3 / 19
3
しおりを挟む
ダンジョンの空気は冷たく、きらきらと青い鉱石が輝いている。
ぽちょんと垂れる雫が足元に落ちて、ここは洞窟の中なのだとを思わせた。顔を上げれば果てしない高さのある天井から、ぼんやりと光りが漏れている。
遠くには闇の中を浮かぶように、荒廃した城が見えた。
先を進む案内猫のヘルメスが、「にゃ!」とこちらを振り向く。
「ダンジョンは空洞エリアと城エリアに分かれているにゃ。まず君たちは空洞エリアを冒険してレベルをあげるにゃ」
ふぅん、とサラは持っている木の杖を見つめた。
ゲームをやったことないだろう。ここは僕がリードしてやんないと。
「サラちゃん、僕はゲームが得意なんだ。戦闘になったら隠れてなよ」
「戦闘って?」
「魔物と戦うんだよ」
「魔物ってなに? うち、ゲーム初心者だに?」
「うーん、魔物は……」
僕が説明しようとすると、前方を歩いていたヘルメスが足を止めた。
「ゴブリンにゃ!」
そこには一匹の小柄な魔物がいた。
牙の生えた顔は醜く、深緑の身体は痩せこけ、手には棍棒を持っている。
「サラちゃん、あれが魔物だよ」
「キモっ……うちらがあれを倒すん?」
「そうだよ。ちょっとここで待ってて」
「え? アオくん?」
心配そうな顔をするサラ。
僕は彼女から離れて、ゆっくりとゴブリンに近づいた。
ここは洞窟の中、身を隠せる岩場がゴロゴロとある。僕はちょうどいい岩に隠れ、矢をつけた弓を引いた。
意識を集中する。
すると、急に世界がスローモーションになった。ゴブリンの動きが鈍くなり、頭の部分が光り輝く。な、なんだこれ?
「アオくん! それが心眼スキルにゃ!」
「え? ヘルメス?」
「君たちの脳内に直接、話しかけてるにゃ」
「びっくりした~」
「心眼スキルは数秒間だけ敵の動きがゆっくりになって、弱点や行動を予測するとこができるにゃ!」
「おお! ちょっと攻撃してみる」
がんばれアオくん、とサラも応援してくれた。
僕は精一杯に弓を引いて、撃つ。
シュッ!
見事、矢はゴブリンの頭に命中した。
「グギャッ!!」
ゴブリンは倒れ、光の粒子となって消えていく。
「すっごーい!」
「初勝利おめでとにゃ!」
サラとヘルメスは拍手している。
えへへ、狩人は遠距離攻撃できるから楽だったわ。
すると経験値が入った。
戦利品として、2ポイント。あと、棍棒を手に入れた。
「あはは、これが僕の実力さ」
「アオくん、ポイントを見るにゃ」
「うん、2ポイントあるね」
「ポイントがあれば、ダンジョンのどこかにあるアイテムショップで買い物ができるにゃ」
「ほほう、じゃあ、ガンガン魔物を倒していこう」
「それと、ダンジョンには宝箱があるにゃ。アイテムショップにはないレアアイテムもあるから、取りこぼしに注意するにゃ」
わかった、と僕は答えた。
一方、サラは何かを発見したようだ。追いかけてみるとどうやら行き止まりで、袋小路になっている。しかし宝箱があった。
「アオくん、開けてみりん」
「うん」
パカッと開くと、エーテルを手に入れた。
これは魔力を回復させるアイテムらしい。
ん? 何やら足音が響く。
ゴブリンだ。三匹いて、こちらに近づいてくる。しまった。逃げ道がない。
「サラちゃん、戦おう!」
「うん、でもどうやるだん?」
「魔法を使ってみてよ! ファイヤーボールって言えばいいから」
わかった、とサラは答えると、手を伸ばした。身体から魔力が放出されていく。
