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三章 プリンセスロード編
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しおりを挟むくんくん、清々しい匂いがします。
おそらくポーションの香りでしょう。この道具屋からは、あらゆる薬草の瑞々しい香りがただよって、何とも心地がよい。
ぐー、ぐー、むにゃ……。
道具屋の店主であるダグラスさんは、お昼寝のようですね。気持ち良さそうにイビキをかいています。
「……おや?」
しかしながら店内のなかに、強い魔力を感じます。
どこからでしょうか?
わたしは店内を見まわしながら、この空間を支配します。
「どうしたのセリーナ?」
変に思われたのでしょう、ルイーズさんが質問してきます。
この方、とても可愛らしい顔をした女性。それなのに髪が短くて男の子みたい。もっと髪を伸ばせばよろしいのに。
「ちょっと魔力を感じまして……」
「魔力?」
「はい、わたしたちアディアスの国では“魔法のクリスタル”と呼ばれるものです」
ビクッ! とルイーズさんは震えます。
わかりやすい人ですね。きっとどこかに隠しているのでしょう。たしかフィルワームの大臣が、違法な資源として使用禁止、にしているから。
「安心してくださいルイーズさん、わたしは味方です」
「え?」
「魔法のクリスタルを世界平和のために使います」
わたしの言葉に、ルイーズさんはかなり驚いている様子。
「魔石が……世界を平和にする?」
とつぶやき、大きな瞳をさらに拡大させました。
わたしは目を閉じて、もっともっと集中し、この空間を支配します。無属性魔法のなかでもっとも貴重とされる、物質の移動を可能にする魔法を使うために。
「ありました!」
カッ、と目を開けたわたしは歩き出し、カウンターの方へと回ります。そして膝をつくと、鍵つきの抽斗を指さします。
「ここにありますね?」
こくり、とルイーズさんはうなずき、膝をつき、鍵を開けながら、
「なぜ、わかったの?」
とルイーズさんは質問します。
「わたしには見えるのです。この周辺の空間にある物質のすべてが」
そう答えると、ルイーズさんは取り出した魔法のクリスタルを、わたしに見せました。
漆黒の宝石が彼女の手のひらの上で、きらきらと輝いています
「綺麗ですね……」
「はい」
「なぜルイーズさんが持っているのですか? この国では違法の資源では?」
「……えっと、実は私の父が他国から持ってきてしまったの」
「なるほど……で、ルイーズさんはこれで何をするつもりですか?」
セリーナと考えは同じ、とルイーズさんは言います。
その瞳は真剣な眼差しで、かなりの覚悟を感じとれました。相当な修羅場をくぐってきている顔です。うふふ、わたしはカッコイイ女性が好きですから、是非ともルイーズさんを応援したくなります。
「ルイーズさんも世界平和を?」
「はい、トルシェの街の平民は、ずっとずっと昔からフィルワームの貴族たちから過酷な労働を強制されているの! みんな魔法が使えないからって貴族の言いなりで……」
「どんな労働ですか?」
「畑を耕し、作物を育て、実った食料を運んでいます」
「それは大変そうですね、わたしの国ではそういった労働はすべて魔道機械がやっていますから」
「まどうきかい? それって魔石……いえ、魔法のクリスタルを使った道具のこと?」
はい、とわたしは答えます。
ルイーズさんは魔導に対して、強い関心があるようですね。なんて心強い。このような田舎の国なのに、とても貴重な存在です。それに、抽斗のなかにある“指輪”も気になりました。
「ルイーズさん、この指輪は……もしかしてあなた作ったのですか?」
「あ、はい……魔石、じゃなかった」
「魔石と呼んでいいですよ」
「ありがとうセリーナ……この指輪は魔石を埋め込んであって、注入した魔力を放出することができる道具です」
「ふむふむ、魔導の基本原理です」
「セリーナ!」
え? 唐突に、ルイーズさんがわたしの名前を叫びます。
「私に魔導を教えて!」
真剣な眼差し。
この方、とても熱い心を持っているようですね。ますます、気に入りました。
「いいですよ」
「やったー! ありがとう」
ルイーズさんは、ぴょんと飛び跳ねて喜びます。
あら、なんて可愛らしい。わたしより年上のはずなのに、ピュアすぎて年下みたい。
「……おや?」
と、そのとき道具屋の扉が、ばーん! と開きます。
飛び込み来店したのはレミと呼ばれる女性ですね。おっと、装備している鎧がセクシーすぎます。胸の形がわかってしまうじゃないですか。これ防具として最低では?
「ルイーズ! すぐにポーションを持ってきて! あと、エーテルも!」
「え?」
「虫みたいな魔物が街の近くまで来てるの!」
「わかった」
ルイーズさんは袋にありったけの青い瓶と緑の瓶を詰めると、レミとともに急いで道具屋を出ていきます。
おや? ふとカルンターの奥を見ると、ダグラスさんが目を開けていました。
「ついに来たようじゃな」
「ダグラスさん、起きたようですね」
「あんなに強く扉を開けられたら、流石に起きるわい」
「うふふ、そうですね、この国の人たちって面白いです……助けてあげたくなります」
「ん?」
行ってきます、とわたしはダグラスさんに告げて、道具屋を飛び出します。
街に人影はなく、みんな家の中に避難しているようですね。わたしには見えます。見えてしまうのです。家の中で、ぶるぶると怯えている子どもや、家族のことを守ろうと必死になって武器を装備している親たちの姿が。
「お兄様、コアは破壊できたのでしょうか?」
わたしは目を閉じて、魔物の巣まで意識を飛ばします。
深い森の奥へ……。
一度でも行ったことがある周辺エリアは、空間を支配することができますから。
「やった! さすがお兄様です」
見事に、コアは破壊されていました。
ですが、生み出された魔物がまだ残っているようですね。最後のあがきとばかり街を襲うつもりでしょう。魔界の魔物たちの頭には“人間を絶滅させろ”という使命があるようです。
ああ、なんて恐ろしい。
だからはやく、もっとはやく……。
「お兄様、はやく戻ってきて!」
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