私が愛しているのは、誰でしょう?

ぬこまる

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ヴガッティ城の殺人

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「レオ……やっぱりおまえは兄弟だったのか、子どもの頃から似ていると思っていたぜ」

 ケビンの言葉に、レオはふっと鼻で笑います。
 
「ケビン様、いやケビン。あんたはよく俺をいじめてくれたな」
「……オヤジがおまえとメイドを可愛がるからだ!」
「当然だろ? 総督は俺の母さんを愛していた……そうだろ?」
「ぐっ……」

 ケビンは、何も言い返せないまま、唇をかむ。
 一方、近衛兵たちは、レオの剣幕にびっくり。
 
「レオ、やるときはやるなぁ」とハリー。
「僕は前からずっとレオは何かあると思っていましたよ」とポール。
「くそぉぉ、イケメンで喧嘩も強くて、しかもヴガッティの遺産持ちなんてチートかよ……」

 とヴィルが悔しがると、突然!
 レベッカは、レオに迫ります。
 
「レオ、あなたがヴガッティの子どもだとは認めるわ。ですけど、相続は一千億クイドだけにしなさい」
「……なぜ?」
「総督の遺言がそうだったでしょ?」
「だったら、婦人もケビンも一千億クイドですよ」
「……あ、いえ、え? わたくしはもっと遺産をもらいますわ」
「それなら俺はこの城をもらいます」
「いやいやいや! ヴガッティ城はダメですわ!」
「なぜ?」
「この城はマキシマスが建築した素晴らしい芸術品。わたくしが相続したあかつきには、この城だけでなく島全体を大改装し、美術のテーマパークにする予定なのです。ここは緑が多すぎるのよね。そうだ、森を削って宮殿を建てましょう。おーほほほ」
「ふんっ、そんなことをしたら島の緑がなくなる、婦人のしていることは自然破壊ですよ?」
「自然なんて美術のまえでは無に等しい。人間がつくりだしたものこそ至高!」
「狂ってる……」
「この島はわたくしのもの。誰にも邪魔されたくないわ」
「自然は誰のものでもない! それを破壊するなんてありえない。それに俺と母さんがこの城でずっと住んでいたんだ。もらう権利はある」
「キィィィー! 総督に色目を使った泥棒猫め!」

 レベッカは、クロエをにらみます。
 一方、メイドのリリーとエヴァは、こそこそ耳打ち。

「ほんと嫌な女ね、レベッカ婦人って」
『worst』

 “最低ですね”というプラカードを見たレベッカは、きつくエヴァをにらみます。
 あせあせ、とエヴァは布で文字を消去。
 書かなきゃいいのに……と私が思っていると、クロエは、氷のような冷たい目線でレベッカを見つめて言い放つ。
 
「まったく覚えがありません。戦いに疲れ、気を失っていくなかで誰かに抱きしめられた……そのときの温かい記憶が、心に残っているだけです」
「な、何を詩人みたいに言っているのですかっ! あなたのしたことは不倫ですわ! ふ、り、ん!」
「……ふりん? なんですか、その言葉は?」
「人の旦那を誘惑したでしょ?」
「はて? 誘惑した覚えはありませんが……」
「嘘おっしゃい! 総督とエッチしたくせに……言わせないで恥ずかしい」

 クロエは、首をかしげ不思議な顔を浮かべます。

「エッチ? はて……まったく記憶にありません」
「くぅー、ムカつくわぁぁ! そうだ! 慰謝料を請求しますわっ!」
「……」
「あら、ちょうど王宮弁護士がいますから相談にのってくれます?」

 レベッカは、クライフを見るなり扇子を開いて、いつものように口元を隠します。
 おほんと咳払いしたクライフは、げんなりした様子で口を開く。
 
「無理ですなぁ」
「……えっ!?」
「総督はレオくんを息子として認可しています。逆にレイプされたクロエさんがヴガッティ家に慰謝料を請求できますぞ」
「……な、なんですって!?」
「まぁ、とにかく楽しみに待っていてください。わたしはこれから本土エングランドに戻って女王と謁見をし、ヴガッティ家の相続手続きをしてきますから、わはは」
「ちょ、ちょっと! 待ちなさい!」

 わはは、と笑いながら城を出て行こうとするクライフ。
 レベッカは、顔をぐしゃぐしゃにして泣き崩れる。彼女は自己中で、欲深い、なんて醜い人間。もしかしたら総督は、クロエと再婚したかったかもしれませんね。まぁ、何はともあれ……。

「ざまぁ……」

 帽子に触れながら歩くクライフは、私とすれ違うとき、小声で言います。
 
「レオくんのことは任せなさい!」

 お願いします、と私は心のなかで言いながら微笑みを返します。
 
「さて、私たちもいきましょう、レオ」

 と、私はレオの腕を抱きしめます。
 ぽっと赤く、照れちゃってかわいいレオは、
 
「ど、どこに行くのですか?」

 と尋ねるので、私は笑顔で答えます。
 
「まずはハーランド族の村。それと建築家マキシマスのところです」
「あのマイラさん、それって場所わかりますか?」
「なんとなくわかります」
「……大丈夫かな」

 心配そうな顔をするレオ。
 そのとき、ムバッペが私たちの間に入って、両手でバツをつくって否定してきます。
 この警察官、賢いのにやることが子供っぽいんですよね。童顔なくりっとした瞳が、まるで少年のように見えて笑っちゃう。
 
「ダメですよ! マイラさんもレオさんも容疑者なんですから、城の外には出られません」
「ええええ! そこをなんとか!」

 私は、神に祈りを捧げるように手を組みます。
 しかしムバッペは、首をふる。
 
「ダメダメ」
「むぅ、捜査に協力すれば外に出られると言ったのに……ムバッペの嘘つき」
「嘘つきではありません! 僕とマイラさんの二人なら出られます」
「は?」

 へへん、と笑って腕を組むムバッペ。
 私は、嫌な予感がして、頭から汗を流します。
 
「私立探偵マイラさん! あなたに捜査を依頼します」
「……はい!?」
「僕とともに捜査をしてもらうんですよ」
「そ、そんなぁ、私はレオを相棒にしたいのにっ!」
「ダメです。容疑者同士が探偵ごっこするなんて、小説だけですよ?」
「いやぁぁぁ!」

 さあ、いきますよ、と言ってムバッペは私の腕を引っ張る。
 ザーッと引きずられる私は叫ぶ。
 
「レオぉぉぉ!」

 しかしレオは、にっこりと笑っています。なんで?
 
「警察といっしょなら、俺がいなくても大丈夫ですよね……」
 
 私は、ふんっとムバッペの手を払って、レオに近づきます。まるで、抱きしめ合うみたいに。

「もう! 本当に無自覚な人なんだからっ!」
「?」
「まったく!」

 私は、むすっとしながらも、うふっ、あはは、とレオと笑い合います。
 
「じゃあ、行ってきます、レオ」
「行ってらっしゃい、マイラさん」
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