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エルフの過去
11話 人間の国は超危険
しおりを挟む今私達が住んでいるエルフの里、その付近一帯が『トッド・ストール』通称(迷いの森)と呼ばれている。その隣に面している1番近い人間の国が『ヒドネルム・ペッキー』通称(ヒドネル帝国)、とても国土の広い国。
大婆さまに連れられて、私はこのヒドネル帝国の都市パロットに何度も降りている。パロットは冒険者の街で、一通りの地図は頭に入っている。ここまで、1人でも往復出来るくらいには慣れたつもり。
私ももうすぐ16歳、この世界では成人になる。だからここを出ていく事に決めたんだ。今その準備を進めている所。里の人達は相変わらず私を嫌っているみたいだし、大婆さまもその方がいいだろうってさ。
身体が大きくなるにつれて、周りの視線がどんどん冷たいものに変わっていくのを感じる。私の体がエルフより人間に近いのもあるかもしれない。最近では仕掛けておいた魚獲りの罠が壊されていたりと、些細な意地悪をされている事もある。
大婆さまは拠点を人間の国に移し、落ち着いたらこっそり顔を見せにおいでと言ってくれた。ここを出てもまた会えるんだ。それだけで、凄くホッとした。だって大婆様はもう、私の母親みたいなものだから。
大婆さまは私に惜しみなく生きる術を教えてくれた。それに、「アンタに教える事はもう無い!」って言って貰えたんだよね。難しくて複雑な魔法も、必死で練習したもんなぁ。
特に認識阻害の魔法、これは逃げ足の遅い私には必須の魔法だった。練度を上げる為に、危険なスラム街を何度も往復させられたっけ?本当にスパルタだったよ。だって失敗する度、破落度に路地裏に引っ張り込まれそうになったからね。大婆様は根気強くそれを回避する術も教えてくれた。
今のうちに、恩返しをしておかなくちゃね?
*****************
ビューと唸るような音を立てて、西から湿った風が吹いてきた。刈ったばかりの青い芝が突風に煽られて、空高くに舞い上がる。
「おや?なんだか雨が降りそうだね。エリン、今干してあるキノコを倉庫に仕舞っておくれ。」
「はーい!」
外に出ると、里の子供達も慌てて家路に着くようだ。駆け出したエルフの子とふと目が合った。あれは、ポルチーニの腰巾着で、双子の兄妹の『ジロール』と『モリーユ』かな?中心部に住んでる子がこんな里の端まで、何しに来たんだろう?
不意にポツ、ポツリと小さな雨粒が頬に当たった。
「わぁ!ヤバい!!急いで片付けないと!!」
洗濯紐にかかるシーツがパタパタとはためくのを横目に、まずは干からびたキノコを籠に突っ込んでいく。その後、急いでシーツを家の中に取り入れた。そこで、本格的に雨が降り出す。危なかった。
「おいエリン!草刈具が見当たらなかったぞ??」
ザーザーと降り頻る雨を軒先から眺めていると、手伝いをお願いしたピカロが、倉庫から戻って来た。
「え!?嘘!!草を刈ったら、自動で倉庫に戻るように設定してたのに?」
前世でお馴染み、円盤型の掃除機をリスペクトして作った、自動で草刈できる魔道具、『家の芝生が青い君 21号』。腰を痛めがちな大婆様の為に、拙い手書きの魔法陣をいくつも組み合わせて設計したのだ。
試運転の時は問題なかった、何度も試したのに。大きめの石ころに躓いたとか?急がないと、中に仕込んだ魔法陣が雨で濡れて壊れちゃうかも。
私はもうすぐいなくなる、だからあれは、大婆さまに絶対必要なのに。いったい、どこに行ったのよ!私は雨の中を駆け出した。
本降りの雨は、まるでバケツをひっくり返したみたいで、私は一瞬にしてびしょ濡れになってしまった。雨粒が目に入って来て、前が全然見えない。
「うわっ!?エリンこっちだ!!」
ピカロの側に駆けつけると、草刈機の無惨な姿が目に入った。
「嘘・・・。」
敷地外の路肩の溝にはまり込んで流されそうになっているのを無言で掬い上げる。機体には、蹴り上げられた様な凹みがあって、欠けた内部には泥水が入り込んでいた。
「チッ!なんだよコレ、酷い事するぜ・・。」
「ぐすっ。」
これさ。結構、お金も時間もかけて作ったんだよね。完成させるまで、3年もかかったし。必要な素材集める為に、大婆様や、ピカロにも協力して貰ったんだよね。私1人で作った訳じゃないのよ。私達の力作なのに。ホントヤダ!!凄く、悔しいよ。
「ずびっ。」
「元気出せよ。また、協力してやるからさ。」
「ぐしっ。。」
なんだか、全てが虚しくなって、ピカロの優しい言葉にも返事を返す事が出来なかった。私がエルフもどきだからいけないのかな?そんな、考えたって意味のない、無意味な問答を心の中で繰り返す。そして、つい、ぽつりと呟く。
「ひっく。わだじは、もどきだから・・」
「ケッ!!いいか、一度しか言わないからしっかり覚えておけよ!!お前は最強のエルフだ!なんたって、俺様が選んだ契約者なんだからな!」
「ぐずん。」
濡れた肌に風が当たり、ぶるぶると震えるほど寒いのに、少しだけ心がぽかぽかしだして、でもやっぱりどこか投げやりな気分で、そんな曖昧で土砂降りの中をピカロと2人、雨に濡れながらトボトボと家に帰った。
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