ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる

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女神召喚編

5 ピコモフハンマー 5

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「貴様、異世界人か?」
「ああ」

 ここはアイラ神殿にある女神像の間。
 魔族は、明らかに目の前にいる人間を恐れていた。なぜならその人間は、ふつうに近づいてくるからだ。

(な、何だこいつ……なぜこんなにゆったりしてる? よし、調べてみるか)

 魔族は眼鏡を指先であげる。
 眼鏡は魔導具であった。その効果はレンズ越しに見た者の弱点がわかってしまう。悪知恵が働く眼鏡なのである。

「あははは! ゆったりしていられるのも今のうちだぞ!」
「ん?」

 魔族は魔力を解放した。
 土魔法の鎖が、ぼろぼろと崩れていく。

「貴様には反撃の魔導具。そこの女には吸収の魔導具が装備されてあり、ともに弱点は寝技だ! いくぞおらぁぁ!」
「バカかおまえ」
「え?」

 フェンリルが大きな口を開けていた。
 そこから灼熱の青い炎を吹き出し、魔族は一瞬で炎に包まれる。
 だが、まだ動けるようだ。とっさに土魔法で防御壁を張っていたらしい。

「ちっ! 召喚したフェンリルを従魔にするとは……」
「じゅうま? なんだそれ?」
「血の契約を結んだ魔物のことだ。しかもフェンリルを従魔にするなんて魔王以外にいないぞ」
「ふぅん、でもこいつは従魔じゃない」
「は?」
「ペットだ」

 なにそれ? と魔族が首を傾げた。
 その瞬間、フェンリルの首に黒い鎖が巻きつく。魔族の土魔法だ。

「あはははは! それなら僕の従魔になれ!」
「グルルル……」

 魔族の魔力は強い。
 フェンリルは必死で鎖を噛みつくが、まったく壊れない。グイグイと鎖は首を締めつけ、ごろんとフェンリルは横になってしまった。

「カクビン!」

 ヒビキは叫んだ。
 大丈夫だ、とヒビキの肩に触れるヤマザキ。

「バランタインと離れていてくれ」
「……はい」

 ヒビキは攻撃魔法が使えない。
 おじさん、がんばって、と見守っていた。彼女はバランタインの小さな手を握りしめる。

「おいたん、がんかえー!」

 すると突然、魔族の様子がおかしい。
 急に筋肉が盛り上がり、びりびりと服が破れた。

「ふはぁぁぁあ、久しぶりに無属性の魔力を放出するかぁぁあ!」
「おまえ、さっきからしゃべりすぎ」

 どんどんヤマザキは魔族に近づく。
 ヒビキは、心配で胸が張り裂けそうだ。 

(おじさん、何が狙いなのだろう。傷ついたらすぐに回復してあげないと)

 ヤマザキは、ニヤッと笑った。

「おまえの言うとおり、俺の弱点は寝技だ。なんでわかった?」
「あーはははは、聞いて驚け! この眼鏡のおかげだ。混血魔獣キメラの瞳から作られた魔導具! ランス大陸で僕しか持ってないレアアイテムさ」
「ほう、おまえはランス大陸から召喚されたのか」
「そうだ。そういう貴様もランス大陸からだろ? さっき言ってたじゃないか、召喚に巻き込まれたって」

 違う、とヤマザキは首を横に振った。
 もう魔族の距離は、目と鼻の先まで肉薄している。

「俺は異世界から召喚されたおじさんだ」
「い、異世界だと……!? そんな召喚、聞いたことないわ!」

 死ねー! と魔族はヤマザキの首を絞められた。
 だが、次の瞬間!
 
「グフッ、バカな……貴様どこにも剣など持っていなかったのに……なぜ!?」

 魔族の心臓に、ぐさりと剣が突き刺さっている。
 攻撃したのはヤマザキだ。
 手の中で小さく隠していた金属粘土スティックを、一瞬で剣に変形させていたのだ。さらにあらかじめ、鞄のなかに鋼鉄を忍ばせていたのである。
 
「あ、寝ぼけてた時のやつだ!」

 ヒビキは、昨日おじさんが鞄に鋼鉄を入れているのを思い出した。
 魔族は、ドサッと倒れる。呼吸をするのもやっという状態だ。身体から血が抜けていく。

「卑怯だぞ……」
「ああ、だから魔力が強いおまえにこの技を使ったのさ」
「褒めてるのか……それ……」

 グフッ、と魔族は息絶えた。
 その顔はどこか嬉しそうに、虚空を見つめている。
 ヤマザキは剣を抜き取ると、ぐにゃりと変形させ元のスティックに戻した。
 鉄鋼には血がついている。どう処分しようかな、と思っているとバスカーがやってきた。

「ヤマザキさん、魔族を倒してくれてありがとうございます」
「ああ、でもこれどうしよう」
「それなら私が洗っておきましょう。アイラ神殿にはお風呂もありますから」
「ねぇ、それ先に教えてよ~」
「わはは、それは失礼しました」
「あと質問! アイラ神殿には古い魔導書があるらしいね」
「ええ、しかし文殿にはハイランド王の許可がないと入れませんよ」

 そっか、とヤマザキは納得すると、バスカーに鉄鋼を渡した。
 そして魔族の亡骸を見て、さらに質問した。

「これ、どうする?」
「アイラの森に葬っておきますよ。あとで若い聖職者を呼んでやっておきます」
「ありがとう」
「あなたは素晴らしい人だ。ふつう魔族の遺体のことなんて考えませんよ?」
「いや、死は平等だろ」

 そうですね、とバスカーは答えた。
 ふいにヤマザキは膝をつくと、ぱんっと手を合わせ魔族を弔う。

「……」

 黙祷し、亡骸から眼鏡を取った。きっと役に立つと思ったのだ。
 
(ランス大陸にも魔導具があるのか……)

 そっと鞄にしまっておく。
 ヤマザキは邪知の眼鏡を手に入れた。 

「やりましたね」

 バランタインと手を繋ぐヒビキは、ニコッと笑っている。
 ほっと安心した瞬間、「いたっ!」と激痛が走った。

「きゃぁぁぁああ! アザついてますよ!」
「あ、ほんとだ……」

 ヤマザキの首は血で染まっていた。
 魔族の爪が刺さっていたのだ。
 
「ヒール!」

 すぐにヒビキは回復魔法を施す。
 アザは綺麗に消えていった。ありがとう、とヤマザキは感謝する。その瞳は、優しくヒビキを見つめていた。
 
(この人、私がいないと死ぬだろうな……)
 
 とヒビキは思う。
 異世界に来て、いろいろなことがあったけど、自分が生きているのはおじさんのおかげだ、とも思う。
 恩返しするつもりで、おじさんを守ろう。
 そう決意した時、ふいにどこからか笑い声が聞こえた。
 アイラ神殿の中央に佇む女神像が、「うふふ」と笑ったような、そんな気がしたのだった。

「おいた~ん、ははたまは?」
「お城にいるから帰ろっか」
「は~い」
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