ずっと愛していたのに。

ぬこまる

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二章 遠距離恋愛編

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「おっせぇなぁ……何やってんだよ、ルイーズは……」

 鐘楼の時計は、もうとっくに待ち合わせの時刻を過ぎている。
 今日は手紙に書いた通り、トルシェに帰ってきた俺はルイーズとデートする予定だったのだが……。
 まぁ、デートといっても何のことはない。魔法学校でいっしょに帰っていたときのように、何か美味しいものを外で食べながら、たわいない話をしたいだけ。
 それは、冒険者ランクがEからDになったこと、相棒のラルクが面白いこと、それにルイーズに会いたかったことなど。
 しかし、彼女は待ち合わせ場所に来ない。なぜ?
 
 道具屋で何かあったのか? 

 そう思い、俺は歩き出そうとした。そのとき、

「ジャスくん……」

 と、綺麗な女性の声で話しかけられた。
 振り返ると、そこにいたのは赤いドレスを着たスタイル抜群の女性で、豊満な胸の谷間がちょっと見えている。
 おお! と興奮したが、よく顔を見るとルイーズのお姉さんだった。たしか名前はドロシー。かなり化粧を濃くしたのだろう。ぱっと見てもわからなかった。でも、なぜここに?

「うふふ、お久しぶりですわ」
「あ、どうもご無沙汰してます……お姉さん」
「ジャスくん、また筋肉がつきましたわね、かっこいいですわ」
「そ、そうか? 冒険者になって魔物と戦ってるから自然と鍛えられたのかも」
「う~ん、いいですわぁ」

 え? めっちゃ色気たっぷりで見つめてくるな、ドロシーさん。
 こんな性格だっけ? いつもツンとして偉そうにして、ルイーズを虐めてばかりいるイメージだったが、何か今日は雰囲気が違うぞ?

「ジャスくん、こっちに来てくれませんこと?」
「え? ルイーズは? 俺はルイーズとデートする予定なんだが……あれ?」

 うふふ、と笑うドロシーさんは踵を返す。
 その優雅な動きのなかで、ふわりとスカートがひるがえる。白くて綺麗な脚が太ももまで見えて、不覚にもドキッとしてしまった。いかんぞ、ジャス! ルイーズのお姉さんを性的に見てはいかん!

「いいから、ちょっと来なさい……」

 顔だけ振り向いたドロシーさんは、流し目で立ち止まったままの俺を見つめている。
 しかし、俺はルイーズと鐘楼の前で待ち合わせしているから、首を振って女の誘惑を切り離し、鋭い視線で質問した。

「俺はルイーズとここで待ち合わせしている、離れるのは無理だ」
「うふふ、こっちにルイーズがいますわ」
「なに?」
「待ち合わせを変えるようルイーズに言われ、わたくしが来ましたの」
「なるほど……でも、ルイーズに何かあったのか?」

 ええ、ちょっと、と小声で言ったドロシーさんは、つかつかと歩いていく。
 ちょっとの意味がわからないが、遅刻しているルイーズのことが心配ではある。ここはお姉さんについていくしかあるまい。
 
「お姉さん、どこへ向かっている?」
「すぐにつきますわ……」

 ドロシーさんが歩いていく方向には、なんと宿屋があった。
 ちなみにトルシェは小さな街で、宿屋はひとつしかない。まぁ、防具屋も武器屋もルイーズのいる道具屋もひとつだけだが……え? なんで? 彼女は宿屋に入っていく。 

「ちょちょちょっ! お姉さん、ここにルイーズがいるのか?」
「ええ……」

 マジかよ、と思いながらも俺は、ツンとした顔で宿屋に入っていくドロシーさんについていった。
 どうやらもう部屋はとってあるらしい、2階にあがっていく彼女の手には鍵がある。ルイーズもその部屋にいるのだろう。だが、なぜ宿屋に?

「お姉さん?」
「……」

 俺が話かけても何も言わない。
 ガチャリ、と扉の鍵を開けたドロシーさんは部屋の中に入っていく。
 かなり違和感があったが、仕方なく俺も部屋の中に入った。
 しかし、ルイーズの姿はない。そこにあるものは、簡素なベッドだけ。
 ルイーズは風呂? それともトイレ? 
 いや、静かすぎる。この部屋には俺とドロシーさんしかいないぞ!? 
 
「どういうことだ? お姉さん」
「……こういうことですわ」

 にやりと笑うドロシーさんは、いきなり服を脱ぎはじめた。
 肩にかかっていた赤いドレスが指先で弾かれると、すとんとドロシーさんを包んでいた布が落ちる。
 すると俺の目の前に現れたのは、艶かしい黒い下着姿の女性で、一瞬だけルイーズのお姉さんだという思考は、俺の頭から飛んでいった。
 
 す、すげぇぇ……!

 生まれて初めて、完璧な女性の下着姿を見た。
 ふと思う、ルイーズは童顔の可愛い系でスタイルはふつう体型だが、逆に姉のドロシーさんは綺麗系な顔立ちで、胸も大きいし、腰のくびれもやばい。
 さすが魔法学生時代には、ミス・トルシェに選ばれたこともあるな。だが、なぜ脱ぐ!?

