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第4章 魔界チェルノボグ・サーカスでの彷徨
43: 啜り泣く鷹匠君
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ロドリゲスの小便を浴びながら、鷹匠クンが泣いていた。
鷹匠クンの端正な顔が奇妙に歪んでいた。
悔しいのではなく、薬のせいで気持ちが良すぎたのだ。
「次は、俺とお嬢ちゃんの番だな。チチ、そっちはもう良いだろ。カメラを頼む。今度は主役が可愛いから、高く売れる、、。」
蘭府は、手に持ったカメラをロドリゲスに手渡すと、ロッカーからシリコン製と思しき円筒状の棒と、Oリングシリンダーが真ん中に付いたレザーベルトを持ち出して来た。
「こっちの顔面拘束具は、可愛いお嬢ちゃんには使いたくはないが、素直に俺のやコイツを、しゃぶってくれるとも思えんしな。」
「鷹匠クン!助けてよ!」
無駄とは知りつつ、僕は声をかけてみた。
今、鷹匠クンは完全にノーマークだ、もし正気を取り戻してくれたら、、。
駄目だ、、、完全に目が逝っている。
蘭府の指が、僕の頬に食い込んでくる。
もの凄い力だった。
たまらず僕は口を開けてしまう。
その瞬間に、僕の口の中へ金属シリンダーが押し込まれてしまった。
シリンダーが革ベルトで僕の顔に固定される前に、僕は首を激しく振ろうとしたが、今度は蘭府の大きな手で頭をがっしり掴まれ動きを封じられてしまった。
「ほう、意外と似合うな。さあこれから、この太いのを舐めてもらおうか。気持ちいいのが吸えるぜ。」
蘭府が肉感的にブルブル震える棒を、ペタペタと僕の頬にたたき付けてくる。
恐らく鷹匠君が口にくわえさせられたボールギャグにあの薬が仕込んであったように、この棒にも同じものが仕込んであるのだろう。
いよいよデッドエンドだ。
僕は、目を瞑って観念した。
その時、コンテナのドアが乱暴に開かれた。
ここに入り込んだ時、一番最初に会った守衛の男が顔を覗かせ、「蘭府さん、警察の手入れだ!!」と叫んだ。
「馬鹿な、、奴ら、鼻薬が効かなくなったのか!?引き上げるぞ!チチ、撤収だ!」
蘭府は手に持った棒に一瞬だけ視線を向けたが、直ぐにそれを投げ捨て、身繕いが終わったばかりのロドリゲスに、早くしろと顎をしゃくった。
「お嬢ちゃん、命拾いしたな。坊ちゃんが目を覚ましたら、お前の録画は俺が持ってると言っておいてくれ。」
そして蘭府は、コンテナのドアから出て行こうとする寸前、僕を振り返ってこう言った。
「信じようが信じまいが勝手だがな。俺は、お嬢ちゃんの探してる同級生とやらには会ったことはない。だからもうその事で、猪豚や俺を嗅ぎ回るな。煙猿を直接あたれ。ここにある展示物も、奴が製造元だよ。」
倉庫内の何処かで、肝を冷やすような拳銃の発砲音が数度響いた。
僕がその音に驚き、一瞬目を閉じ、次に目を開いた頃には、僕たち二人は完全にコンテナの中に取り残されていた。
鷹匠君が僕の膝の上ですすり泣いている。
バックミラー越しに、そんな鷹匠君の様子を気遣って運転席からこちらを見ている剛人さんの目元が映る。
暗いが、温かみを感じさせる瞳の色をしていた。
僕は、鷹匠君の上半身を覆うように被せてある剛人さんのコートの上から、彼の背中を撫で続けていた。
それ以外、鷹匠君にしてあげられる事は思いつかなかった。
「ありがとう御座いました。剛人さんが助けに来てくれなかったら、二人とも今頃どうなっていたか、、。」
実際には、もう鷹匠君は一生残る心の傷を既に負ってしまっていたが、僕はその事実を誰にも話す気になれなかった。
「・・・いや、私の判断が遅かったのかも知れない。自分の胸騒ぎを信じるべきだった。それに人手を揃えるのに時間がかかり過ぎた。」
やっぱりいい人だ、と思った。
普通、ただの運転手なら、自分の危険を省みず、あんな「悪の巣窟」に乗り込んでくれる筈がない。
「そんなことない。凄いです。映画みたいだった。」
剛人さんが微かに首を横に振ったのが判った。
「昔の私なら、あと二人ぐらいの加勢で、なんとか出来た筈なんだが、もう歳だ。それに声をかけて集められたのが、たったの三人、、情けない話ですよ。」
あの時、倉庫内では拳銃による応戦音が響いていた。
剛人さんが警察の手入れに見せかける為に呼んだ助っ人達が、本物の拳銃を持っていたということになる。
一体、剛人さんてどういう人なんだろう。
ただのお抱え運転手の筈がない。
それに、剛人さんが言った「なんとか出来た」の内容は、僕達の救出の事ではない様な気がした。
だって僕らは、既に助けて貰っている。
多分、あと少し人数が揃えば、あのサーカスを壊滅出来たとか、そんな感じの事なんだろう。
実際、僕らが剛人さんに救出されて、あの倉庫群を抜け出す時には、通路や道路に怪しげな男達が一杯血を流して倒れていた。
単純に僕たちの救出の為だけなら、そこまでする必要はなかっただろう。
それは彼らが鷹匠君を傷付けた事への報復の筈だった。
「なんとか出来た」、、そういう自分の気持ちを思わず口を滑らせて自然に漏らしてしまう危険で熱い男。
僕は俄然、剛人さんに興味が湧いてきた。
