ずっと愛していたのに。

ぬこまる

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三章 プリンセスロード編

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「民よ! 冒険者がかならず魔物を倒してくれる、だから安心するのだー!」

 デビットが演説している。
 彼はいきなり痩せてカッコよくなった。その理由は、ルイーズのお姉さんドロシーと結婚する条件だったらしい。

「なんだかな~、あんなにカッコよくなるなんて……」

 ぼけっとそんなことを考えていると、背後に立つ隊長から叱られちゃった。

「レミくん! しっかり立つんだ!」

 はいっ! と返事したわたしは、ビシッと背筋を正して立つ。
 魔法学校を卒業して3年、わたしは未だに下っ端の騎士。このように、ちょっとでも気が抜けていると怒られてしまう。 
 
 それにしても……。

 街のみんなの表情が暗い。デビットの言葉にまるで納得していないみたい。それはたぶん、新しく地権者になったデビットだからというわけではなく。先日発生した、あのことが原因だよね。

 冒険者の貴族が、魔物に襲われて街に帰ってきた……。

 あれは衝撃的だったな。
 いつも偉そうにしている貴族が、傷だらけのぼろぼろ。おまけに平民であるルイーズに助けられていたのだから。

「フィルワームから派遣されるAランク冒険者がいる! 彼の名前はジャス・ベルナルド。我が街の出身者だ!」

 デビットの熱のこもった演説は、このように言って終わった。
 街の人たちも、少しだけ希望が湧いている。そう、ジャスが帰還していることは、わたしも知っている。さっき会ったし。

「でも……ルイーズとなんかあったのかな?」

 ジャスは、変わっていた。
 目つきは鋭くなり、髪も長く伸ばしていた。しかし、変わっていたのは外見だけではなく、なんだろう。どこからか男らしい自信に溢れたオーラが漂っていた。
 
「童貞でも卒業したのかな?」

 しかし、相手はルイーズではなさそう。

 もしかして、噂の聖女と?

 これは大変なことになったな。
 わたしは、わくわく、ドキドキして、隊列を組んでいる場合ではなくなった。

「隊長! ちょっとお花摘みに行ってきますー!」
「おい、レミくん待てっ!」
 
 怖い顔して隊長から止められたけど、無視してデビットのもとに急ぐ。
 
「デビットー!」

 ん? とした顔で彼は振り返った。
 そして、わたしの顔を見た彼は、あはは、と笑顔になる。 

「レミ! 元気か?」

 わたしも笑顔になり、彼と話した。

「ねぇ、デビット」
「どうした? 隊列から抜けてきたのか?」
「まぁね」
「まったく、困ったやつだな」
「ねぇ、そんなことより明日の昼、ルイーズの道具屋で同窓会をしない?」
「同窓会?」
「ええ、さっきジャスに会って、そう話しておいたの」
「会ったのか……そうか……」
「どうかな?」

 と、わたしが聞くと、デビットは快くうなずいた。

「ちょうどいい、ロイも街にいるから声をかけておくよ」
「あら、それは素晴らしいわね」
「そうだな、みんなで揃うなんて、魔法学校の文化祭の夜以来だ……」

 柔らかく笑うデビットは答えると、街で一番高い建物、鐘楼を眺める。
 リン、ゴン、と鐘の音が、街じゅうに響いていた。
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