11 / 13
エルフの過去
11話 人間の国は超危険
しおりを挟む今私達が住んでいるエルフの里、その付近一帯が『トッド・ストール』通称(迷いの森)と呼ばれている。その隣に面している1番近い人間の国が『ヒドネルム・ペッキー』通称(ヒドネル帝国)、とても国土の広い国。
大婆さまに連れられて、私はこのヒドネル帝国の都市パロットに何度も降りている。パロットは冒険者の街で、一通りの地図は頭に入っている。ここまで、1人でも往復出来るくらいには慣れたつもり。
私ももうすぐ16歳、この世界では成人になる。だからここを出ていく事に決めたんだ。今その準備を進めている所。里の人達は相変わらず私を嫌っているみたいだし、大婆さまもその方がいいだろうってさ。
身体が大きくなるにつれて、周りの視線がどんどん冷たいものに変わっていくのを感じる。私の体がエルフより人間に近いのもあるかもしれない。最近では仕掛けておいた魚獲りの罠が壊されていたりと、些細な意地悪をされている事もある。
大婆さまは拠点を人間の国に移し、落ち着いたらこっそり顔を見せにおいでと言ってくれた。ここを出てもまた会えるんだ。それだけで、凄くホッとした。だって大婆様はもう、私の母親みたいなものだから。
大婆さまは私に惜しみなく生きる術を教えてくれた。それに、「アンタに教える事はもう無い!」って言って貰えたんだよね。難しくて複雑な魔法も、必死で練習したもんなぁ。
特に認識阻害の魔法、これは逃げ足の遅い私には必須の魔法だった。練度を上げる為に、危険なスラム街を何度も往復させられたっけ?本当にスパルタだったよ。だって失敗する度、破落度に路地裏に引っ張り込まれそうになったからね。大婆様は根気強くそれを回避する術も教えてくれた。
今のうちに、恩返しをしておかなくちゃね?
*****************
ビューと唸るような音を立てて、西から湿った風が吹いてきた。刈ったばかりの青い芝が突風に煽られて、空高くに舞い上がる。
「おや?なんだか雨が降りそうだね。エリン、今干してあるキノコを倉庫に仕舞っておくれ。」
「はーい!」
外に出ると、里の子供達も慌てて家路に着くようだ。駆け出したエルフの子とふと目が合った。あれは、ポルチーニの腰巾着で、双子の兄妹の『ジロール』と『モリーユ』かな?中心部に住んでる子がこんな里の端まで、何しに来たんだろう?
不意にポツ、ポツリと小さな雨粒が頬に当たった。
「わぁ!ヤバい!!急いで片付けないと!!」
洗濯紐にかかるシーツがパタパタとはためくのを横目に、まずは干からびたキノコを籠に突っ込んでいく。その後、急いでシーツを家の中に取り入れた。そこで、本格的に雨が降り出す。危なかった。
「おいエリン!草刈具が見当たらなかったぞ??」
ザーザーと降り頻る雨を軒先から眺めていると、手伝いをお願いしたピカロが、倉庫から戻って来た。
「え!?嘘!!草を刈ったら、自動で倉庫に戻るように設定してたのに?」
前世でお馴染み、円盤型の掃除機をリスペクトして作った、自動で草刈できる魔道具、『家の芝生が青い君 21号』。腰を痛めがちな大婆様の為に、拙い手書きの魔法陣をいくつも組み合わせて設計したのだ。
試運転の時は問題なかった、何度も試したのに。大きめの石ころに躓いたとか?急がないと、中に仕込んだ魔法陣が雨で濡れて壊れちゃうかも。
私はもうすぐいなくなる、だからあれは、大婆さまに絶対必要なのに。いったい、どこに行ったのよ!私は雨の中を駆け出した。
本降りの雨は、まるでバケツをひっくり返したみたいで、私は一瞬にしてびしょ濡れになってしまった。雨粒が目に入って来て、前が全然見えない。
「うわっ!?エリンこっちだ!!」
ピカロの側に駆けつけると、草刈機の無惨な姿が目に入った。
「嘘・・・。」
敷地外の路肩の溝にはまり込んで流されそうになっているのを無言で掬い上げる。機体には、蹴り上げられた様な凹みがあって、欠けた内部には泥水が入り込んでいた。
「チッ!なんだよコレ、酷い事するぜ・・。」
「ぐすっ。」
これさ。結構、お金も時間もかけて作ったんだよね。完成させるまで、3年もかかったし。必要な素材集める為に、大婆様や、ピカロにも協力して貰ったんだよね。私1人で作った訳じゃないのよ。私達の力作なのに。ホントヤダ!!凄く、悔しいよ。
「ずびっ。」
「元気出せよ。また、協力してやるからさ。」
「ぐしっ。。」
なんだか、全てが虚しくなって、ピカロの優しい言葉にも返事を返す事が出来なかった。私がエルフもどきだからいけないのかな?そんな、考えたって意味のない、無意味な問答を心の中で繰り返す。そして、つい、ぽつりと呟く。
「ひっく。わだじは、もどきだから・・」
「ケッ!!いいか、一度しか言わないからしっかり覚えておけよ!!お前は最強のエルフだ!なんたって、俺様が選んだ契約者なんだからな!」
「ぐずん。」
濡れた肌に風が当たり、ぶるぶると震えるほど寒いのに、少しだけ心がぽかぽかしだして、でもやっぱりどこか投げやりな気分で、そんな曖昧で土砂降りの中をピカロと2人、雨に濡れながらトボトボと家に帰った。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
俺、貞操逆転世界へイケメン転生
やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。
勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。
――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。
――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。
これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。
########
この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる