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第3章 竜との旅
41: 転換点 ジョンリーの宣戦布告
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三日目の夜、大量の蛍が点滅している大木を林の中で見つけ、護達はその木の下で眠ることにした。
虹色竜はそんな二人を守るように少し離れた地面に飛翼を畳んで蹲っている。
「不思議な光景だな、、そんなに暑くもないし近くに川もないのに蛍がいる、、。」
「って事は・・ここは君のイメージじゃないのね。綻びに近付いているって事だわ。」
時折、どこからか穏やかな夜風が吹いてきて、隣に横たわっているレズリー・ローの体臭が護の元へと運ばれてくる。
いい匂いだったが香水ではないようだった。
しかし少なくとも護の知っている範囲の中では二人は水浴びさえしていない。
色々な意味でレズリーは不思議な存在だった。
「三日で世界の果てに着くのか、、、ちいさいな、俺の内部世界は、、」
二人は地面の上に広げた簡易マットに仰向けに寝ころんで、巨木の枝の間で点滅し続ける蛍を眺めている。
「何度言ったら判るの、距離の問題じゃないんだって。距離なんて特異点にとってはなんの支障にもならない、必要なのは意志の力だけ。私がいなければ君は永遠に自分の内部世界を進むことだって出来るわよ。ああ俺の世界は無限大だ!ってね。」
「ホホホッ、私はコンパスよ。世界の果てがある方向を常に指し示す。」
「・・いいわね、お気楽で、私はもう寝るわ。」
レズリーは毛布を自分の目の下まで引き上げて目を閉じた。
レズリーの焦燥と体力消耗が激しい。
護の目には、レズリーは日がな一日中、虹色竜に乗って空を飛ぶか、地上を駆けているだけのように見えるのだが、実際にはそうではないようだった。
レズリーは、自分の新たな力を、特異点内部に発生した綻びを発見し知覚する能力だと言ったが、その力は単にコンパスのようにその方向へ、針・つまり知覚が向かうだけの事ではないようだった。
見方によればレズリーは、護がジッグラトで出会ったサクリファイス王女の様に、次元召還や時空突破に近い動きをしているのかも知れなかった。
一方、護は体力を持て余していた。
自分の内部世界を、夾雑物を追うわけでもなんでもなく、ただ移動するだけなのだから、、。
こうしている間にも、丹治はカルロスを追いつめているのだろうか、、そうであって欲しいと願う反面、護は自分がその場にいないという強烈な後悔の念と、同時に奇妙な嫉妬感に囚われていた。
そして時差、この内部世界での三日間は、外の世界では、一体何日分に相当するのだろうかと、、。
・・・・・・・・・
響児の乗る運転席側の窓ガラスがコンコンとノックされた。
助手席に座っている香坂と響児が、驚いたように、こちらをのぞき込んでいる人間の顔を見た。
二人は、まったくその男が接近して来た気配を感じていなかったのである。
窓ガラスの外にいたのは、髪をおかっぱに揃えた東洋系の男、、、ジョンリーだった。
ジョンリーは勝ち誇ったように自分の親指を立て、彼らに突き出したあと、今度はその手で、ある方向を指さした。
その指の先には、碇旧勢力のビッグスリーの一人、大河内大和の隠れ家があった。
ジョンリーは、にやりと不適な笑みを浮かべると、その場を立ち去り始める。
ようやく響児が金縛りから醒めたように、車のドアを開けて、ジョンリーを追いかけ始めた。
しかし、その背中に香坂の怒鳴り声が響く。
「後にしろ!そんなことよりカルロスだ!奴が来るぞ!今のは宣戦布告だ。」
響児が振り返ると、香坂が大河内の隠れ家に向かって走りながら、携帯をかけているのが見えた。
恐らく、隠れ家に配置している人間達に連絡を入れているのだろう。
それでも響児はジョンリーを追って全力で走っている。
止まらない。止められない。それが彼だった。
だが・・・確かに、ジョンリーを掴まえた所で、一体何の容疑で、奴を確保出来るというんだ。
そのジョンリーが急に立ち止まって、こちらを振り返り、肩をすくめてみせた。
畜生、総てお見通しって事か、しかし、こんな危険な役目を、なんでナンバー2のジョンリー自らがやるんだ?
あのサムズアップは何んだ?どういう意味だ?
奴らは、今度は自分たちが本気だってことを宣言してやがるのか、、本気、本気だと?
奴ら、まさか、旧勢力の悪共の警護に回った警察ともやり合うってのか?
