ずっと愛していたのに。

ぬこまる

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二章 遠距離恋愛編

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 過去を振り返れば……。
 幼い頃からお父様は妹のルイーズを虐めていましたわ。
 魔法が使えない出来損ないだ! 
 と罵り、氷のような冷たい瞳で妹を見下すその姿は、草原を跋扈する魔物のように恐ろしいもの。
 しかし逆に、お父様はわたくしのことを美しいと褒め称え、魔法が使えることに多大なる評価と期待をしてくれ、ドロシーはモンテーロ家の宝だと言う。
 なのでわたくしは、特別な存在なのだと思っていましたわ。

 世界で一番美しいのはわたくしで、幸せなお姫様なのだと! 

 そう確信していましたわ。
 ええ、ついさっきまでは……そう、ロイ様がルイーズを結婚相手に選んだと知るまでは!
 
「ルイーズは魔法が使えないのに、どういうことですの! わたくしのほうが……わたくしのほうが……ううっ」

 な、なんですの?
 とめどなく涙があふれますわ。わたくしは自分の部屋の椅子に座り、この感情は何なのか探ってみているのですが、なかなか理解不能で、混沌たるカオスのなかに、どっぷりと身体が落ち込んでいるかのように、うまく感情が定まらないのですわ。ここは地獄でしょうか? この感情は、いったいなんですの?

 これは嫉妬、憎悪、それとも敗北感?

 よくわかりませんが、はっきりとしたことはありますわ。
 それは、ルイーズがわたくしより優秀だなんて認められるものではないこと。ましてや、わたくしより幸せな結婚をするなど……。

「間違ってますわ!」

 ガガガガッ! 
 
 あら、またやってしまいましたわね。
 感情が爆発すると、どうやらわたくしは氷魔法を放ってしまうよう。部屋の壁は氷の刃が刺さりまくり、もうボロボロですわ。メイドに言って直してもらわないと。

「……」

 氷の刃。わたくしはこの上級魔法攻撃でルイーズを殺そうとしましたわ。
 しかし、お父様が阻止するなんて、夢にも思いませんこと。なぜ? お父様はルイーズを虐めていたのに。
 
「しかし、もうお父様はルイーズを虐めない。おそらく仲良くするでしょう……ジャスが本当にAランク冒険者にでもなったら、トルシェのみならずフィルワームでも指折りの金持ちになるのは確実……あぁぁ、それに比べてわたくしは婚約者すらいない……」

 ちくしょうですわぁぁ! 

 悔しいですわぁぁ!

 どうしても妹の幸せを祝福できませんわぁぁ!
 
「ハァハァハァ……何としても妹を不幸のどん底に落としてやらなきゃ……うふふ、うふふふ」 
 
 やっぱりですわ。他人が不幸になったほうが楽しい。
 どうやらわたくしの精神は異常者のよう。狂ってることぐらい、何となくわかりますわ。ええ、わかってはいますが、どうしても妹の人生を崩壊させてやりたい……ああ、この感情が抑えられないですわ。だから、わたくしは……。
 
「ジャス……」

 あの男を破壊してやれば、妹は絶望するでしょう。
 しかし、武力ではジャスに敵いませんわ。それなら……どうしましょう。考えて、考えて、腕を組んでみると、豊満なわたくしの胸が、むにゅっと持ちあがりますわ。

「……あ! これですわ!」

 わたくしは閃きましたわ。
 女の魅惑で、ジャスを籠絡ろうらくしてやればいい! なぜ今まで気づかなかったのでしょうか、わたくしはバカですわ。

「よし……フィルワームまで行きましょう」

 こういうときのわたくしの行動力はすごい、と自分でも思いますわ。
 ばっちり化粧をして、胸元が開いたドレスを着て、鏡の前に立つと、そこにはとびきりの美女が登場。ちょっとエロいですけど、ジャスを女の武器で誘惑して落とすためです、がんばりますわ。
 ガチャリと扉を開けて部屋を出る。廊下を歩きながら、鞄の中に財布が入っているか確認しますわ。うん、重いですわ。大量の金貨を入れてあります。これなら一週間くらい外出できますわ。ん? 
 ふと前方を見ますと、メイドのララーナが何かを持って歩いてきますが、サッと後ろに隠しましたわ。あれは何でしょうか?
 わたくしはメイドの前に立ち塞がり、通行止めにしますわ。

「それは何ですの?」
「な、なんのことでしょうか?」
「いいから見せなさい……わたくしの目は誤魔化せませんわ」
「も、申し訳ございません。これはルイーズ様当ての手紙でございますゆえ、見せることができません」
「いいから……み、せ、な、さ、い」

 わたくしは氷の刃を手のひらで浮遊させ、メイドを強迫。
 おーほほほ、我ながら非道な行いですわ。でも、ルイーズへの手紙といったら、ジャスからに決まってますわ。絶対に読む! 

「ララーナ、あなた妊娠してるようだけど、お腹にこの氷の刃を刺したら……どうなるかしら?」

 ゆっくりと、ゆっくりと、氷の刃をメイドの腹に突き刺していく。ビリッと服が破れると、ひっ! と彼女は面白いように悲鳴をあげますわ。あらあら、人間なんて生き物は、生と死を天秤にかけてあげると、何でも言うことを聞きますわね。
 うーん、ルイーズを殺そうとするときは、感情が爆発して失敗しましたわ。このように強迫してやればよかったのに、わたくしとしたことが……。

「やめてください、ドロシーお嬢様! お腹の子だけは……ぐっ!」
「だったら手紙をよこしなさい」
「……ううっ」
 
 バッ! とわたくしは手紙をララーナから奪うと、封を開け、ふむふむとその内容を読みますわ。

「汚い字ですこと……ふぅん、ジャスは月末に帰ってくるのですね。でしたら、わたくしが王都に行くまでもありませんわ」
「ドロシーお嬢様、いったい何を考えているのですか?」
「うふふふ、わたくしは世界を正常に戻すだけ」
「え?」
「魔法が使えない妹は不幸になり、逆に魔法が使えるわたくしは幸せな結婚ができるのですわ!」

 ララーナは顔を青くして、わたくしのことを見ていますわね。

 さぁ、驚きなさい! ショータイムですわ!

 わたくしは手紙をガチガチに氷結させ、そのまま手のひらで浮遊させますわ。
 そうですわね、飛ばす方向は窓の外にしましょう、遥か遠くへ。
 
 パリンッ! 

 と硝子が粉々に割れる破壊音が響きますわ。
 そして青い空に向かって、わたくしの放った氷漬けの手紙が飛んでいきますわ。ああ、なんて儚いのでしょう。ジャスの書いた恋文はルイーズに届くことは、これで完全になくなりましたわ。ざまぁ……。
 
「きゃっー!」

 驚愕したメイドは腰を抜かしていますけど、お腹の子は大丈夫かしら? 自分で転んだのですから自業自得ですわね。

「ララーナ、硝子を掃除して、窓を修理しておきなさい、それと、わたくしの部屋の壁の修理もお願いしますわ」

 は、はい、と小さな声で答えるメイド。
 わたくしを見るその目は、わなわなと恐怖に怯えていますわ。すぐに手紙を見せれば、このような惨事にならずに済んだのに。ルイーズの味方をするなんて、本当にお馬鹿さんですわね。

「おーほほほ! 月末が楽しみですわ~」
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