上 下
39 / 54
第3章 竜との旅

38: 虹色竜、飛ぶ。

しおりを挟む
 人は見慣れない生き物には警戒心を持つ。
 ましてや、巨大な爬虫類などは概念的には理解していても、それが実際に目の前にいると、相当な恐怖を覚えるだろう。
 具体的に言えば、鰐やオオトカゲの類だ。
 更にそれが、30倍程の大きさを持っていたらどうだろう。
 つまり、恐竜、あるいは伝説上の竜。

 それがいた。
 ただ、この生き物は、奇妙な知性の輝きを、鱗と鎧で包み込まれた筋肉の塊の様なその身体全体に漂わせていた。
 暗い洞窟の中で蹲るその姿は、思案に暮れる賢者のようでもある。

 先程から護の左手が、何かに共鳴する様に疼いてる。
 この疼きは、レズリー・ローが護を救出した時、虹色竜と共に、自分の内部世界で異界の叫び声を聞いたという、その事の逆の現れなのか、、、。

 護が搭乗するマーコス LM500の横に、虹色竜が翼を畳んで蹲っていた。
 一人のリペイヤーに、一つの特異点への進入路・これが常識の筈だった。
 今、護の為に用意された進入路に、虹色竜とレズリー・ローがいる。

 単にいるだけではなく、これからローは、護の内部世界に侵入しようとしているのだ。
 護は、前回と同じように、レズリーが、護の内部世界と彼女の内部世界が接触する場所で、あるいはお互いの世界のほころびを通過して、二人が合流するものだと思いこんでいた。
 それに、護には、『この虹色竜は他人の進入路を通過することが出来るのだろうか。』という疑念があった。
 何もかもが、初めて尽くしだった。

「何か不安を感じてるようね?この穴は俺のだ。二人で同時に突っ込むなんて不可能だ、、そんな感じ?」

 ローはテレパシー能力でも持っているのだろうか、運転席のフロントパネルに埋め込んである無線通話機からそんな声が流れ出る。

 それも不思議だった。
 生体移動ディバイスである虹色竜から、どんな電波が出力されているというのか。
 ローは今、虹色竜の胸の中にいる筈だった。
 そこは、どんな操縦席なんだ?
 恐竜の肋骨や内側から見える肉や脂肪、内分泌液などが見えるのか?

「若いくせに頭が固いのね。自分が、初めて他の世界から来たリペイヤーに助けられた人間の第一号だってのに、その事実を未だに信じられないの?」

「あれは、内部世界の出来事だろ。ここは現実世界から特異点に向かう進入路の中だ。ここじゃまだ、現実のルールが生きてる筈じゃないかって、そう考えてた、だけだ。」

 護は自分でも馬鹿な事を言っていると思った。
 それを言い始めるのなら、自分の乗っているマーコスLM500にしても普通の車のように動く筈がないのだ。
 作られたのは、こちらの世界でも、マーコスLM500の作動原理は特異点の科学力によるものだ。

「じゃ、この虹色竜をどう説明するの?この子は、純粋にメイドイン特異点なのよ。いいから、ついてきなさい。論より証拠、百聞は一件にしかず。あら、このことわざあってるかしら?」

「ちょっと待ってくれ、今なんて言った?」

「え?ことわざのこと?」

「違うよ、ついてこいって言ったのか?」

「そうよ。私が先導するわ。」

「先導って、これから行くのは、俺の内部世界だぞ。」

「だったら護、あなた、向こうに行ってからの救出ルートの目星がついてるの?」
「、、、。」


 虹色竜が、その太く長い首を曲げて、マーコスLM500を振り返った。
 マーコスLM500のフロントガラス一杯に、虹色竜の顔が広がる。
 真ん丸の目の形、金色の虹彩、口の裂け目に収まりきれない尖った歯。
 それでもこの生き物には、知性があるのが判った。
 その知性は、護に何かを促しているように見えた。

 次に虹色竜は、ずしりとした恐竜の動きで、護の移動ディバイス・マーコスLM500の前に回り込むと、今度はその蝙蝠のような翼を大きく広げ、疾走し始めた。
 トンネルの天井を覆い隠すような巨大な翼の皮膜は不思議な燐光を放っている。
 思いがけず速く、しかも凄い迫力だった。
 どんどん虹色竜は、マーコスLM500から離れていく。
 やがて虹色竜の脚がトンネルの地面から離れた。
 飛んだのだ。

「ゲッコ!!」
「心配いらん。ローについていけ!」

 古い馴染みの管制官のゲッコなら、レズリーの所行を自分と同じように否定的に見てくれると思いこんでいた護は、その言葉に軽いショックを受けた。
 総ては、折り込み済みなのだ。
 一人、置いてけぼりを食らっているのは、つい最近まで外界の警察組織に出向していた護だけだった。

 とにもかくにも護は自分の内部世界に突入しようとする虹色竜についていく為に、マーコスLM500のアクセルペダルを踏むしかなかった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...