デジタルゴーストに花束を

ぬこまる

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「ちょっと待ちん! ここどこ? なんで私は制服なん? しかもスカートみじかっ!?」

 むんず、と猫を抱っこするサラは質問攻め。
 彼女は死んだはずだが、どういうことだろう。猫はしゃべるし、ここはダンジョンだし、まったくもって不思議な現象が起こりまくっている。あはは、これは夢じゃないか?

「にゃにゃ! サラちゃん、君はデジタルゴーストにゃ!」
「やだ、何それ?」
「死んだ人間のAIにゃ」
「え? うちって死んだん?」
「なぜ疑問をもつにゃ! ちょっと失礼……」

 猫は前足の肉球でサラに触れた。
 どうやら、猫はダンジョンの管理人らしい。いや、管理猫か。サラの身体を調べているみたいだが、おいっ、サラの胸をもみもみ揉むな! エロ猫!

「ふむふむ、身体も頭脳も完璧に復元されているにゃ」
「え?」
「冒険するには問題ないけど、お別れプログラムに不具合が発生しているにゃ」
「ねえアオくん、この猫って何なん?」

 ほいっ、とサラは猫を僕に渡してくる。
 だが、猫は嫌がって飛び跳ねた。くるん、と一回転して着地してみせると、堂々と胸を張った。

「ぼくの名前はヘルメス。君たちがダンジョンを楽しく冒険するためのアシスタントにゃ」

 ヘルメス。
 たしかギリシャ神話でいう死の案内人だ。その見た目が猫なのは、そもそものプレイヤーであるマリンちゃんの要望かもしれない。

「あの、ヘルメス。ちゃんと説明してくれないか?」
「わかったにゃ。このダンジョンは二十二世紀に開発されたゲーム・ラストサマーダンジョンにゃ! 身近な死を経験した子どもたちが、夏休みを利用して死生観を学ぶ没入型体験プログラムにゃ」

 ラストサマーダンジョン、だと!?
 僕とサラは目を丸くした。ここは未来の世界なのか? それともこのダンジョンが僕らの時代に来たのか? それはまだ不明だが、とにかく僕らはプレイヤーになったらしい。

「アオくん、サラちゃん、君たちはダンジョンクリアを目標に冒険をしてほしいにゃ。そしてちゃんとお別れしてほしいにゃ」
「……嫌だと言ったら?」
「にゃ?」
「僕はサラとずっといっしょにいたいんだ!」

 いやん、アオくん……とサラは顔を赤く染める。
 ねえ、ちょっと今、シリアスな展開なんだけど。

「んもう、そんなにうちのことが好きなん? 高校生になってから、ぜーんぜん遊んでくれんかったくせに」
「そ、それはサラの身体が急に……」
「うちの身体がなに?」
「……っっ」

 言えない。
 言えるわけがない。君の身体がエロいなんて。だって君は完璧な美少女なんだから! 
 ぷるんと張った胸、くびれたウエスト、スカートに隠れた弾力のあるヒップ、顔は小さく色白で、髪は名前の通りサラサラだ。でも、なぜだろう。この違和感は?

「まぁ、うちにはよくわかんないけど、とにかくアオくんと冒険すればいいだら? ヘルメス」
「そうにゃん。で、アオくんとしっかりお別れをするにゃん」
「ふぅん、死んだなんて実感ないけどねぇ……」

 ちょっと真剣な顔をするサラ。
 しかし、秒で笑顔を取り戻した。

「まいっか、アオくんといっしょなら大丈夫だら~」

 ぎゅっとサラは僕の腕に抱きつく。
 ん~、むにゅっと胸が当たってるんよ。幸せすぎて死ぬ。ってか、ゲームなのにリアルすぎん、これ?

「ねえ、ヘルメス。僕の身体はどうなったの? 僕、海で溺れたんだけど?」
「ログアウトすれば分かるにゃ」
「はぁ?」
「今、君はアバターを操作しているにすぎないにゃ」
「はぁ?」
「君の意識はダンジョンという仮想空間にいるにゃ。だけど、それはあくまでも頭脳に伝達される神経系だけで、君の本体は別のところにあるにゃ」
「はぁ?」

 意味がわからん。
 きゃはは、とサラが僕とヘルメスの会話に笑っている。
 
「ぺらぺらしゃべる猫に、はぁ? しか言わんアオくん、猫ミームみたいじゃん。きゃはは、ウケる!」
「ねえ、サラちゃんは理解できるの?」
「ぜんぜん! まったく! あたし頭よくないし」
「なんで偉そうなの?」
「きゃはは、まぁ、悩んでも仕方ないじゃん! ねぇ冒険しよまい、アオくん」

