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エピローグ ―― 永遠(とわ)の別れ(2)
しおりを挟む「なんだと? 異星人? 同士討ちじゃなかったのか?」
リョウは予想もつかぬ事を言われ、思わず聞き返した。
同士討ちと外部からの攻撃とでは辻褄が合わないのだ。
だが、その疑念はカレンがあっさり解いてくれた。
「その同士討ちが、異星人の仕組んだことだったの」
「……」
「当時の私も生き残った人も、テロリストか、人類終末論の狂信者によるハッキングを疑ってたわ。でも、その二日後にね、全長40キロメートルの巨大宇宙母艦がいきなり上空に現れて、多数の攻撃機とともに地上を攻撃し始めたの。その時になって、ようやくこの 惑星に何が起こったのかが分かったのよ。でも、もう何もかも手遅れだった。もともと科学力に大きな差があった上に、世界の軍事力は壊滅、人口の95パーセントが失われていたのよ。……ただ、彼らの目的は、侵略じゃなくて資源の強奪にあったの。それで、邪魔な先住民である人類を同士討ちで滅ぼし、軍事力を壊滅させてから、姿を現したというわけね。あんな船で恒星間航行ができる科学力を持つのだから、私たちのような文明のコンピューターに侵入するのもわけなかったでしょうし」
「ふーむ。資源というと、石油とか鉄鉱石とかか? まさかな?」
「違うわよ」
カレンは苦笑した。
「どうやら、地殻とマントルの境界面に、人類が知らなかった未知の鉱物が埋まっていたらしくてね、それを採掘しに来たのよ。上空から地殻に穴を開けて、トラクタビームで吸引するという荒っぽいやり方でね。そのせいでプレートが傷つけられて、各地で地震や、平地なのに火山が隆起したりしたわ。当時は平地だったこのあたりの地形が著しく変わったのもそのせいよ」
「なるほどな……で、そいつらはどうしたんだ?」
「さあ、私がカプセルに入った時はまだいたけど、この時代では伝承にすら記録が残っていないところを見ると、すぐに去ったのではないかしら。もともと、彼らの目的が資源の強奪だっただけなのでしょうから」
「まさに強盗に押入られたようなもんだな……。というか、あれほど人類が望んでいた異星人とのファーストコンタクトが強盗かよ。ひでえ話だな」
「リョウったらまたそんなこと言って」
彼の例えが面白かったのか、カレンが笑った。その笑顔は、当時のままだとリョウは思った。
そして、もう一つ確かめたかったことを彼女に問う。
「それで、お前はどうしてたんだ? あの惨劇をよく生きのびたよな」
基地やロザリアの記憶で見た映像を思い出す。人口数十万のケント市が完全に焦土になっていたのだ。
「ええ。あの日、兄さんを病院に連れて行ったのを覚えてる? 診察を受けたら即入院だったの。それで私は、一度実家に帰って泊まったのよ。すぐ近くだったから」
「そういや、そうだったな」
「それで、次の日の朝、近くの丘をジョギングしていたら、突然大きな爆発がいくつも起こって、街がミサイルで破壊されたのよ。たまたま私は街から離れていたから助かったの」
「そうか……」
そして、カレンはその後の様子を語った。
それから二、三ヶ月の間、彼女は、数百人の生存者と一緒に、廃墟となった別の基地に住んでいた。そこは地下施設がほぼ無傷で残っていたのだ。ところが、その基地が異星人の攻撃を受けた。一人、地下倉庫に逃げ込んだ彼女だったが、倉庫は半壊。生き残ったものの、瓦礫の中に閉じ込められてしまったのだ。
「基地は全滅して、もう誰も私を助けてくれるものはいなかった。たとえ、いたとしても、重機がなければ地下の瓦礫に埋もれている私を助ける手段がない。私は絶望したわ。このまま水も食料もなく、死んでいくだけ。その時、倉庫の中にコールドスリープカプセルがあるのを見つけたのよ」
「それで、眠りについたというわけか……。一人で目覚めたのか?」
「ええ、長年の間に隆起した後に土砂崩れがあって、カプセルが露出したのだと思う。一万年も経って最初は驚いたけど、近くの修道院に住まわせてもらったのよ。それから、一ヶ月ぐらいして、ようやくこの時代の生活も慣れて、あなたと兄さんを探し出したというわけよ」
「なるほどなあ」
「ただ、兄さんは……起こした直後に行方不明になったの。どうなったのか結局わからずじまいでね。それだけが心残りよ……」
そこで悲しげに言葉を切った。
「カレン……」
リョウは、もともとキースの話は避けるつもりでいたが、隠すことはできないと決めた。
「……実はな、そのことなんだが、俺はキースに会ったんだ」
「えっ」
カレンが驚きで言葉を失う。おそらく、死んだと思った兄の消息を、目覚めてまもないリョウから聞くとは思っていなかったのだろう。
「お前によけいな心痛をかけたくないから、あまり言いたくなかったんだが……」
カレンは、悲しげに微笑みながら言った。
「もう私は死んだ身よ、心痛なんて気にしないで。それより真実が知りたいの」
