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欺瞞
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「えっ、ね、姉さん!?なんで、ここに……?」
「……もういいわ」
すごい剣幕で睨まれた。魔女狩りよりも恐ろしい……
姉さんはすぐにイケメンの方に向き直る。
「街中で堂々とこんなこと、よく出来たものね。私に殺される事は考えなかったの?」
「お前、誰?邪魔すんならさっきの奴みたいに……って、魔女様!これは失礼。こんなに上質なのが2人も、最高だ!」
そう言うと冷気が一気に強まる。息を吸うのが危険なほどに。
「姉さんまずいって!逃げなきゃ!」
「あんたは黙ってて」
イケメンがタンっと足を踏み鳴らすと、彼の周りに無数の氷の礫が現れた。暗い路地には眩しいくらいに輝いている。
「じゃあ、いただくとしようか!」
そう言い放つと、イケメンは掌をこちらへ向ける。それと同時に、氷の礫が勢いよく僕たちへと射出される。
「くっ!ーーーーっ!」
姉さんが透明な壁を展開し、なんとか防ぐことができたのだが、氷の礫は一向に止まない。それどころか、数も威力もどんどん増している。それに比例して冷気も強まり、寒さで満足に体を動かせない程になっていた。さらには……
「ーーっ!」
姉さんのては赤く腫れ上がっていた。手だけではない、顔やら足yら、露出している部分はどこも凍傷を負っていた。
「もうやめよう、早く逃げようって!」
「だから、あんたは黙ってて!」
これじゃああいつを倒せても、僕たちもただじゃ済まない。そう思っていた時……
ピシッ、と亀裂の入る音がした。姉さんの壁が悲鳴を上げたのだった。数分どころか、これじゃあ数秒も……
その音を聞くや否や、イケメンはすぐに氷槍を構え、礫ラッシュを維持したまま亀裂目掛けて突き進んでくる。
「壁がこんなに丈夫だとは思わなかったよ。でもこれで……!」
……終わる。壁は貫かれて姉さんは串刺しにされる。せっかくまた会えたのに!大好きで大切なのに!なんでまた目の前で……嫌だよ……
ぎゅっと目を瞑る。姉さんが死ぬ瞬間なんて見たくない。
「魔女を……舐めないで」
次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が辺りを襲った。氷の礫は消し飛び、壁や地面はばらばらと崩れ、土煙が舞う。そして、どさり、と音がした。
「姉……さん。僕のせいで………ごめんなさい」
「馬鹿なこと言ってないの」
「ーー!?」
姉さんはさっきの攻撃で……?さっきの倒れるような音は……?
少しづつ視界が晴れていく。やがて姉さんの姿がはっきりと見えた。片膝を地面につけて立っていた。息を切らし、傷を負いながらも、確かにそこにいた。
「姉さん!よかったよぉぉおおおおお!!!」
「安心してる場合じゃないでしょ」
姉さんは張り詰めた様子で一点を見つめる。その先には、だらしなく垂らした右腕を押さえながら立つイケメンが。右半身はひどく血に塗れ、目も当てられない。立っているのが不思議なほどだった。
「マジかよ、反射魔法なんて実在すんのかよ」
少し狼狽したが、すぐに先程までの調子に戻し、
「いや、さすが魔女様。絵本の中の魔法を使ってくるなんて。さすがに部が悪いから出直すよ」
「逃さない!」
背をむけ飛び去るイケメンに、姉さんが放った風の刃が襲いかかる。……はずだったが、魔力を使いすぎたせいで、刃はすぐに霧散した。
完全に奴を見失い落胆する姉さんの後ろで、僕は安堵のため息をついた。
しかし、ようやく訪れた平安もすぐに去った。
僕は背中を壁に打ち付けられた。どんっという衝撃が頭に響く。
「何やってんのよ、あんたは!」
姉さんは僕の肩に掴みかかり、鬼の形相でこちらを睨んでいる。
「何って、えっと。仕事帰りにあの人に出会って、お金渡したらいらないって言って……」
「そんなこと聞いてないわ。あんたは関係ない人まで巻き込んだよ?良い人が危うく死ぬところだったんだよわかってるの!」
やっぱり。やっぱりあの悲鳴はそうだったのか。でも僕が善良な市民を巻き込んだ加害者だとは思いたくなかった。でも、現実は……
「だけど!僕だって怖かったんだよ。逃げなきゃ死ぬって。…………」
「逃げても死んでたでしょうに」
逃げなかったら死ぬ。逃げたら他の人を巻き込んで死ぬ。じゃあ、もう一体どうすれば……
姉さんは、心の声を聞いていたかのように、静かに答える。
「戦いなさい。戦ってあいつらを滅ぼすのよ。それが母さんの望みでしょ」
でも、と口を開こうとしたが、肩に伝わる振動がそれを阻んだ。肩を掴む姉さんの手が震えている。手だけではない。顔も、体も、足も、全身が震えている。まるであの悲劇の夜の時ように。
姉さんも怖いんだ。イケメンが去ってからも震えが止まらないまでに。
方法は間違ってる気がするが、それでも母さんが死んだ事件に向き合うため、戦っているんだ。
それに比べて僕は……
「いたぞ!あの子だ!」
