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26 サイドクエスト 砂の告白 2
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[ シムクル砂漠 ]
カルドスと俺は砂漠に残る足跡を追っていた。
愛する女性を助けるため、覚悟を決めた男はダガーを握り締めている。だが、気になることがあるんだよな。
「シュリル……必ず助ける!」
「あの~カルドス?」
「なんだ?」
「シュリルは君の彼女? 婚約者とか?」
「いや、僕は宿屋で働いているだけで、シュリルとはそのような関係では……」
「ふーん、じゃあ片思いか?」
「ぼ、ぼ、僕のような容姿でシュリルに恋をするなんて……できない」
「じゃあ、なんで助けようとする? ダガーまで装備して」
「僕は、僕は……」
カルドスは下を向いた。
太った体、背も低い、顔はジャガイモ、はっきり言ってカルドスの見た目は悪い。
ああ、すごく気持ちがわかる。
好きな女性はいるけど、自分とは絶対に付き合えない。好きになる資格なんてない。俺のことを好きになるわけがない。そうやって容姿が悪いからと言って、自分から諦めてしまうよな。うんうん。
「カルドス……君の気持ちすごくわかるーっ!」
「え?」
「シュリルを救おう! そして男は見た目じゃなくて中身だって証明しよう!」
「は、はい……」
俺、ゲームの世界だと行動力あるかも。
カルドスの背中を押して、砂漠に残された足跡を追う。お! だんだん足跡がしっかり見えてきたぞ。
「ん? あれか……」
可哀想に。
シュリルは歩けなくなったのだろう。三人の男たちが緊縛した彼女を担いで運んでいる。カルドスは怒った。
「ぶっころす!」
急に駆け出そうとするので止めた。
「待て!」
「邪魔をするな! あんたも刺すぞ!」
「シュリルを助けるもっといい方法がある」
「なんだそれは?」
「生贄としてシュリルが独りになってから助けるんだ」
「でもそうしたら蛇神様に食べられてしまうぞ?」
「大丈夫だ」
「え?」
「ヘビは俺がぶっ倒す!」
は? とカルドスは愕然とした。
俺の言った言葉が信じられないようだが、なんとかサボテンの裏に隠れてくれた。
「あなたは何者だ?」
「俺は土魔法使いのツッチー」
「ツッチー……」
「それにしても、シュリルをどこに連れて行くのだろう……まさかエッチなことされるんじゃ?」
「ぶっころす!」
「まぁ、まて……カルドス」
俺たちは見つからないように追跡する。
そして生贄の場所が判明した。遺跡だった。男たちは迷わず王の墓に向かう。シュリルを棺の上に寝かせ、何やら言っている。
「伝承ではここで蛇神様が食事をするらしい……」
「許してくれシュリル」
「砂漠の民のため犠牲となるのだ……」
シュリルは黙って涙を流す。
すぐに助けたい気持ちを抑え、俺とカルドスは半壊している壁に隠れた。しばらくして男たちは遺跡から出ていく。よし、今だ! カルドスは駆け出した。
「シュリル!」
「カルドス! どうしてここに?」
「助けに来ました」
カルドスは縄を切った。
シュリルは緊縛から解放されたが、座ったまま立ち上がらない。
「カルドス……いいの、わたしは生贄になるわ……そうしないとみんなが死んでしまう……」
カルドスはシュリルの手を握る。
二人は見つめ合った。
「それなら僕もいっしょに生贄になります!」
「だめよ! カルドスは生きて……」
首を横に振るシュリル。
振られたか……。いや、まだだ! カルドスはさらに強く彼女の手を握った。
「シュリルがいなきゃ、生きていても意味がない!」
「……!?」
「シュリルのことが好きなんです!」
二人は抱きしめ合う。
よし、告白は成功したようだ。しかし問題はこれからだ。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
半壊したピラミッドがさらに崩れ、急に空が暗くなる。巨大なヘビが太陽を隠し、ギロッとこちらを睨んでいた。死の恐怖が迫り、戦闘状態になる。
[ ボスディザネーク ]
こいつは蛇ではない。
砂の龍だ。鋭い牙、長いヒゲ、砂漠の遠くまで尻尾が伸びている。
ドゴッ!