「分かった」
リョウは、キースがカレンの元から連れ去られた理由から始め、ベルグ卿として基地を探していたことや、リョウと戦って死に基地ごと吹き飛んだこと、そして、その直前にリョウがテレポーターを使ってアリシアを脱出させたことを告げた。
カレンは、黙ってじっと聞いていたが、彼が話し終わると大きなため息を付いた。
「そう……だったの。そんなことが……。でも、これで長い間の謎が解けたわ」
「俺も同じだ。お前の話を聞いて、おかげでいろいろ納得できたぜ」
「それに、テレポーターが完成したのね……」
「まあ、基地と一緒に吹き飛んだけどな。それに、この時代じゃ大した偉業じゃないみたいだし」
リョウが肩をすくめると、カレンが苦笑した。
「それは仕方ないわよ。ここではテレポートは珍しくないから。だけど、あの装置が娘の命を救うことになるなんて、当時の私には想像もできなかったわね」
「ああ。時の流れってのは不思議なもんだ。……とはいえ、まさか俺が眠った日にそんなことがあるとはな……」
それを聞いて、なぜかカレンが楽しそうな微笑みを浮かべた。
「本当に、タイミングとしては最悪だったわね。せっかく、次の日あなたにプロポーズしてもらえるはずだったのに」
「全くだぜ」
と相槌を打ってから気がついた。
「おい、ちょっと待て、何でそんなことお前が知ってるんだよ?」
「あら、違うの? プロポーズしてくれるはずだったんでしょ」
「い、いや、それは違わないが、なんでそれを知ってるんだ? キースから聞いたのか?」
「あら、兄さんも知ってたのね。違うわよ」
「じゃあどうやって分かったんだ?」
他の誰にも話さず、念には念を入れ、完璧なサプライズだったはずだ。
カレンは笑った。
「だって、あの数日前に一緒に食事に行ったの覚えてるかしら? あの時、リョウったら私の指ばかり見てるんですもの。しかも左手の薬指を何度も確認するみたいに。だから、きっと指輪をくれるんだって思ったの。でもサイズを私に直接聞けないから、リズに測らせてるのかなって」
「ぐっ」
リズに測らせていたことまで見抜かれ、言葉に詰まりながらも反論する。
「で、でも、それだけじゃプロポーズかどうかわからないじゃないか」
「そうね。私もその時は、単に指輪をプレゼントしてくれるだけかなって思ってたんだけど……」
「なら……」
言い返そうとするリョウをカレンは楽しそうに遮った。
「でもそれから2日後ぐらいからだったかしら。あなた、事あるごとに白衣のポケットに手を入れてもぞもぞしてたじゃない? だから、その指輪をポケットに入れてるのかなって。それだけじゃなくて、私の顔を見るたびに少し緊張していたし、話しかけても上の空だったし、それで、もしかしたらって思ってたのよ。それに、あなたなら、婚約指輪を持ち歩きそうだし」
「じゃあ何か? あの日、俺がBurlington Houseのディナーに誘った時は……」
「ええ。プロポーズされるんだってすぐ分かったわ。単に指輪をくれるだけなら、あんな高級レストランなんて行かないでしょ」
「うう」
「だから私、次の日を楽しみにしてたのよ」
「まいったな、全部お見通しだったのかよ……」
リョウは、髪をクシャクシャとかき回した。
「もう、そういうところ鈍いんだから」
「言葉もないよ」
リョウが参ったとばかり両手を上げると、カレンが嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ。いいのよ、そこがあなたの長所なのだから。……今も持ってる?」
「ああ。あの日、ポケットに入れたままカプセルに入ったからな」
「見せてもらってもいいかしら」
「もちろん」
指輪を上着のポケットから取り出し、手のひらに乗せて差し出した。
カレンが覗き込むようにして、それを見つめた。
「綺麗なサファイアね」
「ああ。お前には似合ってたはずだ」
「……」
カレンは悲しみと喜びの両方入り混じった表情で、しばらくの間その指輪を見つめた後、顔を上げた。
「……ねえ、もし、あなたがプロポーズしてくれていたら……私がどう返事してたか知りたい?」
「それは……」
「もし気になるなら、教えるわよ」
リョウは少しの間考え、そして首を横に振った。
「……いや、やめておくよ。目覚めた時はそればかり考えてたが、もう、こうなった以上虚しいだけだからな。それに……」
「そうだったわね。今は、アリシアがいるものね」
その言葉に、今度は思わず吹きそうになった。
「おいおい、何でそんなこと知ってるんだよ。さすがに洒落にならんぞ」
「別に魔道でもなんでもないわ。種を明かすと、さっき、私に報告しに来てくれたのよ。ね、アリシア?」
カレンが、リョウの後方に顔を向けて話しかけた。
振り返ると、そこには呆然と固まっているアリシアが立っていた。
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