「ファイヤーボール!」
サラが習得している火魔法だ。
火の玉がゴブリンに飛んでいき、ボワッと燃え上がる。見事、一発で倒した。
「きゃあーっ! うちってすごいじゃん!」
「すご……でも、まだ二匹いる」
ゴブリンの一匹が、「グギャ!」と僕に向かって棍棒を振りかざす。
「痛い!」
いや、ゲームだから痛くない。
8のダメージを受ける。僕の体力は削られた。0になったらゲームオーバーだろう。
サラも棍棒で攻撃を受けた。5のダメージだ。
「女子を殴るとか最低じゃん……」
サラはキレた。
怒りは魔力を増幅させるらしい。特大の火の玉がゴブリンを燃やし尽くす。火の粉が舞い散って、まるで花火のように美しい。
残りのゴブリンは、僕が弓で倒した。
「危なかったにゃ~」
ヘルメスが、ふっと現れた。
戦闘の間、ヘルメスの存在は薄くなるようだ。ある意味、無敵と言ってもいい。
「ねえ、ヘルメスは戦闘に参加してくれないの?」
「ぼくはアシスタントにゃ。攻略のヒントしかあげにゃい」
あっそ、と僕は目を細めた。
一方、サラは回復魔法をするため、「ヒール」と唱えた。
しかし、魔力が足りない。
特大のファイヤーボールで魔力をぜんぶ使っていたようだ。ステータスを見れば、魔力0。
「ごめん……アオくん」
「大丈夫だよ。エーテルを使おう」
僕は宝箱から入手した新しいアイテム・エーテルをサラに使ってあげる。
サラの魔力が全回復した。
「ありがとう! ほいじゃあ、ヒールするでね」
「待ってサラちゃん」
「ん?」
「体力はまだ充分ある。ギリギリになったら使おう」
「それもそっか、アオくん頭いいね」
「あはは」
いや、ゲームの常識だし。
サラとの冒険は大変そうだな。でも、こういう素朴な感じがいい。弱い魔物からコツコツ倒して、レベルあげて、だんだん強い敵に挑んでいくワクワク感。ああ、楽しい! サラにも会えたし、僕はずっとこのままでもいいや……。
ぐ~
ほぇ? 僕のお腹が鳴った。
サラとヘルメスは僕を見つめ、
「アオくん、お腹すいただかん?」
「にゃにゃ!? そろそろログアウトして食事してくるにゃ!」
嫌だ。
僕はこのまま冒険したい。サラとずっとこのままがいい。ヘルメスは怒っているようだけど。
「食事しなくてもいいよ」
「よくないにゃ! 強制ログアウトするにゃ!」
ヘルメスは前足を上げる。
しかし何も起きなかった。
「にゃにゃ!? おかしいにゃ……時空が歪んだせいかにゃ?」
「どした?」
「アオくん、ダンジョンから出るには、自分でログアウトするしかないにゃ」
「そっか……」
「ずっとこのままだと本体が餓死しちゃうにゃ!」
「うーん……」
僕が困っていると、サラが微笑んだ。
「アオくん、いったん帰りん」
「サラちゃん……」
「うちはここにいるから大丈夫だに」
「でも……」
「アオくんの本体が死んだら、このゲームもできんくなるら?」
その通りにゃ、とヘルメスもうなずく。
自殺志願者として情けない結果だが、サラと遊ぶためならしゃーない。
「わかったよ。でもログアウトってどうやるの?」
「ステータスオープンしてから、ログアウトを選ぶにゃ」
「うん、あ、でもこれセーブとかしなくてもいい?」
「オートセーブだから大丈夫にゃ」
そっか、と僕はログアウトの選択画面に手を伸ばすが、ピタリと静止した。
「ねえ、ヘルメス、また戻ってこれるかな?」