「おいそこの女!その子から離れろ!」
姉さんは、遅すぎる登場を果たした衛兵さんたちに取り押さえられてしまいました。
「……もういいわ」
すごい剣幕で睨まれた。魔女狩りよりも恐ろしい……
姉さんはすぐにイケメンの方に向き直る。
「街中で堂々とこんなこと、よく出来たものね。私に殺される事は考えなかったの?」
「お前、誰?邪魔すんならさっきの奴みたいに……って、魔女様!これは失礼。こんなに上質なのが2人も、最高だ!」
そう言うと冷気が一気に強まる。息を吸うのが危険なほどに。
「姉さんまずいって!逃げなきゃ!」
「あんたは黙ってて」
イケメンがタンっと足を踏み鳴らすと、彼の周りに無数の氷の礫が現れた。暗い路地には眩しいくらいに輝いている。
「じゃあ、いただくとしようか!」
そう言い放つと、イケメンは掌をこちらへ向ける。それと同時に、氷の礫が勢いよく僕たちへと射出される。
「くっ!ーーーーっ!」
姉さんが透明な壁を展開し、なんとか防ぐことができたのだが、氷の礫は一向に止まない。それどころか、数も威力もどんどん増している。それに比例して冷気も強まり、寒さで満足に体を動かせない程になっていた。さらには……
「ーーっ!」
姉さんのては赤く腫れ上がっていた。手だけではない、顔やら足yら、露出している部分はどこも凍傷を負っていた。
「もうやめよう、早く逃げようって!」
「だから、あんたは黙ってて!」
これじゃああいつを倒せても、僕たちもただじゃ済まない。そう思っていた時……
ピシッ、と亀裂の入る音がした。姉さんの壁が悲鳴を上げたのだった。数分どころか、これじゃあ数秒も……
その音を聞くや否や、イケメンはすぐに氷槍を構え、礫ラッシュを維持したまま亀裂目掛けて突き進んでくる。
「壁がこんなに丈夫だとは思わなかったよ。でもこれで……!」
……終わる。壁は貫かれて姉さんは串刺しにされる。せっかくまた会えたのに!大好きで大切なのに!なんでまた目の前で……嫌だよ……
ぎゅっと目を瞑る。姉さんが死ぬ瞬間なんて見たくない。
「魔女を……舐めないで」
次の瞬間、轟音と共に凄まじい衝撃が辺りを襲った。氷の礫は消し飛び、壁や地面はばらばらと崩れ、土煙が舞う。そして、どさり、と音がした。
「姉……さん。僕のせいで………ごめんなさい」
「馬鹿なこと言ってないの」
「ーー!?」
姉さんはさっきの攻撃で……?さっきの倒れるような音は……?
少しづつ視界が晴れていく。やがて姉さんの姿がはっきりと見えた。片膝を地面につけて立っていた。息を切らし、傷を負いながらも、確かにそこにいた。
「姉さん!よかったよぉぉおおおおお!!!」
「安心してる場合じゃないでしょ」
姉さんは張り詰めた様子で一点を見つめる。その先には、だらしなく垂らした右腕を押さえながら立つイケメンが。右半身はひどく血に塗れ、目も当てられない。立っているのが不思議なほどだった。
「マジかよ、反射魔法なんて実在すんのかよ」
少し狼狽したが、すぐに先程までの調子に戻し、
「いや、さすが魔女様。絵本の中の魔法を使ってくるなんて。さすがに部が悪いから出直すよ」
「逃さない!」
背をむけ飛び去るイケメンに、姉さんが放った風の刃が襲いかかる。……はずだったが、魔力を使いすぎたせいで、刃はすぐに霧散した。
完全に奴を見失い落胆する姉さんの後ろで、僕は安堵のため息をついた。
しかし、ようやく訪れた平安もすぐに去った。
僕は背中を壁に打ち付けられた。どんっという衝撃が頭に響く。
「何やってんのよ、あんたは!」
姉さんは僕の肩に掴みかかり、鬼の形相でこちらを睨んでいる。
「何って、えっと。仕事帰りにあの人に出会って、お金渡したらいらないって言って……」
「そんなこと聞いてないわ。あんたは関係ない人まで巻き込んだよ?良い人が危うく死ぬところだったんだよわかってるの!」
やっぱり。やっぱりあの悲鳴はそうだったのか。でも僕が善良な市民を巻き込んだ加害者だとは思いたくなかった。でも、現実は……
「だけど!僕だって怖かったんだよ。逃げなきゃ死ぬって。…………」
「逃げても死んでたでしょうに」
逃げなかったら死ぬ。逃げたら他の人を巻き込んで死ぬ。じゃあ、もう一体どうすれば……
姉さんは、心の声を聞いていたかのように、静かに答える。
「戦いなさい。戦ってあいつらを滅ぼすのよ。それが母さんの望みでしょ」
でも、と口を開こうとしたが、肩に伝わる振動がそれを阻んだ。肩を掴む姉さんの手が震えている。手だけではない。顔も、体も、足も、全身が震えている。まるであの悲劇の夜の時ように。
姉さんも怖いんだ。イケメンが去ってからも震えが止まらないまでに。
方法は間違ってる気がするが、それでも母さんが死んだ事件に向き合うため、戦っているんだ。
それに比べて僕は……
「いたぞ!あの子だ!」
「おいそこの女!その子から離れろ!」
姉さんは、遅すぎる登場を果たした衛兵さんたちに取り押さえられてしまいました。
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