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ヴガッティ城の殺人
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しおりを挟む──離島ハーランド
青い海に白い砂浜。
本土から一時間ほど航海してたどり着いた離島は、まさに夢の楽園ですね。
ビーチでは、水着姿の美しいお姉さんたちがいます。
彼女たちは、みんな素晴らしいプロポーション。
まるでファッション雑誌から飛び出してきたみたい。
大きな帽子にサングラスをかけて、飲んでいるのはカクテル。お酒ですね。
ああ、私もあんなふうにバカンスしたい。
美しいお姉さんたちが、ゆったりと歩いている先にはホテル。
自然あふれる緑のなかに、先鋭的なモダンデザインのホテルが立ち並んでいます。
一方、港町は活気にあふれ、世界じゅうから美術品やら骨董品が売られている。よってこの離島にはエングランド人だけではなく、あらゆる国の貴族たちが露店でお買い物をしており、なんともエキゾチックな香りがただよっています。
ですが、このような楽しい雰囲気とは反対に、港に停泊している船が、まぁなんと恐ろしい。
「艦隊……」
私は、そうつぶやいて目を細めます。
戦車や戦闘機を乗せた艦隊は、このハーランドを守っているだけでなく、他国から本土を守っているのですね。
いや、それだけではありません。
おそらく、他国を攻めにもいくはず……。
うーん、ヴガッティ総督という人物は、ゴリゴリの軍人のようですね。
それに……私は、ヤバいものを発見!?
「……あ、あれは何ですか?」
私がびっくりしたのは、縛り首になっている死体です。
港からのびる防波堤の先。海の上につくられた処刑台に吊るされているので、死体が腐っていき、いずれ骨だけになれば海へドボンと落ちて自然にかえるのでしょうけど、うげぇ。
「なぜ、あのように見せしめにされているのでしょう……?」
私がつぶやくように質問すると、レオが答えてくれます。
「あれはヴガッティ総督が処刑した罪人です」
「どんな罪なのですか?」
「彼は、重臣だったのですが……総督を諌めたことで、逆鱗に触れてしまったんです」
「どんな諌めですか?」
「さぁ、なにを言ったのかはわかりません。総督への抗議は、すべて記録を消されているので……」
「ふぅん……この島の領主は、部下の言うことを聞かないのね……」
すると、横からクライフが言います。
「おそらく、総督に向かって何かダメ出しをしたのでしょう」
「え? ダメだししただけで?」
「そうです。総督に意見なんてするもんじゃあない。ああやって殺されてしまうから……」
クライフは、ビクビクと身体を震わせていますね。
彼は、船で発生した財布盗難事件を解決してからというもの、なぜか知りませんが、私にくっついてくるんですよね。気に入られちゃったのかしら、私?
すかさずレオが、硬い表情で彼をにらみます。
「あなたは何者ですか?」
「申し遅れました。わたしは王宮弁護士をしているクライフです」
「それはマイラさんから聞きました。ハーランドにはどのような目的で?」
「はい。実はこの島を領地としているヴガッティ総督に呼ばれて来ているのです」
ヴガッティ!? という言葉が私の頭に浮かびます。
うわつく町の喧騒のなかで、私はクライフに一歩だけ近づき、
「弁護士が何のようですか?」
「どうやら遺産相続の話があるようで……それと後継者も決めたいとのこと……」
「……遺産相続、後継者」
「はい。本当はですね。この話は守秘義務なのですが、大好きなマイラさんだから特別に教えたのですぞ」
「……あ、ありがとう」
するとそのとき、あはは、とレオが笑います。
「大好きなマイラさんか、あはは」
「何がおかしいのですか? わたしは独身、こんなにも美しい女性を目の前にして恋に落ちない男がどこにいましょう」
「ふっ……残念だったなクライフさん」
「な、なんだ? 君はマイラさんの執事なのだろう?」
「いや、違う。俺の名前はレオ。ヴガッティ家の執事だ」
「はい?」
「聞いて驚け髭帽子! マイラさんは、ヴガッティ家の後継者と婚約をするのだぁぁ!」
な、なんですと!? と言ってクライフはびっくり仰天。
そして、まじまじと私の顔を見つめてきます。か、顔が近い……。
「この美貌、この香り、そしてあふれる知性、ああ、やっぱりマイラさんは高嶺の花だったかぁぁ、くそぉぉ!」
いきなり悔しそうに叫び出したクライフの横で、ふっと鼻で笑うレオ。
「まぁ、城で会うこともあるかもしれないが、よろしく頼むよ弁護士さん」
「……ぐぬぬ、レオくん、勘違いを気づかせてくれてありがとう」
「いえいえ、マイラさんを守るのが俺の仕事なので」
「わたしも城まで同行していい?」
「マイラさんがいいとおっしゃるなら……」
クライフが、じっと私を見つめます。
まるで女神へ拝むように、両手の指をからめてお願いを。
「別にいいですけど」
と私が答えると、彼は微笑んで帽子を軽く持ち上げます。
それにしても、私が来るこのタイミングで遺産相続やら後継者を決めるなんて、ヴガッティ総督はいったい何を考えているのでしょうか?
お父様に会えば、何かわかるかもしれませんが、どこで古代遺跡の調査をしているかわかりませんから、うーん、探すのに時間がかかりそうですね。ここは合理的に考えて、まず先にお城にいったほうがよさそう。
「それではレオ。城まで案内してください」
「はい。車を持ってきます」
そう言ってレオは歩き出そうとしますから、私は彼の腕をひっぱります。
「私をひとりにしない約束では?」
「あ、すいません。クライフさんがいるからいいと思いました」
ダメ、と言って私は首を振ります。
「ずっと私を守ってください」
「わかりました」
顔を赤くする私。
首に手を当てて恥ずかしそうにするレオは、さっと踵を返して歩きます。
客観的に見れば、カップルみたいですよね私たち。
それに気づいたクライフは、おや? と言って、
「おふたりさん……もしや? 禁断の恋?」
と質問してくるので、レオに見られていないすきに、
「えいっ!」
と思いっきり肘鉄をクライフの腹に入れました。
「ぐっ!!」
うずくまるクライフ。
私は、彼を見つめながら忠告をします。
「とりあえず今は誰にも言わないでください……ここだけの秘密でお願いします」
「……わかりました。このことは守秘義務ですぞ」
よろしい、と言った私は、さっそうとレオを追いかけます。
クライフは、髭を触りながら、
「面白いですなぁ……ヴガッティの後継者がどちらになるやら……」
とつぶやきます。王族の後継者争いというものは、市井が騒ぐゴシップですからね。関心があって当然です。
「……?」
船の荷下ろしを、じっと見つめるレオ。
なんと船乗りに聞けば、車が出てくるまでしばらく時間がかかるとのこと。
そこで私たちは、港の商店街をぶらつくことにします。
「あれが気になります!」
そう言った私は、走り出します。
「なんの石ですか?」とクライフ。
「大理石です」
「ああ、この石なら城の壁面に使われているよ」とレオ。
素晴らしい、と私は言って、きらきらと光る魔法のような石を愛でます。
「大理石ってなんですか?」とクライフ。
「大理石は、玄関のタイルや内装の壁、彫刻としても使え、美術館においてある石像などこの石ですね」
「へぇー、マイラさんは地質も詳しいのですね。さすが女優ですなぁ」
「探偵ですっ!」
ツッコミを入れつつ、私は店のおじさんに尋ねます。
「この石はどこから?」
「ああ、海岸にある洞窟からだよ」
「なるほど」
「この島に建っているホテルや屋敷、有名なヴガッティ城はほぼ島の石を使っているぜ」
「現地調達、というわけですか」
「本土や外国から買ってくると輸送費が高くつくからな。幸い、この島の石は硬くて豊富だよ」
「ハーランドはいい島ですね……おや? この首飾りは、おお! 素晴らしいですね。お値段は10クイドですか……これください!」
「お嬢ちゃん、いい目をしているね! それは島に住む風変わりなじいさんが作ったタリスマン、別名“女神の首飾り”だ! さっそく装備していくかい? 幸せになる効果がある」
お店のおじさんから女神の首飾りを受け取った私は、鞄からお札を出してお会計。
とても綺麗なので、すぐに首からさげて装備しておきましょう。
──幸せになりたい。
そう思いながら目を閉じていると、店主が何やら言って騒がしいですね。
「お嬢ちゃん! 30クイドもいらないよ。10クイドだ」
「いいえ、これはもっと価値がありそう」
「……あ、ありがとよ。じゃあ、お礼にいいことを教えるぜ」
「なんですか?」
ハーランド族のお宝のありかだ、と言った店主は、私の耳に顔を近づけます。
レオとクライフが、ぎょっとした目でこちらを見てて面白い。
店主は、コソコソと話します。
「ハーランド族のお宝は、マグマの方角にあるらしい。危険だから近づけなかったと、死んだ爺さんが言っていた」
「マグマとは、溶岩のことですね」
「ああ、あの山にヴガッティ城が見えるだろ?」
「はい」
「あのあたりらしいが、城が建ってしまって、今では溶岩の怖さよりも総督が怖くて近づけねぇんだよな」
「……総督はそんなに恐ろしいのですか?」
私が、そう質問すると、店主はさらに声を小さくして言います。
「ヴガッティ総督、あれは暴君だ……」
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