響児は顔を青ざめさせて、後戻りを始めた。
大河内大和の命など、どうでも良かった。
同じ警官達がこんなクズ共の抗争の為に傷つくのが許せなかったのだ。
カルロスが詳しい情報もないまま、敵の隠れ家に乗り込んで、自分の仕事を達成させられる方法が一つある、と響児は思っていた。
玉砕覚悟で瞬間移動で乗り込み、次々と転移を繰り返しながら、相手に反撃の隙を与えず、屋敷内の人間を皆殺しにする勢いで攻め続ける事だ。
そうなれば、自分の「殺し」に護から奪った拳銃に拘る様な事はせず、マシンガンを使うだろう。
度胸と反射神経だけの勝負。
肉体を動かさずに移動できる分だけ、相手よりもカルロスの方が有利だろう。
それにいくら説明されても普通の人間にとって、瞬間移動で空間に突如出現するカルロスを見た時には驚異と戸惑いを感じる筈だ。
その感情が、守りに付く側の失点に繋がっていく。
香坂さんでさえ、そんなカルロスの捨て身の可能性を考えていない。
いくら超人的な能力があっても、自分を狙う銃口がずらりとならぶ敵陣にたった一人で誰が切り込んでいけるだろうか、そこには必ず恐怖心が発生する筈だ。
香坂さんはそう考えているのだ。
しかし、普通の人間、いや普通の犯罪者にも出来ないことだが、カルロス・テベスタならどうなのだ?
ジョンリーのあの大胆不敵な行動が、その答えではないのか。
これからは俺達もカルロスも本気で戦争を始める覚悟だと。
そこまで彼らを踏み切らせるだけの、警察の捜査では分からない何かの「転機」が、彼らか、あるいはカルロス・テベスタに訪れたのだろう。
少なくともエマーソン製薬が、修羅王グループへのテコ入れの為に送り込んだと目される、雇われインテリやくざのジョンリーが、何の勝算もなく、このような行動に出る訳がない。
それに、過去の事例を見ると、カルロスの転移速度はどんどん上がって来ている。
守る側は、カルロスが現れてから攻撃を仕掛けるのに対して、カルロスの方はマシンガンを連射しながら手当たり次第に転移を繰り返す事ができる。
クレージー、奴らは気が狂いかけている。
だがそのクレージーささえも、奴らにとっての計算なのだ。
まさに奴らは、自らを人間兵器と任じた者にしか成しえない行動をとろうとしている、、響児は激しい予感に震えた、香坂さんが危ない!!
虹色竜はそんな二人を守るように少し離れた地面に飛翼を畳んで蹲っている。
「不思議な光景だな、、そんなに暑くもないし近くに川もないのに蛍がいる、、。」
「って事は・・ここは君のイメージじゃないのね。綻びに近付いているって事だわ。」
時折、どこからか穏やかな夜風が吹いてきて、隣に横たわっているレズリー・ローの体臭が護の元へと運ばれてくる。
いい匂いだったが香水ではないようだった。
しかし少なくとも護の知っている範囲の中では二人は水浴びさえしていない。
色々な意味でレズリーは不思議な存在だった。
「三日で世界の果てに着くのか、、、ちいさいな、俺の内部世界は、、」
二人は地面の上に広げた簡易マットに仰向けに寝ころんで、巨木の枝の間で点滅し続ける蛍を眺めている。
「何度言ったら判るの、距離の問題じゃないんだって。距離なんて特異点にとってはなんの支障にもならない、必要なのは意志の力だけ。私がいなければ君は永遠に自分の内部世界を進むことだって出来るわよ。ああ俺の世界は無限大だ!ってね。」
「ホホホッ、私はコンパスよ。世界の果てがある方向を常に指し示す。」
「・・いいわね、お気楽で、私はもう寝るわ。」
レズリーは毛布を自分の目の下まで引き上げて目を閉じた。
レズリーの焦燥と体力消耗が激しい。
護の目には、レズリーは日がな一日中、虹色竜に乗って空を飛ぶか、地上を駆けているだけのように見えるのだが、実際にはそうではないようだった。
レズリーは、自分の新たな力を、特異点内部に発生した綻びを発見し知覚する能力だと言ったが、その力は単にコンパスのようにその方向へ、針・つまり知覚が向かうだけの事ではないようだった。
見方によればレズリーは、護がジッグラトで出会ったサクリファイス王女の様に、次元召還や時空突破に近い動きをしているのかも知れなかった。
一方、護は体力を持て余していた。
自分の内部世界を、夾雑物を追うわけでもなんでもなく、ただ移動するだけなのだから、、。
