事はしないで下さいね。先生に恩義を感じているのは姉であって、俺じゃないんだから。」
 そう言ってタイランは、神無月をぞっとするような目で見た。
 たしかにこれは、日本の不良とは出来が違うなと、神無月は思った。


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