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王位継承編
28 王か女王か 6
しおりを挟む入学式が終わり、新入生や在校生が続々と教室へ移動している中、生徒会とその手伝いで風紀委員も駆り出されて会場の後片付けをしていた。
「ふぅ、」
「おや。狼牙がため息なんて珍しい。疲れた?」
「いや……疲れてはいない」
「じゃあどうしたのさ?」
風紀副委員長の海斗は入学式の時は敬語だったが、今はもう素に戻っている。
海斗にそう聞かれた時、俺の脳裏には1人の背中が写っていた。
俺よりも、CLOWNの誰よりも小さな、それでいて、存在感の大きな背中を。
俺たち風紀委員会メンバーが所属する、CLOWNというチームの総長だ。
CLOWNの総長は、俺だと多くの人が思っているようだが、それは違う。
昔俺は副総長だった。
今の俺は副総長兼総長代理。
本当の総長が、帰ってくるまでの。
俺たちCLOWNの総長、キングは、半年ほど前、誰にも、何も言わずに姿を消した。
もちろん、キングを慕っていた俺たちが何もしないわけがない。
それこそ毎日毎日、キングがよく行っていた場所に赴き、必死に捜した。
でも、キングは見つけられなかった。
それでも諦めず、みんなで捜して、半年経った。
一部の奴は、キングが高3だと言っていたし、時期的に受験ではないかと言った。
本当にそれが理由だったとしても、それなら何故一言くらいは言ってくれなかったのか。
その理由が知りたくて、俺達はやっぱり探した。
見つからなくても、捜すことを諦める人はいなかった。
みんなキングが抜けたとは思っていない。
「ちょっと、キングのことを思い出してな」
「ああ……キングかぁ。今、どこにいるんだろうね?」
「本当にな」
「どうした?しんみりして」
思い出してしんみりしていたら、庵が話しかけてきた。
作業が止まっていることを、不思議に思ったんだろう。
「ちょっと、な。うちの総長はどこにいるんだろうと思ってな」
「そうだなー。CLOWNの誰にも言ってなかったんだろ?」
「ああ」
「ほとんどのチームがキングは死んだだの、CLOWNを捨てただのって、言ってるらしいけど、あの仲間想いのキングがCLOWNを何も言わずに捨てるわけないのにな」
「そうだな……」
俺たちCLOWNがキングに捨てられたかどうかは、わからない。絶対にないとも言い切れないんだ。
あの総長は、気まぐれだったから。
だから少し、不安だ。
それから少しの間、庵も混じってしんみりしていた。
庵はキングと仲よかったからな。
敵対チームだし喧嘩はしていたが。
そんな空気が少しの間だけだったのは、その後すぐにスマホが鳴ったから。
俺と、海斗のも。それに、遠くでも聞こえた。
庵のスマホが鳴っていないことを考えると、風紀委員に一斉メールか?
でも、風紀委員全員のアドレスを知っている人物など、いたか?
……いや、1人だけ、いた。
その1人の人物を脳裏に浮かべ、少しだけ期待しながら、メールを開いた。
そして、そのメールの差出人をみた風紀委員全員に驚きが走る。
差出人は、キング。CLOWN総長からだった。
**********
From:キング
CLOWNメンバーのみんなへ
久しぶり。っていうのも可笑しいか。メールだしね。
取り敢えず、謝ろう。
何も言わずにいなくなって、ごめん。
ずっと音沙汰なかった俺が今メール送ったのは、
お前達に、チャンスをあげようと思って。
お前達の前に戻ってもいいんだけど、ただ戻るだけじゃつまらないからね。
お前達が俺を見つけられたら、潔く総長に戻ってもいいよ。
見つけられなかったら諦めて。
期限は今から、9月1日まで。
それじゃ、頑張ってね。
ちなみに、このメールはフリーアドレスで送ってるから、返信しても無駄だよ?
