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三章 プリンセスロード編
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しおりを挟む「お姉ちゃん、おめでとう!」
私は、純白のドレスをまとう姉ドロシーに、お祝いの言葉を告げた。
とげとげしかった姉の姿は、もうない。まるで女神のように微笑んでいる。そして、彼女のとなりにいるのはデビット。すっかり痩せてイケメンになっていた。デブかった昔の姿は、見る影もない。そんなふたりは、まさにお似合いの夫婦である。
「よかった……」
父が胸をなでおろす。
こちらもダイエットに成功し、美しさを取り戻した母が、父の肩に手をおいた。
「モンテーロ様、次は妹のルイーズですわね」
ちらっと母と父は私を見つめた。
「……」
ちょっと気まずい。
なぜなら婚約して3年たったが、ジャスからの手紙がなくなり、まったく会っていないからだ。
どうしてこうなった?
あれから何回かジャスの引っ越し先である丘の豪邸に行ったけど、おもおもしく警備する男たちがいて、びびりながらもジャスの居場所を訪ねたことがあった。しかし、返ってくる言葉は、
『ジャス様は冒険の旅に出ている』
というもので、まったく相手にされなかった。
私は、だんだん自信を失い、もはやジャスに捨てられたのではないか? と思うようになっていた。
そんなとき、道具屋に来店した女友達レミから、
『ねえ聞いたドロシー! ジャスって聖女とパーティーを組んでるらしいよ」
との情報が入ってきた。
まじか、と思う。聖女と言ったら回復魔法ができる特別な存在。まさかポーションがいらなくなったから、私のことも……。
捨てた?
その夜にレミは、『今日は飲もう』と言って慰めてくれた。
そして街じゅうは、次期国王ロイの婚約話でお祭り騒ぎになっている。
人々の話を聞くと、東の国アディアスの令嬢が婚約者らしい。令嬢とは、企業と呼ばれる集団のリーダーの娘で、いわゆる国のお姫様みたいなもの。これはロイから聞いた話だけど、アディアスという国では、なんと身分差別がなく。みんな平等らしい。
うらやましい国だな、アディアス……。
そう思いながら、私は指輪を見つめる。
しかしその指輪の石座は空白で、何も宝石が入っていない。私は考えていることがある。それは平民と貴族との差別をなくすことだ。なぜなら、王都に住む貴族のために汗水垂らして食料を作っている。だから私は、少しでもその仕事が楽になるように、魔石を使って道具を開発したい。
この指輪に魔石を入れてみたい!
と、すごく考えている。
しかし、その答えを見つけられていないけど、ただ、一番の問題点だけはわかる。
大臣ヴェルハイムが魔石を使うことを阻止していることだ。
この問題を解決することが大事だ。
つまり、大臣に魔石を認めさせればいい。だけど、大臣は“平民はずっと貧乏なままの貴族社会”を崩すつもりはなく、どうやっても認めそうにない。
だったら、大臣を殺す?
いやいや、それこそどうやって殺すよ? 彼は賢者だ。魔力は最強だし、無属性と呼ばれる人を操る不思議な魔法を使う。殺そうとしたら、逆に殺されるだろう。
「つ、詰んだ……」
魔石は使えない。婚約者と会っていない。
私の人生、これからどうなるのだろう。そんな不安な気持ちを抱えているから、親から結婚を期待され、じっと見つめられても、このように苦笑いしかできない。
あ、ははは——こんなことになるなら……。
ロイと結婚しとけばよかったのかな?
「……いや、そんな考えは間違っている。ジャスを信じよう……きっと冒険に出てて忙しいから会いに来ないだけよ……」
でも、だんだん自信がなくなってくるよ。
そんな思いを抱えていると、ある日……。
傷だらけになった冒険者たちが、街に帰ってきた。
私はすぐにポーションを持って走った。そして傷だらけの冒険者を見ると、なんと魔法学校の同級生で、私をいじめていた坊主頭たちだった。彼らは泣きながら、
「つ、強すぎる……」
「魔物がやばくなってる……」
「虫だ……虫が魔力を吸い取りやがった!」
とわめきながら、ばたっと気絶した。
あ……まに合わなかったか。
だが、後からでも傷口は塞げる。私はポーションを使って彼らを治療した。
きらきらと青色の癒しが光り輝く。
すると街じゅうの人々から歓声がわく。と同時に、恐怖におびえる声も聞こえてきた。
「魔物が街を襲ってきたらどうしよう!?」
「うわぁぁ! 終わりだ……終わりだぁぁ!」
しかし、すぐにこんな声も聞こえてきた。
「心配するな! Aランク冒険者様が魔物を退治してくれるはずだ!」
「おお! ベルナルドさんちの息子のことだろ?」
「丘の豪邸に住んでるらしいぞ」
「ロイ様がフィルワームに行かれたあと、ベルナルドさんがこの街で一番の金持ちになったなぁ」
「うむ、きっと英雄ジャス様が帰還されるだろう!」
英雄か……。
やっぱりジャスは、もうAランク冒険者になっているみたい。
だけど、私と結婚してくれないのは、なぜ?
嫌われてしまったのだろうか?
ジャスが、もう私の手に届かないところまで、行ってしまった気がする。
「……はぁ」
ため息が漏れてしまう、ジャスのことを考えると、頭がおかしくなりそうだ。
ん? ふと気づくと、私のそばで意識を取り戻した坊主頭が、わっと私に抱きつこうとする。
「ありがとうルイーズ! 好きだぁぁ!」
げ……と思いながら、さっとかわし、私は急いで走り出した。
背後で、あぜんとする坊主頭の顔が、安易に想像できる。
家に帰った私は、すぐにメイドのララーナに話しかけた。
「お父様は?」
しかし、返ってきた答えは、いいえ。
魔物が強くなっている状況のなか、父は貿易のため森の方にある街に向かって、旅をしているのだ。
無事に返ってきてくれるといいけど……。
胸の前で両手の指を組み、私は神に祈るのだった。
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