「おおおおお、お姉さん!? なにやってる!?」

 慌てた俺は、さっと顔を下に向けた。
 お姉さんが淫らなことをしているという現実が、俺の理性を失わせつつある。見ちゃダメだ。でも、見たい。ああ、身体が熱い、ヤバいヤバい……。

「わたくしの身体……好きにしていいですわよ」
「は? え? ちょっと意味がわからないんだが……え?」
「うふふ、可愛いですわね、ジャスくん……もしかしてまだ童貞かしら?」
「は、はぁ、まぁ、俺は童貞だが……ってルイーズがいないじゃないか!? これはどういうことだ?」
「わたくしのお腹に子を宿していい、ということですわ、さぁ、ジャスくん、きて……」

 意味がわからない。
 俺は、ぶんっと顔を大きく横に振った。

「俺はルイーズと婚約してる! お姉さんが何を考えているかわからないが、とにかくここから出ていく」

 怒った俺は扉に手を伸ばした。
 するとドロシーさんは、おーほほほと笑った。これだ、いつもルイーズを虐める時の顔。ついに正体をあらわしたな。

「ルイーズは待ち合わせには来ないわ」
「何だと?」
「あら? 妹から聞いてないの?」
「だから何を?」
「あの子は、ロイ様から結婚を申し込まれたのですわ。だから、待ち合わせに来ないのですわ」

 うそだろ!?
 あの王族野郎、俺とルイーズが婚約しているのにも関わらず、プロポーズしやがったのか。いつも笑って優しそうな顔してるのに、なんてやつだ。
 しかも、ルイーズからそのような内容の手紙は送られてこなかった。つまり、俺はルイーズにフラれた……と言うことなのだろうか。

「し、信じられん……ルイーズはロイと結婚すると言うのか?」
「ええ、わたくしも信じられなかったですけど、これが現実ですわ。うちのお父様も王族との結婚には大満足ですし、もうジャスくんとの婚約は破棄ってことですわね」
「……ぐっ」
「ですからジャスくん、わたくしと結婚しませんこと? お互い魔法が使える者同士……きっと子も強い魔力を宿すことでしょう」
「お姉さんの狙いはそれか? 俺のことなど好きでも何でもないくせに、よく結婚なんてできるな?」

 おーほほほ、とドロシーさんは笑う。
 いい加減に服を着ろよ。笑うと胸が揺れて、俺の理性が、本当にふっ飛びそうになる。ああ、胸をもみたいぜ!

「わたくしってどうも異性というか人を好きになれそうにありませんの。だって、自分が一番好きですから結婚する相手がお金持ちなら、それでいいのですわ」
「狂ってやがる」
「ええ、それも理解してますわ。だからAランク冒険者になるジャスくん、わたくしを抱きなさい」
「……断る。俺は好きな女しか抱く気はない」
「あらあら、そんな強気なことを言ってますのに、下半身が大きくなってるのは何ですの?」

 こ、これは……と言った俺は腰を引いて、凶暴になった下半身を隠す。
 ああ、情けない。身体は嘘がつけないようで、どうしてもドロシーさんの下着姿に興奮してしまう。
 これが童貞を卒業できる機会だとは思う。そう思うが、どうしても好きな女とでないとやっちゃダメだと、まだかろうじて残ってる理性が働く。
 それに、俺は童貞だからシンプルにどうやってドロシーさんの身体に触れていいかわからん。
 しかし、この状況を相棒のラルクに話たら、何て言うだろう。
 もったいないな~、と言うかもしれない。だが、俺はこの場を去ると決めた。
 
「お姉さん、すまん……俺にはできない」
「あら、残念……ですが、わたくしもジャスくんとの結婚は言い過ぎましたわね。あ! そうですわ!」

 ぽん、と手を叩いたドロシーさん。
 本当に何を考えているんだ?

「結婚しなくてもいいですわ。ただ、わたくしを抱くだけでもよくってよ……男の欲望のまま、淫らなことをしても」
「おい、それって、ただやるだけか?」
「ええ、実はわたくしも処女なのですわ。だから、そろそろ大人の女性になりたいと思っていたのですわ」
「そうだったのか……てっきりお姉さんは男に慣れてるかと思った」
「ぜんぜんですわ。ですが、ジャスくんになら抱かれてもいいと判断しましたの。お口も硬そうですし、このことは秘密にしましょう」

 う~ん、困った。
 俺は頭を抱えてしまう。しっかりしろ、俺っ!

「んん~だがなぁ」
「ねぇ、しよ……我慢しないでさぁ」

 ゆっくりと、ドロシーさんは手を伸ばし、俺の下半身に触れる。
 もうガチガチだった。もっともっと触って欲しい気持ちにあふれ、ああ、腰が動いてしまう。

「やっぱり、男性はここを触ると気持ちがいいのですね。男女の生態を記した本で読みましたわ。さらに刺激を加えると、子種が放出されることも……」
「あ、ああぁぁ、ダメだ、お姉さん……」
「ん? 苦しそうですわね。あ! そうそう、わたくしお口でしゃぶってみたいですわ。さぁ、ズボンを下ろして差し上げますわね」
「……あっ!?」

 ドロシーさんが俺のベルドに手を伸ばし、はずしにかかる。
 だが、それを許してはダメだと思った瞬間、ルイーズの笑顔がふと頭に浮かんだ。そして俺は、ドロシーさんを突き飛ばした。

「きゃっ!」
「すまん……やっぱり無理だ」

 ああ、本当に情けない。
 ズボンのベルトを直しながら、俺は急いで扉を開けて部屋から出て、宿屋のフロントを駆け抜けた。

「うっ……眩しい……」

 トルシェの街は、太陽の強い光りに包まれていた。
 まだ昼だという現実を突きつけてくる。さっきまで暗くてぬるい部屋にいたことなど嘘のように。
 そして、俺は不思議なことに魔物との戦闘を思い出していた。

 死ぬかもしれない。

 そのような、生と死、を賭けたギリギリの戦いに勝利した興奮と、今の性的な感情が類似していたからだ。あははは、なぜか笑ってしまう。
 
「あははは、危ないところだったぜ……」
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