「ダンジョンには必ず入り口があるにゃ。本体に戻ったら探してみるにゃ」
わかった、と僕は答える。
サラは、「バイバイ」と手を振っていた。
このまま戻ろうとしたが、無理だ。やっぱり我慢できない。
僕は駆け出して、ぎゅっとサラを抱きしめた。
「あんっ、ちょっとアオくん!?」
「ねえ、僕の告白を覚えてる?」
「うん、てっきり嫌われたと思っとったから、びっくりしたじゃん」
「嫌いじゃない、その反対で君のことを好きになりすぎてたんだ!」
「アオくん……ほいじゃあ、次の冒険はあの時の続きをしよまい」
「え? 続き?」
ドキッとした。
僕の顔は赤くなる。サラはそんな僕の顔に近づき、ふーっと耳に息を吹きかけた。くすぐったい感触が、ぞくぞくとさせて、ああ、気持ちがいい。
「キスのつ、づ、き♡」
そっとサラは僕の耳にささやいた。
な、なにこのラノベ!? こんな展開、誰が予想した? 死にかけた僕はダンジョンの中で、君の亡霊に恋をするなんて……。
「はいはい、お時間ですにゃ~」
ヘルメスが僕とサラの間に入ってくる。
おい、邪魔だ。この猫のせいで、ああ、ここはゲームなのだと再認識させられた。
「わかったよ、また戻ってくるわ」
しぶしぶ僕はログアウトを押した。
サラとヘルメスは、笑顔で手を振っている。そして、僕の意識は飛んだ。
「……うう」
眩しい。
視界が急に明るくなり、目覚めると温かい感触が身体じゅうに伝わってくる。僕は立ち上がり、状況を確認した。
ぐっしょり服が濡れている。身体に異常はない。だが、目の前にある物体を見て、「はっ!」と驚愕した。
「なんだこれ!?」
大きな岩がある。
それは無骨だが鳥居の形に見えなくもない。中央の空間は鏡のように光を屈折していた。まるで異世界へ繋がっているように、ぐにゃりと向こう側の景色を歪めている。
おそるおそる手を入れてみると、ずぶぶと吸い込まれていく。
「ひぇっ!」
びっくりして手を戻した。
どうやらここがダンジョンらしい。ヘルメスの言葉を思い出す。
『2、ダンジョンが時空を飛んだにゃ』
これが正解だ。
なぜかわからないが、未来のダンジョンがここにある。
周りを散策してみると、ごつごつと岩肌が剥き出しになっていて、べったりと海藻がついている。
地震の影響だ。
地震によって地面が隆起し、海だった場所が砂浜になっている。まるで最果ての地のようだ。ここには海と砂と岩しかない。生臭い硫黄の匂いが鼻につく。
「……今、何時だ?」
太陽は西に傾きつつある。
時刻は二時三時ごろだろう。ポケットを探るがスマホがない。リュックサックにしまったままだ、と思い出す。
クァー! クァー!
海鳥の鳴き声が響く。
生ゆるい波の音、それに眩しすぎる太陽が身体を照らす。
「……さて、帰るか」
いや、本当は帰りたくない。
帰る場所なんてないけど、今の住民票は都市部にある月野宅だ。ああ、足が重い。
「はぁ……」
とぼとぼ歩く。
海岸から急な斜面を上り、広い道路に出る。そこにはクロスバイクが置いてあった。僕の相棒だ。
リュックサックからスマホを取り出し、時間と、誰からも連絡がないことを確認する。
「十四時半か」
早朝六時、月野宅を出発して一時間でここに到着した。
つまり七時間ほどダンジョンにいたことになる。どうやら、冒険している間の現実とのタイムラグはないらしい。
「ダンジョンで遊ぶなら土日だな」
よし、とりあえず生きよう。
サラと会うために!