 ふっ、笑えてくる。
 サラという少女は、こういうやつだった。誰に対しても方言丸出しでしゃべり、太陽のような笑顔で、困った人を救う正義のヒーローみたいな存在。死んだっていうのに、涙ひとつ流しやしない。
 それがデジタルゴーストなのだと説明されたらそれまでだが、僕はサラのことを実体として認識している。つまり、生き返ったのだと、都合よくそう思うことにした。
 あ、そうか!
 僕は気がついた。サラの違和感はそこにあったのだ。
 デジタルゴーストは僕の理想像なのだ。よってスカートも短い。

「じゃあ、二人とも、ステータスをオープンするにゃ」

 ヘルメスに促され、「ステータスオープン」と僕は手のひらを開く。
 すると空中に画面が現れた。これが僕の能力らしい。


 アオ
 職業:狩人
 レベル:1
 体力:60
 魔力:23
 武器:なし
 防具:なし
 アクセサリ:なし
 物理攻撃力:5
 物理防御力:12
 魔法攻撃力:18
 魔法防御力:22
 力:8
 すばやさ:37
 精神:6
 運:24
 
 スキル:心眼
 風魔法:ウィンドカッター
 土魔法:サンドホール
 
 なるほど。
 僕は狩人らしい。でも、何も装備されていないのはなぜ?
 と、思っているとヘルメスが宝箱をくれた。

「初回ログインボーナスにゃ」

 ぱかっと開けると中に弓と服と指輪が入っていて、触れると、

『装備しますか?』

 と空中にカーソルが出た。
 はい、と答えると身体が光り、装備が完了した。靴までちゃんとある。動きやすい皮のブーツだ。

「アオくん、素敵!」
「似合ってるにゃ」

 ありがとう、と僕は答えた。
 お! 能力があがってるぞ。

 武器:木の弓
 防具:冒険者の服
 アクセサリ:疾風の指輪
 物理攻撃力:36
 物理防御力:29
 魔法攻撃力:18
 魔法防御力:22
 力:8
 すばやさ:74
 精神:6
 運:24
 
 狩人は弓が装備できる。
 疾風の指輪のおかげで、すばやさが抜群だ。
 あとは、スキルの心眼や魔法も気になるが今は、じーっと見つめてくるサラのステータスを調べたい。

「サラちゃんも手をひらいて」
「こう?」
「うん、でステータスオープンって言ってよ」
「わかった」

 ステータスオープン! とサラが元気よく言うと、空中に画面が現れた。


 サラ
 職業:魔法使い
 レベル:1
 体力:32
 魔力:68
 武器:木の杖
 防具:学生服
 アクセサリ:ガードリング
 物理攻撃力:14
 物理防御力:33
 魔法攻撃力:40
 魔法防御力:36
 力:4
 すばやさ:26
 精神:14
 運:29
 
 火魔法:ファイヤーボール
 水魔法:アクアボール
 光魔法:ヒール
 
 
 サラは魔法使いらしい。
 傷ついて体力が減ったら、光魔法のヒールで回復するのだろう。サラは僕のサポート役と言ったところか。

「ねえ、うち、木の杖なんて持ってないに?」
「にゃにゃ、アイテムボックスを見てみるにゃ」
「どうやって見るん?」
「アイテムボックス、と頭で願えば出るにゃ」

 ふぅん、とサラは納得した。
 すると新しい画面が空中に現れる。アイテムと表記されてあり、装備と分かれてあった。

 装備
 武器:木の杖
 防具:学生服
 アクセサリ:ガードリング

 アイテム
 ポーション:3


 ヘルメスはさらに説明を続けた。

「願うだけで、武器を取り出したり、収納させたりできるにゃ」

 試しにサラは手を伸ばした。
 ぐにゃり、と空間が歪みそこから木の杖が出現する。それを手でつかむ。これで装備完了だ。
 すげぇ! 僕もやりたい。
 手を伸ばし、何もない空間を見つめて、弓を収納して、願いを込める。
 すると、シュッと弓は消えた。
 アイテムボックスを開く。

 装備
 武器:木の弓
 防具:冒険者の服
 
 アイテム
 ポーション:2
 木の矢:20
 
 そうか。
 弓は矢がないと攻撃ができない。おそらく、冒険をしていれば矢は手に入るのだろう。
 僕は、さらにまた空中に手を伸ばし、弓と矢を出して、と願う。
 
「おお!」

 歪んだ空間から弓と矢が出た。
 僕はそれらを手に取って、矢をつけた弓を引いてみる。
 なかなか、サマになっているだろ?

「アオくん、かっこいいー!」
「いい感じにゃ」

 サラとヘルメスが拍手をくれた。
 よせよせ、まだ何もやってない。遠くを見れば、暗い荒廃した城がそびえて立っている。どうやら、そこを目指して冒険をするらしい。

「アオくん、サラちゃん、冒険に出ようにゃ!」
 
 おおー! と僕らは気合を入れて、一歩、足を踏み出すのだった。
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