こうしている間にも、丹治はカルロスを追いつめているのだろうか、、そうであって欲しいと願う反面、護は自分がその場にいないという強烈な後悔の念と、同時に奇妙な嫉妬感に囚われていた。
そして時差、この内部世界での三日間は、外の世界では、一体何日分に相当するのだろうかと、、。
・・・・・・・・・
響児の乗る運転席側の窓ガラスがコンコンとノックされた。
助手席に座っている香坂と響児が、驚いたように、こちらをのぞき込んでいる人間の顔を見た。
二人は、まったくその男が接近して来た気配を感じていなかったのである。
窓ガラスの外にいたのは、髪をおかっぱに揃えた東洋系の男、、、ジョンリーだった。
ジョンリーは勝ち誇ったように自分の親指を立て、彼らに突き出したあと、今度はその手で、ある方向を指さした。
その指の先には、碇旧勢力のビッグスリーの一人、大河内大和の隠れ家があった。
ジョンリーは、にやりと不適な笑みを浮かべると、その場を立ち去り始める。
ようやく響児が金縛りから醒めたように、車のドアを開けて、ジョンリーを追いかけ始めた。
しかし、その背中に香坂の怒鳴り声が響く。
「後にしろ!そんなことよりカルロスだ!奴が来るぞ!今のは宣戦布告だ。」
響児が振り返ると、香坂が大河内の隠れ家に向かって走りながら、携帯をかけているのが見えた。
恐らく、隠れ家に配置している人間達に連絡を入れているのだろう。
それでも響児はジョンリーを追って全力で走っている。
止まらない。止められない。それが彼だった。
だが・・・確かに、ジョンリーを掴まえた所で、一体何の容疑で、奴を確保出来るというんだ。
そのジョンリーが急に立ち止まって、こちらを振り返り、肩をすくめてみせた。
畜生、総てお見通しって事か、しかし、こんな危険な役目を、なんでナンバー2のジョンリー自らがやるんだ?
あのサムズアップは何んだ?どういう意味だ?
奴らは、今度は自分たちが本気だってことを宣言してやがるのか、、本気、本気だと?
奴ら、まさか、旧勢力の悪共の警護に回った警察ともやり合うってのか?
響児は顔を青ざめさせて、後戻りを始めた。
大河内大和の命など、どうでも良かった。
同じ警官達がこんなクズ共の抗争の為に傷つくのが許せなかったのだ。
カルロスが詳しい情報もないまま、敵の隠れ家に乗り込んで、自分の仕事を達成させられる方法が一つある、と響児は思っていた。
玉砕覚悟で瞬間移動で乗り込み、次々と転移を繰り返しながら、相手に反撃の隙を与えず、屋敷内の人間を皆殺しにする勢いで攻め続ける事だ。
そうなれば、自分の「殺し」に護から奪った拳銃に拘る様な事はせず、マシンガンを使うだろう。
度胸と反射神経だけの勝負。
肉体を動かさずに移動できる分だけ、相手よりもカルロスの方が有利だろう。
それにいくら説明されても普通の人間にとって、瞬間移動で空間に突如出現するカルロスを見た時には驚異と戸惑いを感じる筈だ。
その感情が、守りに付く側の失点に繋がっていく。
香坂さんでさえ、そんなカルロスの捨て身の可能性を考えていない。
いくら超人的な能力があっても、自分を狙う銃口がずらりとならぶ敵陣にたった一人で誰が切り込んでいけるだろうか、そこには必ず恐怖心が発生する筈だ。
香坂さんはそう考えているのだ。
しかし、普通の人間、いや普通の犯罪者にも出来ないことだが、カルロス・テベスタならどうなのだ?
ジョンリーのあの大胆不敵な行動が、その答えではないのか。
これからは俺達もカルロスも本気で戦争を始める覚悟だと。
そこまで彼らを踏み切らせるだけの、警察の捜査では分からない何かの「転機」が、彼らか、あるいはカルロス・テベスタに訪れたのだろう。
少なくともエマーソン製薬が、修羅王グループへのテコ入れの為に送り込んだと目される、雇われインテリやくざのジョンリーが、何の勝算もなく、このような行動に出る訳がない。
それに、過去の事例を見ると、カルロスの転移速度はどんどん上がって来ている。
守る側は、カルロスが現れてから攻撃を仕掛けるのに対して、カルロスの方はマシンガンを連射しながら手当たり次第に転移を繰り返す事ができる。
クレージー、奴らは気が狂いかけている。
だがそのクレージーささえも、奴らにとっての計算なのだ。
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