僕はそう決心して、自転車をこぐのだった。
ぽちょんと垂れる雫が足元に落ちて、ここは洞窟の中なのだとを思わせた。顔を上げれば果てしない高さのある天井から、ぼんやりと光りが漏れている。
遠くには闇の中を浮かぶように、荒廃した城が見えた。
先を進む案内猫のヘルメスが、「にゃ!」とこちらを振り向く。
「ダンジョンは空洞エリアと城エリアに分かれているにゃ。まず君たちは空洞エリアを冒険してレベルをあげるにゃ」
ふぅん、とサラは持っている木の杖を見つめた。
ゲームをやったことないだろう。ここは僕がリードしてやんないと。
「サラちゃん、僕はゲームが得意なんだ。戦闘になったら隠れてなよ」
「戦闘って?」
「魔物と戦うんだよ」
「魔物ってなに? うち、ゲーム初心者だに?」
「うーん、魔物は……」
僕が説明しようとすると、前方を歩いていたヘルメスが足を止めた。
「ゴブリンにゃ!」
そこには一匹の小柄な魔物がいた。
牙の生えた顔は醜く、深緑の身体は痩せこけ、手には棍棒を持っている。
「サラちゃん、あれが魔物だよ」
「キモっ……うちらがあれを倒すん?」
「そうだよ。ちょっとここで待ってて」
「え? アオくん?」
心配そうな顔をするサラ。
僕は彼女から離れて、ゆっくりとゴブリンに近づいた。
ここは洞窟の中、身を隠せる岩場がゴロゴロとある。僕はちょうどいい岩に隠れ、矢をつけた弓を引いた。
意識を集中する。
すると、急に世界がスローモーションになった。ゴブリンの動きが鈍くなり、頭の部分が光り輝く。な、なんだこれ?
「アオくん! それが心眼スキルにゃ!」
「え? ヘルメス?」
「君たちの脳内に直接、話しかけてるにゃ」
「びっくりした~」
「心眼スキルは数秒間だけ敵の動きがゆっくりになって、弱点や行動を予測するとこができるにゃ!」
「おお! ちょっと攻撃してみる」
がんばれアオくん、とサラも応援してくれた。
僕は精一杯に弓を引いて、撃つ。
シュッ!
見事、矢はゴブリンの頭に命中した。
「グギャッ!!」
ゴブリンは倒れ、光の粒子となって消えていく。
「すっごーい!」
「初勝利おめでとにゃ!」
サラとヘルメスは拍手している。
えへへ、狩人は遠距離攻撃できるから楽だったわ。
すると経験値が入った。
戦利品として、2ポイント。あと、棍棒を手に入れた。
「あはは、これが僕の実力さ」
「アオくん、ポイントを見るにゃ」
「うん、2ポイントあるね」
「ポイントがあれば、ダンジョンのどこかにあるアイテムショップで買い物ができるにゃ」
「ほほう、じゃあ、ガンガン魔物を倒していこう」
「それと、ダンジョンには宝箱があるにゃ。アイテムショップにはないレアアイテムもあるから、取りこぼしに注意するにゃ」
わかった、と僕は答えた。
一方、サラは何かを発見したようだ。追いかけてみるとどうやら行き止まりで、袋小路になっている。しかし宝箱があった。
「アオくん、開けてみりん」
「うん」
パカッと開くと、エーテルを手に入れた。
これは魔力を回復させるアイテムらしい。
ん? 何やら足音が響く。
ゴブリンだ。三匹いて、こちらに近づいてくる。しまった。逃げ道がない。
「サラちゃん、戦おう!」
「うん、でもどうやるだん?」
「魔法を使ってみてよ! ファイヤーボールって言えばいいから」
わかった、とサラは答えると、手を伸ばした。身体から魔力が放出されていく。
「ファイヤーボール!」
サラが習得している火魔法だ。
火の玉がゴブリンに飛んでいき、ボワッと燃え上がる。見事、一発で倒した。
「きゃあーっ! うちってすごいじゃん!」
「すご……でも、まだ二匹いる」
ゴブリンの一匹が、「グギャ!」と僕に向かって棍棒を振りかざす。
「痛い!」
いや、ゲームだから痛くない。
8のダメージを受ける。僕の体力は削られた。0になったらゲームオーバーだろう。
サラも棍棒で攻撃を受けた。5のダメージだ。