圧倒的な破壊力だ。
ボスディザネークは体当たりして遺跡の壁を壊していく。腹を空かせているのだろう。ダラダラと口から胃酸を吐き出しながら、シュリルとカルドスを食おうと襲いかかる。
どうやって戦えばいい?
考えろ、考えろ……。もしもヴェリタスなら、必殺技で先制攻撃するだろう。もしもマクドなら、盾で防御しながら急所を狙うだろう。
「俺なら……土魔法だ!」
ムルスを詠唱した。
回転する茶色の魔法陣。岩の壁を作り、シュリルとカルドスを囲って守る。しかし意味がない。ボスディザネークは体当たりで壁を破壊した。
おびえる二人が露出された。
しかし抱き合ったまま逃げようとしない。くそっ、それならこうだ! 鉄槌のメイスを振り上げて、
「グラウィ!」
を詠唱した。
重力が増加する。手の中にあるメイスがすごい勢いで落下し、ボスディザネークに35,500のダメージを与えた。
かなり効いたようだ。
敵のHPが横帯グラフで表示されているのだが、4分の1ほど減った。大蛇の魔物はぎろりと目を光らせ、獲物を俺に変える。
「よし! こっちだ!」
遺跡から離れた。
二人が食われたらクエスト失敗だ。猛ダッシュして何もない砂漠で立ち止まる。よし、ボスディザネークは俺を食おうと追いかけてきたぞ。ふぅ……意識を集中させてから、いっきに魔力を放出する。
「グラウィヌーラ!」
重力が減少する。
砂漠の砂や石が、ふわふわと宙を舞う。高く、高く、ボスディザネークよりもさらに高く……よし、やつの頭上より高くまで浮かせたぞ。
シャー!
大きく口を開けるボスディザネーク。
俺は肩の力を抜いた。両手を広げて降参のポーズをとる。
「さあ、食えるものなら食ってみろ……」
眼前に大蛇の口が迫る。
ふっ、笑えるくらい油断してるな。魔法レベル64を舐めんなよ。
「ルペス! グラウィ!」
連続で土魔法を詠唱した。
一瞬で砂と石が凝集されて岩となり、加速度的に増える重力によって落下する。
ガツン!
見事、ボスディザネークの頭に命中。
40,000のダメージを与え、バタッと倒れた。あたりいっぱいに砂埃が舞いあがる。
「やった!」
ダウン状態の敵を攻撃すればクリティカルヒットで大ダメージを与えることができる。ヴェリタスの必殺技とまではいかないが、俺の鉄槌のメイスはめちゃ重いぜ!
「くらえぇぇぇ! グラウィー! グラウィー! グラウィぃぃぃぃ!」
ボスディザネークの顔面に、ボッコボッコと追加で重力的な物理攻撃を与えていく。
12,000
8,000
5,000
あれ?
