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番外編 モノトーン館の幽閉
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しおりを挟む「ええっ? リリーが消えたぁっ!?」
電話していた私は、びっくりして受話器を落としそうになる。
レオとの結婚式をあげてから一週間。
朝っぱらにポールから電話がかかってきた、と思ったらこれです。
「どういうことですか?」
聞き返す私に、まるで捨てられた子犬のように顔を寄せてくるレオ。
付き合って……いや違いますね。
結婚してからレオは、変わりました。そう、無自覚ではなくなったのです。
私からの愛を自覚した。と同時に、さらに私のことが好きすぎて、ずっと甘えてくるのです。少しでも離れようものなら、このようにワンちゃんみたいになるので、まぁ可愛いけど、ちょっと困ってしまうときも……。
──レオ、顔が近いって……。
「俺にも聞かせてください!」
あ、ポールとの話を聞きたいのですか、それならそうと言ってください。
私は、レオと顔を合わせて受話器を持ちます。
──近い……ドキドキ……。
こっちの状態を知らないポールは、事情を説明してくれます。
「昨日、リリーの家に結婚の許しをもらいにいったんです」
「ほぉ、それはがんばりましたね! で、どうだったのですか?」
「リリーの家は父子家庭で、まぁ、結婚することは許してくれたんですが……ちょっと父親から忠告を受けました」
「なんと?」
「リリーは無断で婚約破棄をしているから、その相手に見つかったら……ヤバいなって」
なるほど、と言った私は受話器を右耳から左耳に変えます。
当然、レオも左に顔を寄せてくる。きゃっ、可愛いんですけど……。
「で、リリーが消えた原因もそれなのかなって……わぁぁあぁぁ! どうしたらいいでしょうか、マイラさん!?」
「落ち着いてくださいポール。警察に連絡は?」
「……し、してません。父親も大っぴらにしたくないようで……」
「そうですか、ではまず教えてほしいのですが、リリーさんを最後に見たのは、いつですか?」
「昨日は、リリーはそのまま家に泊まったんです」
「ほう、ポールは帰ったんですか?」
「はい、お客さんのオーダースーツを完成させたかったので、店に戻りました」
「なるほど、ではリリーさんは実家で失踪したんですね?」
「たぶん……朝になっても起きてこないから父親がリリーの部屋に行ったんです。そしたら、いなくなっていたそうで……」
「何か争った形跡はないですか? 物が取られたりなど?」
「……ないと思いますが、実はパニックになっていて、あまり部屋を見れていません……ごめんなさいマイラさん」
「あ、私のほうこそごめんなさい」
無神経でしたね。
ポールは愛しい人が失踪して、冷静な判断ができない状態。そこのところを配慮してあげなくてはいけません。どうやら私は結婚してからというもの平和ボケしてしまい、探偵としての気質を失いかけていたようです。このままじゃダメだ……私らしくない。
「ポール、私にまかせて!」
「マイラさん……」
「リリーを必ず見つけ出してみせる!」
「あ、ありがとうございます……でもマイラさん新婚なのに、事件に巻き込んでしまって申し訳ない……」
「大丈夫ですよ、私は結婚しても……」
と言葉を切ってから元気な声で言います。
「探偵です!」
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