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第23話 後進文明(2)
しおりを挟む「これはグスタフ殿」
リョウがテレポートに度肝を抜かれている間に、アルバートは来訪者たちに歩み寄り、最も位の高そうな人物に呼びかけた。
「ベルグ卿がお見えになるのは夕刻だと先触れがありましたが」
グスタフはいかにも高位の魔道士らしく、他の者たちより高級な黒のハーフローブを着ていた。年齢は五十才ぐらいで銀色の髪を短く刈り上げ、目付きが鋭くがっしりとした体格で、うかつに近づくと問答無用で斬られるような、何か近寄りがたいオーラを発していた。
「あの人がベルグ卿の副官で、テレポートの術者よ」
「へえ」
グスタフは、アルバートの声が全く耳に入ってこなかったかのように無視して、声を張り上げた。
「皆のもの。ベルグ卿の御成りである。控えるがいい」
アルバートたちと村人たちは、スロープから離れて、グスタフから少し距離をとって集まり、ひざを付く。アリシアたちも慌ててそれに従った。
「リョウも早く」
「お、おう……」
アリシアに促され、リョウもしゃがんで片膝をついた。
一同がひざまずくのを確認して、グスタフも空間の穴のそばに片ひざを付いて頭を垂れる。
「閣下」
するとすぐに、空中の穴から一人の男性が現れた。おそらくこれがベルグ卿だろうとリョウは察した。
(すげえ顔つきだな……)
ようやく、テレポート呪文の衝撃から立ち直り、ベルグ卿その人へと興味が移る。
ベルグ卿は中肉中背で五十代後半から六十代ごろのように見えた。すっかり灰色になった髪を肩まで伸ばし、貴族らしく上品な茶色のジュストコールを身につけている。
おそらく、顔の造作自体は端正な部類に入るであろう。しかし、刺すように鋭く冷たい目と、眉間に刻まれた深いシワ、さらには内なる怒りや不満、恨みに長年苛まれたものだけが持ちうる陰鬱な表情によって、周りを怯ませるような印象を与えていた。
しかも、どことなく病的な偏執を感じる。一体どんな人生を歩めば、このような人相になってしまうのか想像もつかないが、決してお近づきになりたくない類の人物であった。
ガイウスの言葉を思い出す。
『わしもいろいろな人間を見てきたつもりだが、あれほど、妄執にとりつかれた人間はみたことないな。よっぽど、恨みつらみがあるんだろうよ』
(あんな顔になるぐらいなんだ、よっぽど深い恨みなんだろうな)
それはそれで辛い人生だとリョウは思った。怨恨は相手だけでなく、自分をも蝕む。まさにベルグ卿がその証明であろう。
「閣下、おいで頂き、恐縮でございます」
前方ではアルバートが、ひざを付いたままベルグ卿に頭を下げ、言葉をかわしていた。
「アルバート、これまでの成果を見に来たぞ。棺から旧文明人を見つけたそうだな」
「はっ。それに、遺跡への扉を見つけました」
「なんと、それは誠か?」
ベルグ卿が驚いた声を上げた。
「は。ちょうど今、扉を開けて中に入る算段をつけておったところにございます」
「むう。扉はどこにある?」
「こちらでございます」
アルバートが立ち上がって、扉の方向を指し示しながら、案内しようとすると、ベルグ卿が手を振った。
「いや、かまわん。その方たちは控えておれ」
「は……」
そういい置いて、ベルグ卿は扉へのスロープに向かって歩き出す。グスタフとお付きの魔道士たちは当然のように、彼の後ろについていく。
なんとなくその一幕を見つめるリョウ。
だが、その時だった。
「ああっ!」
突如、予想だにしなかった理解と認識がリョウを襲った。
いきなり頭を殴られたかのような衝撃を受け、彼は反射的に立ち上がる。
(ウ、ウソだろ……)
リョウは、自分が看取した事実を受け入れきれない。
だが同時に、自分の理性とこの世界での経験がそれが現実だと告げている。
(まさか……)
(本当に……そんなことが……)
「リ、リョウ、どうしたの?」
アリシアが驚いた顔で隣から声を掛けてくる。だが、応える余裕は彼にはなかった。
「おい、貴様、卿の御前であるぞ。控えよ、無礼であろう!」
お付きの魔道士の一人がリョウに気がついて立ち止まり、彼を指差して、厳しい叱責の声を上げた。
「リョウ、立っちゃダメ。座って。不敬罪で捕まっちゃうわよ」
アリシアが焦った様子で彼の腕をつかんで、懸命に座らせようとするが、彼はそれどころではなかったのだ。
「どうしたのよ、一体。ねえ、リョウ? リョウ?」
アリシアが不安げに、横から何度も呼びかける。だが、リョウはそれに一切反応せず、ただひたすらベルグ卿の姿に見入っていた。
驚きの感情はもうない。むしろ、彼の姿を見て胸に迫ってくる悲しみと時の重みに流されそうになっていたのだ。
(どうして……こんな……。本当に……お前なのか……)
そして、痛切な声で、その名前を呼んだ。
「キース……」
この発掘の依頼者、ベルグ卿。
それは、カレンの兄であり自分の親友でもあった男の変わり果てた姿だったのだ。
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