ダメージが減少している。ん? 鉄槌のメイスをよく見ると、バキバキに亀裂が入って……あ! 壊れた。ふとヴェリタスの言葉を思い出す。
『三日月宗近のメンテナンスをしたいので……』
なるほど。
武器には耐久性があって、使いすぎると壊れるのか。実戦で良い学習ができたが、敵はそんなこと関係ない。ボスディザネークは息を吹き返した。ものすごい勢いで体当たりしてくる。
「っぶねー!」
かろうじて避けた。
黒装束ナイトメアを装備しているおかげだろう。すばやさが上がり、回避能力がアップしている。俺のレベルは9だけど、装備品でカバーしているってことだな。だが、それだけじゃあ勝てない。あとは泥臭くやるしかないな……。
「げ……魔力が底をついた……あとは逃げながらハンドガンで攻撃しよう」
ボスディザネークの体当たりを避けながら、バンバンと銃で反撃する。
120
100
80
ダメだ。与えるダメージが少ない。
それに敵の攻撃を避けながら銃を撃つの、むずかしい。接近しないと当たらないし、接近しすぎたら体当たりされてゲームオーバーだ。
「ちっ……強いな」
離れたところから銃を撃つ。
しまった。外しまくった。あ、残りの弾が10しかない。あっという間になくなるぞ。もっと弾を作っておくべきだった。どうしよう……考えろ、考えろ……。
「あ! 毒粉だ!」
急いで弾に毒粉をかけて装填。
よし、作業をやめて、銃を構える。あれ? ボスディザネークがいない! 砂漠のなかに隠れたか……大地が揺れている。
「ふぅ、冷静になれ……そうだ、この隙に魔力を回復しておこう」
遺跡に向かって走りまくる。
たしか遺跡のなかに、魔力のエレメントがあったはず。あった! 緑色に光る結晶に触れる。
[ 魔力が全回復しました ]
よし、勝てる!
と思ったが甘かった。信じられない光景が遠くの砂漠で見える。ボスディザネークが空に向かって上昇し、隕石のように落下していく。まさに砂の龍だ。
ドゥン……!!
重低音が波動となって響く。
世界が暗くなる。迫りくるのは砂の大津波。やば……本当にヤバいと声を失う。遺跡だけじゃない。ワステタの街まで飲み込むほどの高さだ。ふふふ、面白い。想像できるぞ。街で恐怖におびえる住民や老婆の滑稽な姿が。ざまぁ。
「きゃぁぁー!」
「ぐおっ」
カルドスはシュリルの前に立つ。
砂埃から彼女を守っているのか。お? シュリルの顔が赤いぞ。うぉー、ラブラブじゃん。もう一生守ってやれよ、コノヤロー!
ゴゴゴゴゴ……
あ、いかん。
砂の大津波が迫っている。でもまぁ、ちょうどいいや。魔力は怒りで増強する。
「うおぉぉぉぉぉおおお! 俺も彼女が欲しいぃぃぃぃぃぃぃ……ルペス!」
俺のなかに眠る魔力が爆ぜる。
世界が明るく光り、砂の大津波は石化していた。まるで巨人から守る壁が砂漠地帯に完成。カルドスとシュリルは唖然としていた。
ぱちん!
俺は指をはじいてルペスを解除。
土魔法は解けて、静かな砂漠に戻る。いつもと変わらない乾いた風が吹くなか、砂の龍が現れた。
「これで終わりだ……」
バン!
銃を撃った。
ボスディザネークの顔面に命中。HPがじわじわと減っていく。毒に犯された魔物の末路は、死あるのみ。倒れ、激しく暴れだす。
「苦しい……苦しい……腹が減って苦しい……」
ん? なんだ?
不気味な低い声が聞こえてきた。カルドスは、「僕じゃない」と首を横に振る。まさかシュリル?
「わたしじゃありません」
だよね。
ということはボスディザネークの声か? しかし毒で削られたHPはすでに底を尽きている。死んでないのか? と疑った瞬間、ボスディザネークは光り輝いた。
「な、なんだ?」
ちっさ!
なんとボスディザネークは小型化していた。砂漠には大きなヘビの抜け殻が、カラカラと風に吹かれている。
[ サイドクエスト 砂の告白 クリア ]
経験値と戦利品をゲット。
俺のレベルは10になり、砂龍の皮を手に入れた。おまけに可愛らしい爬虫類が、俺に懐いたようだ。
「はらへった! はらへった!」
今度は可愛らしい高い声だ。
はっきりと聞こえる。手のひらサイズの小さいヘビが話しているのだ。すると、膝をついたシュリルが声をかける。
「蛇神様ですか?」
「そうだ! 飯をよこせ! 肉が食べたい!」
「それなら街に戻って食事を……」
いや、と俺は言ってシュリルを止めた。
「その必要はない」
「あなたは?」
「俺はカルドスの友達さ」
「友達……」
「さあ、みんなでキャンプをしよう」
「え?」
「カルドス! このテントを作ってくれ、俺は料理をするから」
「わ、わかった……」
アイテムボックスを開く。
薪、ライターを取り出し、ぱちぱちと焚き火を起こす。料理はスピードが命。上質な牛肉を塩こしょうで味付け。にんにくを入れた鉄の鍋に油をひいて肉の表面をこんがり焼き、取り出し、肉を休ませ、また焼く、を繰り返す。
残った肉汁は捨てない。
たまねぎのみじん切り、つぶしたトマトをくわえて煮込む。さあ、ソースをかけて完成だ。
「ああん、なんていい香り」
「うまそ……」
「はやく食わせろ!」
そう、がっつくな。
シュリル、カルドス、ヘビは俺の料理に夢中だ。
「お待たせ、レアステーキのオニオントマトソースだ!」
いただきます!
と、声をあげる俺たちはキャンプを楽しんだ。西の空に夕日が沈み、遺跡も砂漠の街も赤く染まって見えた。
カルドスと俺は砂漠に残る足跡を追っていた。
愛する女性を助けるため、覚悟を決めた男はダガーを握り締めている。だが、気になることがあるんだよな。
「シュリル……必ず助ける!」
「あの~カルドス?」
「なんだ?」
「シュリルは君の彼女? 婚約者とか?」
「いや、僕は宿屋で働いているだけで、シュリルとはそのような関係では……」
「ふーん、じゃあ片思いか?」
「ぼ、ぼ、僕のような容姿でシュリルに恋をするなんて……できない」
「じゃあ、なんで助けようとする? ダガーまで装備して」
「僕は、僕は……」
カルドスは下を向いた。
太った体、背も低い、顔はジャガイモ、はっきり言ってカルドスの見た目は悪い。
ああ、すごく気持ちがわかる。
好きな女性はいるけど、自分とは絶対に付き合えない。好きになる資格なんてない。俺のことを好きになるわけがない。そうやって容姿が悪いからと言って、自分から諦めてしまうよな。うんうん。
「カルドス……君の気持ちすごくわかるーっ!」
「え?」
「シュリルを救おう! そして男は見た目じゃなくて中身だって証明しよう!」
「は、はい……」
俺、ゲームの世界だと行動力あるかも。
カルドスの背中を押して、砂漠に残された足跡を追う。お! だんだん足跡がしっかり見えてきたぞ。
「ん? あれか……」
可哀想に。
シュリルは歩けなくなったのだろう。三人の男たちが緊縛した彼女を担いで運んでいる。カルドスは怒った。
「ぶっころす!」
急に駆け出そうとするので止めた。
「待て!」
「邪魔をするな! あんたも刺すぞ!」
「シュリルを助けるもっといい方法がある」
「なんだそれは?」
「生贄としてシュリルが独りになってから助けるんだ」
「でもそうしたら蛇神様に食べられてしまうぞ?」
「大丈夫だ」
「え?」
「ヘビは俺がぶっ倒す!」
は? とカルドスは愕然とした。
俺の言った言葉が信じられないようだが、なんとかサボテンの裏に隠れてくれた。
「あなたは何者だ?」
「俺は土魔法使いのツッチー」
「ツッチー……」
「それにしても、シュリルをどこに連れて行くのだろう……まさかエッチなことされるんじゃ?」
「ぶっころす!」
「まぁ、まて……カルドス」
俺たちは見つからないように追跡する。
そして生贄の場所が判明した。遺跡だった。男たちは迷わず王の墓に向かう。シュリルを棺の上に寝かせ、何やら言っている。
「伝承ではここで蛇神様が食事をするらしい……」
「許してくれシュリル」
「砂漠の民のため犠牲となるのだ……」
シュリルは黙って涙を流す。
すぐに助けたい気持ちを抑え、俺とカルドスは半壊している壁に隠れた。しばらくして男たちは遺跡から出ていく。よし、今だ! カルドスは駆け出した。
「シュリル!」
「カルドス! どうしてここに?」
「助けに来ました」
カルドスは縄を切った。
シュリルは緊縛から解放されたが、座ったまま立ち上がらない。
「カルドス……いいの、わたしは生贄になるわ……そうしないとみんなが死んでしまう……」
カルドスはシュリルの手を握る。
二人は見つめ合った。
「それなら僕もいっしょに生贄になります!」
「だめよ! カルドスは生きて……」
首を横に振るシュリル。
振られたか……。いや、まだだ! カルドスはさらに強く彼女の手を握った。
「シュリルがいなきゃ、生きていても意味がない!」
「……!?」
「シュリルのことが好きなんです!」
二人は抱きしめ合う。
よし、告白は成功したようだ。しかし問題はこれからだ。
ゴゴゴゴゴ……
大地が揺れている。
半壊したピラミッドがさらに崩れ、急に空が暗くなる。巨大なヘビが太陽を隠し、ギロッとこちらを睨んでいた。死の恐怖が迫り、戦闘状態になる。
[ ボスディザネーク ]
こいつは蛇ではない。
砂の龍だ。鋭い牙、長いヒゲ、砂漠の遠くまで尻尾が伸びている。
ドゴッ!
圧倒的な破壊力だ。
ボスディザネークは体当たりして遺跡の壁を壊していく。腹を空かせているのだろう。ダラダラと口から胃酸を吐き出しながら、シュリルとカルドスを食おうと襲いかかる。
どうやって戦えばいい?
考えろ、考えろ……。もしもヴェリタスなら、必殺技で先制攻撃するだろう。もしもマクドなら、盾で防御しながら急所を狙うだろう。
「俺なら……土魔法だ!」
ムルスを詠唱した。
回転する茶色の魔法陣。岩の壁を作り、シュリルとカルドスを囲って守る。しかし意味がない。ボスディザネークは体当たりで壁を破壊した。
おびえる二人が露出された。
しかし抱き合ったまま逃げようとしない。くそっ、それならこうだ! 鉄槌のメイスを振り上げて、
「グラウィ!」
を詠唱した。
重力が増加する。手の中にあるメイスがすごい勢いで落下し、ボスディザネークに35,500のダメージを与えた。
かなり効いたようだ。
敵のHPが横帯グラフで表示されているのだが、4分の1ほど減った。大蛇の魔物はぎろりと目を光らせ、獲物を俺に変える。
「よし! こっちだ!」
遺跡から離れた。
二人が食われたらクエスト失敗だ。猛ダッシュして何もない砂漠で立ち止まる。よし、ボスディザネークは俺を食おうと追いかけてきたぞ。ふぅ……意識を集中させてから、いっきに魔力を放出する。
「グラウィヌーラ!」
重力が減少する。
砂漠の砂や石が、ふわふわと宙を舞う。高く、高く、ボスディザネークよりもさらに高く……よし、やつの頭上より高くまで浮かせたぞ。
シャー!
大きく口を開けるボスディザネーク。
俺は肩の力を抜いた。両手を広げて降参のポーズをとる。
「さあ、食えるものなら食ってみろ……」
眼前に大蛇の口が迫る。
ふっ、笑えるくらい油断してるな。魔法レベル64を舐めんなよ。
「ルペス! グラウィ!」
連続で土魔法を詠唱した。
一瞬で砂と石が凝集されて岩となり、加速度的に増える重力によって落下する。
ガツン!
見事、ボスディザネークの頭に命中。
40,000のダメージを与え、バタッと倒れた。あたりいっぱいに砂埃が舞いあがる。
「やった!」
ダウン状態の敵を攻撃すればクリティカルヒットで大ダメージを与えることができる。ヴェリタスの必殺技とまではいかないが、俺の鉄槌のメイスはめちゃ重いぜ!
