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エピローグ
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しおりを挟むロイとセリーナの結婚式は盛大に行われた。
「綺麗……」
うっとりする私はフィルワームの宮殿の外から、優雅に手を振るセリーナの姿に見惚れていた。
彼女は純白の美しいドレスを着ている。その隣にはロイがいて、輝かしい王様のマントがよく似合っている。この結婚式によって、彼は完全に次期国王となったのだ。
「あたしも結婚したい!」
レミが瞳をキラキラさせて言った。
じゃあ、まず彼氏を見つけないとね、と私が返すと、
「ルイーズこそ、新しい恋をしなさいよ! 好きな人いるんでしょ?」
と、つっこまれた。
しかし私は下を向いてしまう。ジャスとの婚約を破棄してから、なかなか勇気が出ない。
新しい恋か……。
そう思いながら、ロイとセリーナの結婚式を眺めていた。
そして、数日後。
セリーナが道具屋にやってきた。平民の格好をしている。宮殿から抜け出してきたのだろう。
「お兄様! 例の物は作れましたか?」
おう、とアルは答えた。
なんと彼は故郷に帰らず、モンテーロ家に居候しながら、道具屋を手伝ってくれているのだ。
「ルイーズ、妹に見せてやってくれ」
「わかった」
私は部屋の奥から宝箱を取り出してきて、どすんとカウンターに置いた。
アルは宝箱に手をかけ、
「じゃーん!」
と大きな声で言って、妹を喜ばせることに成功した。
可愛らしく飛び跳ねるセリーナは、宝箱の中身を手に取り、
「天使の涙……これでこの国は生まれ変われます」
と宣言した。
天使の涙とは、アルが取ってきてくれた宝石を装飾したピアスで、私と祖父が制作した装備品だ。
しかし、これを装備したときの効果が、いまいちわからない。
そんな私に向かって、隣にいる祖父が説明してくれた。
「このピアスを装備していれば、無属性魔法が効かなくなるらしいぞ」
「どういうこと?」
「つまりヴィルハイムの魅了から、王族たちを守れるということじゃ」
おお! と私は喜んだ。
「じゃあ、魔石が使えるよう、法律を変えてもらえる?」
うむ、と祖父は笑顔で返す。
セリーナは天使の涙を宝箱にしまうと、それごと異次元に保管した。彼女は美しく光り輝く。なんて不思議な魔法なのだろう。あらゆる物質を移送することができるのだ。
「ふぅ……」
集中するセリーナの手元から、正方形の黒い塊が生み出された。それは鏡のように綺麗で、私たちの顔を映し出している。はっとしてよく見れば、これは魔石だった。
「ルイーズ様、魔道具を作って平民を救いましょう」
セリーナの言葉に、私は涙を流した。
アルは嬉しそうに私のことを見つめている。
「ありがとう、アル、セリーナ……」
私は泣きながら感謝した。
すると、そっと寄り添ってくれるアルが、私の肩を抱いてくれる。
あたたかい……。
私の好きな人の手は、大きくて、優しい、そう感じるのだった。
一年後。
トルシェの平民たちは、魔道具を使って豊かな暮らしをするようになった。
例えば、刃のついた回転する魔道具を使って田畑を耕したり、風を放出する魔道具を使って、種まきや収穫などができるようになった。農作業は格段に楽になり、収穫量も増えていった。
「ルイーズ、ありがとう!」
「この道具、最高だぜー!」
農作業している人々から、そう言って感謝される。
みんな働き者だ。私たちが食べ物に困らないのは、すべて彼らのおかげだ。
麦からパンを作りだし、ぶどうからワインを作り出す。
そのための道具すべて、私は魔導化していった。今まで過酷な労働を伴っていた部分は、だいたい魔法の力に代替させ、仕事量を楽にさせた。そして、新鮮な食料を商店街で売るみんなの喜んでいる顔を見て、
よかった……これで過酷な労働から解放される……。
と、思った。
そんなある日、ばったり私はヴェルハイムと出会った。それこそトルシェの街中でだ。
くくく、と彼は苦笑していた。
「我は間違っていたのだな……ルイーズよ、許してくれ……」
どういうこと? と私が聞き返すと、彼は答えた。
「平民が魔石を手に入れたら反乱が起きると思っていた……だが違った」
「……」
私は黙って聞いていた。
「ルイーズは魔石を戦争の道具ではなく、生活を豊かにするための道具として利用したのだな」
はい、と私は笑顔で返した。
ああ、なんて清々しい気持ちだ。すべてが報われたような気がする。晴れ渡る青い空のなかで白い鳥たちが飛び交い、トルシェの鐘楼に舞い降りている。
ガラン、ゴロン、と鐘の音が遠くの地まで鳴り響いていた。
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