『ウソカマコトカ(全9話)』

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ウソカマコトカ(6/9)

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  いつの間にかオレンジ色の夕陽は消え去り、部屋は薄暗くなり始めていた。

「あのー、で、この後……俺、……どうなる、感じ……?」

  夕闇が支配し始めた部屋の空気は、動かない身体と同様、じっとりと重たかった。
  湿った畳の匂いがする。

「口で詳しく説明します?」

「あ、いえ……結構です。ざっくりとで」

「ざっくりと……?  えっと……ざっくりとで、言うと――」

  神代は口元に手をやって、宙を見上げた。

「まあ先輩は……この後、――俺に犯されて、身体がめちゃくちゃになります」

  まあそりゃそうですよね、とでも言うように、神代は普通に言った。




  
  一瞬で、ぎゅんと視界と逆方向に意識が引っ張られた。
  息が止まる。
  すぐに戻った視界が船酔いのように揺れた。

  お、おう…………ふ……。

  まさか……とは思っていた。が、実際に聞くと、なかなかダメージ力のある響きである。
  一撃で意識がふっ飛んだ。





「いやあの……ムリムリムリムリ。えっ……それ、俺であってる?  ほんと……、俺じゃなくね?」

  慌てる俺とは対照的に、神代はずっとこちらを冷静に眺めていた。

「なあなあ、聞いて?  俺、男なんだわ……実は。ずっと前から。お前にちゃんと言ってなかったのは悪かった。謝る。ごめんなさい。そこまでバ……。とにかく俺、男の子なんで、すッ……!」

「知ってます。俺の前でこんなに性格の悪い女子はいません」

「じゃあ性格の良い女子とでも……」と言いかけて、はっとした。





「あっ、お、お前!  ちょっと待て!  待てッ!  彼女出来たっつってたよなあ!? 」

  自分のどこにそんな力が残っていたのか。ふざけんじゃねえとキレ気味に舌を巻いた。決して自分がフラれたからねたんでいる訳ではない。

  驚いた事に、その言葉に神代は明らかに動揺したようだった。

「いや彼女とやれやあ!  こういう事は!」

  言葉を失った神代の視線が、気まずそうに夕闇をすいすいと泳いだ。ここか、弱点は。

「自分から告白したって言ってたよなあ?  めちゃくちゃ可愛いって惚気のろけてたじゃねえかよッ!  いいのか?  泣くぞ?  彼女」

神代はうつむいたまま、黙り込んだ。





  こんなにモテる男が、自分から告白するほどの女がいるとは。世の中、上には上がいるんだなと感心した覚えがある。

  えへへと照れながら話す様子をみると、こんな奴でも案外ピュアな一面があるのだと思わせた。

  本気なのだろうと分かった分、早めにフラれて、こいつの落ち込む顔が見てえなと思った当時の自分を、俺は恥じた。

  今俺は、その彼女の存在に救われようとしている。

「フラれても俺のせいじゃないからな?」と冷たく言い放つと、神代はうつむいたまま、子供のように不貞腐れたような顔をした。もう一息だ。

「ってか、まじで犯罪だからな?  捕まるぞ?」

  すると神代は、ついに諦めたのか、はあっと大きく息を吐き出した。

  それから、まだ気まずそうな表情をして、腕を掻きながら、ぼそぼそと話し始めた。





「あの……、どうせ、先輩は覚えて無いと思うんですけど……」

「ん?」

「俺と先輩は、――もう付き合ってます」

「………。………はい?」

「酔っ払った先輩は、俺に口説き落とされて、もう俺の恋人なんです」

「……」

「もうキスも、させてくれたし……。ディープなやつとかも……。その先の結構、きわどいとこまでいってます、俺達……」





――俺、達…?





  衝撃的であった。

  ちらりともぎらない鮮やかな、どんでん返し。
  謎解きゲーなら一生終わらん。

  そして同時に、残された一筋の光。まだ見ぬ、アイドル級に可愛い神代の彼女は、木っ端微塵に崩れ去った。

  そうか……、そうだな。
  あの時、確かに「彼女」とは言わなかったか。

「彼女」じゃなくて、「恋人」だったのか。

  俺は妙に納得した。

  そして気がついた。

  とっくに、詰んでんじゃねえか、と。




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