「女子を殴るとか最低じゃん……」
サラはキレた。
怒りは魔力を増幅させるらしい。特大の火の玉がゴブリンを燃やし尽くす。火の粉が舞い散って、まるで花火のように美しい。
残りのゴブリンは、僕が弓で倒した。
「危なかったにゃ~」
ヘルメスが、ふっと現れた。
戦闘の間、ヘルメスの存在は薄くなるようだ。ある意味、無敵と言ってもいい。
「ねえ、ヘルメスは戦闘に参加してくれないの?」
「ぼくはアシスタントにゃ。攻略のヒントしかあげにゃい」
あっそ、と僕は目を細めた。
一方、サラは回復魔法をするため、「ヒール」と唱えた。
しかし、魔力が足りない。
特大のファイヤーボールで魔力をぜんぶ使っていたようだ。ステータスを見れば、魔力0。
「ごめん……アオくん」
「大丈夫だよ。エーテルを使おう」
僕は宝箱から入手した新しいアイテム・エーテルをサラに使ってあげる。
サラの魔力が全回復した。
「ありがとう! ほいじゃあ、ヒールするでね」
「待ってサラちゃん」
「ん?」
「体力はまだ充分ある。ギリギリになったら使おう」
「それもそっか、アオくん頭いいね」
「あはは」
いや、ゲームの常識だし。
サラとの冒険は大変そうだな。でも、こういう素朴な感じがいい。弱い魔物からコツコツ倒して、レベルあげて、だんだん強い敵に挑んでいくワクワク感。ああ、楽しい! サラにも会えたし、僕はずっとこのままでもいいや……。
ぐ~
ほぇ? 僕のお腹が鳴った。
サラとヘルメスは僕を見つめ、
「アオくん、お腹すいただかん?」
「にゃにゃ!? そろそろログアウトして食事してくるにゃ!」
嫌だ。
僕はこのまま冒険したい。サラとずっとこのままがいい。ヘルメスは怒っているようだけど。
「食事しなくてもいいよ」
「よくないにゃ! 強制ログアウトするにゃ!」
ヘルメスは前足を上げる。
しかし何も起きなかった。
「にゃにゃ!? おかしいにゃ……時空が歪んだせいかにゃ?」
「どした?」
「アオくん、ダンジョンから出るには、自分でログアウトするしかないにゃ」
「そっか……」
「ずっとこのままだと本体が餓死しちゃうにゃ!」
「うーん……」
僕が困っていると、サラが微笑んだ。
「アオくん、いったん帰りん」
「サラちゃん……」
「うちはここにいるから大丈夫だに」
「でも……」
「アオくんの本体が死んだら、このゲームもできんくなるら?」
その通りにゃ、とヘルメスもうなずく。
自殺志願者として情けない結果だが、サラと遊ぶためならしゃーない。
「わかったよ。でもログアウトってどうやるの?」
「ステータスオープンしてから、ログアウトを選ぶにゃ」
「うん、あ、でもこれセーブとかしなくてもいい?」
「オートセーブだから大丈夫にゃ」
そっか、と僕はログアウトの選択画面に手を伸ばすが、ピタリと静止した。
「ねえ、ヘルメス、また戻ってこれるかな?」
「ダンジョンには必ず入り口があるにゃ。本体に戻ったら探してみるにゃ」
わかった、と僕は答える。
サラは、「バイバイ」と手を振っていた。
このまま戻ろうとしたが、無理だ。やっぱり我慢できない。
僕は駆け出して、ぎゅっとサラを抱きしめた。
「あんっ、ちょっとアオくん!?」
「ねえ、僕の告白を覚えてる?」
「うん、てっきり嫌われたと思っとったから、びっくりしたじゃん」
「嫌いじゃない、その反対で君のことを好きになりすぎてたんだ!」
「アオくん……ほいじゃあ、次の冒険はあの時の続きをしよまい」
「え? 続き?」
ドキッとした。
僕の顔は赤くなる。サラはそんな僕の顔に近づき、ふーっと耳に息を吹きかけた。くすぐったい感触が、ぞくぞくとさせて、ああ、気持ちがいい。
「キスのつ、づ、き♡」
そっとサラは僕の耳にささやいた。
な、なにこのラノベ!? こんな展開、誰が予想した? 死にかけた僕はダンジョンの中で、君の亡霊に恋をするなんて……。