**********
「ろ、狼牙……これ……」
「ああ……本物だと思う」
「どうした?」
俺たちの様子がおかしいのに気付いた庵が訝しんで聞いてくる。
庵の問いに、海斗が答える。
「このメール……差出人が、キング、だった」
「っ、それは本当なのか……?」
「ああ……このメール、多分風紀委員全員と、それ以外のCLOWNメンバーにも送っている。そんな真似ができるのは、全員分のアドレスを知っているキングだけだ」
「そうか……よかったな」
「ああ……!!」
海斗は静かに涙を流している。
俺も、泣きそうだった。
庵は気を遣ってそっと、離れていった。片付け作業に戻るのだろう。
そんな時に、空気を壊すように着信音が鳴る。
相手は風紀委員の新條 湊だ。
湊は外の方にいるはずだ。
おそらく、このメールの件だろう。
「もしもし」
『狼牙さん!!!今来たメール!!!』
「ああ。俺も見た。海斗も一緒だ」
『これ!!ほ、本物ですよね!!??』
「きっと、いや、確実に本物だろうな。連絡とってないが、おそらく風紀委員全員とそれ以外のCLOWNメンバーにも行っているだろうな」
『あ、連絡取りました。キングがいなくなってからの新規のメンバー以外のCLOWNメンバーには行ったそうです!!』
「そうか……なら、本物だと確信してもいいだろうな」
『よ、よかった……キング、俺らのこと捨てたわけじゃなくて……』
「そうだな……」
『それがわかればいいです!では、作業頑張ってくださいね!』
ブツッツー、ツー、
「まったく、せっかちな奴だな」
「今の、湊君?」
「ああ。やはり、CLOWNメンバー全員にメールは行っているらしい。キングがいなくなった後の新規のメンバーには行っていないみたいだ。流石に知らないだろうしな」
「キング、よ、よかっ……うぅぅぅ~……」
「ああもう、泣くな」
「ふぅ~……」
すると、そんな時にまたスマホにメールが来る。
「またか……?」
「ぇ?差出人、は?」
「キング、だ」
「え、なんで?また?どうしたのかな?」
そのメールの内容はこれ。
**********
From:キング
2度目で悪いんだけど、ノーヒントじゃ難しいかもだからヒントをあげようか。
このメール限定で、みんなからの返信の許可をあげる。
ヒントいる?いらない?
もちろんいるよね?
**********
「……なんか、バカにされてる気分なんだが……」
「でも、言われてみれば、僕らいろんなとこ探したけど見つからなかったよね。ノーヒントじゃ難しいんじゃない?」
「それもそうか……」
海斗に言われて納得した俺は、いる。と、一言だけ送った。海斗もだ。
そして暫くして、またキングからメールが来た。
**********
From:キング
はいはい、みんなヒントが欲しいみたいだね。
一斉に来すぎて見るの大変だったよ。
1人、長文メールくれた子いるんだけど、
CLOWNメンバー総出で探しても俺は見つからなかったんだって?
それじゃヒントないと難しいよね。
教えてくれてありがとうね?ミナ。
**********
「湊の奴……」
「くすくす……」
**********
ヒント言う前に。
みんな、俺を探してくれて、ありがとう。
ミナが教えてくれなきゃ俺はみんなの苦労を知らないままだった。
俺を、必要だと思ってくれて、ありがとね。
**********
「キング……」
「……当たり前じゃないか、そんなの」
海斗はまた、少しだけ涙ぐむ。
**********
それじゃ、ヒントね。
1つだけしかあげないからね?
俺は風峰にいるよ。
それじゃぁね。
頑張って俺を探してね。
**********
そこで、キングからのメールは途絶えた。
その時の俺はただただ驚いていた。
海斗も同様に驚いた顔をしていた。
その時はもう、海斗の瞳に涙はなかった。
「まさか……どれだけ探しても見つからなかったキングがこんな近くにいるなんて……」
「道理で見つからないはずだ。この学園の生徒はすごく多いが、ここにいるってだけでも十分絞れる」
「そうだね。……キング。覚悟しててね?必ず見つけるから。ね、ウルフ副総長?」
「ああ。必ず期限までに探して、見つけてみせる」
ちなみにその時のキング(疾風)は………
「くしゅっ……うぅ」
「どしたの?風邪?」
「違うと思うけど……」
「あ、じゃあ、誰かが噂してるとか」
「(ギクッ)あ、あははー。まさか~……」
「だよねー」
「ふぅ、」
「おや。狼牙がため息なんて珍しい。疲れた?」
「いや……疲れてはいない」
「じゃあどうしたのさ?」
風紀副委員長の海斗は入学式の時は敬語だったが、今はもう素に戻っている。
海斗にそう聞かれた時、俺の脳裏には1人の背中が写っていた。
俺よりも、CLOWNの誰よりも小さな、それでいて、存在感の大きな背中を。
俺たち風紀委員会メンバーが所属する、CLOWNというチームの総長だ。
CLOWNの総長は、俺だと多くの人が思っているようだが、それは違う。
昔俺は副総長だった。
今の俺は副総長兼総長代理。
本当の総長が、帰ってくるまでの。
俺たちCLOWNの総長、キングは、半年ほど前、誰にも、何も言わずに姿を消した。
もちろん、キングを慕っていた俺たちが何もしないわけがない。
それこそ毎日毎日、キングがよく行っていた場所に赴き、必死に捜した。
でも、キングは見つけられなかった。
それでも諦めず、みんなで捜して、半年経った。
一部の奴は、キングが高3だと言っていたし、時期的に受験ではないかと言った。
本当にそれが理由だったとしても、それなら何故一言くらいは言ってくれなかったのか。
その理由が知りたくて、俺達はやっぱり探した。
見つからなくても、捜すことを諦める人はいなかった。
みんなキングが抜けたとは思っていない。
「ちょっと、キングのことを思い出してな」
「ああ……キングかぁ。今、どこにいるんだろうね?」
「本当にな」
「どうした?しんみりして」
思い出してしんみりしていたら、庵が話しかけてきた。
作業が止まっていることを、不思議に思ったんだろう。
「ちょっと、な。うちの総長はどこにいるんだろうと思ってな」
「そうだなー。CLOWNの誰にも言ってなかったんだろ?」
「ああ」
「ほとんどのチームがキングは死んだだの、CLOWNを捨てただのって、言ってるらしいけど、あの仲間想いのキングがCLOWNを何も言わずに捨てるわけないのにな」
「そうだな……」
俺たちCLOWNがキングに捨てられたかどうかは、わからない。絶対にないとも言い切れないんだ。
あの総長は、気まぐれだったから。
だから少し、不安だ。
それから少しの間、庵も混じってしんみりしていた。
庵はキングと仲よかったからな。
敵対チームだし喧嘩はしていたが。
そんな空気が少しの間だけだったのは、その後すぐにスマホが鳴ったから。
俺と、海斗のも。それに、遠くでも聞こえた。
庵のスマホが鳴っていないことを考えると、風紀委員に一斉メールか?
でも、風紀委員全員のアドレスを知っている人物など、いたか?
……いや、1人だけ、いた。
その1人の人物を脳裏に浮かべ、少しだけ期待しながら、メールを開いた。
そして、そのメールの差出人をみた風紀委員全員に驚きが走る。
差出人は、キング。CLOWN総長からだった。
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From:キング
CLOWNメンバーのみんなへ
久しぶり。っていうのも可笑しいか。メールだしね。
取り敢えず、謝ろう。
何も言わずにいなくなって、ごめん。
ずっと音沙汰なかった俺が今メール送ったのは、
お前達に、チャンスをあげようと思って。
お前達の前に戻ってもいいんだけど、ただ戻るだけじゃつまらないからね。
お前達が俺を見つけられたら、潔く総長に戻ってもいいよ。
見つけられなかったら諦めて。
期限は今から、9月1日まで。
それじゃ、頑張ってね。
ちなみに、このメールはフリーアドレスで送ってるから、返信しても無駄だよ?
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「ろ、狼牙……これ……」
「ああ……本物だと思う」
「どうした?」
俺たちの様子がおかしいのに気付いた庵が訝しんで聞いてくる。
庵の問いに、海斗が答える。
「このメール……差出人が、キング、だった」
「っ、それは本当なのか……?」
「ああ……このメール、多分風紀委員全員と、それ以外のCLOWNメンバーにも送っている。そんな真似ができるのは、全員分のアドレスを知っているキングだけだ」
「そうか……よかったな」
「ああ……!!」
海斗は静かに涙を流している。
俺も、泣きそうだった。
庵は気を遣ってそっと、離れていった。片付け作業に戻るのだろう。
そんな時に、空気を壊すように着信音が鳴る。
相手は風紀委員の新條 湊だ。
湊は外の方にいるはずだ。
おそらく、このメールの件だろう。
「もしもし」
『狼牙さん!!!今来たメール!!!』
「ああ。俺も見た。海斗も一緒だ」
『これ!!ほ、本物ですよね!!??』
「きっと、いや、確実に本物だろうな。連絡とってないが、おそらく風紀委員全員とそれ以外のCLOWNメンバーにも行っているだろうな」
『あ、連絡取りました。キングがいなくなってからの新規のメンバー以外のCLOWNメンバーには行ったそうです!!』
「そうか……なら、本物だと確信してもいいだろうな」
『よ、よかった……キング、俺らのこと捨てたわけじゃなくて……』
「そうだな……」
『それがわかればいいです!では、作業頑張ってくださいね!』
ブツッツー、ツー、
「まったく、せっかちな奴だな」
「今の、湊君?」
「ああ。やはり、CLOWNメンバー全員にメールは行っているらしい。キングがいなくなった後の新規のメンバーには行っていないみたいだ。流石に知らないだろうしな」
「キング、よ、よかっ……うぅぅぅ~……」
「ああもう、泣くな」
「ふぅ~……」
すると、そんな時にまたスマホにメールが来る。
「またか……?」
「ぇ?差出人、は?」
「キング、だ」
「え、なんで?また?どうしたのかな?」
そのメールの内容はこれ。
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From:キング
2度目で悪いんだけど、ノーヒントじゃ難しいかもだからヒントをあげようか。
このメール限定で、みんなからの返信の許可をあげる。
ヒントいる?いらない?
もちろんいるよね?
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「……なんか、バカにされてる気分なんだが……」
「でも、言われてみれば、僕らいろんなとこ探したけど見つからなかったよね。ノーヒントじゃ難しいんじゃない?」
「それもそうか……」
海斗に言われて納得した俺は、いる。と、一言だけ送った。海斗もだ。
そして暫くして、またキングからメールが来た。
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From:キング
はいはい、みんなヒントが欲しいみたいだね。
一斉に来すぎて見るの大変だったよ。
1人、長文メールくれた子いるんだけど、
CLOWNメンバー総出で探しても俺は見つからなかったんだって?
それじゃヒントないと難しいよね。
教えてくれてありがとうね?ミナ。
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「湊の奴……」
「くすくす……」
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ヒント言う前に。
みんな、俺を探してくれて、ありがとう。
ミナが教えてくれなきゃ俺はみんなの苦労を知らないままだった。
俺を、必要だと思ってくれて、ありがとね。
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「キング……」
「……当たり前じゃないか、そんなの」
海斗はまた、少しだけ涙ぐむ。
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それじゃ、ヒントね。
1つだけしかあげないからね?
俺は風峰にいるよ。
それじゃぁね。
頑張って俺を探してね。
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そこで、キングからのメールは途絶えた。
その時の俺はただただ驚いていた。
海斗も同様に驚いた顔をしていた。
その時はもう、海斗の瞳に涙はなかった。
「まさか……どれだけ探しても見つからなかったキングがこんな近くにいるなんて……」
「道理で見つからないはずだ。この学園の生徒はすごく多いが、ここにいるってだけでも十分絞れる」
「そうだね。……キング。覚悟しててね?必ず見つけるから。ね、ウルフ副総長?」
「ああ。必ず期限までに探して、見つけてみせる」
ちなみにその時のキング(疾風)は………
「くしゅっ……うぅ」
「どしたの?風邪?」
「違うと思うけど……」
「あ、じゃあ、誰かが噂してるとか」
「(ギクッ)あ、あははー。まさか~……」
「だよねー」
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