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20 クラフト⑥

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「ここがシムクル砂漠か……目的地にした場所はこの辺りだな」

 俺、ミルク、マクドは乾燥した大地を歩いていた。
 棘のあるサボテン、岩に寄生するエアプランツ。綺麗に舗装された道などない。広がるのは砂だらけの荒地。白い肌をした少女エルフことミルクは、強い陽射しをうけて苦しそうだ。

「太陽がエグい! 帽子を装備してくればよかったっす……」
「フルゴルに戻るにしてもマーキングしてからだな、我慢できるかミルク?」
「大丈夫っす」 

 俺は仮面。マクドは兜を装備しており陽射し対策はバッチリ。しかしながら、いったいどこに鉱山が?
 
「マクド、鉱山の位置わかる?」
「ん~わいが説明するより……せや、師匠のマップ、もうモヤが晴れたとちゃいますか?」

 マップを開く。
 たしかに歩いてきた周辺だけが、地図として記されていた。北に街がある。さらに北に鉱山。ん? 東には遺跡のマークがあるぞ。マクドが説明してくれた。

「ワステタの街にマーキングがあるわ、それと温泉もあるんやで!」
「いいっすね!」

 ミルクがはしゃぐ。
 俺は遺跡を指さした。

「ここには何がある?」
「行ってないのでわかりまへん」
「気になるっすね!」

 ミルクはワクワクしていた。
 本当に高校生? 完全に子どもじゃん。でもまぁ、そうだな。ここはゲームの世界だし、童心に帰ってもいいか。

「よし、ちょっと遺跡を見てからワステタの街に行こう!」

 おおー!

 俺、ミルク、マクドは掛け声を出す。
 するとそのとき、ピン! と背後に気配を感じる。魔物が現れた。砂漠地方、特有の魔物だ。

 シュルシュル……カサカサ……

 蛇の魔物ディザネーク。
 さそりの魔物コルピウ。
 
「きゃぁぁああ! この魔物は初めて戦うっす!」
「落ち着けミルク」
「は、はいっす……」
「作戦は今まで通り、マクドは盾役、俺とミルクは後方支援しよう」

 グッ! と親指を立てるミルクとマクド。
 そして戦闘が始まった。
 コルピウがマクドに攻撃。ハサミを盾で防いでいるが、警戒すべきは尻尾の毒針だ。まぁ、レベル30のマクドなら心配いらないと思うが……あれ? ディザネークはどこにいった?

「師匠ぉ! ヘビは土の中をもぐるから気をつけるんやで!」
「わかった」

 土の中か……。
 つまり砂漠の中……あ! このフィールドだと石を砂に変える魔法サブルムが使えないのでは?

「サブルム!」

 ためしにコルピウの足元に詠唱してみたが、やはり変化なし。
 マクドは連続ハサミ攻撃を防御しながら、じっとチャンスをうかがっていた。何とか魔物を罠にハメて戦闘を楽にしたいところだが……。

「ダメか……くくく……」
「ツッチー、どうしたっすか?」
「この魔法をついに試す時が来たか……ルペスを……」
「厨二病っすね」

 嫌な顔をするミルク。
 俺は詠唱を始めた。
 
「ミルク、いつでも発射できるよう弓を構えておけ」
「あ、あいよ……」

 意識を砂漠についている蠍の足に集中させる。

「 砂と石を凝集させる魔法 ルペス! 」

 魔法陣が高速でまわる。
 俺の土魔法レベルは50。さてどうなる?
 
 ガチン!

 コルピウの足は石で固まる。
 蠍は八本の足と、二つのハサミ、それと尻尾の毒針。足が動けなくなったので、ハサミと尻尾だけが、ジタバタと動いていた。

「さすが師匠ぉぉおお!」

 さっと後方に飛んだマクド。
 鬼神のように斧を構えた。動けないコルピウは必死に尻尾で攻撃をする。だが、マクドの足元までしか毒針は刺さらない。

「うぉりゃぁぁああ!」

 マクドの斧が弧を描く。
 尻尾と胴体を切り離されたコルピウは、ざーと砂埃とともに消えていった。

「すっげー! 一撃っすね!」
「わいのトマホークちゃんは最強ですわ!」
「でも、蛇の魔物はどこいったっすか?」

 そこだ、と俺は答えた。
 ミルクの立っている周辺は石化。ディザネークは頭だけ出して、くねくね動いている。

「エグいっすね!」

 プシュっとミルクは矢を放つ。
 蛇の顔面にヒットし、魔物をすべて倒した。経験値と戦利品[蠍のハサミ、蛇の皮]をゲットする。マクドは、ガハハハと笑っていた。

「師匠となら巨大ヘビも倒せそうやで!」
「なんすかそれ?」
「砂漠地方のボスや……わいは遠くで泳いでいるのを見たんや」
「泳ぐんすか?」
「せや、砂漠を泳ぐんや……あれはまるで砂の龍やで」

 冒険心をくすぐるようなことをマクドは言う。
 わくわく、ドキドキしながら俺たちは遺跡へと向かった。途中で何回も魔物と遭遇したが、土魔法と斧と弓のコンビネーションで簡単に倒していく。うちらは最強だと浮かれてもいた。俺のレベルは9になり、遺跡へと到着する。

「ここが遺跡っすね! 探検、探検……」
「朽ち果てたピラミッドって感じか……ん? 巨大ヘビの石像もあるな……」
「師匠ぉ、ここに魔力のエレメントがあるで~」

 ありがたい。
 俺は大地から露出した鉱石に触れる。魔力が完全に回復した。ほっと安心していたが、ミルクの姿がない。どこにいった?

「きゃぁぁああ!」

 ミルクの悲鳴だ。
 何があった!? 悲鳴がした方へ走って向かう。遺跡は崩れて屋根がなく、ピラミッドの中央だったらしい場所が明るみになっている。

「あれは何だ?」
 
 調べてみると奥には棺があり、豪華な宝箱が眠っていた。開けてゲットしておく。

 [ 金塊3 ]

 おお、高く売れそうだぞ! 
 それにしても冷んやりとしてるな。ここは古代の王の墓か……。

「師匠ぉ! あれ、あれ……」

 震えるマクドは指をさす。
 なんてことだ!! 向かいの部屋で、ミルクは巨大化した蠍の魔物に捕まっていた。

 [ ボスコルピウ ]

 ミルクは邪悪なハサミにはまっている。きらり、と尻尾の毒針が光っていた。

「助けてー! 動けないっすぅぅ」

 ミルクは泣きながら叫ぶ。
 マクドはあたふた混乱していた。

「どうしたらええ? どうしたらええ?」
 
 困った結果、斧で攻撃する。
 だが、大振りのためボスコルピウに逃げられた。この魔物、巨体だがスピードはあるようだ。俺は地の利を生かすため、周辺を観察する。
 
「ここは遺跡で倒れた石柱が乱立する場所、地面は石だ。よし、砂に変えてやる、サブルム!」

「あれ?」

 しかし魔法が発動しない。
 どういうことだ? この現象はたしか……テンプルム城にいた王様の言葉を思い出す。

『城や街のなかは魔法禁止じゃ……ものすごい結界が張られておるから、魔物は入って来られん……』

 だが、魔物はいる。
 まさか結界が半分だけ壊れて、魔法だけが使えないのでは? 首を振ってあたりを観察する。

「お、あれか!」

 おそらくピラミッドの先端だった部分だ。青く光る宝石が結界装置なのだろう。地面に落ちた衝撃で、ヒビが入っている。

「きゃぁああ! しぬぅぅぅ!!」

 ボスコルピウの毒針がミルクに襲いかかる。
 しかしマクドが攻撃をしかけて助けた。

「師匠ぉぉ~なんとかしてや~!! あの魔物賢いで~、ミルクちゃんを盾にしよってトマホークミサイルが撃てん」
「うーん、ちょっと待て知恵を絞るから」
「はよして~」

 ぶん、ぶん、と斧を振るマクド。
 ボスコルピウは逃げる、逃げる。

 はっ! ひらめいた!

「マクド! そのまま斧で攻撃して遺跡からボスコルピウを出そう」
「了解やで~!」

 ぶん、ぶん、ぶん、とマクドは斧で連続攻撃。
 見事に魔物は逃げて、遺跡の外まで移動させることに成功した。ミルクは生きた心地はしないと思うが。

「ツッチーぃぃぃ……」

 ミルクは泣いていた。

「おまたせミルク、いま助けるから……ルペス!」

 広範囲の地面石化。
 ボスコルピウの八本足、さらに尻尾まで灰色に染まってる。おそらく俺は怒っていたようだ。怒りによって魔力は増大するらしい。

「綺麗なアートだ……」

 半身彫刻となった巨大なサソリ。
 俺は近づいて鑑賞した。ハサミに挟まったままのミルクが言う。

「降ろして~」
「わかったわかった」

 俺は鉄槌のメイスを取り出した。
 そして飛び上がって魔物に振り下ろす。メイスには土魔法グラウィで重力をつけた。攻撃力は倍増され、魔物のハサミを粉砕。ポロッとミルクが落ちる。

「きゃぁっ!」
「おっと……」

 俺は、とっさにミルクを受け止めてしまう。少女エルフをお姫様抱っこ。まさに夢のようなファンタジーの世界。

「もう大丈夫だよ、ミルク」
「うあぁぁぁ! イケボすぎて死ぬっすぅぅぅ!!」

 ミルクを砂の地面におろす。
 へなへなと腰が砕けていた。

「はぁ、はぁ、はぁ……もう無理、もう無理……」

 一方、サソリはまだ息があった。
 胴体が、ジタバタと動いている。魔物も生きるのに必死なのだろう。だがここはゲームの世界。安らかに成仏してくれ。

「マクド、あとは頼む……」
「よっしゃ!」

 斧が大きく振り下ろされる。
 まさにそのとき! 急に大地が揺れ始めた。とんでもない揺れだ。思わず膝をつく。とても立っていられない。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

「な、何すかこれ?」
「ひっ……こわっ!?」

 マクドは怖くなったのか、俺の背後に隠れた。
 ねぇ、盾役でしょ? マクド?
 するとさらに地下の底から、ドクン! ドクン! と突き上がるような地震。まるで心臓の鼓動。何か得体の知れない生き物がいるような……!?

 バグッ!!!!

 サソリは餌だった。
 まさに弱肉強食。砂漠地帯の生物の頂点である巨大なヘビがいま砂漠から飛び出し、ボスコルピウに喰らいつき、そのまま大空へと昇る。それはまるで、砂の龍!?

「師匠ぉ、前言撤回するわ……あんなバケモン、相手にせんほうがええ」
「ツッチー、僕も今日はマーキングして寝るっす……おしっこちびりそうになっちゃった……」

 ああ、と俺は答える。
 強い陽射し、大地を漂う蜃気楼、遠くに見える砂漠の中を泳ぐ巨大なヘビの尾。ふっと笑えるくらい勝てる気がしなかった。
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