「はいはい、お時間ですにゃ~」
ヘルメスが僕とサラの間に入ってくる。
おい、邪魔だ。この猫のせいで、ああ、ここはゲームなのだと再認識させられた。
「わかったよ、また戻ってくるわ」
しぶしぶ僕はログアウトを押した。
サラとヘルメスは、笑顔で手を振っている。そして、僕の意識は飛んだ。
「……うう」
眩しい。
視界が急に明るくなり、目覚めると温かい感触が身体じゅうに伝わってくる。僕は立ち上がり、状況を確認した。
ぐっしょり服が濡れている。身体に異常はない。だが、目の前にある物体を見て、「はっ!」と驚愕した。
「なんだこれ!?」
大きな岩がある。
それは無骨だが鳥居の形に見えなくもない。中央の空間は鏡のように光を屈折していた。まるで異世界へ繋がっているように、ぐにゃりと向こう側の景色を歪めている。
おそるおそる手を入れてみると、ずぶぶと吸い込まれていく。
「ひぇっ!」
びっくりして手を戻した。
どうやらここがダンジョンらしい。ヘルメスの言葉を思い出す。
『2、ダンジョンが時空を飛んだにゃ』
これが正解だ。
なぜかわからないが、未来のダンジョンがここにある。
周りを散策してみると、ごつごつと岩肌が剥き出しになっていて、べったりと海藻がついている。
地震の影響だ。
地震によって地面が隆起し、海だった場所が砂浜になっている。まるで最果ての地のようだ。ここには海と砂と岩しかない。生臭い硫黄の匂いが鼻につく。
「……今、何時だ?」
太陽は西に傾きつつある。
時刻は二時三時ごろだろう。ポケットを探るがスマホがない。リュックサックにしまったままだ、と思い出す。
クァー! クァー!
海鳥の鳴き声が響く。
生ゆるい波の音、それに眩しすぎる太陽が身体を照らす。
「……さて、帰るか」
いや、本当は帰りたくない。
帰る場所なんてないけど、今の住民票は都市部にある月野宅だ。ああ、足が重い。
「はぁ……」
とぼとぼ歩く。
海岸から急な斜面を上り、広い道路に出る。そこにはクロスバイクが置いてあった。僕の相棒だ。
リュックサックからスマホを取り出し、時間と、誰からも連絡がないことを確認する。
「十四時半か」
早朝六時、月野宅を出発して一時間でここに到着した。
つまり七時間ほどダンジョンにいたことになる。どうやら、冒険している間の現実とのタイムラグはないらしい。
「ダンジョンで遊ぶなら土日だな」
よし、とりあえず生きよう。
サラと会うために!
僕はそう決心して、自転車をこぐのだった。
154
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
【短編】追放された聖女は王都でちゃっかり暮らしてる「新聖女が王子の子を身ごもった?」結界を守るために元聖女たちが立ち上がる
みねバイヤーン
恋愛
「ジョセフィーヌ、聖なる力を失い、新聖女コレットの力を奪おうとした罪で、そなたを辺境の修道院に追放いたす」謁見の間にルーカス第三王子の声が朗々と響き渡る。
「異議あり!」ジョセフィーヌは間髪を入れず意義を唱え、証言を述べる。
「証言一、とある元聖女マデリーン。殿下は十代の聖女しか興味がない。証言二、とある元聖女ノエミ。殿下は背が高く、ほっそりしてるのに出るとこ出てるのが好き。証言三、とある元聖女オードリー。殿下は、手は出さない、見てるだけ」
「ええーい、やめーい。不敬罪で追放」
追放された元聖女ジョセフィーヌはさっさと王都に戻って、魚屋で働いてる。そんな中、聖女コレットがルーカス殿下の子を身ごもったという噂が。王国の結界を守るため、元聖女たちは立ち上がった。
【完結】婚約破棄され国外追放された姫は隣国で最強冒険者になる
まゆら
ファンタジー
完結しておりますが、時々閑話を更新しております!
続編も宜しくお願い致します!
聖女のアルバイトしながら花嫁修行しています!未来の夫は和菓子職人です!
