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しおりを挟む「はいっ」
と返事をしたが、思わず声が裏返った。
「開けてもいいか?」
と訊かれ戸惑いを隠せず、あたふたしてしまう。
まさか、リュウが来るとは思わなくて面食らい、しばらく黙っていた。
「アヤ様、イナリです。リュウ様が謝りたいそうなので、開けてもよろしいでしょうか?」
……!?
イナリもいることに、さらに驚いた。
リュウが謝りたい? なんで?
謝るのはむしろ僕のほうだろう。
僕は女装してリュウを騙した。
それなのに、身体検査されたぐらいで、僕はなにを怒っているんだ?
最低だ、僕は……。
「謝りたいのは僕のほうです」
僕がそういうと、襖が開かれた。
リュウが立っていた。横にはイナリが座っている。
一歩進み、リュウが部屋に入ると、イナリは襖を閉めた。
あとは二人で話せということだろう。
ありがとうイナリ、と心のなかで感謝をする。
リュウは美しい庭園を眺めながら口火を切った。
「客室から眺める庭園も見事なものだな」
はい、と僕は答え、リュウの横顔を眺めた。
彼はいつも余裕があり、自信満々でナルシスト、僕のことを守ってくれて、風のようにさわやかに笑う。
「アヤ、さっきはすまなかった」
リュウは深々と頭をさげる。
ドキッとした。
大人の男性から素直に謝られたことがなくて、ドキッと心臓が飛び跳ねた。
なに、この感情は?
黙ったままの僕は、ドキドキして胸が高鳴っている。ゆっくりと頭をあげたリュウは、さらに言葉を紡いだ。
「アヤのことが好きなあまり、つい執拗に手を出してしまった。許してくれ……」
いえ、と僕はささやきながら、一歩だけリュウに近づいた。
「僕のほうこそごめんなさい。早く男だと明かしていればよかったのですが、リュウさんを騙してしまいました……」
「あはは、それは違うな」
「え?」
「たとえ、早い段階で男だと明かされても、俺は君のことを信用できず手を出していただろう」
「たしかに……。あれは、執拗な身体調査だったと思います」
「あはは、すまなかった。とにかく、今回は手を出した俺が悪い。許してくれ、この通りだ」
リュウはまた頭をさげた。
背の高い男性が自分の目線より下にある。
なんなんだ、この湧き上がる高揚感は?
この感情はまさか、快感? 僕ってサドなのか?
「リュウさん、もういいから頭をあげてください。僕も悪いですから、おあいこってことでどうですか?」
「俺を許してくれるのか?」
「許すもなにも、僕はリュウさんの生贄じゃないんですか?」
「そうだが、もう生贄というのは違う」
「そうだった、もう違いましたね。僕は男なので生贄にはなれません。人間界に帰ります」
さようなら、と告げた僕は、リュウの横を通りすぎて歩く。
その瞬間、リュウに腕をつかまれた。
なにをするの?
と思い、眉をひそめてリュウの顔をにらんだ。
彼は真剣な眼差しを僕に向けている。
「アヤ、聞いてくれ、違うのだ」
「……なんですか?」
「君が男だろうと女だろうと、もはや関係がない。生贄という概念もない。君は自由だ、いつでも人間界に帰っていいし、来たいとき獣人旅館に来たらいい」
「リュウさん……?」
「ああ、俺は君が好きだ、アヤ」
「……!?」
リュウの告白は、目には見えない力がある。
僕は彼の腕のなかに包まれ、強く抱きしめられた。
苦しい、胸が痛い、だけどなぜか温かくて優しくて、心地いい。
「リュウさん……」
「アヤ……」
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