「くらえぇぇぇ! グラウィー! グラウィー! グラウィぃぃぃぃ!」
ボスディザネークの顔面に、ボッコボッコと追加で重力的な物理攻撃を与えていく。
12,000
8,000
5,000
あれ?
ダメージが減少している。ん? 鉄槌のメイスをよく見ると、バキバキに亀裂が入って……あ! 壊れた。ふとヴェリタスの言葉を思い出す。
『三日月宗近のメンテナンスをしたいので……』
なるほど。
武器には耐久性があって、使いすぎると壊れるのか。実戦で良い学習ができたが、敵はそんなこと関係ない。ボスディザネークは息を吹き返した。ものすごい勢いで体当たりしてくる。
「っぶねー!」
かろうじて避けた。
黒装束ナイトメアを装備しているおかげだろう。すばやさが上がり、回避能力がアップしている。俺のレベルは9だけど、装備品でカバーしているってことだな。だが、それだけじゃあ勝てない。あとは泥臭くやるしかないな……。
「げ……魔力が底をついた……あとは逃げながらハンドガンで攻撃しよう」
ボスディザネークの体当たりを避けながら、バンバンと銃で反撃する。
120
100
80
ダメだ。与えるダメージが少ない。
それに敵の攻撃を避けながら銃を撃つの、むずかしい。接近しないと当たらないし、接近しすぎたら体当たりされてゲームオーバーだ。
「ちっ……強いな」
離れたところから銃を撃つ。
しまった。外しまくった。あ、残りの弾が10しかない。あっという間になくなるぞ。もっと弾を作っておくべきだった。どうしよう……考えろ、考えろ……。
「あ! 毒粉だ!」
急いで弾に毒粉をかけて装填。
よし、作業をやめて、銃を構える。あれ? ボスディザネークがいない! 砂漠のなかに隠れたか……大地が揺れている。
「ふぅ、冷静になれ……そうだ、この隙に魔力を回復しておこう」
遺跡に向かって走りまくる。
たしか遺跡のなかに、魔力のエレメントがあったはず。あった! 緑色に光る結晶に触れる。
[ 魔力が全回復しました ]
よし、勝てる!
と思ったが甘かった。信じられない光景が遠くの砂漠で見える。ボスディザネークが空に向かって上昇し、隕石のように落下していく。まさに砂の龍だ。
ドゥン……!!
重低音が波動となって響く。
世界が暗くなる。迫りくるのは砂の大津波。やば……本当にヤバいと声を失う。遺跡だけじゃない。ワステタの街まで飲み込むほどの高さだ。ふふふ、面白い。想像できるぞ。街で恐怖におびえる住民や老婆の滑稽な姿が。ざまぁ。
「きゃぁぁー!」
「ぐおっ」
カルドスはシュリルの前に立つ。
砂埃から彼女を守っているのか。お? シュリルの顔が赤いぞ。うぉー、ラブラブじゃん。もう一生守ってやれよ、コノヤロー!
ゴゴゴゴゴ……
あ、いかん。
砂の大津波が迫っている。でもまぁ、ちょうどいいや。魔力は怒りで増強する。
「うおぉぉぉぉぉおおお! 俺も彼女が欲しいぃぃぃぃぃぃぃ……ルペス!」
俺のなかに眠る魔力が爆ぜる。
世界が明るく光り、砂の大津波は石化していた。まるで巨人から守る壁が砂漠地帯に完成。カルドスとシュリルは唖然としていた。
ぱちん!
俺は指をはじいてルペスを解除。
土魔法は解けて、静かな砂漠に戻る。いつもと変わらない乾いた風が吹くなか、砂の龍が現れた。
「これで終わりだ……」
バン!
銃を撃った。
ボスディザネークの顔面に命中。HPがじわじわと減っていく。毒に犯された魔物の末路は、死あるのみ。倒れ、激しく暴れだす。
「苦しい……苦しい……腹が減って苦しい……」
ん? なんだ?
