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二章 遠距離恋愛編
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しおりを挟むポーションがいらなくなった。
なぜなら俺のパーティに、聖女が参加しているからだ。
彼女は回復魔法が使え、魔物との戦闘のさい、ヒーラーとして俺や相棒ラルクの傷を瞬時に治療してくれる頼もしい存在。
よって、飲んだり塗ったりする瓶詰めの液体ポーションは、俺たちとって不要となったのだ。
聖女の名前はケイト。
王都で大臣をしている賢者ヴィルハイムの娘で、ピンク髪の可愛らしい顔をした女性。
年齢は俺よりみっつ下の17歳。プロポーションも出るとこ出てて申し分ない。
そのようなハイスペックな女性であるケイトは、すぐに相棒であるラルクに惚れられ、ありとあらゆるアプローチをされた。例えば、食事をごちそうされたり、アクセサリーをもらったりなど。
しかしその効果は薄いようだ。
というのもラルクが言うには、ケイトは俺に興味があるのだとか。
うーん、婚約者のルイーズがいる俺にとって迷惑でしかない。戦闘中も何かとそばにいて触ってくるし、食事するときなど必ず隣に座ってくる。あげくには冒険の旅で野営するときは、同じテントで寝てもいいと言う。
いやいや、ケイトがいたらラルクが興奮して寝れそうにないだろう。
たぶん、俺も……。
そう、そうなのだ。正直に言うと俺は女というものに飢えている。それは精神的にではなく、肉体的にだ。
ラルクにもさんざん言われていることだが、そんなに女に飢えているなら婚約者にバレないよう遊べばいいのだが、どうも俺は嘘をつくことが苦手な性格。すぐに顔に出るし、演技なんてとてもできない。でも……。
死ぬ前に童貞は卒業したい。
その気持ちだけは強い。
とても本能的で動物っぽい考えだとは思う。だけど、どうしても俺は……。
だからなのだろうか。
俺はルイーズを避けている。
婚約して2年ちょっと。俺たちはいまだに肉体関係を築けていない。だから俺の不満は溜まる一方で、もう手紙を送らなくなって半年は経ったし、トルシェに帰っても会うこともない。
これは可能性の問題だ。
シンプルに婚約者のルイーズよりもケイトのほうが、子孫を残しやすい、と判断している。
それは、ともに冒険をし、生と死をかけた魔物との戦闘をしているケイトの方が性行為するチャンスがある、と男としての本能が働いていたのかもしれない。
そして、ついに俺は一線を超えてしまった。
最高の気分だった。
これでやっと俺も一人前の男だと自信が持てるようになり、魔力もさらにアップした。
一方のケイトは裸のままシーツにくるまり、満足そうに笑いながら、
『すきっ♡』
と言ってくれた。俺は、「ああ」と答えるしかなかった。
そして月日が流れ……。
俺たちはヴェルハイムから、
「コアがより強力な魔物を産み出しつつあるらしい……ジャスよ、魔物の巣に行って破壊してくれないか?」
と依頼を受けた。
さらに、彼は俺に念を押すように言った。
「ただし、無茶はするなよ! 危険だと判断したらすぐに戻ってきなさい、対策を練り直すから」
わかった、と俺は答えた。
だが、絶対にコアを破壊する自信が俺にはあった。
誰が引き返すもんか。俺をなめんなよ。
そして、俺たちはいよいよ出発することになった。
どうやらこのままコアの成長をほうっておくと、やがて人類は魔物によって滅亡するのだとか。
絶対に破壊しなくては!
ああ、俺は英雄になるのだ。
いや、もう英雄になっているのだ!
冒険者ランクはAになり、大金持ちになることに成功。両親は豪邸に住まわせ優雅な生活をさせている。今まで貧乏平民で苦労していた、だから今度は俺たちが幸せになる番だ。
だが、同時に敵も多くなる。それは貴族の冒険者からの嫉妬によるものと、ふつうに盗賊たちが俺の資産を狙ってくる。
そのための対処法が、賢者から教えてもらった……。
無属性魔法だ。
これはとても便器な魔法で、自然の力を利用する属性の魔法ではなく、生物の脳内神経に働きかける魔法らしい。もちろん人間にも魔物にも効く。
それは例えば、眠らせたり、幻影を見せたり、魅了させたりなど。
だから戦闘を簡単に回避できるし、無理やり仲間にさせて家の警備をさせたりもできる。おかげで盗賊の被害はなくなった。
すると、金銀財宝や仮初めの仲間が、どんどん増えていく。
そのような状況のなか、俺は魔物の巣を探索するため、婚約者のいる故郷トルシェに向かっているのだが、街のシンボルである鐘楼が見えてくると、やっと考えがまとまった。
ルイーズとの婚約を破棄しよう……。
聖女と冒険の旅をしていく以上、浮気しているという事実に、俺は嘘をつけないから。
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