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告白
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明美と圭太は並んで座り、手を合わせた。
「明子、私たち、結婚することになったよ。祝福してくれる?」
明美は目を閉じ、目の前の仏壇に飾られた写真に、静かにそう語りかけた。
写真の女性は、明美にとてもよく似ている。
「生まれるときは一緒だったのに、どうして明子だけ、こんなに早く逝ってしまったんだろう」
明美はしんみりとそう漏らすと、目を開け、少し、圭太の方に体を向けた。
「ここでひとつ、二人に告白します!」
一変して、明美の声が明るくなっている。
圭太が目を開けて明美の方を見ると、目が合った明美は、少し照れくさそうに笑った。
「本当は私、ずっと、圭太のことが好きでした。幼馴染だったし、圭太は私じゃなくて、明子のほうが好きなんだと思ってたから、言えなかったんだ。だから、あの日、駅前で告白してくれたのは、すっごいうれしかったよ」
明美の満面の笑み。
圭太は、それに応えるように微笑んだ。
「明美ー、ちょっと来てー」
「はーい」
キッチンから母親に呼ばれ、明美は返事をしながら席を立った。
「なーにー?」
大きな声でそう言いながら、部屋を出て行く。
明美がいなくなると、圭太は仏壇に向き直った。
明るく笑う写真の明子に、胸が痛む。
あの日、圭太は子供のころからの思いをとうとう打ち明けようと、駅前に走っていた。
『7時に、駅前に来てほしい』
メールには、それだけ書いて送ってあった。
なのに。
そんな日に限って、仕事が長引いた。
待ち合わせに遅れそうだった。
全力で走った。
雪がちらつきそうなほどの寒い日で、冷たい空気で胸が痛かった。
会ったら、その瞬間に言おう。
第一声で言おう。
間を置くと、またためらってしまうに決まっている。
走っている間中、圭太はそのことで頭がいっぱいだった。
午後七時の駅前は、帰宅する人や待ち合わせをしている人で、ごった返していた。
行きかう人の中に、圭太はその姿を見つけた。
時刻は、午後七時ちょうど。
ギリギリ間に合った。
圭太は、見慣れた背中の腕を、ぐいっと引っ張った。
「好きだ!」
息を切らせながら精いっぱい言った。
――やっと言った! やっと言えた‼
心臓が、信じられないほどバクバクしていた。
息が、できない。
振り返った背中は、目を真ん丸にしていた。
その顔を見て、一瞬で圭太の表情は凍り付いた。
「明美…」
なんて言われるだろう。
なんて言ったら、いいんだろう。
必死に言い訳を考えている目の前で、明美の表情はぱっと満面の笑顔に変わり、圭太に抱きついてきた。
明美は何か言っていたが、圭太には聞こえなかった。
時が止まったようだった。
駅前の人たちは皆、そんな二人など気にもかけず、大通りのほうを見ていた。
近づいて来る救急車の音。
ガヤガヤとした人だかり。
交通事故らしかった。
まさかその中心にいたのが、明子だったなんて…。
明子の遺品となったスマートフォンには、圭太からの『7時に、駅前に来てほしい』というメールが残されていた。
圭太は、仏壇の明子の写真を見つめた。
「僕も告白するよ。僕は、明子のことが、ずっと好きでした」
「明子、私たち、結婚することになったよ。祝福してくれる?」
明美は目を閉じ、目の前の仏壇に飾られた写真に、静かにそう語りかけた。
写真の女性は、明美にとてもよく似ている。
「生まれるときは一緒だったのに、どうして明子だけ、こんなに早く逝ってしまったんだろう」
明美はしんみりとそう漏らすと、目を開け、少し、圭太の方に体を向けた。
「ここでひとつ、二人に告白します!」
一変して、明美の声が明るくなっている。
圭太が目を開けて明美の方を見ると、目が合った明美は、少し照れくさそうに笑った。
「本当は私、ずっと、圭太のことが好きでした。幼馴染だったし、圭太は私じゃなくて、明子のほうが好きなんだと思ってたから、言えなかったんだ。だから、あの日、駅前で告白してくれたのは、すっごいうれしかったよ」
明美の満面の笑み。
圭太は、それに応えるように微笑んだ。
「明美ー、ちょっと来てー」
「はーい」
キッチンから母親に呼ばれ、明美は返事をしながら席を立った。
「なーにー?」
大きな声でそう言いながら、部屋を出て行く。
明美がいなくなると、圭太は仏壇に向き直った。
明るく笑う写真の明子に、胸が痛む。
あの日、圭太は子供のころからの思いをとうとう打ち明けようと、駅前に走っていた。
『7時に、駅前に来てほしい』
メールには、それだけ書いて送ってあった。
なのに。
そんな日に限って、仕事が長引いた。
待ち合わせに遅れそうだった。
全力で走った。
雪がちらつきそうなほどの寒い日で、冷たい空気で胸が痛かった。
会ったら、その瞬間に言おう。
第一声で言おう。
間を置くと、またためらってしまうに決まっている。
走っている間中、圭太はそのことで頭がいっぱいだった。
午後七時の駅前は、帰宅する人や待ち合わせをしている人で、ごった返していた。
行きかう人の中に、圭太はその姿を見つけた。
時刻は、午後七時ちょうど。
ギリギリ間に合った。
圭太は、見慣れた背中の腕を、ぐいっと引っ張った。
「好きだ!」
息を切らせながら精いっぱい言った。
――やっと言った! やっと言えた‼
心臓が、信じられないほどバクバクしていた。
息が、できない。
振り返った背中は、目を真ん丸にしていた。
その顔を見て、一瞬で圭太の表情は凍り付いた。
「明美…」
なんて言われるだろう。
なんて言ったら、いいんだろう。
必死に言い訳を考えている目の前で、明美の表情はぱっと満面の笑顔に変わり、圭太に抱きついてきた。
明美は何か言っていたが、圭太には聞こえなかった。
時が止まったようだった。
駅前の人たちは皆、そんな二人など気にもかけず、大通りのほうを見ていた。
近づいて来る救急車の音。
ガヤガヤとした人だかり。
交通事故らしかった。
まさかその中心にいたのが、明子だったなんて…。
明子の遺品となったスマートフォンには、圭太からの『7時に、駅前に来てほしい』というメールが残されていた。
圭太は、仏壇の明子の写真を見つめた。
「僕も告白するよ。僕は、明子のことが、ずっと好きでした」
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