不気味な低い声が聞こえてきた。カルドスは、「僕じゃない」と首を横に振る。まさかシュリル?
「わたしじゃありません」
だよね。
ということはボスディザネークの声か? しかし毒で削られたHPはすでに底を尽きている。死んでないのか? と疑った瞬間、ボスディザネークは光り輝いた。
「な、なんだ?」
ちっさ!
なんとボスディザネークは小型化していた。砂漠には大きなヘビの抜け殻が、カラカラと風に吹かれている。
[ サイドクエスト 砂の告白 クリア ]
経験値と戦利品をゲット。
俺のレベルは10になり、砂龍の皮を手に入れた。おまけに可愛らしい爬虫類が、俺に懐いたようだ。
「はらへった! はらへった!」
今度は可愛らしい高い声だ。
はっきりと聞こえる。手のひらサイズの小さいヘビが話しているのだ。すると、膝をついたシュリルが声をかける。
「蛇神様ですか?」
「そうだ! 飯をよこせ! 肉が食べたい!」
「それなら街に戻って食事を……」
いや、と俺は言ってシュリルを止めた。
「その必要はない」
「あなたは?」
「俺はカルドスの友達さ」
「友達……」
「さあ、みんなでキャンプをしよう」
「え?」
「カルドス! このテントを作ってくれ、俺は料理をするから」
「わ、わかった……」
アイテムボックスを開く。
薪、ライターを取り出し、ぱちぱちと焚き火を起こす。料理はスピードが命。上質な牛肉を塩こしょうで味付け。にんにくを入れた鉄の鍋に油をひいて肉の表面をこんがり焼き、取り出し、肉を休ませ、また焼く、を繰り返す。
残った肉汁は捨てない。
たまねぎのみじん切り、つぶしたトマトをくわえて煮込む。さあ、ソースをかけて完成だ。
「ああん、なんていい香り」
「うまそ……」
「はやく食わせろ!」
そう、がっつくな。
シュリル、カルドス、ヘビは俺の料理に夢中だ。
「お待たせ、レアステーキのオニオントマトソースだ!」
いただきます!
と、声をあげる俺たちはキャンプを楽しんだ。西の空に夕日が沈み、遺跡も砂漠の街も赤く染まって見えた。
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捨て子だったハイネは教会に拾われたこともあり、どれだけ辛いことがあっても、ミーネを信奉し日々拝んできたが………
魔力付与式当日。
なぜかハイネにだけ、魔力が与えられることはなかった。日々の努力や信仰は全く報われなかったのだ。
ハイネは、大人たちの都合により、身体に『悪魔』を封印された忌み子でもあった。
そのため、
「能力を与えられなかったのは、呪われているからだ」
と決めつけられ、領主であるマルテ伯爵に街を追放されてしまう。
その夜、山で魔物に襲われ死にかけるハイネ。
そのとき、『悪魔』を封印していた首輪が切れ、身体に眠る力が目覚めた。
実は、封印されていたのは悪魔ではなく、別世界を司る女神だったのだ。
今は、ハイネと完全に同化していると言う。
ハイネはその女神の力を使い、この世には本来存在しない魔法・『超越』魔法で窮地を切り抜ける。
さらに、この『超越』魔法の規格外っぷりは恐ろしく……
戦闘で並外れた魔法を発動できるのはもちろん、生産面でも、この世の常識を飛び越えたアイテムを量産できるのだ。
この力を使い、まずは小さな村を悪徳代官たちから救うハイネ。
本人は気づくよしもない。
それが、元底辺聖職者の一大両者は成り上がる第一歩だとは。
◇
一方、そんなハイネを追放した街では……。
領主であるマルテ伯爵が、窮地に追い込まれていた。
彼は、ハイネを『呪われた底辺聖職者』と厄介者扱いしていたが、実はそのハイネの作る護符により街は魔物の侵略を免れていたのだ。
また、マルテ伯爵の娘は、ハイネに密かな思いを寄せており……
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