婚約者である王太子から真実の愛で結ばれた女性がいるからと、いきなり婚約破棄されたミレディア。
王宮で毎日大変な王妃教育を受けている間に婚約者である王太子は魔法学園で出逢った伯爵令嬢マナが真実の愛のお相手だとか。
彼女と婚約する為に私に事実無根の罪を着せて婚約破棄し、ついでに目障りだから国外追放にすると言い渡してきた。
有り難うございます!
前からチャラチャラしていけすかない男だと思ってたからちょうど良かった!
お父様と神王から頼まれて仕方無く婚約者になっていたのに‥
ふざけてますか?
私と婚約破棄したら貴方は王太子じゃなくなりますけどね?
いいんですね?
勿論、ざまぁさせてもらいますから!
ご機嫌よう!
◇◇◇◇◇
転生もふもふのヒロインの両親の出逢いは実は‥
国外追放ざまぁから始まっていた!
アーライ神国の現アーライ神が神王になるきっかけを作ったのは‥
実は、女神ミレディアだったというお話です。
ミレディアが家出して冒険者となり、隣国ジュビアで転生者である和菓子職人デイブと出逢い、恋に落ち‥
結婚するまでの道程はどんな道程だったのか?
今語られるミレディアの可愛らしい?
侯爵令嬢時代は、女神ミレディアファン必読の価値有り?
◈◈この作品に出てくるラハルト王子は後のアーライ神になります!
追放された聖女は隣国で…にも登場しておりますのでそちらも合わせてどうぞ!
新しいミディの使い魔は白もふフェンリル様!
転生もふもふとようやくリンクしてきました!
番外編には、ミレディアのいとこであるミルティーヌがメインで登場。
家出してきたミルティーヌの真意は?
デイブとミレディアの新婚生活は?
【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。
業 藍衣
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。
実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。
たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。
そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。
そんなお話。
フィクションです。
名前、団体、関係ありません。
設定はゆるいと思われます。
ハッピーなエンドに向かっております。
12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。
登場人物
アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳
キース=エネロワ;公爵…二十四歳
マリア=エネロワ;キースの娘…五歳
オリビエ=フュルスト;アメリアの実父
ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳
エリザベス;アメリアの継母
ステルベン=ギネリン;王国の王
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。
業 藍衣
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。
彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。
しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる……
そんなところから始まるお話。
フィクションです。
追放された回復術師、「アイテム娘」とキスしたら【アイテム無限増殖】が出来るようになりました
なっくる
ファンタジー
「ポーションを何個でも用意できる?安いアイテムがいくらあっても、お前と同じで役に立たねーよ」
おっとりお人好しな初級回復術師グラス。新たなスキル【アイテム無限増殖】を手に入れるが、その価値を理解しないパーティリーダーとギルド支部を見限り、回復アイテム屋を開店する。
グラスの家にはポーションを擬人化した「アイテム娘」の「ポーションちゃん」がおり、彼女と抱き合ったりキスする事でポーションやハイポーションを無限増殖できるのだ。
その時、回復アイテムのドロップ率が下がり、回復魔法の消費MPが上昇するという怪現象が起こる。ポーションの価値が一気に増大し、グラスの店は大繁盛!
勇者パーティや王宮からの大口注文が入りウハウハ状態。
新たな「アイテム娘」も登場し、どんどん充実していくグラスの店……かわいい「アイテム娘」とのいちゃいちゃ同居生活でグラスの心もドキドキです!
グラスを切って上級回復術師を入れたパーティはこの現象のせいで冒険が上手く行かず、だんだんと追い詰められていくのだが……。
……父さん母さん、いつの間にか僕の唇とお尻がアイテム娘たちの間でシェアされることになったようです。ぼ、僕の意見が入る余地は……?
グラスのもとに集う「アイテム娘」たちが、やがて世界を救うカギに……?
これは、かわいい「アイテム娘」たちと、彼女たちに愛されるおっとり善人な初級回復術師が繰り広げるハーレム最強店舗経営ファンタジー!
ざまぁもあるよ!
※他サイトでも掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる