ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

文字の大きさ
上 下
50 / 56
女神召喚編

8 アイテムボックス 3

しおりを挟む
「バイバーイ!」
「またね~!」

 エルフやミニモフと手を振って別れたヤマザキとヒビキ。
 二人は次の目的地となるダンジョンへと目指す。
 空中に浮かぶ光の地図。それはヒビキの光魔法だ。それを頼りに歩き、川を渡り、奥深い森へと進む。
 すると洞窟が現れた。まるで恐竜が口を開けたみたいに、とげとげした鍾乳洞の地下道だ。
 ゆっくりと中に入っていく。当然、進めば進むほど奥は暗い。そして、何も見えなくなる。

「ライトボール!」

 ヒビキは指先から小さな光の玉を灯した。まるで電球のようだ。

「光魔法ってすごいな!」
「私、魔法が好きになってきました」

 すると、ヤマザキは泣き出した。
 紫娼館で泣いていたヒビキを思い出し、成長に感動していたのだ。

「偉い、偉いよ、ヒビキちゃん」
「そうやって子ども扱いしないでください……ウザいですよ」

 こうして、二人はダンジョンを探索した。
 デカいコウモリの魔物が出たが、ヤマザキが剣撃でぶっ倒す。ふつうに強い。

「おじさん、剣が使えるんですね」
「まぁな」
「魔法が使えない無能ですもんね」
「ヒビキちゃん、ちょいちょいディスるよね?」

 うふふ、とヒビキは笑う。
 だが、笑っていられるのは最初だけだった。ダンジョンは迷宮だったのである。
 

「あれ? おじさん、さっきもここ通りましたよ」
「本当だ。見覚えのある石像がある」
「私、光魔法の地図でマッピングしていたのですが、もうすべての部屋を探索しましたよ」

 ヤマザキは、怪しげな鳥の石像に近づく。
 翼を広げて、こちらを威嚇しているようだ。しかし所詮は石像。見た目は怖いが、襲ってくることは……あった!

「ん!?」
「今、動きましたか?」
  
 ぎろり、と鳥の目が動いたような、そんな気がした瞬間、ゴゴゴゴと石像が動き出す。

「ガーゴイルです!」

 ヒビキは魔物図鑑からデータを引っ張り出していた。
 ヤマザキは剣術で応戦する。
 ガーゴイルは翼を羽ばたかせて、風刃を発生させる。
 
「しめた!」

 奇跡の反撃魔導具・バリアバンクルが発動!
 ガーゴイルは跳ね返った風刃で切り刻まれ、グフッと倒れた。
 だが、まだ息があるようだ。ヤマザキはトドメの剣撃を魔物の心臓に突き刺す。
 ただの石像に戻ったガーゴイルは、粉々に砕け散った。
 どうやらダンジョンを守っていたようだ。石像があった場所を調べると、土台にスイッチがある。
 ポチッとヤマザキは押した。

 グラグラグラ……

 壁が動き出した。
 どうやら隠し通路があったようだ。壁に穴が開き、奥は光魔法が伝導しているのだろう。明るい輝きがある。二人は中に入ってみた。

「うわぁー! すげぇ!」
「綺麗……」

 そこには潤沢な宝石が眠っていた。
 エメラルド、サファイヤ、ルビー、色とりどりの宝石が眩しく光り輝いている。
 だが、ヤマザキが一番注目を引いたのは中央にある宝箱だ。
 その見た目は黒くて、嫌な予感しかしない。

「あれ……ミミックですよね?」
「うん」
「どうするんですか? こんなに近づいても攻撃してこないですね」
「もしかしたら、宝箱を開けないと動かないのかも」
「だったら開けてくださいよ」
 
 わかった、とヤマザキはおそるおそる宝箱に手を触れた。
 しかし反応はない。ただの宝箱のようだ。
 困ったヤマザキは、鞄から眼鏡を取り出す。魔族から入手した新しい魔導具・邪智の眼鏡。これで敵を見れば、弱点などが分かるのだ。

「ふむ……弱点は光属性。体内にある闇魔力のコアで、あらゆる物資を収納することが可能か、ねえヒビキちゃん」
「はい、何ですか?」
「わっ!」

 ヤマザキは赤面した。
 眼鏡を通してヒビキを見れば、当然のように弱点などが分かってしまう。

(弱点は甘い香り。身長162cm、胸のサイズFカップ、体重……って、こ、これ見ちゃダメなやつだ!?)

 どうですか? とヒビキが顔を覗いてくる。
 眼鏡を外したヤマザキは、「ふぅ……」と息を整えた。今はちょっと、まともにヒビキを見れそうにない。

「あ、あの、その……弱点は光らしい。ヒビキちゃん何かあったら攻撃魔法で倒してくれ、できるか?」
「はい」
「よし、開けるぞ……おりゃぁぁああ!」

 勇気を出してヤマザキは宝箱を開けた。
 その瞬間だった!
 
 パクッ!?

 ぺろり、と舌を出して口のまわりを舐める宝箱。
 なんとヤマザキは、宝箱に食べられてしまった。
 やはり正体は宝箱に模した魔物・ミミック。食べることも寝技なのだろう。バリアバンクルは発動することなく、ぱっとヤマザキは姿を消した。

「おじさん……大丈夫ですか?」

 ミミックに話しかけた。
 返事はない。ただの宝箱のようだ。

(え? 死んだ……おじさん、死んだの?)

 うわぁ、と泣いてしまうヒビキ。
 亡くなって気づくことがある。大切な人だったんだな、と。
 絶望感が波のように押し寄せてきたが、それよりも怒りの方が強い感情となって爆発した。

「おじさんを返して!」

 ヒビキは光り魔法を放った。
 邪悪な魔物に大ダメージを与える魔法・聖なる光ホーリーライト
 ミミックは眩しい光りに包まれる。
 すると、オエッ! と何かを吐き出した。それは大きな金属の塊だった。
 
「うわっ、汚い……」

 ヒビキが嫌な顔をしていると、その塊が動き出す。
 すると、バキバキと金属が剥がれ出し、なんとヤマザキが出てきた! 食べられる瞬時に、身体を金属粘土スティックで覆ったのだ。

「おじさん!」
「死ぬかと思った……」

 ヤマザキは生還して調子に乗ったのだろう。

「よかった……」

 と泣きながら微笑むヒビキに、「ヒビキちゃん、ありがとう!」と抱きついてしまう。本当にバカだ。触ったら逮捕なのに。
 
「きゃぁぁああ!」

 ばちんっ、とビンタされた。
 無理もない。ミミックから吐き出された直後なのだ。ふつうに汚く見えてしまう。

(……ビンタは寝技なのか!?)

 一方、ミミックはかなりのダメージを喰らい、舌をべろーんと出している。

「おじさん、あれ倒してくださいよ」
「うん」

 ヤマザキは剣を突いて、ミミックにトドメを刺した。
 素材はミミックの内部にある、黒いコアだ。それがヤマザキを取り込んだ原因である。
 ミミックのコアは闇の空間に繋がっており、何でも収納することができる。
 もちろん、今回のヤマザキのように吐き出すことも可能だ。
 魔道具として閃いたヤマザキは、屍となったミミックの口の中に手を突っ込み、コアを取り出した。

「よし! ヒビキちゃん、ちょっと魔導具作るから待っててくれ」
「……はい」

 ヤマザキは作業を始めた。
 取り出したのは金属粘土スティック。糸状にした鋼鉄でミミックのコアを鞄の底に縫い付ける。
 
「できた! アイテムボックスだ!」

 試しに、山のような宝石を掴んで鞄に入れた。
 重さはない。
 すべて闇の空間に収納できたようだ。
 さらに取り出しを試してみる。
 鞄に手を入れ、収納した宝石を頭の中でイメージした。
 すると手に何かが当たる感触がある。というか手のひらに吸着したような、そんな感じだ。思い切って、力強く取り出してみる。
 宝石が鞄から出てきた!
 
「取り出しも成功だ……容量を試そう」

 山盛りに掴んだ宝石を鞄に中に入れた。
 何回も、何回も、何回も、しかし鞄は重くなることも膨れることもない。
 無限だった。
 文字通り、底なしの鞄・アイテムボックスが完成したのである。
 しかしながら、ヒビキはふつうの女子高生である。すべての宝石を収納するヤマザキに、素朴な疑問を投げかけた。

「これ泥棒じゃあないですか? 何だかイケナイことをしてるみたいで……」
「泥棒じゃないよ。トレジャーハンターだ」
「なんですか、それ?」
「人から盗んだら泥棒だけど、これは迷宮に眠る宝だ。手に入れた者た所有して大丈夫なんだ」
「でもここに宝石を置いた人が戻って来たら、きっと悲しむのでは?」

 宝石を置いた人か、とヤマザキは考え込んだ。
 ヒビキは異世界を冒険するには、ピュアすぎる。正義感の塊のような人間なのである。

「ヒビキちゃん、この宝はちゃんと冒険して得た戦利品だ」
「戦利品ですか」
「宝を置いた人も、きっと俺たちみたいな冒険者に使ってもらいたくて、ここに隠したと思うよ」
「そうですね……考えてみると意図的な迷宮だったような気もします」

 それに、とヤマザキは天井を見上げながら言った。

「あの世に金は持っていけない……」

 ふとヒビキも見上げた。
 天井には文字が書いてある。異世界の言葉で、

『我が遺産を君に託そう』

 とある。
 ふっ、とヒビキは笑った。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

処理中です...