というか、少しだけ剛人さんが好きになっていたのかも知れない。
でもそんな気持ちの反対側で、十龍城に入り込んだまま消息をたった所長の顔が思い出されて胸が痛んだ。
鷹匠クンの端正な顔が奇妙に歪んでいた。
悔しいのではなく、薬のせいで気持ちが良すぎたのだ。
「次は、俺とお嬢ちゃんの番だな。チチ、そっちはもう良いだろ。カメラを頼む。今度は主役が可愛いから、高く売れる、、。」
蘭府は、手に持ったカメラをロドリゲスに手渡すと、ロッカーからシリコン製と思しき円筒状の棒と、Oリングシリンダーが真ん中に付いたレザーベルトを持ち出して来た。
「こっちの顔面拘束具は、可愛いお嬢ちゃんには使いたくはないが、素直に俺のやコイツを、しゃぶってくれるとも思えんしな。」
「鷹匠クン!助けてよ!」
無駄とは知りつつ、僕は声をかけてみた。
今、鷹匠クンは完全にノーマークだ、もし正気を取り戻してくれたら、、。
駄目だ、、、完全に目が逝っている。
蘭府の指が、僕の頬に食い込んでくる。
もの凄い力だった。
たまらず僕は口を開けてしまう。
その瞬間に、僕の口の中へ金属シリンダーが押し込まれてしまった。
シリンダーが革ベルトで僕の顔に固定される前に、僕は首を激しく振ろうとしたが、今度は蘭府の大きな手で頭をがっしり掴まれ動きを封じられてしまった。
「ほう、意外と似合うな。さあこれから、この太いのを舐めてもらおうか。気持ちいいのが吸えるぜ。」
蘭府が肉感的にブルブル震える棒を、ペタペタと僕の頬にたたき付けてくる。
恐らく鷹匠君が口にくわえさせられたボールギャグにあの薬が仕込んであったように、この棒にも同じものが仕込んであるのだろう。
いよいよデッドエンドだ。
僕は、目を瞑って観念した。
その時、コンテナのドアが乱暴に開かれた。
ここに入り込んだ時、一番最初に会った守衛の男が顔を覗かせ、「蘭府さん、警察の手入れだ!!」と叫んだ。
「馬鹿な、、奴ら、鼻薬が効かなくなったのか!?引き上げるぞ!チチ、撤収だ!」
蘭府は手に持った棒に一瞬だけ視線を向けたが、直ぐにそれを投げ捨て、身繕いが終わったばかりのロドリゲスに、早くしろと顎をしゃくった。
「お嬢ちゃん、命拾いしたな。坊ちゃんが目を覚ましたら、お前の録画は俺が持ってると言っておいてくれ。」
そして蘭府は、コンテナのドアから出て行こうとする寸前、僕を振り返ってこう言った。
「信じようが信じまいが勝手だがな。俺は、お嬢ちゃんの探してる同級生とやらには会ったことはない。だからもうその事で、猪豚や俺を嗅ぎ回るな。煙猿を直接あたれ。ここにある展示物も、奴が製造元だよ。」
倉庫内の何処かで、肝を冷やすような拳銃の発砲音が数度響いた。
僕がその音に驚き、一瞬目を閉じ、次に目を開いた頃には、僕たち二人は完全にコンテナの中に取り残されていた。
鷹匠君が僕の膝の上ですすり泣いている。
バックミラー越しに、そんな鷹匠君の様子を気遣って運転席からこちらを見ている剛人さんの目元が映る。
暗いが、温かみを感じさせる瞳の色をしていた。
僕は、鷹匠君の上半身を覆うように被せてある剛人さんのコートの上から、彼の背中を撫で続けていた。
それ以外、鷹匠君にしてあげられる事は思いつかなかった。
「ありがとう御座いました。剛人さんが助けに来てくれなかったら、二人とも今頃どうなっていたか、、。」
実際には、もう鷹匠君は一生残る心の傷を既に負ってしまっていたが、僕はその事実を誰にも話す気になれなかった。
「・・・いや、私の判断が遅かったのかも知れない。自分の胸騒ぎを信じるべきだった。それに人手を揃えるのに時間がかかり過ぎた。」
やっぱりいい人だ、と思った。
普通、ただの運転手なら、自分の危険を省みず、あんな「悪の巣窟」に乗り込んでくれる筈がない。
「そんなことない。凄いです。映画みたいだった。」
剛人さんが微かに首を横に振ったのが判った。
「昔の私なら、あと二人ぐらいの加勢で、なんとか出来た筈なんだが、もう歳だ。それに声をかけて集められたのが、たったの三人、、情けない話ですよ。」
あの時、倉庫内では拳銃による応戦音が響いていた。
剛人さんが警察の手入れに見せかける為に呼んだ助っ人達が、本物の拳銃を持っていたということになる。
一体、剛人さんてどういう人なんだろう。
ただのお抱え運転手の筈がない。
それに、剛人さんが言った「なんとか出来た」の内容は、僕達の救出の事ではない様な気がした。
だって僕らは、既に助けて貰っている。
多分、あと少し人数が揃えば、あのサーカスを壊滅出来たとか、そんな感じの事なんだろう。
実際、僕らが剛人さんに救出されて、あの倉庫群を抜け出す時には、通路や道路に怪しげな男達が一杯血を流して倒れていた。
単純に僕たちの救出の為だけなら、そこまでする必要はなかっただろう。
それは彼らが鷹匠君を傷付けた事への報復の筈だった。
「なんとか出来た」、、そういう自分の気持ちを思わず口を滑らせて自然に漏らしてしまう危険で熱い男。
僕は俄然、剛人さんに興味が湧いてきた。
というか、少しだけ剛人さんが好きになっていたのかも知れない。
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